自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月09日 (水) | 編集 |

投資クラブの特別会員とはいえ、生まれて初めて株主(?)になった倉橋真奈美だが、彼女はここ数日、元気がなかった。
 しばらく前からカー君が部屋に帰ってこないのだ。

 この日も夕方から、かなり強い雨が降っていた。

 「カー君も親離れをしたということやないやろか……」
 琴里はそう言って真奈美を慰めたものの、内心では(あの厚かましいカー君が、こんな雨の日でも帰ってこんのは何かある……)と、一抹の不安を拭いきれなかった。

 「カー君が、いじめられていたらどうしよう……」
 真奈美が心配をしたのも無理のない話だった。

 彼女にとってはかけがえのないカー君も、大半の人にとっては、ゴミを荒らす迷惑なカラスの一羽でしかなかったからだ。

 「本当に、いじめられていたらどうしよう……」
 ここ数日、開け放たれたままになっている窓から外を見つめながら、真奈美が呟いた。

 残念なことに、真奈美が抱いていた不安は現実のものとなってしまった。

 翌朝、ラクロス部の為に、コートの脇を掃除していた真奈美自身が雨で濡れそぼった、小さな黒いかたまりを見つけてしまったのだ。

 それは既に硬くなっていて、足には真奈美がつけてやった、彼女自身の髪の毛で編んだアンクレットがついていた。


          カー君だった……


 他の鳥につつかれたような傷が無数に有り、それが原因で命を落としたようだった。

 人の手によって大きくなったカー君は、仲間に入れてもらえなかったのだ。

 遅れてやって来た琴里が、それを見つけた時には真奈美はすでにそれを埋める穴を掘っていた。

 その穴は、最初に巣から拾い上げた木の根元だった。

 大事そうにカー君の亡骸を埋める真奈美にかける言葉もなく、琴里はただ無言の葬儀を手伝うだけだった。


 その日、真奈美は学校を休んだ。



                     ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 栗の花学園に編入した高輪未幸とその周辺は、風記委員会にとっては要注意人物であり、連日監視の対象となっている。
 その中でもこの処、復活を遂げつつある諒凰投資クラブとの関係は逐一生徒会書記の小坂直子に報告すべき重要課題だった。

 「我々の調査の結果、どうやら現在も実質上の代表は高輪未幸であるとの結論に達しました。これは以前、理事会が栗の花学園に所属する御堂琴里に一年生部長をさせるのは好ましくないという指導を出した事項よりも重大な問題で、諒凰における政治経済系クラブの部長を栗の花の生徒が務めるという、前代未聞の事態になっています!」

 いささか興奮した口調で報告をした佐倉恵理子に対して、帰ってきた小坂直子の返答は……。

 「そう、御苦労さん……」
 という気の抜けるものだった。

 「あの、お嬢様……私の報告を理解していただけましたでしょうか……」
 佐倉恵理子は少し不満そうに、経済新聞から目を離さない小坂直子に確認をした。

 「ええ……現在の部長、井原真澄はお飾りで実質上は未だに高輪未幸が部長だというのでしょう?」

 「これはゆゆしき問題かと……」

 しかし、小坂直子は上の空だった。

 実はこのところ、彼女の父親の会社、小坂電設が大変な事態になっていた。
 高輪ホールディングを退けた小坂電設の前に新たな敵が立ちふさがったのだった。

 新たな敵……それは以前、佐倉からも報告を受けていた外資系のファンドだった。

 高輪ホールディング所有の小坂電設株を譲り受けたジェシカ・ラングレー率いる、(もの言うファンド)が、小坂電設経営陣の退任を求めて臨時株主総会を開くことを通告してきたのだった。

 その理由は、ここ数年業績が振るわず無配当を続けているにもかかわらず、役員報酬はアップさせている事。
 さらにはコングロマリット(本業とは直接関係のない事業を複数抱えた企業体)からの脱却を訴えた株主提案を拒絶し、ノンコア事業の継続を主張して、赤字を増やしたことが挙げられていた。

 ファンド側が主導権を握れば、小坂直子の父は追い出されるだけでなく、新しく任命された経営陣から訴訟に持ち込まれる可能性すらあるのだ。

 そうなれば小坂直子は諒凰を去らねばならず、最悪の場合は高輪未幸の二の舞となることさえあり得るのだった。

 これだけは絶対に避けたい選択肢だった。

 「なるほど……」
 佐倉は直子の開げている記事を見て、理解したように書記室を出て行った。


                     ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |

 栗の花学園の学生は入寮が原則となっている。
 高輪未幸といえども、その意味で例外ではなかった。

 ただし、彼女の場合は通常の学生用の寮ではなく、五階の教職員寮があてがわれることになった。

 これは彼女が、他の学生に影響を与えることを懸念した理事会側の配慮だったが、結果的には4LDKでホテル並の豪華な部屋を一人で使用することになってしまった。

 しかも、未幸が自宅から高級家具を運び込んでしまった為に、そこはまさに貴賓室と呼んでも差し支えない程だった。

 「このフロアーは、廊下の掃除くらいでしか入ったことがなかったけど、中はこうなってたんか……」
 琴里が周りを見回しながら言った。

 未幸の引っ越し祝いに駆けつけたのは、琴里の他、諒凰投資クラブのメンバーと、琴里が連れてきた真奈美だった。

 「手狭ではありますが、住みやすくコーディネートされていますわね……」
 変な感心をしたのは宮原嘉穂だった。

 「先輩が寮に移られると聞き、心配しておりましたが居心地の良さそうな部屋で安心いたしました」
 そう言って安堵の表情を浮かべたのは、井原真澄だった。

 リビングルームにあたるこの部屋には、ローテーブルを取り囲むように様々なデザインのソファーが置かれていたが、それらが不思議な調和をかもしだしていた。

 諒凰投資クラブのメンバー達は、この場所が栗の花の学園寮であることも忘れたかのように、リラックスした表情を見せていたが、こういった部屋に不慣れな真奈美は少し居心地が悪そうだった。

 「ここを、諒凰と栗の花の投資クラブ・サロンにしましょう」
 未幸が宣言をした。

 彼女がクラブのサロンにと言った通り、部屋の壁には大型のテレビが、テーブルには、数台のデスクトップパソコンも運び入れられていたが、この部屋には根本的な問題があった。

 「せやけど先輩……ここにはケーブルテレビのラインも、電話回線もないんですけど……いったいどうやってインターネット出来るんですか?」

 琴里がたずねたのも無理はなかった。学園内では携帯電話すら禁止されていた為、パソコンはあってもインターネットが出来る環境ではなかったのである。

 「これよ……」
 未幸が指し示したのは意外な物だった。

 それは、高輪ホールディングとイギリス企業が提携して開発した、電灯線を用いたインターネット回線だった。

 これまで電灯線を利用したインターネットは雑音が多く、普及しなかったものを新技術によって光回線に迫るクォリティーを実現し、このところ急速にユーザーを増やしているものだった。

 もう一つの問題は栗の花の学園寮が、登校時間中、使用禁止とされていたことだった。

 そこで未幸は、ここを土日限定のサロンとし、《栗の花学園・投資研究会》が行う夜間取引のトレーディングルームとして使うことにした。



 しかし、栗の花の学生達の中には、こうした未幸の行動を快く思わない者もいた。

 「同じ栗の花の学生なのに、なぜ、彼女の部屋だけが広くて一人で住めるのか……」
 「彼女のせいで諒凰のお嬢様が寮に出入りをするようになった。この寮は栗の花の学生にとっては唯一、羽を伸ばせる場所だったはず……」
 というような不満が出たのだった。

 前者については学園側から、やむをえない措置だったとの説明があったものの、後者については生徒会の一部や風記委員会も問題視。佐倉恵理子などは――。
 「こともあろうに静寂を保つべき栗の花寮に、サロンを開設するなんて……学園側が見過ごしたとしても、生徒会は断じて許してはなりません!」
 と、強硬に抗議した。協議の結果、諒凰の生徒が出入りするのは土日限定となり、《諒凰の生徒は、他のフロアーにはけっして立ち入らない事》という事で決着した。

 もっとも、未幸が諒凰の学生であった頃から、誰に対してもフレンドリーで、けっして頭ごなしの命令をしなかったことや、彼女が栗の花に編入せざるを得なかった事情も知られていたことから、大半の学生は好意的だった。

 未幸もまた知り合いになった栗の花の学生達を部屋に招待して、お茶会を開いたりした為、学生達の中には同じ栗の花の生徒同士でありながら「お嬢様、私がお茶をお入れします」とか、「これからは、私のことをベッキーとお呼び下さい」などと、訳の分からない事を言う者まで現れる程だった。

 この日も、栗の花の二年生が一人、未幸の部屋にやって来て「今日は暑いので、冷たいジュースでもいかがですか」と言いながら、傍にいた琴里を助手に、生ジュースを作り始めた為――。

 「さすがに未幸先輩はすごいわ……」
 と、琴里はあらためて感心してしまった。

 その二年生の作るジュースはプロ並みの味で、ラクロス部で草刈りをした後の琴里には最高においしく感じられた。

 そういえば、もう夏で……先日、栗の花の学生全員に、涼しげな薄いグレーの半袖に、普通のエプロンという夏服が支給されていた。

 (どっちにしてもメイド服やけど……)



                     ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |

「さて、皆さん。ここで重要なお知らせがあります!」
 夏休みも間近になった、この朝のホームルームで担任の真田由紀が語ったのは中間テストの予定についてだった。

 栗の花も高校である以上、中間テストがあるのも当たり前だった。
 にもかかわらず琴里を初め、大半のクラスメートが「これは、何かある!」と、身構えたのは真田先生が重要なお知らせと言った時には必ず、(しんどいイベント)が待ち構えていたからだった。

 案の定、今回も彼女が言いにくそうに語った内容は、栗の花の学生達にとって予想通り、とんでもない内容だった。

 栗の花学園では、中間テストの成績がそのまま、夏休みの労働量に関連していたのだ。

 例えば上位五人に入れば労働から解放され、バカンスも自由となる。
 逆に下位五人に入れば、女子マネージャーのいない諒鳳男子の体育会クラブ夏合宿に参加し、食事の用意や洗濯をやらされるというのだ。

 同じ諒鳳でも諒凰女子の場合は夏の合宿には地方の高級ホテルを宿舎として、その町の体育館を借りて行っている。
 かなりの費用を要するので、栗の花のお世話係は連れて行かないのが恒例となっている。これに対し、諒鳳男子の場合は質実剛健の思想の元、そんな所だけ質素に行う伝統があった。

 (つまり、そんな危ない所に私達を送り出そうというんやな……)

 琴里達が思ったことを察知したのか真田先生は――。

 「でも顧問の先生もいらっしゃいますし、今まで事故も殆ど起こっていませんし……」
 と言ったが、最後の言葉は消え入りそうだった。

 諒鳳男子といえば日本で一、二を争う名門校である。
 当然周辺の女子高校では玉の輿を狙ってクラブの手伝いを希望する者が後を絶たなかった。

 しかし学園側では頑としてその申し出を拒絶していた。
 唯一女子マネージャーを認めていたのは栗の花の生徒だけだったのである。

 にもかかわらず、琴里達がそれを嫌がったのは諒鳳男子の学生が栗の花の女子を、使い勝手の良いメイドとしか見ていないということを知っていたからだった。

 琴里自身も以前、嘉穂と服装を変えて寮鳳男子の五月祭に行った時、嘉穂がひどい目にあわされた事を記憶していた。

 「家の都合もあって、都内の某国立大に進学する学生は諒凰女子の方が圧倒的に多いけれど、統一模試では栗の花の成績の方が上回るのは私達が必死で勉強するからなのよ! なぜ、それほど必死に勉強するのか……それはつまり下位五人に入れば身の危険が生じるからよ!」
 事情通の矢野恵子がピシリと言い放った。

 確かに、諒凰男子の生徒は栗の花学園の女子を異性とは見ない訓練を受けていたとしても、二十人を超える男達の中で単身働くのは誰だって厭だった。



去年はどうだったのか? 寮に戻った琴里が真奈美に尋ねると――。

 「去年はボク、上位五人に入ったからバカンスをもらったんだよね」
 と、意外にもまったく気にしていなかった。

 実家というものがない彼女は、やはりバカンスを勝ち取った《片付け上手の会》のメンバーと共に毎日のように近くの町の市民プールに繰り出したそうだ。

 (廃部になった《片付け上手の会》は優秀やったんか……)と琴里は少し感心した。

 「でも諒凰男子夏合宿のマネージャー(お世話係り)をやらされた人の話じゃ、合宿所は暑くて、狭くて、汗臭くって、おまけに身の危険を何度も感じたそうだから琴里ちゃんはしっかり勉強しなくちゃだめだよ……」
 真奈美は大まじめな顔でそう言うと――。
 「もし、わからない所があったら後で教えてあげるから」
 と、言い残してサッサとバスルームに入ってしまった。

 恵子や真奈美の話ではないが、成績が悪い生徒にそんなペナルティーがあるとなれば、栗の花の生徒が必死で勉強に励むのも当然だった。

 (今までさぼり気味やったけど、これからしばらくは暇があったら勉強せんとあかん!)

 琴里がそう決意した時、バスルームから声がした。

 「そうそう、聞き忘れてたけど……夏休み、琴里ちゃん大阪に帰っちゃうの?」
 見ると、シャンプーだらけの真奈美がバスルームから、大きく身を乗り出していた。

 (またこの人は裸で……)

 「いいえ、夏に帰る予定はありません」
 琴里がそう答えると、真奈美はうれしそうに――。
 「じゃあ、夏休みは一緒にいられるね」
 と、はずんだ声で言ってバスルームの中に引っ込んだ。

 それにしても……栗の花の生徒は、元々偏差値が最上位の子ばかりなのだ。
 去年ひどい目にあった成績下位の生徒は、今頃、猛烈に勉強していることだろう……。

 (それやのに先輩は、そんなにノンビリしていても、ええんやろうか……)

 お風呂から漏れてくる真奈美のハナ唄を聴きながら、琴里はふと心配になった。

 そしてその懸念は――。

 残念ながら当たってしまったのだった。

 「琴里ちゃんどうしよう……」
 中間テストの結果が早々と発表され、なんとか下位五人に入る事を避けられた琴里が、ホッとした表情で寮に戻ってくると……そこに顔面蒼白になった真奈美がいた。 

 「ボク、諒鳳男子ハンドボール部の夏合宿で、礼文島に行くことになったんだよ~」
 真奈美はそう言って泣いたが、確かに礼文島は遠かった。

 「こんな時こそ、フェンシング部の先輩を頼りはったら、ええんやないですか……」
 琴里としては、そうアドバイスするのが精いっぱいだった。

 去年までの《片付け上手の会》と違い、今年は諒凰女子フェンシング部の正式なお世話係りをやっている真奈美である。
 栗の花には専属メイドが他の雑用から解放されるという変な風習もあることから、もしかしたらフェンシング部専属として、諒鳳男子の夏合宿に行かなくても済むかもしれなかった。

 「そうだね。言ってみるよ!」
 急に明るくなった真奈美が、翌日フェンシング部・部長の深田泉美に相談すると――。

 「そんなことなら、私に任せなさい!」
 と、快く請け負った上、その足で学園側との交渉に及んだ。

 泉美は、真奈美がフェンシング部員なのだからと言って、どうせ行くなら諒鳳男子・フェンシング部のマネージャーとして合宿に参加させてくれと頼んだのだった。

 その結果、真奈美は礼文島に行かずに済むことになり、かわりに諒鳳男子フェンシング部に同行して小笠原に行かされることになった。


                     ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |

 諒鳳男子との地獄の夏合宿が避けられた琴里の方は、バドミントン部やラクロス部が、校内で行う夏季強化練習に参加することになったが、随分と気が楽だった。ただ……。

 「あなたが、中間テストの負け組に入らなくて、ホッとしましたわ!」
 「ご帰郷なさらずに、本当にホッとしましたわ!」
 と、山名姉妹から声を掛けられた時には、忘れていた、あの恐怖を思い起こさせられてしまうことになった。
 
 「これで、心おきなくドド君の練習が毎日出来ますわね……」
 そう言って彼女達は満面の笑みを浮かべた。なんでも合宿を校内で行うらしい。

 (これやったら……行くも地獄、残るも地獄やんか……)

 ドド君の着ぐるみを着せられながら、琴里はフッとため息をついた。

 「今日から本格的にドド君をからませたチアーダンスを行います」
 山名蓉子が高らかに宣言した。

 彼女によると秋になると各クラブでリーグ戦や対抗戦が始まる上、イベントも多い為(諒鳳男子が五月祭を行うのに対し諒凰女子は十月に文化祭を行なう)チアリーディング部は最も忙しくなるのだという。

 「だから、夏の間に十分な練習をしておかなければなりません!」
 彼女はそっぽを向いているドド君に対して、メガホンを手に叫んだ。

 ドド君をからませた練習といっても、いまだに琴里はバク転はおろか、側転すらできなかったが、練習の度にダンスのステップだけは確実に覚えていった。

 理由はそうしないといつまで経っても練習が終わらない為、琴里の目に見えないカラータイマーが点滅して、命の危険を知らせるからだった。

 夏場に入って、ドド君は正に拷問器具と化していた。

 例えば普通の着ぐるみなら、頭の部分が取り外せるようになっている。
 ところがドド君の設計者は、バク転や側転のやり易すさを優先して、怪獣の着ぐるみのように胴体と一体型にしていたのだった。

 その上、手の部分が小さな羽根になっていたので、自分ではチャックを降ろして脱出できないという恐ろしさだった。

 (あかん! このままでは殺される……)

 琴里はさすがに恐怖を感じたが、山名姉妹にドド君の恐ろしさを伝えるのは至難のわざだった。

 そこで、イチかバチかの作戦を実行することにした。


                     ( つづく )
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