自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月09日 (水) | 編集 |

「分っかりました! 引っき受けましょう!」
 魔女・菜々美がベールを脱ぎ棄て、腕まくりを始めた。



 「そう、それはよかったわ」
 投資クラブがたまり場としているカフェテリアで、琴里から小坂直子についての報告を受けた高輪未幸がホッと胸を撫で下ろした。

 彼女もまた、最近の小坂直子の様子を気にしていた一人だったのだ。

 無論、小坂直子の父が社長職を解任されたのは彼女のせいではない。
 しかし、未幸の父も絡んでいた、この一連の騒ぎの結果、直子が魂を失ったような状態に成ってしまったというのも事実なのだった。

 とりわけ、未幸が心を痛めていたのは直子が学内で彼女を見かけると、今にも泣き出しそうな顔で佐倉の背後に隠れてしまうという事だった。

 それだけに小坂直子の復活は未幸にとっても朗報だったのだ。
 「せやけど真奈美先輩はクラスの人達から、余計な事をしてくれたもんだとグチられているそうです……」
 琴里が肩をすくめながらポソリと言った。

 真奈美のクラスメイトからそんな声が上がるほど、直子の変貌ぶりは極端だった。

 菜々美の催眠術で復活した直子はたちまち風記委員会を掌握すると、それまで嫌な仕事を押しつけていたクラスメイト達に次々と復讐を果たし始めたというのである。

 すなわち、それまで掃除等をサボっていた罰として、風記委員会の権限でボランティア活動・三倍の刑を言い渡したり、黒幕を探すことを名目に反省室での尋問を復活させたりしたのだった。

 あまりの横暴ぶりに、たまりかねたクラスメイト達は「もう一回、魔女さんに頼んで、小坂さんをおとなしくさせてちょうだい……」と、真奈美に詰め寄る程だった。

 「そう。それじゃあ、その内また私達の前に現れるわね……」
 高輪未幸は愉快そうに笑った。

 が、その言葉も終わらぬ内に当の本人が現れたのだ。

 「投資クラブの方達の中に、宮倉さんはいらっしゃるかしら? いたら返事して!」
 見ると、そこに制服だけは栗の花に変わってはいたものの、以前と同じ風記委員のメンバーを引き連れた小坂直子が立っていた。

 「ちょっと、諒凰の生徒に対する言葉が使いがなっていませんわね!」
 宮倉嘉穂がムッとしたように言った。

 これに対し、直子が怒るかと思えば――。

 「これは、これは。お嬢様、失礼いたしました。実は校門の前に、お嬢様の名を叫ぶ怪しげな男が立っております。皆、迷惑しておりますので対処して下さいますように……」
 と、芝居がかった口調で受け流したのである。

 どうやら、直子は以前よりずっとタフになっているようだった。


                    ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
「男? 心当たりがありませんわね……まさか、ストーカーかしら……」
 嘉穂は本当に知らないようだった。

 「なにか事情がありそうね。危険だわ! 皆で行きましょう」
 未幸が投資クラブのメンバー全員に言った。



「君、宮倉さんを知らないか? 諒凰の一年生のはずなんだが……そこのあなた宮倉嘉穂という女性をご存じありませんか?」

 巧みに、栗の花と諒凰の生徒への質問口調を使い分けながら、諒鳳男子の制服を着た男が宮倉嘉穂を探している。

 (あ、あれや……なんか必死で嘉穂ちゃんを探してる……)

 「宮倉嘉穂は私です! 何か御用なのですか?」
 嘉穂が意を決したように、取り巻きの春日麗香と吉田翔子を引き連れて男の前に立った。

 「き、君が宮倉さんか? どうして……どうしてなんだ~!」
 なんと突然、男が嘉穂にすがりついて泣き出した。

 「キャ~!」
 思わず嘉穂がのけぞって、悲鳴をあげた。

 「どなたですの? わ、私はあなたなど、まったく知りません!」
 誰もが唖然とする中、琴里がこの男の顔を思い出した。

 それは諒鳳男子の五月祭に行った時に、嘉穂を壁際に押し付けた村岡脩三だった。

 「ほら、嘉穂ちゃん……この人、元フィアンセの、あの人やんか」
 琴里が嘉穂に耳打ちした為に、嘉穂もようやく事情が呑み込めたようだった。

 「僕のもとに、突然親父から連絡が入って、君との婚約が解消された上に、宮倉家からウチの銀行の株が大量に売りに出されて暴落をしているというんだ。お前が何かしでかしたのかと、親父に怒鳴られたが僕には何のことかさっぱり解らない。いったい何故なんだ?」

 五月祭の時、琴里と制服を交換してフィアンセの人柄を探りに行った嘉穂に乱暴をしたことを、村岡はまったく分かっていないのだった。

 あの時、嘉穂が怒って祖父に電話を駆け、婚約の解消と共に村岡一族の銀行株を売り浴びせてくれと頼んだところ、祖父からは婚約の解消はともかく、株式市場で安易にそのような事をすれば影響が大きいと、たしなめられた事があった。

 しかし、嘉穂の祖父も人の子、やはり孫が可愛くて村岡の銀行株を全部売ってしまったというのが真相らしかった。

 「あなた、私にした無礼な行いを忘れているようですわね!」
 「無礼って……君とは初対面のはずだが……」

 村丘が怪訝そうに、そう言いかけた時、嘉穂の横から琴里がひょっこり顔を出した。

 「制服、入れ替わってんのに気づいてへんのやなぁ……」
 「アレ? 君はあの時の……そうか、そうだったのか!」
 ようやく制服が入れ替わっていたことに気づいた村岡が、愕然として崩れ落ちた。

 「今後、私の前に現れないと誓えば、これ以上は売り浴びせるのは止めてあげます」
 「――って、全部売ったじゃないか!」

 「不勉強ね! 宮倉の関連企業が保有している分もあるし、株は売りから入ることだって出来るのよ!」
 嘉穂がピシャリと言った。

 村岡は今後、嘉穂に近づかないことを誓わざるを得なかった。 



                    ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 順調に業績を上げてきた栗の花・投資ファンドは、日経平均が6%余り下落したこの月も逆に2%以上資産を増やすことに成功した。

 「今月は逆風の中、みなさんよく頑張ってくれました」
 高輪未幸がサロンに集まったファンドマネージャ達をねぎらった。

 栗の花・投資ファンドでは資金の約半分を会員全員の意見によって売買する一方、それぞれの会員が幾らかの資金を担当して、高輪総輔のプログラムが選びだした幾つかの候補の中から気に入った株を購入していた。

 「2%では、あまり自慢も出来ませんわ」
 嘉穂がまるで自分の功績のように謙遜をした。

 「それでも年率換算では複利で26%、三年で元金が倍になるという数値です。常にうまくいくわけではありませんが、この調子で来月もがんばりましょう」
 「でもこの中で一人マイナスの人がいま~す」
 嘉穂が琴里をからかった。確かに今回マイナスだったのは琴里だけだった。

 「すんません……」
 琴里が嘉穂以外の人に向けて頭を下げた。

 「謝ることはありません。プロのトレーダーでも思うように成績があげられない時だってあります。今後も一喜一憂せずに冷静に判断していくことが大切です」

 高輪未幸が冷静にと言ったのには訳がある。
 シミュレーションと異なり実戦ではどうしても緊迫感が異なるのである。

 例えば午前中は数万円の利益がでていたものが午後には逆に損失が出るようなことが絶えず起こる。
 親にせがめば、何十万ものお小遣いがもらえる諒凰女子の生徒と違って一万円の損失が重大な琴里にとっては冷静に値上がりを待つことが出来ず、あわてて損切りをすることが度々あったのだ。

 「けれど、その判断はなかなか的確だったわよ」
 安西珠樹が琴里をフォローした。

 (せやけど……こんな調子やと、あたしが大胆に売買出来る日なんか、ホンマに来るんやろうか……)

 琴里は一抹の不安を感じたが、すぐにそれを打ち消した。これから先、どんな世界で生きていくにしろ、克服しなければならない壁は必ずあるはずだった。

 (弱気になったらあかんねん!)

 琴里は、改めて自分に言い聞かせた。
 その上、ここには仲間がいた。
 諒凰・栗の花の両投資クラブは、とにもかくにもなかなかのチームワークだった。



 「でも来年、高輪先輩が卒業したら、栗の花の投資研究会は琴里ちゃんは一人になっちゃうねえ……ボクもフェンシング部が休みの時とかに、特別会員として顔を出すけど、新人が入ってくれるといいねぇ」
 ひさしぶりに、琴里と一緒に寮のお風呂に浸かりながら、真奈美がそう言った。

 確かに、投資クラブとしては諒凰と合同で会合を開くことが多いので賑わっているが、栗の花・投資研究会ということになると、メンバーは琴里と高輪未幸だけなのだ。

 未幸は三年生で、来年度はコロンビア大学に入学する予定を立てている為、新入生が入ってくれない限り、当面は琴里一人のクラブということになってしまう。

 真奈美が心配しているのも当然のことだった。

 「一人かあ……」
 言われて見れば、それはちょっと寂しかった。

 琴里は口からプクプクと泡をたてて、お風呂の中に沈みこんだ。



                    ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 だが……その杞憂は翌日、早くも解消した。

 投資クラブが合同で、たまり場として使っているカフェテリアの片隅に、以前ボツにしたはずの栗の花・投資研究会の《会長》と書かれたプレートが置かれており、その後ろで小坂直子が腕を組んで踏ん反り返っていたのだ。

 「え~っと……これは?」

 事情の分からない琴里が説明を求めると――。

 「小坂直子さんも入ってくれるそうなの……」
 と、未幸が笑顔で答えた。

 (けど、何でいきなり会長やねん!)

 という琴里の心の中の突っ込みを察知したかのように――。

 「だって当然でしょ。高輪さんはもうすぐ卒業だし、(まだ九月や!)あなたは一年生で頼りないし、私なら学校側と交渉も出来る。第一、あなた株取引をやろうにもコンピューターすら持ってないじゃない!」

 言われてみればその通りだった。
 今まで頼っていた未幸のコンピューター環境も、彼女が卒業すればサロンそのものが消滅し、そうなるとネット取引もできないことになる。

 「そこへいくと、風記委員会にはインターネットが出来る環境が整っているのよね」
 どうやら直子は栗の花寮の管理人室を発見したようだった。

 「せやけど、なんで小坂さんが投資研究会に入る気に成りはったんですか? 確か、株取り引きを邪道だと言って目の敵にされてたはずじゃあ……」

 「小坂電設を取り戻すってのが目標らしいわ」
 嘉穂が横から口を挟んだ。

 「なるほど、その為には手段を選ばずってわけだな」
 と、納得の表情を浮かべたのは諒凰投資クラブ部長の井原真澄だった。

 「聞けば、あなたもおじい様が創業した御堂金属工業を取り戻すのが目標とか……」

 (いや、それは未幸先輩が立ててくれた究極の目標で、第一まだ上場してないし……)

 「と、なると目標は同じだし、御堂金属工業は小坂電設の子会社だし、あなたとしても私の部下になる以外に道はないでしょ!」
 直子が、琴里を指さしてピシリと言い放った。

 「な、納得でけへん!」
 「まあまあ、お茶でも飲みましょう」
 琴里がムクレているのを気遣って、安西珠樹がカフェテリアから全員にアイスティーを注文した。

 「アイスティーでございます」
 と、運んで来たのは小坂直子をイジメていた、二年生のクラスメイト達だった。

 「とにかく、あなたは会長が出来るほど、時間もとれないでしょ……」
 直子がカフェテリアの入口を指さした。

 「わ~!」

 思わず逃げ出そうとした琴里を捕まえたのはチアリーディング部の山名姉妹だった。

 「まったく、あなたときたら同部屋の倉橋さんが国体に出場が決まったというのに、ドド君の練習をサボって、こんな所で油を売っていていいのですか!」
 「いいのですか!」
 山名・姉妹がハモった。

 「倉橋さんに関しては、栗の花分校の生徒ながら諒凰学園理事会としても全面的なバックアップを決定したところです。当然チアリーディング部としても……」
 「アッ、逃げた」
 吉田翔子が言った。

 「あいかわらず、足だけは速いですわね……」
 アイスティーを飲みながら嘉穂も行方を目で追った。

 「ま、待ちなさい! そんな態度ではドド君のチャックを中から開かないように、ハンダづけいたしますわよ!」
 「いたしますわよ!」

 山名姉妹が琴里を追いかけて行った。



                    ( つづく )
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2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 十月に入って小坂電設の新経営陣は、それまでのコングロマリット化路線の修正を決定し、御堂金属工業を初めとする子会社を切り離して再上場させるという発表をした。

 さらに新経営陣は、ここ数年業績の悪化していた御堂金属工業を立て直す為、リストラされた社員の内、琴里の父親のような技術者を再雇用するという発表も合わせて行った。

 これには個人大株主の高輪未幸の意向もあったのだが、それはないしょだった。

 父親からの連絡を受けて琴里が喜んだことはもちろんだが、さらに御堂金属工業の株が上場されるということは、琴里自身が御堂金属工業の株主になれる可能性も出てきたということだった。

 つまり将来は株を買い増しして、高輪未幸が「御堂さんの究極の目標」と言ってくれた、《祖父の創業した会社を取り戻す》ことすら可能になったのだ。

 もちろん、その道は遥かに遠く、今は夢物語に過ぎないが仲間達と一歩一歩、歩んで行けたら、その可能性もゼロではなかった。



 もっとも……今は、学園生活そのものが楽しい琴里ではあった。



            ――完――



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