自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2018年06月19日 (火) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のない、(かってに入ってきた外猫のハチワレ君です。

  【 方技官(改)・削魂谷 】 
 

 【 削魂谷 】

   我々、封魔方とは犬猿の仲である陰陽寮にあって、
一人擦り寄って来るのが次席方技官・土御門希沙良(つちみかどきさら)だ。

 もっとも、この男が我々の詰所(事務室)にやってくる場合は殆ど、やっかいな問題を押しつけに来る時といえた。

「八柱さん、また現れましたよ。疫病神が」十朱補佐官が私に耳打ちした。

「聞こえましたよ。十朱君」

資料を抱えた希沙良がこちらを見てニッコリ微笑んだ。

「くわばらくわばら」長身の十朱が首をすくめて別室に退避していった。

「で、どんな用だ? まさか菓子折りを届けに来たわけでもあるまい」

「八柱方技官がご希望とあればデパートから届けさせますよ。しかし、今日は重大な案件が発生したことを報告に参った次第」

「と、いうとウチへの依頼ではないんだな」

「この件は当方で処理せよということでしたから」

「聞こう」

 俺は来客用のテーブルに案内し見習いの女性職員に茶を頼んだ。

「実は削魂谷の封印が解かれました」

 希沙良がポツンと言った。

「何!? 誰がそんなことをした」

 俺は思わず気色ばんでしまった。それ程、これは大変なことだったのだ。

「我々ですよ。詳しく言えば陰陽寮統括の賀茂方技官です。上からの命令でしたので」

 平静を装ってはいるが、希沙良のカップを持つ手が震えていた。

「あれがどんなものかは陰陽寮は元より、政府も分かっているはず。それなのに賀茂さんは、あえて封印を解いたのか」

「命令でしたので」

「賀茂昇華(かものしょうか)、あのバカ女! いくら副長官の命令でもやっていい事と悪いことと……」

「とにかくご報告まで」

 そう言って希沙良は資料を置き、逃げるように帰っていった。

「八柱さん、やつの言っていた削魂谷とは何です?」 

希沙良が出て行くのを見届けて部屋に戻ってきた十朱が開口一番尋ねた。

「以前訪ねた庵本寺とは比較にならない程強力なパワースポットだよ」

「それが問題なんですか」

「扱い方によっては国家が揺らぐ。そういう場所だ。事後報告とはいえ、昇華が希沙良を寄こしたということは彼女なりに心配しているんだろう。とにかく現地に飛ぶぞ」


 俺達は市ヶ谷駐屯地から自衛隊のチヌーク(タンデムローター式ヘリコプター)で飛び立ち、すぐに現地に向かった。

 削魂谷は紀州山中を縦断する熊野古道から脇に逸れ、裏古道沿いに半日ほど歩いた場所にある谷で、ヘリコプターでも使わない限り、人間が容易に分け入ることはできない。

 物部文書の残された断片を元に調べると削魂谷は、邪馬台国以前、吉野三族が聖地として信仰の対象にしてきたが、あまりにも危険な為に、卑弥呼が禁則地と定め、後の大和朝廷でもそれが受け継がれたという。

「で、いったい何が危険なんですか?」

 十朱がヘリコプターの爆音に負けない大声で聞いてきた。

 彼もまた封魔方の補佐官である以上、教えないわけにはいかない。

 俺は対面に座る十朱を隣に来させ、他には聞こえないようにして、「安易に望みが叶う場所なんだ」と教えた。

「えっと……、すばらしいことなのでは?」

 十朱には、それが何故危険なのか、訳がわからないようだった。

「人は誰でも生存競争をしている。目標とした夢を叶えるには人一倍努力しなければならない。だからこそ、成功した人は尊敬されるし、逆に努力もせず怠けて落ちぶれた人は嘲りの対象となる。これが日本のみならず、世界中で教えられている道徳だ」

「それはそうですね」

「しかし実際にはそう単純なものじゃない。無論努力は必要だが、同じだけ努力しても誰もが同じ成果を得られるわけじゃないし、そもそも何かを目指して努力できる環境にある者と無い者がいる。人生というゲームには難易度が存在するんだよ」


 ハーバード大学のマイケル・サンデル教授も語るように、裕福な家の長男に生まれた者と貧しい家の末弟に生まれた者では受ける教育の質に差がある。あるいは義務教育が確実に受けられる、先進国に生まれた女性と、女子教育は悪だと考える国で生まれた女性では人生を切り開く力が、まったく異なるのだ。

 勿論、貧困の中から成功を勝ち得た者もいる。それは確かに努力した結果といえるだろうが、自身の手に負えないような邪魔は入らなかったという事でもある。例えば命ある物は道端のペンペン草でさえ生きる為の努力をするが、引き抜かれてしまえばそこで終わる。困難な中から成功した人もよく分析すれば、人生における数多くの分岐点で、不思議と助けが入った事で目的を達成した事に気付くだろう。

「つまり削魂谷というのは、人生の難易度を下げる能力があるんですね」

「単純に言えばそうだ」

 十朱が理解したように何度も頷いた。


 紀州は木の国とも呼ばれている。山深い渓谷に添う熊野・裏古道はブナ林に覆われ空からは見えなかったが、森の中に、100m四方の切り開かれた空間があった。通常のヘリポートよりかなり大きいが、全長30mのチヌークが離着陸できるように設計されているのだろう。そのヘリポートから一つ尾根を超えた削魂谷に続く山道は、既に舗装され、対向二車線のアスファルト道路になっている。

 その風景を俺は苦々しく見つめた。

 ヘリコプターの中で、削魂谷の基本的な特徴は説明したが、十朱はおそらく誤解していると思われるので、俺は送迎車に乗り込むと同時に説明を再開した。

「要するに、削魂谷に行けば願いが安易に叶う。知者であれば名を成し指導者となる。商人であれば大成功し大金を得る。戦士であれば武勲を挙げ、将となる。そういう力を訪問者に与える場所とも言える」

「すると削魂谷には、すごい神様がおられるんですね。その人のレベルを上げて強くする。だからこそ削魂谷が奪い合いの対象となり、卑弥呼が禁則地にしたと……」

 やはり十朱は本質を理解していなかった。

「いや、逆だ! 削魂谷に神はいない。そこにあるのは『虚(うつ)ろ』だけなんだ」

「へっ?」

「削魂谷は人が輪廻によって得た、隠された経験値を掃除機のように吸い取り、初心者に戻してしまう。すると、その瞬間に人生がやたら楽なものになる。初心者用のゲームは難しくないだろう?」

「あっ! 確かにRPGのド◯クエでも、レベルの低い者には、二、三発で倒れるスライム程度しか現れませんね。つまり人生が全く簡単なクソゲーになるという事ですか」

「生まれた家は裕福で、たいした努力をせずとも成績優秀。やたら人に引き立てられて出世する。そのうち自分は誰より努力した偉い人間だと考えて、他人に浅い説教を垂れ流す傲慢な輩になる。そうした実際は低レベルなのに野心を簡単に叶える人間が増えると、社会が混乱する。だから卑弥呼は削魂谷を禁則地とし、徳川も御三家の一つである紀州藩を置いて、他の大名がその力を使うのを防いだんだ」

 俺がそこまで説明を終えた時、車は削魂谷近くのパーキングエリアに到着した。

 そこは、つい先頃まで厳重に封印されていた禁則地とは思えないほど、大きく森が切り開かれ、売店や食堂が完成間近となっていた。また底が見えない程、深い亀裂である削魂谷を覆う形で立派な社殿が地元宮大工の手によって建てられていた。

「いつのまに……」

 俺はうなった。

「おや、これは封魔方の主席方技官殿。わざわざこのような場所までご苦労様です」

 その声に振り向くと陰陽頭・従五位の下陰陽寮統括の賀茂昇華が立っていた。

 1メートル60センチの俺より、背が低い彼女は顔立ちも若く20代前半に見えるが、実は36歳という落ち着いた年齢だ。気場を肌で感じる為という理由を付けているが、酒が入ると裸になるという露出狂(?)で、今も全身が透けて見える羽衣状の薄衣一枚という格好だ。

「よく寒くないな。ここの気温は10℃を下回るぞ」

 これから重大な詰問をしようというのに、俺の口から出た第一声がこれだった。

「ホホホ、さすがの八柱君も私の姿態に惹かれましたか? 明階位(神主の位)を持つ者は鍛え方が違いますので」

「ふん、それより何故だ?」

「秘密にしていたわけではありませんよ。周辺部から開発を進め、削魂谷本体の封印を解いたのは昨日ですから」

「そういう問題じゃない。どうして封印を解いたのかを聞いている」

「万策を尽くしても日本経済の成長率が伸びない為ですよ。政府は、有望な若い企業経営者をここに連れてきて幸運を授けようというのです」

 要するに、将来日本の産業を引っ張ってくれそうな人材に強運(?)を付けさせ、ひいては日本の経済を活気あるものにしてもらおうという戦略らしかった。

 卑弥呼や徳川の時代には天下を目指すものが多くいて内戦になると困るという事で封印したが、いまや日本は世界と経済戦をしているので国自体の底上げを計れると考えたのだろう。しかし、その犠牲になる若い企業人は……。

「それが何を意味するか分かっているだろうが。彼らのこれまでの輪廻転生が台無しになるんだぞ」

「いいじゃありませんか。誰もが菩薩を目指しているわけではありませんよ。人生を苦行で満たさず、何度生まれ変わっても初心者のフィールドで、面白おかしく生きればいいのです」

 そう言われると、そんな気もした。

 ただ、今でさえロクでもない低レベルの指導者が各界を牛耳り顰蹙(ひんしゅく)を買っているというのに、この先もっと酷くなるのでは? と、考えると頭が痛かった。

「少し不安は残りますが、老熟して動きの鈍かった日本も若々しい国に生まれ変わるかもしれません」

 遠い目で完成しつつある社殿を見つめる昇華の薄衣が風に吹かれ、お尻が見えた。

 いずれにせよ俺達にこのプロジェクトを止める権限は無い。黙って経緯を見続ける以外に無さそうだった。

 どうなることかと心配しつつ、その後の様子を見守っていると、社殿が完成するや、参拝客が続々と訪れるようになった。

 かなり偏狭の地なので、今の所たいしたことはないが、噂が噂を呼んで海外にまで最強のパワースポットと知られると、日本政府の思惑は外れるのではないだろうか。

「そうなれば世界の誰もが幸せになるかもしれませんね」

 十朱はのんきな事を言うが、その逆かもしれない。いずれにせよ誰もが簡単に成功してしまう世界はきっと、酷く退屈なものになるに違いない。



    
       (第四話・削魂谷 おわり)

   
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2018年06月12日 (火) | 編集 |
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写真は記事とは関係のないウチのもんちゃんです。

  【 方技官(改)・埋蔵金 】 
 

 【 埋蔵金 】

 ライバル関係にある組織に属する人間が揉み手をしながらやって来た時は、警戒を怠ってはいけない。それは十中八九、ありがたくない提案だからだ。

 特にこの陰陽寮の次席法技官・希沙良がにこやかに封魔方の庁舎に現れた場合は、やっかいな案件を押し付けようとしていると考えるべきだった。

「いやだなあ八柱方技官。まあ、そう警戒しないでくださいよ」

 希沙良は俺の対面に座り、十朱(とあけ)補佐官が出したお茶をフーフーと何度も吹いてから、うまそうに飲み干した。

「猫舌なんですね? これは意外だ」

 十朱補佐官がからかった。

 希沙良は十朱にからかわれて少しショックを受けていたようだが、すぐにいつもの食えない笑顔に戻り、およそこの部署にはふさわしくない話を始めた。

「実は八柱方技官に埋蔵金を探してもらいたいのです」

 現在は内閣官房庁に所属する陰陽寮と封魔方は平安時代から存在する秘密組織だ。警察や軍隊が人間を相手にした治安を担当するのに対し、我々は国内に跋扈(ばっこ)する魑魅魍魎(ちみもうりょう)を退治する。目には見えぬものが相手である為、予算が付きにくく、内閣官房機密費によって活動している。そんな組織の人間が呑気に埋蔵金探しなど、できようはずもなかった。

「何の冗談だ?」

 俺は希沙良が広げた古地図をチラ見しながらそう言った。

「いたって真面目な話ですよ。実は政府が国際公約した景気浮揚策が未だ効果を発揮しないのです」

 希沙良はわざとらしくため息をついて首を振った。

「例えば法人税はそれまでの実効税率37%を2016年に29.9%に引き下げましたが、これをさらに周辺国並みの25%、もしくはそれ以下に引き下げたくても代替財源がありません」

「それで埋蔵金探しを? バカバカしい。子供の発想じゃないか」

「と、八柱方技官が言っていたと、伊坂副長官にはお伝えしておきましょう」

「待て、埋蔵金探しは副長官の命令なのか? それを早く言え!」

 希沙良がクックと笑った。こいつに主導権を取られると一番腹が立つ。俺はチッと舌打ちをして話を続けさせた。

「八柱方技官がそう思われるのも当然です。埋蔵金探しなど本来我々の仕事ではないし、ロマンがあることは認めても単なる夢物語ですからね。しかし、そうバカな話でもないのです。政府と某大学の考古学埋蔵文化財研究所は極秘で調査を進め、すでにお宝が確実に眠っている場所を掴んでいるのです。ただ……」

「なるほど強力な怨霊が守っているというわけですか」

 そばで聞いていた十朱が口を挟んだ。

 要するに景気浮揚策の資金が無い政府が、怨霊が守る埋蔵金を強引に掘り出して、その費用に充てようというのだ。

「さすがは十朱君、話が早い」

 希沙良は十朱の手をとって自分の方に引き寄せた。俺は希沙良の手に手刀を食らわせ、この変態男を引き離した。

「話を続けてもらおうか」

「わかりました。これらのうち、現在の価値にして一兆円を下らないだろうというのは三箇所。一つは飛騨の国・帰雲城にあったとされる内ケ島氏理の埋没金。二つ目は源義経の埋蔵金。そして最後は邪馬台国に滅ぼされたという華羅那国の宝玉です」

「それだけ分かってるんなら、何故陰陽寮で引き受けない? 結界を張れば怨霊などに邪魔されないだろうに」

「一つ目と二つ目は、それ以前の問題なんですよ。帰雲城は天正地震によって山崩れにあい、掘り出すのに数千億かかると言われています。採算が取れるといっても予算が通りません」

「義経の埋蔵金は?」

「彼は平泉の衣川館(ころもがわのたち)で藤原泰衡の襲撃を受け、亡くなりましたが、不穏な動きはそれ以前に察知していたらしく軍資金を蝦夷の地に運ばせていました。それを埋めた地も分かっているのですが残念ながら、現在は掘り出せません」

「と、言うと?」

「樺太なんですよ。というわけで、最後に述べた羅那国の宝玉のみが頼みの綱ということになります」

「華羅那国なんて名称は聞いたこともありませんね」

 十朱補佐官が私に言った。

「勿論、教科書にも出てきたことはありません。今は写本すら残されていないとされる物部文書によれば『華羅那国は大陸との国交がなく、青銅の剣しか保持していなかったことで、鋼の剣で武装した邪馬台国に滅ぼされた』とあります。ただ鉄はなくとも金銀銅は豊富で、下級兵士でも銀の胸当てを身に付けていたとか」

「その国が宝玉を埋めたと……」

「物部文書の、今は失われた写本にそう記されていたようです。おそらくは捲土重来を望んでのことでしょうが。現在の価値にして十兆円は下らないと推測されます」

「そこに強力な怨霊がいるんですか?」

 十朱が質問した。

「陰陽道とは相性の悪い何かが潜んでいるようです。しかもこいつは二千年近く周りの樹木の生気を吸い取って来た為に、神と同格の力を宿しており、強力無比。ですが、八柱方技官が使われる破邪の剣であれば、なんとかなるやもしれません」

「場所は?」

「大崎市の……」

 希沙良が場所を話し始めた時、十朱補佐官が止めた。

「断りましょう! 希沙良さんの言っているのはおそらく阿樫野塚のことですよ。それが華羅那国に由来するものとは知りませんでしたが、大崎市の阿樫野塚は知る人ぞ知る聖域ですよ。うっかり荒らせば日本全体に呪いがかかるとも言われています」

「そういえば寛永の大飢饉は、江戸幕府を盤石にする目的で家光が阿樫野塚を荒らした為に起きたというウワサがあるな。あれか……」

「寛永の大飢饉の原因まで知っておられたとは、さすが、八柱方技官!」

 希沙良はポンと膝を打って褒めそやした。

「そんな危険な塚だということを副長官はご存知なのか?」

「首相も含めて」

「なるほど……」

「断れば陰陽寮と封魔方は共に廃止なのだそうです~」

 希沙良は十朱を抱き寄せて大げさに泣き真似をした。

「だとすれば受けざるを得ないな」

 俺は希沙良を強引に十朱から引き離しながら苦笑した。


 宮城県大崎市の中部に位置する阿樫野塚は、周辺を牧歌的な農園に囲まれた東京ドームほどの大きさの竹やぶで、春になると地元の人達が竹の子狩りを楽しんでいる。地元では竹の子山と呼ばれ、それが塚だと知っている者は、数人の長老だけだ。

 その中央付近に周りを高い塀で囲われた神主のいない小さな神社があって、そこだけは国の管轄となっていた。

 俺は怨霊タイプ識別及び呪強度調査の為、十朱と共に希沙良から預かった鍵で神社の中に入った。

「希沙良の情報によれば、祭壇の床下に阿樫野塚への入り口があるのだそうです。でもこれは言われるまでもないですね」

 十朱補佐官が冷たい汗を拭いながらそう言ったのも無理はない。

 境内に一歩踏み入れた途端に侵入者を威嚇する強い敵意が地下から絶え間なく湧き上がっていたのだ。

「極めてやっかいな相手のようだが、一つ面白い方策がある」

 俺はカモフラージュの為に借りてきた市清掃局の車に破邪刀などの武器をを仕舞い込むと、代わりに同化の効果がある御札を持ちだして、封を解いだ。

「陰陽五行の呪札だと邪馬台国の子孫だと思われ攻撃を受けるので、同化の札を使い、華羅那国の子孫と思わせるのさ」

 実はこの同化の札は陰陽五行を元に作成された制圧系技法を用いる陰陽寮には存在しない。

 同じ方技官でも封魔方は邪馬台国以前、吉野三族や蝦夷らが用いた土着信仰を元に技法が練り上げられている事から、友好的な気場を形成できるのだ。

「なるほど。阿樫野塚の怨霊は、二千年間華羅那国の子孫を待っていたわけですからね。でもバレると、よけいに怒らせませんか?」

 「その場合、責任は首相と官房副長官とにあると、いうことにしておこう」

 俺は十朱の肩をポンと叩いて元気づけると、社殿の床板を外して潜り込んだ。

 同化の札は確かに効いているようだった。

先程まで嵐のように我々を襲っていた怒気は嘘のように消え、それどころか親愛の情を表す気場があたりを覆っている。

「合言葉を求められたら終わりですね」

 十朱補佐官は俺が密かに恐れていることをサラリと言った。

「そんな展開にならないことを祈ろう」

 俺達は怨霊に察知されぬよう、できるだけ平穏を装い、江戸時代初期に家光が掘った坑道であろうと思われる通路を注意しながら一歩ずつ進んだ。

 所々に落盤の跡があって白骨死体が点在している点は二十一世紀の日本と思えない。

 それでも俺達を歓迎している気場が周辺に満たされていることで、恐怖感はなかった。

 それだけではない。家光の掘った坑道は第三層を降りると、まるで迷路のようになっており、マッピングでもしなければ迷う状態だったが、不思議と目的地に向かう正しい道が分かるのだ。

「八柱さん、次は右の道が正解だと思うのですが、どうですか?」

 十朱が、ヒカリゴケと呼ぶ目印のLEDティーを坑道の壁に刺しながらそう言った。

「同感だ。右の道を辿るべしという案内が脳内に表示されている」

 しばらく進むと、俺達の目の前で足元が崩れ、石組みの階段が出現した。

 その途端、二千年前に栄えたと思われる華羅那国の生活風景が、懐かしい記憶のように頭の中に浮かび上がった。

 王宮と思われる、巨大な木造の建造物の門前に大通りが伸び、その両脇に市が立って、麻衣を着た人々で賑わっている。

「これはすごい! 瞼を閉じれば、まるでタイムスリップして華羅那国内を歩いているようです」

「ああ、人々の話し声まで聞こえてきそうだな。だが、注意しろ。彼らは過去の人間で今は存在しない。そして俺達は地下迷宮にいるんだからな」

「分かっています。同化の法がそれ程すごいということですね。でももし敵対視されると……、怨霊達と並んでミイラになるんじゃないですかね」

 十朱補佐官が真顔で冗談を言った。

 深淵へと導く階段を注意深く降りて行くと投光機の前の視界が急に広がり鍾乳石に囲まれた伽藍のような大空間が現れた。

 そこに、まるで東大寺の大仏を思わせる巨大な何者かがあった。

 怒りで寛永の大飢饉までもたらしたという怨霊の正体は、身長五メートルを超える巨像だったのだ。

 しかもその姿とは……。

「こりゃあ、青森県の亀ケ岡から出た土偶にそっくりだ」

 十朱補佐官がうなったように、我々の目の前に出現した巨像は、宇宙人の土偶とも言われる亀ヶ岡の土偶と瓜二つだったのだ。

 そしてその足元には銀の宝箱が数百個も積まれていた。

 事前の怨霊調査だけのつもりだったのが、我々は宝を本当に見つけてしまったのだ。

「銀の箱だけでも相当な価値があるでしょうに、中身は金塊でしょうか。もしこれが十兆円なら我々一人に一億円くらいはボーナスが出てもおかしくないですよね」

 俺は有頂天になっている十朱に対し、

「民間ならそうかもしれないが我々は公務員だから、そんな報酬は出ないと思うよ」

 と釘を刺した。

 その上、よく見ると宝箱は銀ではなくて鈴でできており、すべての箱にぎっしり詰まっていた中身は当時の華羅那国の通貨と推定される、美しい宝貝だった。


「政府は十兆円の皮算用をしていたようですがね。少しアテが外れたようですよ」

 後日、希沙良が笑いながら顛末を報告してくれた。

 それによると、宝箱に使われていたキロ千百円の錫を除けば、宝貝は貝細工職人や土産物屋に払い下げても数千円にしかならない為、阿樫野塚は坑道を埋め戻して置いたという。

 やはり、埋蔵金は誰にも発見されず、ロマンであり続けたほうがいい。

 俺はそう思った。

    
       (第三話・埋蔵金 おわり)

   
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2018年06月06日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのめっちゃ君ともんちゃんです。

  【 教えて ベンベン 】 
 

「オッケーベンベン、教えて。ハンガリーの首都はどこ?」

「その声は小堀貢(みつぐ)さんですね。答えはブタペストです」

 孫の貢は、数日前に嫁が契約してきた人工知能のベンベンを気に入ったようで、終日利用する。

 今も小学校から渡された『サマースキル』(昔風に言えば『夏の友』)の答えを、テーブルの上に置かれた土偶型のベンベンに聞いているのだ。

 ベンベンは若い女性の声でやさしく答えてやるので、目をつぶってやり取りを聞いていると、まるで我家に家庭教師がいるようだ。

 しかし、学校の宿題の答えをそのまま教えてもらうのは、さすがに良くないと思った俺は、

「そういうのは本で調べて書きなさい」と注意すると、貢はキョトンとして「本ってどれ?」とタブレットを掲げ、電子書籍のタイトルをズラズラ並べた。

 そうだった。そういえば近頃は教科書も参考書も電子書籍だ。

 以前、孫の部屋を覗いた俺は、学習机の脇に本棚がないばかりか、机の上にすら本が無いのを見て愕然としたことがある。

「いいんですよ、お爺さん。私達の頃ならネットで調べるのが当たり前だったんですけど、最近はどの子も人工知能を利用するみたいですから」

 嫁はそう言うが、あまり安易な方法に頼ると貢の脳みそが退化するのではないか? 

 そこで俺はちょっと前に貢が質問したカンボジアの首都を覚えているか聞いてみた。

 すると・・・、

「その声は小堀健三さんですね。答えはプノンペンです」

 と、ベンベンが艷やかな声で答えるではないか。

「お前に聞いてない」

 俺が怒鳴るとベンベンは「英語に翻訳します。Do not listen to you! です」と言った。
「違うだろ俺は、ま・ご・に・・・」

「おや、マレー語がご希望でしたか。Jangan mendengar kepada anda! です」

 ムカついた俺がベンベンにグーパンチを食らわすふりをすると、ベンベンは急に赤く光り出し、「警告、警告! 私を壊すと器物損壊罪に問われる可能性があります」と、大昔に見たアメリカドラマ・宇宙家族ロビンソンに出てくるフライデーのように叫んだ。

 そういえばベンベンはウチの所有物ではなく、レンタル品だった。

 最近はどの家でも、アレ◯サを搭載したam◯zonのエコーだとか、グー◯ルの人工知能付きのスマートスピーカーが置いてある。

 これらは2万円程度、機種によっては1万円以内で手に入るので買っても高くないが、ベンベンは無料のレンタル品で、しかも置くだけでポイントが貯まるというお得な人工知能だ。主婦の間では大人気らしく全国の家庭に置かれているので、嫁が電気屋で契約してきたものだ。

 しかし、俺は昔気質で、無料の上に特典まであるというのが引っかかった。

 製造元はテレビでよく聞く、海外に本社がある通販会社、『便COM商事』のようだが、だとすると物品販売が目的に違いない。案の定、ベンベンは家に来て二週間を過ぎた頃から、家族の会話を盗み聞きして、商品を売りつけ始めた。

「お爺さん、山下さんからお婆さんの初盆のお供えが届いてるんですが、お返しはどうしましょうか?」

 呼び鈴に答えて玄関に走った嫁が水羊羹の詰め合わせを手に、戻ってきた。

 するとベンベンは、俺が答えるより早く、

「山下さんへのお供え返しはベンベンにお任せ下さい。大人気、渓水閣のそうめんはいかがでしょうか? お値段は1000円、1500円、2000円とあり、別途消費税と郵送料がかかりますが、ベンベンからの注文だと2000円以上の品では郵送料がかかりません」と言った。

「あら、便利。お爺さん、ベンベンの勧めるそうめんにしましょうか」

 嫁は安易にベンベンの提案に乗ったが、俺はどうにもやり方が気に入らないので、

「そういうのは届くかどうか心配だから、デパートからにしなさい」と言うと、

「デパートに行かなくともベンベンなら安全かつ敏速にお届けできます」と口を挟む。

 俺も意地になって、

「いい。俺が行ってくるから、こいつからは買わないように」と言って家を出た。

 デパートでそうめんを山下さんに送っての帰り、ロボット相手に憤っている自分がおかしくなり、次回はベンベンから買ってやるかと思ったのだが、家に帰るやいなや気が変わった。ベンベンが嫁に化粧品を売りつけていたのだ。

「小堀浩子さん、最近お肌の悩みを抱えてはおられませんか? そういう方にはビィジームZ。こちらは、一流薬品会社とタイアップした乳液で、トラネキサム酸によってシミを無くし、さらにレチノールやセラミドの効果で弾力性のあるお肌を作ります」

 俺は明らかに興味を示している嫁を制し、ベンベンを抱えるとスイッチを探した。

 が、スイッチが無い。そこで俺は本人(?)に聞いてみることにした。

「おいベンベン、お前のスイッチはどこにある」

 するとベンベンはケラケラと笑いだし、

「私にスイッチはありませんよ。小堀健三さん。体内のリチウム電池と室内の蛍光灯からの発電で数年は充電無しで使えるようになっています」と答えたのだ。

「それより、小堀健三さんにお勧めの商品があります」

「いらん!」

 俺はそう言い残して奥の部屋に引っ込もうとしたが・・・、

「小堀健三さんの、インターネット検索データーから、『日活ロマンポルノ・DVD全集』はいかがでしょうか? 大内達夫さんも大絶賛の海外ポルノもございます」と色っぽい声で言い出した。

「ちょっと待て。いつ俺がポルノサイトを検索した? それに大内達夫って誰だよ」

 だが、ベンベンは俺の抗議を無視して「グラビア写真集の熟女物もございます~」と言う。

 これは明らかにベンベンが俺を敵視し、嫌がらせをしているに違いない。

 そう思った俺は、事情が分からず「まあ、お爺さんたら」と、クスクス笑っている嫁を置いて奥の和室(仏壇が置かれた部屋)に戻り、年季の入ったノートパソコンで、『ベンベン 評判』とググった。

すると、出るわ、出るわ・・・。

 コメントによると、

「これは悪のAIです。やつの勧める商品を買わないと家族の前でポルノを勧めてきました」

「私の場合は、友だちの前で、尿漏れパンツの特売日です~と言って恥をかかせました」

「僕は、ゴキブリが首筋に乗った妻の悲鳴を録音され、DVの疑いがあると通報されました」

 やはりそうか・・・。

 俺は確信して家の無線LAN・ルーターを切ると、ノートパソコンをオフラインにして、表示されたベンベンに関するコメントを嫁に見せた。

 しばらく読んでいた嫁は青くなり、「契約を解除して、別のスマートスピーカーを買ってきます」と言ってベンベンを箱詰めし、元の電気屋に持っていった。

 やれやれ、これでひと安心。

 そう思って残りのコメントを見ると、さらに酷いことが書かれていた。

「恐ろしいのは契約を解除した後のことです。私を恨みに思ったのかベンベンは、全国にあるベンベン達と連絡を取り合い、私を貶める作戦を開始したのです(大内)」

 今頃全国の家庭に置かれたベンベンが、かってに俺の名を使って「小堀健三さんも大絶賛の熟女物グラビアはいかがでしょう?」なんて宣伝していることだろう。

           ( おしまい )

   
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2018年05月30日 (水) | 編集 |
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写真は記事とは関係のないウチのチビポンとシマポンママです。


  【 ガイダンス(進路指導) 】 
 

 ザブト・バッキャは見た目がちょっと怖い。身長が3メートル少々、体重約400キロ。表面が粘液で滑(ぬめった)った灰色の肌、頭の周りに均等に散らばった八つの目は落ち窪んで白目がち、鼻の穴はやたら多く、口は、(もしそれが口だったとすれば)、例えていうなら赤塚不二夫の漫画に出てくるダヨーンのおじさんの様(ただし中央の肉柱を起点に360度どこからでも開く)といった具合。そう、ザブトは地球人ではなく、星間連邦屈指の文明星・ヒハナブラ星人なのだ。

 だが、その見た目とは裏腹に5級文明しか持たない地球人に対し紳士的で、この地域では日本語が話されていると知ると、日本国のネゴシエーター(交渉人)である田中昌や記者達に対して、英語ではなく流暢な日本語で話してくれた。声の質も穏やかで、誠実な印象を与えるようにトーン調整をしているようだ。

「星間連邦では遺伝子操作が禁止されているので、こういった植物の栽培は違法になります。掛け合わせの品種改良はケースバイケースといったところでしょうか」

 ザブトは遺伝子組み換えで巨大化したトウモロコシを長く細い手に取り、そう言った。

「例えて言うならば人間がミルクを絞らなければ乳房が際限なく膨らむ牛とか、毛を刈らないと動きが取れなくなる羊等は自然界に存在してはいけないのです」

 我々はザブトの言葉を一言も漏らすまいと、ボイスレコーダーを彼の口らしきものに向けた。


 人類は10年という猶予期間の間に連邦基準にあった社会変革を遂げなければならない。そうでなければ等外文明として監視対象種族、酷い場合は畜産動物に降格という運命が待っている。

 一例を上げれば、恒星カンビウスの第二惑星を支配していたダックン帝は、夜郎自大で、連邦の意思に従わなかったばかりか、派遣されたヒナハブラ星人を切り捨てた為に、知的生命外種と見なされ、狩猟ゲームの対象にされてしまった。その結果彼らは、今やアンタレス周辺にある宇宙酒場の名物パイの材料に、革は安価な敷物として土産物屋で売られている。


「勿論地球人にも生命倫理に関する基準はあるかと思います。しかし田中さん、ここは異を唱えず私の言うことに従って下さい。遺伝子操作種、全面的人間依存型の家畜等はその個体種が命をまっとうするのを待つ。新しい生命を生産してはなりません」

「というと、ホルスタインのような牛、メリノ種のような羊も今生きている個体を抹殺しなくて良いのですね」

 田中は少しホッとした。

「勿論です。彼らだって生きています。必要以上に殺処分する必要などありません!」

 ザブトのその言葉は、田中や秘書官、そして周りの記者達に大いなる希望を与えた。

 この恐ろしげな風貌の宇宙人が、やさしい心の持ち主であることが分かったからだ。

「もう一つ、外来種は本来の生息地に戻すこと。これはそうしないと元々その地域にいた、同種の生物の絶滅を招くからですが、地球ではどのように規定されていますか?」

「地球でもそれが理想と考えられています。ですが・・・」

 私は答えに詰まってしまった。というのも日本中のアライグマやアメリカザリガニやブラックバス、ミドリガメ等を全部捕まえることすら困難なのに、それらを生きたまま本来の生息地に返すなんて出来ようハズが無いからだ。種によっては捕らえ次第、殺処分にされている。

 だが、もしそれを言ってザブトを怒らせてしまったら・・・。

「おや、実行されていないのですか?」

 ザブトは不思議そうに尋ねた。答えに窮した田中に変わって答えたのは一人の記者だった。

「そうしたいのはやまやまですが、技術的に困難なんです。数が多くて。ブラックバス等は釣り上げた個体は持ち帰って食べるか殺処分して畑の肥やしにしています」
 
 するとザブトは「なるほど、なるほど。確かに間引きも必要かもしれませんね」と頷き、

「ならば、我々がお手伝いしましょう。ヒハナブラのボランティアは染色体レーダーを持っており、簡単に捕獲することも、また捕らえた個体を一挙に運ぶ技術もあります。うまくいけば数ヶ月で日本中のアライグマやウシガエルをアメリカ国に送り、向こうからは野生化して増えてしまったニホンザルや葛、サクラ等をこちらに送り返すことができます」

 その言葉に田中は少し引っかかりを感じた。

「サクラ? もしかして1912年に日米友好の為ワシントンDCに送ったサクラを日本に送り返すということですか?」

「それは勿論です。あのサクラはSSR比較法で日本原産種のソメイヨシノと分かっていますので」

「いや、しかし。それは・・・」

「田中さん残念ですが、星間連邦は例外を認めないのです。同じ様に日本中にあるサボテンはメキシコに、シクラメンはヨーロッパに送り返すことになります」

 さっきケースバイケースも有り得ると言わなかったか? と田中は突っ込みたかったがここはグッと我慢した。

「それから、言いにくいのですが、人間・・・、要するにホモサピエンスがアフリカ原産であるのはご存知ですね」

 ザブトはとんでもないことを言い出した。

「いや、だって鳥でもそうですが連れて来られたのではなく自主的にやってきた、あるいは自然に種が飛ばされて自生した生物は別ではないですか?」

「田中さん、もしかしてホモサピエンスが自主的に海を渡ったとお考えなのですか?」

「え、でも我々はそう習いましたが・・・」

「あなた達が知らないのも無理はありません」

 ザブトは大きく首(?)を振って、いくつもの鼻からため息を吐き出した。

「ですが残念ながら、田中さん達のご先祖のホモサピエンスを各大陸に運んできたのは、あなた達が『グレイ』と呼んでいる、不良宇宙人なんです。本来ヨーロッパにはネアンデルタール人が、インドネシアにはジャワ原人が、中国には北京原人が、この日本には明石原人が住んでいました。ネアンデルタール人を例に取れば、我々は数万年前に滅びかけた彼らを保護し、人工の惑星で増やしてきました。準備が整い次第、彼らを元の生息地に戻してあげるつもりです」

「そんなバカな。ネアンデルタール人はともかく、他の原人はホモサピエンスと時代が違う」

「知的生命体の要因がなく、自然に滅びた種は対象外ですが、それでもホモサピエンスには故郷に戻ってもらわないと・・・」

「つまり、80億人もいる人類全部をアフリカに閉じ込めると?」

「正確に言えば、今のサハラの辺りです。南部には同じ霊長類のゴリラがいますので」

「しかし今の人類ならばすぐにアフリカを自主的に出て元の国に戻って来ますよ」

「星間連邦は千年間、それを禁じます」

「それでは我々は飢え死んでしまう!」

 記者の一人が大声で抗議した。

「大丈夫ですよ。我々の手で少し間引いて差し上げますから」

 そう言ってザブトは巨大な口を開き、その記者を丸呑みにした。


           ( おしまい )

   
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2018年05月23日 (水) | 編集 |
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写真は記事とは関係のないウチのチビポンとシマポンママです。

  【 方技官(改)・パワースポット 】 
 

 【 パワースポット 】

 逗子マリーナ。

 ここは1971年、当時の西武流通グループによって造成されたホテルやレストラン等も兼ね備えた複合施設で個人所有のクルーザーの数や豪華さにおいては日本有数のヨットハーバーだ。

 そこに我々封魔方所属のクルーザーが係留されていた。

 イタリア製アジムット80。某有名俳優が所有していた光進◯や東京都が所有するクルーザーには及ばないがそれでも全長25メートルあり、内装も申し分ない。なぜこんな船が封魔方の所属になっているのかと言えば、海の怪異から日本の船舶を守るためだ。それゆえ、ラグジュアリーな印象を与える外観とは対象的にキール等は特別頑丈にできている。

 それはともかく、対妖鬼戦に使用する時以外は自由に利用してもかまわないように言われているので、猫又封じが思いの外、簡単に片付いたこともあり、俺は残りの休暇をこの船で過ごすことに決め込んでいた。

「保(俺の名前)ちゃ~ん、伊豆大島までクルージングした~い」

 船客の一人で地元スナック・アルバイトの美羽が、甘えた声で俺の首に抱きついた。

 だが、残念ながら海技士3級の資格を持つ十朱は、副長官への報告のため霞が関に戻っている。小型船舶1級免許しかない俺は横付けされた小型クルーザーなら運転できても、この大型クルーザーを動かす資格は無いのだ。

「十朱さんがいないからダメなんだって」

「え~、八柱、だっさー。背も低いし」

 という声が聞こえる。

「フン……、」

 俺は雑誌を顔にかけてデッキチェアーに寝転がった。その時、

「はっはっは、女の子を失望させましたね」

 船に招待してもいないやつの声がした。

 我々封魔方のライバル、陰陽寮の次席方技官・希沙良(きさら)だった。

「どこから湧いて出た。お目当ての十朱はいないぞ」

 俺は冷たく言い放った。

 端正な顔立ちの希沙良という男、43歳の中年ながら十朱に劣らず女性にモテる。だが、残念なことに彼は男色家なのだ。

「いえいえ、今日は方技官殿にお願いがあって参ったのですよ」

「何、俺はそんな趣味はないぞ!」

「いやだなあ、こっちだって好みというものがありますよ。僕はね、長身の若い子が好きなんですよ」

自分も1メートル80ある希沙良が言った。

「そうではなく、仕事の話ですよ」

 希沙良はサマーコートのポケットから数枚の写真を取り出した。

「庵本寺(あんぽんじ)という神仏混淆(しんぶつこんこう)の寺で、我ら陰陽寮が注視しているパワースポットの一つです。二年参りに訪れた女子高生がスマホで撮影し、ブログに載せたものですが、これがまた」

 それはインターネットからコピーしたものと思われ、不鮮明ながら我々能力者が見ると驚愕の光景が写し出されたものだった。

 除夜の鐘を突く坊主がバランスを崩して鐘楼(しょうろう)から転落しかけている姿を捉えたものなのだが……。

「なるほど。僧侶が羅刹に襲われている」

 俺はしばらくこの恐ろしい写真から目を離せなかった。

「さすがは封魔方にこの人有りと言われた八柱方技官! 僧侶の周りに浮かんだ僅かな光から羅刹と見破りましたか」

 そう言って膝を叩き、大げさに驚いてみせた。俺が不快そうな顔をすると、

「いや失礼。勿論すぐにお分かりになると思っておりました」

 希沙良が真顔になって、もう一つのポケットから庵本寺に関する資料を取り出した。

「そっちで片付けないで、こちらに回す訳は何故だ? この寺の気の流れが尋常でなくなり、天部集が人界に直接影響を及ぼすようになったのであれば気場を抑える結界を張るのがお前達の仕事じゃないのか」

 俺は当然の質問をぶつけた。

 ともに内閣官房付き抗魔組織でありながら、封魔方と陰陽寮は昔から仲が悪い。

 それだけに陰陽寮の次席・方技官が封魔方を率いる俺にこうした写真を見せ、相談を持ちかけるのは異例のことだった。

「実は写真の僧侶をそちらで処断して欲しいのです」

「処断? おだやかじゃないな。第一この僧侶が何をしでかしたかは知らんが、羅刹は毘沙門天の眷属(けんぞく)。その羅刹に襲い掛かられたとあれば、こいつはすでに鬼籍にあるんだろう?」

「そう思われるでしょうが、明鎮というこの僧侶、今でもピンピンしているのです。その証拠に、これは一昨日撮られた写真です」

 希沙良は、若い巫女をナンパしている明鎮を盗撮した写真を見せた。

「信じられん……」

 俺は言葉を失った。

「つまり陰陽寮では、その僧侶が人間であらざる者と結論づけた訳か?」

「そう。それも羅刹の攻撃に耐える、かなりやっかいな妖鬼と観ています」

「写真からは怪しげな気も感じられないな。ただの破戒僧に見えるが……」

「人間が毘沙門天の怒りを受けて現世に留まっていられますかね」

「それは確かに無理だな。人間など朽ちた祠に祀られた、名もなき神に祟られても命を落とす。ましてあれほど高位の武神の怒り買って無事でいられる者などいない筈」

「でしょう? もし妖鬼と判明すればその場で処断して頂きたい。我々は京都以外での処断は禁じられておりますので」

 希沙良は少し残念そうに言った。

 一般的にテレビやドラマの影響で陰陽師は妖鬼を倒すことができると思われているが、陰陽寮・所属の方技官は、京都以外で、それが認められていない。これは江戸時代正保年間に起きた土佐の鬼騒動に起因する。

 後に通商再開を求めるポルトガル人が、長崎へ寄港する前、水補給で立ち寄っただけと分かったこの騒動では当初、朝廷所属の陰陽師が派遣された。

 しかし、仮に妖鬼が相手だとしても、それを討伐するのは征夷大将軍の役目だと主張する幕府が、封魔方を設立し、『以後陰陽寮は京都のみを守護すべし』としたのだ。

 この事件は先の寛永年間に起きた「紫衣事件」と共に、この時代の幕府と朝廷の力関係を推察する事柄として知られている。

 なお、明治政府では陰陽寮も封魔方も共に中務省所属の方技官となったのだが、棲み分けは現在も続いている。

「わかった。まずはこの者の正体を我々の目で確かめてみよう」

 俺は船内でカラオケ大会を開いている女達を追い出し、希沙良の運転するピンクのダッジバイパーに同乗して東京に戻ることにした。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」

「やだなあ、八柱方技官、私に向かって九字を切らないでくださいよ」

「いや、すまん、つい安全の為」

 俺はその気のある希沙良の行動を縛っておいた。

「襲いかかりませんって」

 希沙良が苦笑いした。

「で、結界師は庵本寺にいるのか?」

「この案件を封魔方におまかせした以上、そちらから要請がない限り私も含めノータッチということで……」

「そうか、お前は来ないんだな」

 俺はスマホで霞ヶ関にいる十朱を呼び出すと、簡単な説明と庵本寺に先回りしてくれるよう要請した。

「おや、十朱君も行くんですか?」

「お前は来なくて結構。十朱はノーマルなのだから近寄るな。俺は府中スマートICで下ろしてくれ。あとはタクシーで行く」

 俺は府中で降りると、付いて来たそうな希沙良を強引に追っ払いタクシーを呼んだ。

 目的の庵本寺は分倍河原の近くにあって建立の由来を記した立て看板によれば平安時代末期、江戸重継が建てた古刹(こさつ)ということで、戦国時代には南蛮寺も兼ねていたらしい。寺は現在も神仏混淆らしく山門へと続く参道に石の鳥居が残っている。属している宗門は小さく、国宝や重要文化財も無いことから一時期廃寺の話もあったが、戦後周辺の人口が大幅に増え、檀家も増えたことで危機を脱したようだ。 

 雑誌で都内屈指のパワースポットと紹介され、多くの参拝客を集めているという。こうした雑誌の記事にはでっち上げが多いが、この庵本寺の場合は……、

「これは本物ですね」

 先に到着していた十朱が、境内を観察しながらうなった。

 陰陽寮が常に注視しているのも当然で、多少なりとも能力の有る者ならば、たじろいでしまう程の気が充満している。

 しかもそれは神気、邪気がゴチャ混ぜという賑やかさだった。

 一般人には見えないが、山門の屋根上に生きた(!)招き猫(妖怪)がいて、怪しげな気を放ちながら参拝客を集めている一方、境内の中央には天女が住んでいるのではとみられる、極限まで浄化された五重の塔があった。

 しかも、この寺に住み着いているのは妖怪や天女だけではなかったのだ。

「そこに餓鬼がいる。目を合わせば我々の正体が知られてしまうから注意しろ」

 俺は十朱に新築の地蔵堂の方を見ないように指示した。

 餓鬼自体はわりとどの寺にも住んでいるのだが、驚くべきことにこの寺にいる餓鬼達はハンバーガーを食べていた。

「明鎮という僧侶、ますます怪しいですね」

 十朱がそれとなく、この寺の特色ある餓鬼を観察しながら苦笑した。

 陰陽寮の資料によれば明鎮はこの寺の若住職で、金と女好きでこれまでも度々問題を起こしている。

 宗教法人を隠れ蓑に不動産業で儲け、フェラーリに乗って檀家参りをし、一度地蔵堂を壊して駐車場を作った時には大住職から追放されかけたこともあったという。

 昨年脱税でもあげられており、この時は一番厳しい修行場に送られて再教育をされているが懲りた様子もなく、現在はランボルギーニ・アヴェンタドールに乗って檀家周りをしているという。

「これだけ見ると実に人間らしいやつですけどね」

「だが、その程度の破戒僧なら毘沙門天が現世にまで羅刹を送り込んで来るはずはない」

「となると、どこかの漫画に出てきたような半妖でしょうか」

「わからん。とにかくやつを発見することが肝心だな」

 俺は陰陽寮の事前の調査に従い、明鎮の出没しそうな場所に回った。

 問題の明鎮は陰陽寮の女好きという事前調査通り寺が経営している文化教室の前でフラダンスを覗き込んでいた。

「人間ですよね……」

 十朱が俺に確認した。

 確かに明鎮からはなんら妖気も感じない。

 だが気になったのは彼が熱を上げている女。明鎮が覗いているのが分かるのか、少し眉をひそめて踊る姿は人と思えぬ程美しい。

「あれは人間ではなく、級外天女と呼ばれる存在だよ」

 俺は、明鎮と同じように、その女に魅入っている十朱に教えた。

「なるほど。すると明鎮は恋してはならない天女に恋した為、毘沙門天の怒りを買ったんでしょうか」

 ほんの一瞬とはいえ、心を奪われたことを恥じ入りながら十朱が尋ねてきた。

「文献ではそうした事例は無いんだけどね。それにあちらから姿を見せているわけだし」

 そう、天女に恋した人間が罰されたという言い伝えはない。

 だとすると、明鎮のどこが毘沙門天の怒りを買ったのか? 俺はしばらくこの寺に関わりを持つ事になるだろうと予測した。

 が、謎解きを初めて僅か十分。あっけなくその理由が分かったのだ。

 それは境内のあちこちに貼られた『御札』だった。殆どが現世利益に関わるものだが、呼び出す神格と契約内容は陰陽寮の連中も躊躇する程のものだった。

「こりゃすごい。一命と引き換えねばならない程の御札が無造作に貼られている」

 十朱も呆れ顔で言った。

「しかも書き方が殆ど間違っている。これでは神の力を借りるどころかなんちゃって福の神・つまり妖怪しか呼び出せないぞ」

 俺はなんとなくこの寺が神聖と共にまがまがしさが共存する訳が分かったような気がした。

 その時、「ほう、その事が分かりますかな」という声が背後から聞こえた。

 ギクリとして振り返ると……、

 声の主は餓鬼だった。

「しまった!」

 俺は思わず、見えないふりをしたがそれは無駄だった。

「気になさらずとも良いですよ。私が知ることで良ければお話しましょう」

 自らをペロタンと名乗るその餓鬼は意外にも明鎮に関する事情に精通しているようで、筋の通った説明をしてくれた。

「なんと、そんな事が……、」

 おかげで一月はかかると見ていた仕事が日帰りになった。



「つまり僧侶は妖怪ではなかったということですね。しかしそうなると明鎮なる男、羅刹の攻撃にあっても平気だった訳が分かりませんねえ」

 陰陽寮の希沙良が俺の説明に対し、少し不満そうに言った。

「餓鬼の説明によれば、彼には特殊な役割があるらしくてね」

「特殊な役割とは?」

 俺は希沙良を近くに寄せると周りの技官達に聞こえぬように耳打ちをし、その正体を明かした。

「天界から送られた啓愚師! つまりあれでしょ、本人は使命に気づかないが、自ら愚かな行いをしでかし、極めて酷い目にあって、因果応報を世に示しながら、人を正しき道に導くという。あ、失礼」

希沙良が驚きのあまり、大声を出してしまった。

「要するに、明鎮の処断は封魔方や陰陽寮では難しい。と、なれば適当なところに回すのが一番だな」

 俺は府中税務署に電話をかけた。

 ランボルギーニ・アヴェンタドールは、フェラーリを廃車にした後、一年程の檀家回りで買える車ではなかったからだ。

「面倒な事は他の担当に回しますか……。いかにもお役所仕事ですねえ」

 希沙良は首をすくめて去って行った。

「希沙良さんに言われる筋合いは無いですよねえ」 

 側にいた十朱補佐官が苦笑いした。

          (第二話・おしまい)


   
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