自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 「私はヒラメのムニエルとフォアグラのランチ!」
 と、吉田翔子が注文した。

 「私は子牛のステーキ・トリュフ添えランチ!」
 これは、春日麗香だった。

 「それでは私は、伊勢エビのパイ包み焼きとサラダをいただこうかしら……」
 最後に注文を出したのは、宮倉嘉穂だった。

 ここは、諒凰のカフェテリア。昼食時にはこのようなランチも提供しているのだ。

 そして、この三人組の昼食の給仕をしているのは琴里と、監視役の田口峰子だった。

 「ホーホホホホ! それからあなた達にもパンケーキをおごりますわ……」
 嘉穂が上機嫌だった。

 「あっ、ずるっ! 嘉穂ちゃん達はフランス料理なのに、あたし達はパンケーキ?」
 スパーン! と、ハリセンが琴里を打った。

 「そこは、恐れ入ります。お嬢様……でしょうが!」
 監視役の峰子だった。

 「ハイもう一度! 恐れ入りますお嬢様って言い直しなさい!」
 峰子がグイッと琴里の頭を抑えた。

 「お、恐れ入谷の鬼子母神」
 「ちがーうっ! 第一、そこだけなんで江戸っ子なのよ!」

 「ホーホホホホホ!」

 嘉穂も上機嫌であったが、このドタバタ騒ぎを遠目で見ていた小坂直子はさらに上機嫌だった。

 「さすがに佐倉さんね! 投資クラブの中に亀裂が生じているわ!」
 軽食を口に運びながら直子が言った。

 「恐れ入ります。お嬢様……」
 栗の花の風記委員長であると共に、小坂直子の専属メイドでもある佐倉恵理子が自然に答えた。

 「でも彼女がお世話係りをする予定だった、バドミントン部やラクロス部には少しご迷惑だったかしらね……」
 「その点はご安心ください。連帯責任者の倉橋真奈美が、その間のお世話をすることになっております……」

 「あっ、そう……」

 「コーヒーをもう一杯いかがですか?」

 「ええ、いただくわ。それにしても同室の倉橋さんもなにかと苦労するわね……出来の悪い妹を持った、お姉さんってとこかしら……」



その、なにかと苦労の多い真奈美だったが、今一番の楽しみはカー君の成長だった。

 カー君は、このところ羽もすっかり生え揃い、キッチンと真奈美の部屋を頻繁に飛び回るようになっていたのだった。
 真奈美によく馴れていて、彼女が寮に戻ってきて「カー君、帰ったよ!」と言えばどこにいても飛んで来て頭の上にちょこんと乗って来る。
 食事や入浴の間すら離れようしない程で、真奈美は大満足だったが、琴里は大迷惑だった。

 「痛っ!」
 思わず琴里が悲鳴を上げたのは真奈美と夕食を取っていた時だった。

 醤油を取ろうと、真奈美の皿の横に手を伸ばした琴里に、カー君がつついたのだ。
 もちろん強くつついたわけではない。

 しかし、意識せずに手をのばした琴里は思わず手を引っ込めた。

 「だめでしょ! カー君」
 真奈美が強い調子で叱ると、すぐに彼女の頭に飛び乗る。

 が、しばらくして琴里が急須でお茶を注ごうと、テーブルの中央に手を伸ばせば、またカー君が下りてきてつつくという有様で、まるで《鉄人28号》の《ファイアーⅡ世》状態だった。

 独占欲の強いカー君が、琴里を真奈美から遠ざけようとしていたのだ。

 (このアホ・カラスめ~)

 「琴里ちゃんごめんね。もうすぐだからね」
 真奈美がすまなそうに言った。

 もうすぐ……それはカー君の旅立ちの時だった。



                     ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |

 諒凰女子投資クラブでは来月の《アジサイ杯》に向けての説明会があった。

 一週間ぶりにクラブ参加の認められた、栗の花学園投資研究会・会長の御堂琴里もこれに参加。前回、無知と強運で勝利したと言われた汚名を返上すべく上位入賞を目指すことになった。

 「今回のアジサイ杯より、自由にポートフォリオを組んでもらうことになる。期間は二週間、資金は前回同様、架空の百万円。今回もまた途中で銘柄の入れ替えは禁止する」
 ルール説明は副部長の井原真澄で、なぜか部長の高輪未幸の姿はなかった。

 「パソコンへの入力は今回も前回同様、私達が行う。次回からは上位八名には専用のブースが与えられ、上級生が行っている学校対抗の投資戦への参加が認められる。これに対し成績の振るわなかった者は、私達上級生の助手として、データー検索などの仕事に回ることになる。これは、秋の《コスモス杯》まで継続される。なお、各銘柄の単位数は実際に企業が定めている数で行うものとする。何か質問は?」

 「と、いうことは前回ウチの専属メイドが行ったような、卑怯な手が使えないということですわね……」
 嘉穂が考え込むような表情で言った。

 「それは昨日で終ってるはずや!」
 琴里が訂正した。

 この一週間、生徒会の理不尽なペナルティーで琴里は随分屈辱的な目にあってきた。

 昼食時の給仕やパシリは勿論、朝は校門の前に立って嘉穂を相手に「お早うございます。お嬢様」などとやらされる。
 さらに夕刻には「本日も御苦労様でした。お嬢様」と頭を下げさせられるのだ。

 しかも、これにはご丁寧に栗の花の上級生が監視員としてついていて逐一、生徒会に報告するという念の入りようだった。

 それだけに、この嘉穂にだけは絶対負けるわけにはいかなかったのだった。

 それにしても一年生部員への説明に高輪部長が参加していないのが気がかりだった。
 「あの……今日は高輪先輩をお見かけしないようですが、どうかなされたのですか?」
 琴里の懸念を代弁するかのように吉田翔子が尋ねた。

 しばらくの沈黙の後、二年生の安西珠樹が重い口を開いた。

 「高輪部長は、今日はお父様の会社の都合でお休みです……」 



 ほんの一月前には、地獄に流される亡者のような顔をしていた負け組《諒凰の体育会系に入れられた者達》が、最近では生き生きとしていた。

 ことに当初、馬術部に連れて行かれたことで嘆いていた矢野恵子などは諒鳳男子で思わぬ歓迎を受けたこともあって、「昨日はギャロップが上手くできた」とか、「先輩の浅井さんは少し前のめりになり過ぎている」などという口をきく程だった。

 噂によると、ある一年生の反乱がすべての諒凰女子・体育会系クラブに衝撃を与えたとかで、貴重な栗の花のお世話係りに対し、待遇改善をともなった囲い込みを強化するようになったということだった。

 「ゆゆしきことに、これまで培われてきた栗の花の伝統が崩されようとしています……」
 生徒会・書記長室で、そう報告しているのは栗の花学園・風記委員長の佐倉恵理子だった。

 「それもこれも全ては諒凰理事会が寄付金につられて、本来ならば入学資格のない高輪未幸のような人を受け入れた事が原因なのよ……」
 小坂直子がノートパソコンで何かを検索しながら呟いた。

 諒鳳男子・諒凰女子の両校は、日本を代表する企業のオーナー一族の子弟や、古くから続く名家の子女で、なおかつ優秀な人材のみを入学資格としてきた。

 つまりこれまでであれば、いかに裕福で学業が優れていようとも、一代で財を成しただけの成り上がり者の子弟、子女では本来入学資格がなかったのである。

 それが高輪ホールディングのように、新しい会社を創業した者の娘であっても、諒凰女子の入学を許された背景には、数年後に実施される両校の移転問題が関係していた。

 数千億ともいわれる莫大な移転費用を捻出することが理事会にとって至上命題だったのだ。

 「あの人の価値観は、私達の伝統的なそれとは違うのよ。人は皆、礼を尊び、生まれた時からの”分”を守って生きる。私はそう教えられてきたわ。けれどあの人の父親は、そう教えなかったのね。人は平等であり、望む物があれば、あらゆる手段を用いてそれを手に入れればよい。そして勝者のみが全てを掴む。そういった考え方なのよ」
 小坂直子はフッと大きく息をついた。

 「でも、どうやら彼女も終わりのようね。今、彼女の父親が逮捕されたわ!」

 「! ! !」

 驚く佐倉に直子は、ノートパソコンのモニターを見せた。そこにはインターネットの新聞速報で、そのニュースが大写しにされていた。

 『高輪ホールディング会長・証券取引法違反容疑で逮捕!』
 夕刻のトップニュースでは、すべての新聞、すべてのテレビ局がこの見出しだった。

 このところ小坂電設と買収を巡って泥試合を演じてきた高輪総輔は、時間外取引における不正を指摘された上、インサイダー取引の嫌疑もかけられていた。

 さらに悪いことには自社の株価を吊り上げる為に、粉飾決算を行っていたのではないかという疑いまで出てきたのである。

 しかもこのニュースは、諒凰女子投資クラブと栗の花学園投資研究会にも、少なからず影響を与えていた。
 うわさによると、部長の高輪未幸まで事情聴取を受けているということだった。

 その結果、しばらくの間、両クラブとも休部となってしまった。

 「もしかしたら、明日からえらいことになるかもしれへん……」

 部室の前に張り出された、理事会からの休部勧告の張り紙を見て琴里が呟いた。



                     ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |

翌日、琴里の予想通り、うるさい連中が琴里の教室を訪れた。

「投資クラブが閉鎖されたのはお気の毒でした……」
「お気の毒でした……」
にこやかな笑顔で入ってきたのはチアリーディング部長・山名蓉子と副部長・山名舞子だった。

「ですが、これであなたも心おきなくチアリーディング部の活動一筋に打ち込めるというもの……そこで本日はこの伝統ある諒凰フェニックスのワッペンをお届けにまいりました」

「でもあれは一時的なもんですから……」 

「いいえ、いけません! チアリーディング部では、あなたにドド君を任せようとしているのですよ!」
 山名蓉子はサラリと言った。が、琴里はその正体を知っていた。

 ドド君! それは恐怖の着ぐるみだった。

 以前、真奈美が例によってシュウシュウと湯気を立てながら寮に帰って来て、そのまま倒れ込んだ事があった。
 その時、琴里に残したセリフが「ドド君には気をつけて……」だったのだ。
 
 真奈美によるとドド君とはチアリーディング部のマスコットキャラで、チアーダンスが踊られている間、周辺を跳ねまわり、場をなごませる存在なのだという。

 諒凰フェニックスのマスコットがなぜドドなのか謎だが、問題はそのドド君が暑くて臭くて重くて、その上背中のチャックを、着ている本人が自分で開けられないという事だった。

 琴里としても、ドド君の恐ろしさが分かっていながら「ハイ、そうですか」と引き受けるわけにはいかなかった。

 「いや、せやから投資クラブが廃止されたわけやなくて……」
 琴里がそう言いかけた時、横やりが入った。

 「ちょっと待ったー!」
 昔の出会い系番組のようなセリフで割り込んで来たのはラクロス部・部長の南川奈津美だった。

 「御堂さんへの優先権はこちらにあります!」
 彼女は、外人選手をめぐるパリーグの某チームのようなことを言った。

 「なぜなら最初に御堂さんの代理人、倉橋さんを見つけたのがラクロス部だからです!」

 (あたしらは昆虫採集のクワガタか!)

 「そんなことは認められません!」
 と、少し気の弱いバドミントン部・部長の河野静江も参戦した。

 「いずれにしても皆さんは少し遅すぎたようですわね……つい先程、御堂さんが七代目のドド君に決定したところです!」

 (七代目ということは、六代目が真奈美先輩やろか? ……やない!)

 「誰もそんなこと言うてません!」

 「ほらごらんなさい! 彼女はラクロス部希望です」

 「それも言うてません!」

「いいえ彼女はドド君で決定です! あなた達のクラブでは御堂さんを単なるお世話係りとしか見ていないではないですか! わがチアリーディング部では重要なドド君の役目を任せようとしているのですよ!」

 「いや、それがいややて言うてるんですけど……」

 「バドミントン部では、お掃除の後、正式に練習にも参加してもらっています!」
 勇気をふるって河野も主張した。

 「あなたがそんな事をさせるから、最近他のクラブも困っているのです! 第一、彼女はラクロス部の芝刈り機の運転が気に入ってるんです!」

「チアリーディング部としては時々ドド君こと御堂さんを貸し出すことを提案します!」

 (すでにあたしはドド君になってるし……)

 「それなら逆に、ラクロス部としては諒凰フェニックスが演舞される時に、御堂さんを貸し出します!」

 (レンタル品だし!)

 「バトミントン部では……」
 しかし、河野の主張は山名姉妹によって、脇に押しやられた。

 「日頃の練習もなしにドド君が務まるわけがないじゃありませんか! それに、ラクロス部の試合の時はどうするのです? 彼女を絶対に試合に出さないと言っているようなものではありませんか」

 いつのまにかこの争奪戦を琴里のクラスメイト達が見学していた。

 「どのような決着がつくと思われますか解説の矢野さん」
 「そうですね経過から見て御堂さんはドド君で決定でしょうか」

 「ドド君というと諒凰フェニクスのマスコットですね」
 「そう、あのキャラクターは御堂さんにピッタリではないでしょうか……」

 「しかしこれから夏場にかけて大変暑いのでは?」
 「まあ因果応報と言いますか……もしくは、みそぎとでも言いましょうか……」

 「ええ~い! そこうるさ~い!」
 クラスメイトの無責任な発言に琴里が切れた。

  「と、ともかく投資クラブはまだ廃止されていませんから! では会合がありますんで」
 そう言い残して、琴里がダッシュで逃げた。

 「アッ、逃げた!」
 と、言ったのはクラスメイトの中山未来。

 「アラ……足速いのね……」
 と、感心したのはラクロス部の部長・南川奈津美だった。



                    ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |

 事実上、投資クラブがたまり場として使っている、カフェテリアの一角に嘉穂達が集まっていた。

 二年生の安西珠樹が琴里を見つけると「こっち、こっち」と手招きをする。
 投資クラブでは、高輪未幸の指導のもと、栗の花の学生である琴里をも正式なメンバーとして扱ってくれていた。
 琴里はそれがうれしかったのである。

 「やっと逃げてきたようね」
 まるで、すべての事情が見えていたかのように嘉穂が言った。

 「全員が集まったようだから、これまでにつかんだ情報を安西さんから報告する」
 副部長の井原真澄が言った。

 全員とはいえメンバーは井原真澄と安西珠樹、一年生部長の宮倉嘉穂と春日麗香、吉田翔子それに栗の花学園投資研究会・会長の御堂琴里とたったの六人だけだった。

 「他の人達は部長が事情聴取を受けているという話を聞いただけでやめて行ったの……」
 琴里の疑問を察知して、安西珠樹がさみしそうに言った。

 「皆さんもご存じだと思いますが……昨日部長のお父様である高輪総輔氏が逮捕されました。嫌疑は、生徒会書記・小坂直子さんの会社、小坂電設をめぐる証券取引法違反と粉飾決算(自社株の値を上げるため実際よりも儲けがあったとする行為)です」

 安西珠樹はここでフッと大きく息を継いだ。

 「実は小坂電設株の取得をめぐり、高輪部長に共犯の嫌疑がかかっているのです!」
 琴里達、一年生部員に衝撃が走った。

 「ご存じのように、ひとつの会社を支配下に置くには、その会社の発行済み株式の50%を上回る株を手に入れる必要があります。この時、大量に株式を保有する者は、公正さを保つ為にも、常に保有株数を報告する義務があるのです」
 全員がうんうんと頷いた。

 「ところが、ここで高輪総輔は一つのミスをしていました。彼は、離婚した奥さん、つまり部長のお母様への慰謝料として、保有していた株式の中から、小坂電設の関連株を譲渡してたのです」
 「子会社ですね?」
 嘉穂が的確な指摘をした。

 「そうです。現在は小坂電設の完全子会社となっている御堂金属工業という会社です」

 「御堂金属工業?」
 全員が振り返って琴里を見た。

 「ここは、御堂さんのお父さんが務めておられた会社ですが、その大株主が高輪総輔だったのです。ちなみに設立後、すぐに人手に渡ってしまいましたが、この御堂金属工業の創立者こそ、御堂さんのおじいさんです」
 「まあ、それは安藤も言っておりませんでしたわね……」
 と、嘉穂が呟いた時――。

 「えっ! それは知らんかった……」
 一瞬遅く、琴里が驚きの声を上げた。

 「知らんかったんかい!」
 と、嘉穂が思わず絶妙のタイミングでツッコミを入れてしまった。

「さて問題はここからです。実は御堂金属工業株は株式交換によって、その全てが小坂電設株に移行されていたのです。したがってこの時点で部長のお母様は小坂電設の大株主になっていたことになります。比率でいえば、小坂電設発行済み株式の2%にあたります」

 「でも、それは部長のお母様の株式。彼女は現在、アメリカで暮らしておられるとお聞きしましたが……」
 と、嘉穂が言った。その話なら琴里も以前聞いたことがあった。

 「ところが、そのお母様が保有する株式を全て、娘である未幸部長に、相談なく生前贈与されていたのです! しかも、これはごく最近のことだそうです」

 「こうなると、父と娘が結託して小坂電設乗っ取りを計り、娘の小坂電設株2%を隠し玉として株主総会で使おうとしたと見られても仕方がありません」

 「つまり、そのことを部長のお父様の高輪総輔は知らなかったというのですね……」
 嘉穂の質問に対して、副部長の井原真澄が腹立たしげに答えた。

 「その通り! 部長のお母様がランキングに入ってなかったとはいえ、プロ中のプロがなんたる失態!」
 「けど、ごく最近のことなら部長は口座の中身までは知らんかったやないですか?」

 「そうなの……見てなかったのよね……お母様から届いたばかりで……」

 「た、高輪部長!」
 全員が一斉にその名を呼んでいた。

 いつの間にか投資クラブ部長の高輪未幸が立っていたのだ。

 部長が近くに来るまで誰も気づかなかった、その訳は――。

 「な、なんでそのお姿に?」

  井原副部長が絶句した。


                     ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |

 なんと高輪未幸は、栗の花の制服(!)を着ていたのだ。

 「まだ報道はされていませんが、父は一部の容疑を認め起訴されることになります……おそらく私に共犯としての嫌疑が及ぶのを避けるためでしょう……ですが、この事をいち早く聞いた皆さんは関連する高輪ホールディングや小坂電設を今この時点で売買してはなりません。それはインサイダー取引にあたります!」

 「いや、その事ではなく!」
 井原副部長がツッコミを入れた。誰もが聞きたかったのは制服のことだった。

 「そうでした……つまり私はこれにより、諒凰の学生資格を失うことになります……」

 「! ! !」

 「つまり、日本を代表する名家、もしくは東証・大証の一部企業のオーナーの子女というあの規定ですね」
 嘉穂が普段はあまり見せない、心配そうな表情で言った。

 「そうです……そこで私はこの学校に残る為、諒凰女子・栗の花分校に転籍することにして学園側に了承を得ました」

 「しかし、栗の花にも貧乏でなければならないという規定が……アッ、御免ね」
 安西珠樹が琴里に向かって謝った。

 (いや、謝まられた方が、よけい傷つくんやけど……)

 「それは大丈夫です。全ての手続きが終わるまで私は無一文ですから……栗の花では入学後に資産を得ても退学規定はありません」

 「せやけど……あのネチネチした生徒会・書記が先輩に対して、何かしてくるんやないやろか……」
 琴里が心配そうに呟いた。

 「私もそれを心配しております……」
 副部長・井原真澄の言葉に、高輪未幸は笑いながら答えた。

 「それも心配いりません。全ての手続きが終われば私は彼女の会社・小坂電設の2%を所有する大株主になりますから……」
 つまり、高輪ホールディングという法人で所有していた小坂電設株は、それを引き継ぐ者の手に委ねられるものの、母親名義であった個人所有分は関係のない話だからだった。
 栗の花学園創立以来の、セレブ学生誕生だった。

 「ところで、こうなると諒凰の投資クラブ部長は井原さんに引き継いでもらう必要があります。私の方は……」

 たった一人だけであった栗の花学園・投資研究会に新しいメンバーが加わった。副会長を務めることになったその人の名は、なんと高輪未幸(!)だった。


                     ( つづく )
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