自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2010年01月09日 (土) | 編集 |
 
 (なんかこの……教室中から感じる敵意の波動はなんやろう?)

 御堂琴里(みどうことり)はそっと、まわりを見回した。

 ここは諒凰女子、栗の花学園合同の新歓クラブ説明会場。
 琴里がいるのは東校舎三階にある諒凰女子の小教室である。

 その教室の入り口には≪投資クラブ・説明会会場≫とあった。

 政治経済系のクラブの中でも株式売買の学べる投資クラブはことに人気が高い。
 父のリストラによる貧乏生活から抜け出したい琴里が栗の花学園に入学した当初から狙っていたクラブだった。

 (せやけど、なんか諒凰の子ばっかりやな……パンフレットには皆、両校合同と書いてあったんやけど……)
 琴里はポケットから新歓クラブ説明会のチラシを取り出して確認した。
 (うん、間違いあらへん……やっぱり栗の花の子も入れるはずや!)
 琴里は正面を向きなおして投資クラブの説明をする上級生の話に聞き入った。

 「たとえばポコモはその後の競争激化によって経常利益が下がってしまいました。このようにたとえ、上場時において市場占有率の高い企業であったとしても……」

 (ハァ……なんちゅうベッピンさんやろ……)

 琴里は、高輪未幸(たかのわみゆき)と名乗る諒凰の上級生に一目であこがれてしまった。

 (ショートカットも知的やし、それにあのスタイル……清楚な諒凰のスカートが、よう似おとるわ。せや、あたしは前からあんな人を先輩と呼びたかったんや……)

 自己紹介によると、未幸は両親がアメリカ滞在中に生まれたということで中学までは母親と共にボストンで暮らしていたという。

 「ですから常に企業の置かれる外部要因を注意深く見定めていく必要があるのです……」
 未幸の説明を聞くうちに、琴里はますます彼女に対するあこがれが強くなっていった。

 (けど、ほんまに栗の花の子でも後輩にしてもらえるんやろか……)

 もしかするとその時、琴里は少し不安げな表情をしたのかも知れなかった。
 それを察したかのように、壇上の上級生は琴里の方を見てニッコリと微笑んだのだった。

        (☆☆☆☆☆!!) 

 御堂琴里は舞い上がった。

 諒凰女子と栗の花学園は経営母体も同じ姉妹校の間柄になる。
 しかも奇妙なことに同じ敷地内に二つの女子高として存在しているのである。

 無論これには訳があった。


                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
「ちょっと、そこのメイドさん!」

 投資クラブの説明を聞き終えて「ここに入部しよう!」と、決意して教室を出た琴里を呼びとめたのは同じ説明会を聞いていた諒凰女子の一年生達だった。

 (なんやメイドさんて……あたしのことか?)

 琴里は一瞬ムッとしたが自分の着ている制服が紺色のメイド服に全身エプロンという姿だった為、すぐに彼女達が勘違いしたことに気付き、笑顔に戻った。

 「ちゃうで、これ栗の花の制服やねん。あんたらは諒凰の子やろ? あたし栗の花の一年生、御堂琴里。これからはクラブで一緒になるかも知れんから……どうぞよろしく」
 そう言ってペコリと頭を下げた琴里に返ってきたのは大爆笑だった。

 「あら、よく見ると栗の花の生徒さんだわ。ごめんなさいね。みんなビックリしたものだから」
 ひとしきり笑った後でリーダー格と思われる少女がそう言った。

 (あんたらはビックリしたら笑うんかい!)

 「私は宮倉嘉穂(みやくらかほ)、諒凰の一年生。こちらは同じく一年生の春日麗華(かすがれいか)さんと吉田翔子(よしだしょうこ)さん」
 とりまきの二人は軽く頭を下げた。

 「御堂さんとおっしゃったかしら……あなた、このクラブに興味がおありなの?」
 「せやねん、あたし将来トレーダーになりたいなあとか思うて。エヘヘ……」
 「そう、それは残念ね……」
 嘉穂は本当に残念そうな顔をした。

 「あなた関西から来られたようだから、この学校の事をあまりご存じないのね……栗の花の子は政治経済系のクラブには入れないのよ」

  それは意外な言葉だった。


                    ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |

 「エッ……でもここに両校合同って……」

 「それは表向き。確かに諒凰と栗の花は同じ敷地に建つ姉妹校ですし、どちらも偏差値は最高の女子高校ですわね。それから出身中学の推薦状では品行方正で容姿端麗まで要求しているわね。」

 (エヘヘ、そうかなあ……)

 「でも、両校には決定的な違いがあるの。私達の諒凰は、この国の指導者の伴侶、あるいは自らが指導者になることを目指す女性の為の学校。だから一般の教科の中でも政治経済や哲学を重視、さらには人を使いこなす為の帝王学も学ぶことになる。ここに入るには、特別な家柄と多額の寄付も必要なの」

 (ようするに、自分達はセレブやと言いたいわけやな……)

 「一方、栗の花学園は入学金無料、授業料免除、全寮制で毎月わずかながら、おこづかいまで支給される……」

 「まあ、うらやましい……」
 嘉穂の後ろから翔子がからかうように口を挟んだ。

 「つまり、あなた達の学費はすべて諒凰の生徒が支払っているの!」

        (! ! !)

 「そうして、あなた達はこの三年間で私達に心の底からお仕えできる、プロのメイドとしての技能と心得を徹底的に学ぶことになるわ」
 嘉穂は愕然とする琴里を指さしてピシリと言い放った。

 「あなた達に必要なのは政治経済の知識ではありません。学ばなければならないのは名家に仕える為のマナーや疲れたご主人を癒やす話術などよ!」

 「エッ……エ……だって……」

 その時、琴里の背後から声がした。

 「そこの人、どいて!」

 琴里が振り返ると、栗の花の上級生がティルームに業務用のコーヒードリップを運び込んでいる途中だった。

 (エプロンの腰のリボンが青いからこの人は三年生やねん。ちなみに二年生は黄色。あたしたち一年生はピンク色や……解説・琴里)

 「どうやら、クラブ説明会を終えた上級生の方々がお茶会を開かれるようね……」
 嘉穂が呟いた。

 「遅いわね佐倉さん! これは生徒会主催の大事なお茶会なのよ!」
 ティールームの中から怒鳴りつけたのは、諒凰生徒会の書記で二年生の小坂直子(こさかなおこ)だった。

 小柄な体にしなやかな長い髪。腕に生徒会の腕章をつけているその少女は、おだやかに微笑んでいればとても愛らしい顔立ちの少女である。

 そんな彼女が、栗の花の上級生に対し、頭ごなしに叱りつけているのだった。

 「申し訳ありません、お嬢様! 少し手間取りまして……」
 その上級生は平謝りに頭を下げ、あわただしく設営に取り掛かった。

 「風紀委員の仕事は部下にまかせなさいって言ったでしょ! あなたは私の専属メイドなんだから、こっちが優先よ!」
 「ハッ、申し訳ありません!」

 (栗の花の風紀委員が給仕させられてるし……この身分差別はなんや?)

 唖然として見つめる琴里と、その佐倉という上級生の目が合った。

 「あなた、ここに来て手伝いなさい!」
 先程までの腰の低さとはうって変わって高圧的な物言いだった。

 「エッ……あたし?」

 その時、嘉穂が割って入った。
 「ごめんなさい。この子は今、私たちが御用を言いつけているところなの……」

  (御用ってなんや?)

 しかし、なんとそれを聞いた佐倉は嘉穂に深々と頭を下げて「失礼しました。お嬢様」と言ったのだった。


                    ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |

「これであなたの立場がわかったようね……」
 振り返った嘉穂が勝ち誇ったように言った。

 「でも安心なさい。今日からあなたは私達の専属メイドにしてあげる! 専属メイドになれば学校の雑用、ことに御不浄のお掃除からも解放されますし……」

 ショックのあまり魂の抜け殻のようになっていた琴里の前で、ガラリと教室の扉が開き、先程まで投資クラブの説明会を開いていた高輪未幸が現れた。

 その瞬間、秒速で琴里の目に生気が蘇った。

 「あの先輩……栗の花の生徒は投資クラブには入れないんでしょうか?」
 それは琴里自身驚くような唐突な質問だった。

 未幸もまた、突然の質問に戸惑ったようだが、少し間を置いてニッコリと微笑むと「いいえ、投資クラブはあなたの入部を歓迎します」と答えた。

    (☆☆☆☆☆!!)

 「ありがとうございます!」
 琴里は思わず、語尾に御主人様と付けてしまいそうになった自分がおかしくなり、満面の笑みを浮かべながら、ティールームに入っていく未幸に礼を言った。

 「これはどういうことでしょう?」
 麗華は未幸の言葉を、にわかには信じられない面持ちで嘉穂を見た。

 「おそらく投資クラブにも書類整理や、お茶くみが必要ということなのでしょう……でも先輩のお許しが出たといってもあなたは……って、あの子はどこへ行きましたの?」

 「あそこ……」

 翔子に指差された方向を見た嘉穂の目に、後ろを向き直って、アカンベーをしながら駆けて行く琴里の姿が見えた。

 「まだ何もわからない子猫には、やさしくマナーを教えてあげるというのが私のやり方でしたが……どうやら厳しく教えなければならないドラ猫もいるようですね!」

 嘉穂の目がマジだった。


                    ( つづく )
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