自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月09日 (水) | 編集 |

 翌日、琴里はドド君を着る前に、これまで覚えたステップを完璧に演じて見せた。

 「どうやら御堂さんも、真剣にドド君の演技と取り組み出したようね……」
 などと副部長の山名舞子が満足げにうなずいたが、それが作戦だった。

 そして、ドド君を着込んだ後――。

 「な、なぜ先程までのステップがまったく出来なくなりますの?」
 山名姉妹が、癇癪を起こした。

 琴里は全てのステップを間違えて見せたのだ。

 「なんでかわかりませんが、ドド君になると急にムズカシくなりまして……」
 琴里がくぐもった声で言い訳をした。

 「同じではありませんか……サボろうとしてるのなら出しませんよ」
 「出しませんわよ!」
 山名姉妹がハモった。

 「どなたかが演技して見せてもらえれば、良く分かるんですけど……」
 ここが正念場と、琴里はたっぷりと感情をこめた言い訳をした。

 「そうですか……わかりました。それじゃあ舞子、見本を見せてあげなさい!」
 しばらく考えた後、姉の山名蓉子が言った。

 「ハァ? お、お姉さま……それはちょっと……」
 初めて妹が姉に異をとなえた。

 「どうしてですか? その後、すぐにシャワーに入ることを許します。さあ、御堂さんに見本を見せるのです!」
 琴里が心の中で(ヤッター!)と叫んだ。ようやく山名姉妹の切り離しに成功したのだ。

 「けれど……でも……しかし……」
 「わかりました。それじゃあ部長の私が見本を見せてあげます。一度しかやりませんからよく見ているのですよ……」
 しぶる妹に業を煮やしたのか、なんと部長である蓉子自らドド君の中に入ると言い出したのだった。

 ムワァ~ッ

 「ウッ……これは……」
 脱出した琴里に代わり、ドド君に入ろうとした蓉子が思わずのけぞった。

 ドド君のチャックを広げただけで、中から蒸し風呂のような熱気と汗やカビの匂いが押し寄せたのだった。
 が、そこはさすがに部長。一瞬顔をしかめただけで、何事もなかったかのようにドド君を着込んでしまった。

 「アレッ?」
 琴里は、シャキッと立ち上ったドド君に少しガッカリしてしまった。しかし――。

 「良いですか御堂さん、よく見てるのですよ……本当に一度しかやりませんからね」
 部長はくぐもった声で、〟一度〝というセリフを繰り返した。
 「ハイ、ステップ1、ステップ2。ステップ1、ステップ2。ターン、キック、ジャンプ、ターン。ステップ3、ステップ1、ステップ……ステップ……」
 ステップ3あたりからあやしくなってきたドド君が、急に止まった。

 「分かったでしょう? このように元気に演技すれば良いのです……出しなさい……」
 消え入りそうな声だった。

 しかも音楽がうるさくて最後はよく聞こえなかった。

 「御堂さん、わかりましたか? 演技はお姉さまのように行うのですよ」
 ヨレヨレの部長と違い、元気な妹の舞子が琴里に説教を始めた。

 「出しなさい……」

 ドド君が近づいてきて、そう言っているのも聞こえていないようだった。

 「だいたい、あなたはまじめにドド君を演じようとする心構えが足りません。だからお姉さまが、わざわざ見本演技をされたのです」

 「出しなさい……」

 「そこを、あなたもよく考えて……」

 「出せ――っ!」
 ビックリするような蓉子の大声だった。

 「ハァ、ハァ……危うく死ぬところでしたわ!」
 ようやくドド君から出してもらった蓉子が、タンコブを頭に乗せた妹からウチワで扇がれながらスポーツドリンクを口にした。

 「ドド君が大変だということがよく分かりました。なんらかの対処をします」

 (ヤッタ~!)

 結局、ドド君は呼吸穴をもっと大きくし、内側からも開くことが出来るように加工されることになり、栗の花学園裁縫クラブに回された。

 さらにドド君がらみの演技では、琴里が演技の途中でドド君から脱出し、諒凰フェニックスのチームに加わって演舞することになった為に、チームのユニフォームも支給されるようになった。

 「ドド君は無しっていう選択肢はなかったんかい……」

 琴里がぼやいた。


                     ( つづく )
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村
スポンサーサイト
2009年12月09日 (水) | 編集 |
  
 日本の株主総会は、通常短時間で終ることが多い。多くの企業が相互に株式を持ち合っていたり、個人株主も拍手だけの、もの言わぬ株主が多かった。

 ところが海外のファンドが日本株を大量に買うようになるとその事情は一変した。
 彼らは直接経営に口を出し、経営陣の刷新を訴えたり、余剰資金を配当に回すよう強く要求してきたのだった。

 無論それらの多くは、過半数に達さずに退けられたものの、中には社長の退任劇にまで発展してしまう事例も出てきたのである。

 例えて言うならば、先日行われた小坂電設の株主総会だった。

 余剰資金を配当に回さず、子会社を増やし、コングロマリット化(多角経営)を推し進めてきた経営陣に対し、最大の株主であるラングレー・ファンドがNOを突きつけたのだった。

 社長の小坂一蔵にしてみれば、高輪ホールディングとの戦いでようやく勝利したと思った矢先の出来事であり、無念であったと推測されるが、元々資金をうまく活用せず、投資家の期待を裏切り続けた結果招いた事態と言えることから、上場企業の経営者としては、いささかお粗末であったと言わざるを得ない。



 「それで、あの子はどうするのかしら……」
 高輪未幸が言ったあの子とは勿論、生徒会書記・小坂直子のことであった。

 「ハッ、どうやら学園側には退学申請しない模様です。と、いうのも小坂一族は電設以外にもいくつかの会社を実質的に経営しており、東証一部のセドニア・興産も筆頭株主です。おそらく臨時株主総会を開いて、今は人まかせのセドニア・興産の経営者になるのではないかと思われます」
 答えたのは企業情報に詳しい諒凰投資クラブ部長・井原真澄だった。

 未幸の部屋で開かれる定例の土曜日サロン。
 ここに集まって立食パーティを開いていた、投資クラブのメンバーの間で小坂直子のことが話題に上ったのであった。

 「と、なると一時的にせよ高輪先輩と同じように諒凰の資格を失うのではないのですか?」
 そう尋ねたのは安西珠樹だった。彼女は尊敬する未幸に対して学園の執った冷酷な措置が許せなかったのだった。

 「学園側が妥協したのですね?」
 栗の花に編入したことなど、全く気にしていない未幸が、オードブルを皿に取りながら尋ねた。

 「それが……その間は《栗の花預かり》となる模様です……」
 真澄の言葉に、食事をしていた全員の手が止まった。

 コーラをカップに注いでいた琴里などはあやうく溢れさせるところだった。

 「小坂直子が栗の花に入るということですか?」
 吉田翔子が、信じられないという表情で聞き返した。

 「そうなるだろうな……一時的にせよ……」
 真澄が難しい顔でうなづいた。

 「まあ……それではこの寮も賑やかになりますわね」
 嘉穂が笑いながら言った。確かに一時的にとはいえ、《栗の花預かり》となれば寮に住まなければならないはずだった。

 「せやけど、あの人がよく栗の花の制服を着る気になったもんやなあ……」

 「彼女にとっては屈辱的かもしれませんが、諒凰女子に戻るには、その方法しかないのでしょう……」
 と、諒凰女子に戻る気もない未幸が言った。

 実際、未幸の場合は栗の花の生活を楽しんでいるような感があった。
 カフェテリアでの給仕や保育園での人形劇などは特にお気に入りだった。

 もっとも琴里のクラスメイトの相沢ヒトミに言わせれば、そんなものは本当の労働の苦しさを知らないお嬢様のお遊びに過ぎないということになる。

 「けど……そうなると、あの人が未幸先輩と同室。なんてことにはならへんやろか……」
 琴里の言葉に皆がハッとなった。

 そうなればサロンが使えなくなるのだ。

 だが、その心配は無用だった。当面の措置ということもあって、小坂直子は専属メイドであった佐倉恵理子が面倒を見ることになっていたのだ。


                    ( つづく )
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村

2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 その頃――。

 「よいですか、お嬢様。一時的にせよ、この寮に入るとなれば、あなたも栗の花学園の一生徒ということになります。私は上級生として、あなたに指導を行わなければならなくなるのです」

 「わかってるわよ! そんなこと……」

 憮然とした表情の小坂直子を連れて、栗の花寮に入って来たのは佐倉恵理子だった。

 「狭!」

 佐倉と同室になる部屋を一目見て、直子はさっそく不平をもらした。2LDKの栗の花寮は台所まで含めても直子の自宅の風呂場より小さかった。

 「当面の措置ですから我慢してもらわなければなりません」
 「わかってるってば!」

 「それから、学園内では制服を着ることになっています。ここにお嬢様に支給されたものがありますので着替えていただきます」
 佐倉が、少し小さめの栗の花の制服をヒラヒラさせながら言った。

 「言葉使い少し命令口調なのと、表情の中に笑いが見てとれるのは気のせいかしら?」
 直子が眉をピクリとさせながら指摘した。

 「一時的なものですから……」
 佐倉恵理子が平然と受け流した。

 実際、佐倉は直子の取り扱いに苦労していた。直子の思惑通りだと、彼女はおそらく九月中にも諒凰に復帰するだろう。
 そうなれば、佐倉はまた彼女の専属メイドに戻ることになる。

 だからといって、風記委員長としては、現在、栗の花の生徒である直子を特別扱いをするわけにもいかなかった。

 「しようがないわね……まあ、夏休みで授業もないし……」
 ブツブツ言いながらも直子は栗の花の制服に手を通した。

 栗の花の夏服は、小柄で愛らしい顔つきの直子が着ると驚くほど可愛く見えた。

 「ウッ、かわいいわ……このままモップでも持たせてみようかしら……」
 思わず佐倉は呟いていた。

 「聞こえているわよ! 言っとくけど私は、こんな格好で学園内をうろつく気なんてさらさらないわよ。特に高輪未幸と、そのとりまき連中には見られるなんてまっぴら!」
 直子は着がえ終わると、ベッドにゴロリと寝転んでファション雑誌を読み始めた。

 「では、その間どうするのですか?」
 佐倉が少し困ったような表情で聞いた。

 「引きこもりよ! 引きこもり! その間、あなたが私の面倒をみればいいのよ!」
 あきれた言動だった。

 「それからコーヒーを持って来てちょうだい」

 ガマンしていた佐倉の血管がプツンと切れた。

 「いいかげんになさい! 一時的にせよ、あなたも栗の花の生徒である以上、学園の掃除やカフェテリアの給仕、グランドの整備などをする義務があります。それも出来ずに寮の中でゴロゴロ寝そべっていることなど許されません!」
 「な、なによ……」

 佐倉からこれほど強く言われるなど、直子はまったく予想していなかったようだ。

 直子はポロポロと大粒の涙を流しながら――。
 「よくも言ったわね! お母様からも、そんな風に言われたことなかったのに! メイドからそんなことを言われるなんて!」

 「私は現在、あなたのメイドではなく上級生です!」

 「バカ~! あんたなんか、あんたなんか復活したらクビにしてやる!」
 直子は佐倉に向かって枕を投げつけ、うつ伏せになって手足をバタバタさせた。

 「かってになさい……」
 もはや、しばらく放っておくしか手がなかった。佐倉はフッとタメ息をついて、部屋を出ていった。


                     ( つづく )
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村


[READ MORE...]
2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
「そうだ……こんな事、してられないわ!」
 一人になった直子はムクリと身を起こした。

 「お父様に電話して、一日でも早く諒凰に復帰出来るようにしてもらわなくちゃ!」

 部屋の中で電話を探したが見つからなかった。

 「まったく、なんて寮なのかしら……携帯電話どころか固定電話も部屋にないなんて……確か一階のロビーにはあったわね」
 そう言って廊下に飛び出し、エレベーターのボタンを押した。

 その時、エレベーターが上の階から下りてきていることに、もう少し早く気づいていれば良かったかも知れなかった。

 扉が開いたエレベーターの先客は、琴里達、投資クラブの面々だったのだ。

 「あっ、書記長や!」
 「まあ、栗の花の制服を着ておられますわ!」

 「栗の花に編入したというのは事実でしたのね」
 と、琴里、嘉穂、珠樹にしっかり見られてしまったのだった。

 「ピェ~!」
 直子は凍りついてしまった。


 「まったく、あのお嬢様にも困ったものね……」
 強い口調でものを言って部屋を出てきたものの、佐倉は少し後悔していた。

 確かにあの傲慢さには我慢出来ない所があった。
 だが、家の都合で急に境遇が変わってしまった不安やさびしさを、理解してやれなかったという思いが彼女にはあったのだ。

 「少し時間を置こう……」
 佐倉はそう呟いて、同じ風記委員である川瀬の部屋を訪ねた。

 二階の階段脇にあるこの部屋は管理人室を兼ねていて、専属のガードマンが不在の時間帯には、緊急連絡等を受け付けたり、学園側から出される注意事項を伝える役目をになっていた。

 その為に、他の部屋にはない電話回線が引かれ、インターネットが通じるようになっていたのだ。

 もっとも、この事実は学園サイドで働く風記委員会だけの秘密であり、それを牛耳っているかに見えた、小坂直子ですら知らないことだった。

 「何かあったの?」

 部屋に入った佐倉は、インターネットの経済ニユースを見つめている川瀬の表情がこわばっていることに気づいた。

 「アッ、委員長! これを……」

 そこには新着情報として、《小坂電設・新経営陣が、旧経営陣を背任の容疑で告訴!》と出ていた。

 情報によると――。

 新経営陣が、社の会計検査をやり直したところ、あるべきはずの余剰資金が全く残されておらず、為に旧責任者を問い詰めると、オーナー一族が資金繰りのために持ち出していたということが判明したというのだった。


 「いまどき公衆電話しかないなんて……栗の花寮にもあきれ果てるわね!」
 コインを投入しないと電話が出来ない事を、ようやく思い出した直子がイラつきながら番号ボタンを押した。

 「私です! お父様と変わって下さいな……」
 直子は、ようやく電話口にでた父親に対し、自分がいかに困っているか、それゆえ一刻も早く上場企業の経営権を手に入れて諒凰女子に戻してくれるよう一気にまくし立てた。

 が、直子の訴えをじっと聞いていた父親が言った言葉は――。

 「すまん、直子、ワシは一文無しになってしまった……」だった。


                     ( つづく )
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村

2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 八月も終わりに近づいた頃、たっぷりと日焼けした真奈美が無事に栗の花寮に帰ってきた。

 「さっき、生徒会書記の小坂さんが栗の花の制服を着て、駐車場のお掃除をしていたようなんだけど……」
 諒鳳男子・夏合宿から寮に戻ってきた真奈美が、最初に琴里に尋ねたのは合宿の愚痴ではなく、直子の変貌ぶりだった。

 彼女にはその間の事情が全くわからなかったのだ。

 言われてみれば、琴里達がエレベーターで、鉢合わせになって以来、直子はすっかり変わってしまったように思われた。

 噂によると、小坂直子の諒凰復帰がほぼ絶望的になったということらしい。

 「人間あまりにショックなことがあると、逃避した人格に代わって別の人格が支配するというのよ。たぶん一過性のものだと思うけど……それより彼女この頃、私の顔を見ると佐倉さんの後ろに隠れるのよね。なんだか悪者になってしまったみたいで悲しいわ……」
 そう言って肩を落としたのは特別会員の真奈美が元気に戻ってきたと聞いて、駆けつけてきた高輪未幸だった。

 「まあ、今日は小坂さんのことは置いといて……」
 とっておきのスィーツを運んできた琴里が話題を変えた。

 「真奈美先輩は、諒鳳男子フェンシング部の夏季マネージャーなんてやらされて大丈夫やったんですか?」

 「うん、それがみんなに歓迎されたんだよ!」
 真奈美があっけらかんと言った。まじめに働く性格だけに、それは本当らしかった。

 「それでも一人で大変だったでしょう? あら、おいしい……」
 未幸がスィーツを口にしながら気遣った。

 「大丈夫! みんなとても紳士的で、ボクがお風呂に入る時なんか全員で見張ってくれた程だもん……」

 (見張って? 全員に覗かれたんとちゃうやろか……)

 「それにボクが女子フェンシング部のお世話係だと知って、練習にも参加させてくれたんだよね~ ボク、才能があるって言われちゃった~」

 「へ~ それは、それは……」

 琴里は半信半疑どころか、全く信じていなかったが、実はそれも本当だった。



                     ( つづく )
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村