自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月09日 (水) | 編集 |

「ヒーヒッヒッヒ、ホーホッホッホ!」
 そのころ生徒会・書記室では、小坂直子が小柄な体をソファーの上でバウンドさせながら歓喜の高笑いをしていた。

 彼女の父の会社が勝利し、仇敵の高輪総輔が失脚をした上、その娘の高輪未幸は直子の支配下にある栗の花学園に転籍をしたというのだから、それも当然だった。

 「これからは、あの高輪未幸を思う存分こき使ってやれるわ! ホーッホッホッホ、なんて愉快な事かしら」
 小坂直子は、泣きながら便所掃除をしている高輪未幸を想像して笑い転げた。

 「あの……その事なんですが……」
 直子の専属メイドも兼ねている佐倉が言いにくそうに彼女の笑いを遮った。

 「なによ、あなたは? もっと喜びなさい!」
 「ハア、実はお耳に入れなくてはならない話が……」
 佐倉は、誰に聞かれているわけでもないのに直子の耳元でささやいた。

 「なんですって! 高輪未幸が小坂電設、七位の大株主だっていうの?」
 「個人では、直子様のお父上に次ぐ株主ということになります」
 一瞬にして直子の喜びは悔しさに変わった。

 目の上のタンコブは健在だったのだ。

 「だけど、あなたはどこからそんな情報を?」
 「風記委員は学園の理事会とも通じておりますので」
 佐倉が誇らしげに胸を張った。

 「それともう一つ……高輪ホールディングが保有していた小坂電設株はジェシカ・ラングレー率いる外資系のファンドが狙っているとか……」

 「か、彼女は有名なアクティビスト(経営者に度々要求を突きつける株主)じゃないの!」

 「はい、あのファンドに狙われた企業経営者は殆ど経営責任を取らされ、辞めさせられるとか……そうなるとお嬢様も栗の花へ……」

 「え、縁起でもないことを言わないで!」

 「そうなると、お嬢様はお嬢様でなくなり、単なる私の後輩ということに……」

 「ちょっと! 聞いてるの?」
 しかし佐倉は完全に自分の世界に入っていた。

 「やはり私が、栗の花の生徒としての心得を、先輩として……それとも姉が妹を諭すようにして、厳しく教える事になるのかしら……」

 「なりません!」
 小坂直子は佐倉の妄想を打ち消すように、きっぱりと否定した。

結局、長引くと思われた高輪ホールディング事件も、高輪総輔が一部事実を認め、他の案件については全ての資料を提供したことで驚くほどの短期間で決着を見た。

 高輪総輔は全責任を取り、辞任。

 高輪未幸によれば、「父はしばらくは裁判に専念することになるでしょう」という事だった。

 なお、高輪ホールディング本体は、インドを代表するIT企業が引き取りを表明していた。



 未幸の嫌疑も晴れたことから、投資クラブの休部勧告も解けたが痛手は残った。
 投資クラブは、人数も大幅に減ったこともあって、予算も大幅削減。

 居心地の良い部室も追い出され、《長唄の会》横の小さな部屋が割り振られた。

 栗の花学園・投資研究会にいたっては、諒凰投資クラブとの同居を禁止され栗の花学園の各部室がある西校舎で、昨年まで《片付け上手の会》が使っていた隅っこの、最も小さな部屋をあてがわれたのだった。

 「テーブルが一つに椅子が二つ、あとは何もないようだけど……廃止にならなかったのは幸運だったわね……」
 高輪副会長が屈託のない笑顔で笑った。

 不思議なことに高輪未幸は、このような境遇を楽しんでいるようで、メイド服のような栗の花の制服を「かわいい、かわいい」と喜んでいた。

 クラブの存続が決まった事で、他のクラブに所属する必要が無くなった琴里だったが、生徒会(おそらくは書記長)の指導もあり、週に一度はドド君に入ることを承認させられた。



 そんな事もあり、このところ踏んだり蹴ったりの琴里だったが、ひとつだけ良いことがあった。
 それは真奈美の飼っていたあの意地悪カラスのカー君が無事に巣離れをしたことだった。

 「ボクもいつかはこんな日が来ると思っていたんだよ」

 真奈美はそう言って、窓から飛び出して行ったカー君を見送りながら涙ぐんだが、食事の時間になれば戻ってきて、キッチンのテーブルを占領するとあっては――。

 琴里としても(どこが違うんやろ……)と、ぼやかざるを得なかった。



                     ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |

《暑い》《臭い》《重い》の三拍子そろった恐怖の着ぐるみドド君は、チアリーディング部倉庫の中に、圧倒的な存在感を放ちながら吊るされていた。

 以前真奈美が聞いた話では、ここ二年間、栗の花のお世話係りの入部がなかったチアリーディング部ではダンスを間違えたり、抜け駆けのデートで部をさぼったような不届きなメンバーが罰ゲームとしてやらされていたようだった。

 「そんなドド君に、なんであたしが入らないかんのですか!」
 琴里は強く抗議したが、チアリーディング部、部長・副部長である、山名姉妹には通じなかった。

 「それは、倉橋さんが十分と持たないからです!」
 「そう、せめて三十分は持たなければなりません!」

 「…………」

 「ハイ、右足から入れて……」

 「いやや~! あたしは五分も持ちません~」
 琴里が、ジタバタと暴れて抵抗した。が、――

 「ハイ、チャック!」
 異様に手際のよい姉妹の手で、琴里はたちまち怪鳥ドド君に変身させられてしまった。

 「ひぃ~ん……」

 琴里の嘆きをよそに、山名姉妹は魂の宿ったドド君を満足そうに眺めながら言った。

 「いいですか……今日の練習は簡単です。私達のチアー・ダンスがインターバルに入った時に、あなたがバク転をしながら出てきてストリートダンスを踊るだけです」

 「バク転なんてできません! ストリートダンスもできません!」
 琴里は、くぐもった声で反論した。

 「もちろん最初から出来るなんて考えていません。ですからあなたはそれをマスターするために毎日練習をしなければならないのです!」
 「せやからあたしは他のクラブも掛け持ちで……しかも、考えてみたらチアリーディング部には捕まった覚えもないのに……」

 「まあ、捕まったなんて……人聞きの悪い! これは、さわやかに汗を流さなければなりませんわね!」
 「なりませんわね!」

 「ではGO,GO諒凰! GO,GOフェニックス!」
 山名姉妹が満面に笑みをたたえて叫んだ。

 「GO、GO諒凰! GO、GOフェニックス!」
 チアリーディング部、他のメンバーも声をあわせた。

 「ほら、ドド君も元気よく! ハイ、GO,GO諒凰! GO、GOフェニックス!」
 「ご~ご~諒凰、ご~ご~フェニックス……」
 やむなく、琴里も声を合わさざるをえなかった。

 「声が小さーい!」

 満面の笑みをたたえながらも、その実態はブートキャンプだった。

 その迫力に思わず琴里は 「イエス、マム!」と答えそうになった。

 ただし、もともと前転しか出来ない琴里が、ドド君に変身したからといってバク転ができるわけもなく、とにかく三十分間がんばったということで開放してもらった。



                     ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
《諒凰女子投資クラブ・付属、栗の花学園投資研究会・副会長》という、全く権限のなさそうなポストについた高輪未幸だったが、その実態は最高実力者のままだった。

 「ずいぶん人数も減ってしまい、今年の《アジサイ杯》も流れてしまいましたが、クラブとしての名誉を取り戻す為にも、ここは攻勢に出ることにいたしましょう!」
 少なくなった、諒凰投資クラブのメンバーと、ゲストである栗の花学園投資研究会・会長を前に高輪未幸は今後の目標を示した。

 それは――

 「各証券会社が提供する、学生向け投資シミュレーションゲームの全てに参加して、優勝もしくはそれに準ずる成績をあげましょう! それから今回からは一年生を含む全員参加で行うことにします」
 ということだった。未幸はその為の計画を語り始めた。

 「株は最も単純なゲームと言う人もいます。確かに始めたばかりの人が多額の利益を得たり、大手のトレーダーが損失を出すこともあります。しかし、確率で言えば圧倒的にプロのトレーダーの利益率が高いということも事実なのです」

 「その理由としては彼らには常に最新の膨大なデーターが提供されているという事や、資金が潤沢にあって簡単に枯渇することはないという事などもあげられます」

 「しかし、私が思うに、彼らは市場に現れる些細なサインも見逃さず冷徹に判断できるということではないかと思います」

 未幸は株取引に関する市販の格言集を取り出した。

 「ここに個人投資家向けの格言集があります」

 「いわく《政策株に売りはなし》であるとか《天井三日で底三年》などと書いてあります」

 「ローソク足による様々なテクニックであるとか、こうした格言などは無論参考にはなりますが、絶対的なものではありません」

 「事実、全く相反するような格言も存在します。ただここで大事な事は、多くの人が上がると思えば上がり下がると思えば下がるという明確な事実です」

 未幸はここでふっと息を継ぎ、戦術を明かした。

 「つまりその意味でトレーダー達がディスプレイに現れたサインをどう見るかはとても重要なファクターとなり得ます。言いかえればれば株式投資は心理戦ということになります」

 「シミュレーション・ゲームの場合は気が楽ではありますが、他校を相手に勝利を得ようとするならば、やはり現実に行われているプロのトレーダー達の心理戦を読み解かねばなりません。そこで私は父、高輪総輔の使っていた秘密兵器を譲り受けてまいりました」

 「これはいわゆるローソク足や二十五日移動曲線の推移により、内外の機関投資家や個人投資家がどのような行動にでるかをデーター化したプログラムで、東証・大証の全ての銘柄の中から、その日注目されるであろう企業名が瞬時で分かるようになっています」

 そう言いながら、未幸は一枚のデーターディスクを掲げた。

 「要するに、提供されたデーターを直接読み解くのではなく、それらのデーターを受けたトレーダー達が、どのようなアクションを起こすのかを推測するソフトなんですね……」
 琴里には難解に思えたが、嘉穂は理解したようだった。

 「無論、これとても絶対のものではありませんが、高輪総輔によれば最も高確率で値動きを予想できるということです」

 「でも、それでは私達が判断することが何もないのでは?」
 副部長の安西珠樹が少し不満そうだった。

 「いいえコンピューターはその時点で最適と思われる候補を複数表示しますが、自動売買を行うわけではありません。私達全員が、コンピューターの推奨する幾つかの候補の中から銘柄を選び、時間を選んで売買するのです」

 「なるほど……部長が優勝を狙うと言われた訳がわかりました……」
 新部長の井原真澄が納得したように言った。

 「部長はあなたなのですよ、井原さん」
 高輪未幸が笑いながらたしなめた。

 「但し、ひとつだけ問題があります。このソフトには大都通信の特別株式情報を常時自動的にインプットし続けておく必要があるのですが、父があのような状態になってしまった為に、今月末までしか使えません。なぜなら特別な情報は法人向けであり、高校生である私達がとても購入できるような価格ではないからです」

 「その点は心配いりませんわ! その通信社ならウチの子会社ですから……」
 嘉穂が得意満面で言った。

 どうやら諒凰投資クラブは、そこいらの大学の投資クラブなど、足元にも及ばないようなポテンシャルを持っているようだった。


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2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 以前、無責任な秋葉原・学園情報社が、諒凰女子と栗の花学園を特集したおかげで、このところ校門の前にカメラを抱えた不審者が増えていた。

 危機感を抱いた学園側は急遽ガードマンを増員するという対策をとったものの、殆どが自動車で送り迎えされる諒凰女子の学生とは違い、寮生活とはいえで老人ホームでの介護研修や近隣の公園清掃など、ボランティア活動が授業課題としてある栗の花学園の生徒の場合は深刻だった。

 この朝も保育園で行う人形劇の小道具を運んでいた栗の花の学生が、校門を出た瞬間にカメラ小僧達に取り囲まれてしまったのだ。

 「なんですか! あなた達は……すぐにここを立ち去りなさい!」
 と、注意に出た風記委員の佐倉恵理子までが彼らのシャッター攻撃にさらされ、慌てて逃げかえる始末だった。

 「これでは実習に出れません!」

 佐倉恵理子は学園側に更なる対策を願い出たが――。

 「すでにガードマンを増やすなど、出来る対策は講じています」
 と、色良い返事はもらえなかった。

 「それで風記委員会としても困っているというわけね……そういう場合は陽動作戦をとればいいのよ……」
 佐倉から報告を聞いた生徒会書記の小坂直子は経済新聞から目を離さず、このことにはあまり関心がなさそうだった。

 「と、言われますと?」

 「つまり、ここまで栗の花の生徒がオタク達に追っかけられるようになったのは、御堂さんが、おバカなインタビューに答えたからでしょ? だったら当事者二人にオトリになってもらえばいいんじゃないの」

 直子がクッキーを口に運びながら、そう答えた。

 「この件に関して倉橋さんは関係ないと思われます。御堂さんは多少責任があるものの、ペナルティーはすでに受けています。それに、いかに問題児であったとしても風記委員会としては学園の生徒を危険にさらすわけにはいきません!」
 いつになく激しい反論だった。これには直子も面喰って――。
 「そうね、それはその通りだわ」
 と、同意せざるをえなかった。

 「栗の花学園の雰囲気が変わりつつあるって嘆いてたけど、一番変わったのはあなたじゃないの?」
 直子は佐倉に聞こえないような小さな声で呟いた。

 結局、野外実習については、オタク達があまり萌えないジャージで出かけることになった。

 「エー、ひどいな~ せっかく九州から来たのに~」などと嘆く声もあったが、そんなことは関係のない話だった。



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2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 新体制の諒凰投資クラブは順調なスタートを切ったようだった。

 三栗屋証券の《全国学生トレーダー選手権・クラブ対抗戦》において、諒凰女子が中間発表ながらトップに躍り出たのだった。

 さらに豪華な景品が用意されているので有名な、クレバー・フォックス証券の《全国高校対抗投資シミュレーション》でも途中参加ながら、一位の学校を猛追するパフォーマンスを見せ、注目度ナンバー1高校に選ばれた。

 証券会社並みの情報量と高輪総輔から譲り受けたプログラム、スーパーファンドマネージャーを駆使し、高輪未幸の分析力が加われば、いかに予測のつかない株式投資シミュレーションといえども無敵だった。

 もちろん、諒凰投資クラブは個人戦でも他校を圧倒した。

新部長の井原真澄が、信参証券の《君は未来のトレーダー》というシミュレーションでトップに躍り出たほか、宮倉嘉穂も四位につけた。さらに常見証券のシミュレーション、《アンダー16・トレーダー杯》で、春日麗香が途中参加というハンディを負いながらも優勝を果たした。

 ただ、不思議なことにこの中に高輪未幸の名はなかった。

 「諒凰投資クラブも軌道に乗ってきたみたいだから、私達もそろそろ活動を開始しましょうか?」
 未幸がシミュレーションに参加しなかったわけ……それは、実戦に集中する為だった。

 「御堂さん、あなた証券会社に口座を持ってるの?」
 琴里はかぶりを振った。

 だいたい未成年が本当の株取引が出来るなどとは考えてもいなかったのだ。

 日本の証券会社では未成年が株取り引きを行う場合、保護者が管理することが前提となっている。

 その為、親がその証券会社に口座を持っていなければ子供も持てないというような仕組みになっている場合が多いのである。

 「それでは私がネット証券に《栗の花投資研究会》の口座を開設するとしましょう」
 高輪未幸はそう言って、おこずかいを出資するメンバーを書きとめた。

 まずは会長の御堂琴里、出資額・1万5000円(これは学園から支給される月々の手当の中から残った金額)
  副会長・高輪未幸、出資額・280万円(貯金から少し融通した金額)
   ゲスト・井原真澄、出資額・30万円(おこづかい)
   ゲスト・安西珠樹、出資額・16万円(おこづかい)
   ゲスト・宮倉嘉穂、出資額・170万円(おこずかいの一部)
   ゲスト・春日麗香、出資額・12万円(おこづかい)
   ゲスト・吉田翔子、出資額・20万円(おこずかい)
  栗の花学園投資研究会、特別会員・倉橋真奈美、出資額・1700円(おこづかい)

 投資資金・総額……529万6700円。

 大人の投資クラブと比べても遜色のない規模だった。

 ここにめでたく《栗の花・投資クラブ》が発足したのだった。

 「せやけど先輩、出資額にかなり差があるような気がするけど……大丈夫なんですか?」
 「そこは問題ないわね……株は余裕のある資金で行うのが鉄則だからです。それに利益も配当も、それから損失も出資額に応じたものになるから大丈夫よ」

 (損失も……)

 それが実戦の恐ろしさだった。

 宮倉嘉穂にとっては170万円がなんでもない額だとしても、御堂琴里には1万5000円は痛い金額だった。

 ただし、未幸から繰り返し注意されていたように、琴里にとって生活に絶対必要なお金は別に除けてあった。

 「まずは楽しいデイ・トレードからはじめて、最終目標はあなたのおじいさんが創設した会社を取り戻すことにでもしましょうか……」
 パソコンのスタートボタンを押す高輪未幸の指が、一瞬オーラで輝いたように琴里には見えた。

 (それにしても……上場もしていないような御堂金属工業を、先輩はどうやって取り戻すというんやろう)

  琴里は不思議に思えた。


                     ( つづく )
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