自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月10日 (木) | 編集 |

 「そんなの納得できません!」

 琴里の気持ちを代弁したような発言をしたのはクラスメイトの羽田弥生(はだやよい)だった。

 それは初めてのホームルームで担任の真田由紀(さなだゆき)から、お掃除委員について説明を受けた直後のことだった。

 栗の花学園では学食の手伝いやカフェテリアでの給仕、放課後の教室や寮の掃除のなど、いくつかのボランティア活動が義務付けられている。

 親交のある老人ホームでの介護作業や近隣の保育園での人形劇などだ。

 だから例えば、近くの公園の掃除とか、あるいは諒凰と共同で使う体育館の掃除なら納得もできたはずだった。

 しかし、担任の由紀から割り振られたのは東校舎、つまり諒凰の教室やトイレの掃除だったのだ。

 「どうして諒凰の生徒は自分達の教室やトイレの掃除を私達に任せるんですか?」
 弥生のこの質問は誰もが感じる疑問のはずだった。

 琴里にしてもおそらく一時間前であれば彼女と共に発言していただろう。

 それなのに今は(やっぱりかい……)という妙なあきらめムードがあった。

 (大阪人やったら学費がタダで小遣いまで出るいうのに変や! て思わなアカンかったんや……ええねん。むしろ、何もないほうが気色悪いわ!)

 と、そういう感じだったのだ。

 もちろん初めから事情を知っている他のクラスメイトが彼女に追随するわけもなかった。

 「エッ、どうしてみんなおかしく思わないの? だって諒凰は別の学校でしょう?」
 クラスメイトの沈黙に、孤立を感じた弥生はオロオロしながら言った。

 「それは、たぶん……この学校がそういう学校だからだと思います」
 ひかえめに発言したのは、この日担任の由紀から、便宜上のクラス委員長を命じられた出席番号1番の相沢(あいざわ)ヒトミだった。

 「そうね……確かに羽田さんの言う通り、少しおかしいわね……」
 弥生の発言に同意を現したのは、意外にも諒凰の掃除を割り振った、担任の真田先生だった。

 「いくらこの学校の指導方針が《奉仕と感謝》だとしても一方的に奉仕するっていうのも納得いかないわね……」

 ちなみに、諒凰の指導方針は《博愛と慈悲》である。

「この学校は諒凰の創立者でもある栗本花子(くりもとはなこ)さんによって作られました。栗の花という名前もそこから来ています。大戦後、貧しいけれど優秀な女子学生が、働きながら学べる学校をと、諒凰の空き教室で始められたのです……みなさんは栗の花学園の正式名称をご存じかしら?」

 担任の由紀が黒板に栗の花学園の正式名称を書いた。

 「パンフレットにも書かれていないから、あなた達が知らないのも無理がない話だけど、この学園の正式名は私立諒凰女子学園・栗の花分校って言うの。つまり同じ学校なのよ」

     (! ! !)

 「それでも諒凰本校の生徒は何もせずに、分校のあなた達が掃除全部を引き受けるっていうのも変よね。でもこう考えてはどうかしら……あなた達は諒凰学園の社員。そして彼女達は単なるお客様とね……」

 これは、琴里にはとても良くわかる論理だった。

 なぜなら、とにもかくにも栗の花の生徒の学費は、全て諒凰の生徒が払っていることは事実だったのだから……。


                    ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |

 「家庭の英語、家庭の数学、家庭の科学、家庭の体育、家庭のコンピューターって、なんで教科の頭に、いっつも家庭がついてるんやろ? おまけにこそっと家庭のお掃除とか、家庭のお給仕とかまざってるんはなんやねん?」

 寮に戻った琴里が本日手渡されたばかりの真新しい教科書と時間割を見て、不思議そうに呟いていると、バスルームから声がした。

 「琴里ちゃん、いいお湯だから入りなよ。ボク、もう出るからさ」
 そう言ったのは、小柄で栗色の巻き毛がかわいい、倉橋真奈美(くらはしまなみ)だった。

 全寮制の栗の花学園では二人で一室が割り当てられている。
 ほとんどが先輩と後輩というカップリングで真奈美は二年生だった。

 自分の後輩という気安さのせいかバスタオルで髪を拭きながら出てきた彼女は裸だった。

 「ワッ! 真奈美先輩……」

 驚く琴里を無視して時間割表を手にした真奈美はポソリとつぶやいた。
 「この学校、授業が全部家庭科なんで驚いたでしょ? ボクも最初はそうだったんだ……ほんとにこれでよく文科省の基準をクリアーしたもんだよねー。でもこれ、頭に家庭って付いてるだけで、普通の英語や数学だから……」

 「と、とにかく、なんか着て下さい!」
 琴里はランドリーの上に乱雑に置かれている真奈美の下着を彼女に手渡すと、逃げるようにバスルームに飛び込んだ。

 校舎の脇に建つ栗の花の学生寮は、それぞれの部屋が一般的な2LDKのマンションと変わらない。 
 それどころか、このバスルームにしても二、三人が一緒に入れる程の広さがあるのだ。
 これが無料というのは確かに恵まれているといえた。

 「なるほど……つまり諒凰のスポンサーに感謝しろってことやな」
 足をゆったりと延ばせる湯船につかって、ふとそう思った琴里だったが、すぐにその脳裏に、昼間の嘉穂達の憎ったらしいバカ笑いが浮かんだ。

 「だーれが感謝なんかするかい! 家が金持ちっていうだけやんか!」
 琴里は鼻のあたりまで湯につかって、プクプクと口から泡をはいた。そこへ……。
 「やっぱりもう一回入ろーっと♪ 琴里ちゃん流してあげるよ~」
 そう言いながら、真奈美がまた乱入して来た。

 どうやら自分に後輩ができたことが、よほどうれしいようだった。

 「こ、この人は……」
 琴里は思いっきし迷惑に感じたが、それを口にするのは止めた。
 先輩風を吹かせて威張り散らす人より、よほどましに思えたからだった。

 「そうそう、言い忘れてたけど……」
 髪を洗う琴里の上から大量の湯を掛けながら、真奈美が謎の言葉を切り出した。
 「明日からしばらくの間、栗の花の新入生は気をつけなきゃだめだよ……諒凰の先輩達による、ピンクのリボン狩りってのがあるからね。」

 ピンクのリボンとは栗の花の生徒が身につけるエプロンの紐の色である。
 この色がピンクであれば新入生ということなのだ。

 真奈美の話によると、それはかなり強引なクラブ勧誘であるらしい。

 「まあボクのように黄色のリボンをつけてる人には来ないんだけどね。琴里ちゃんのようなピンクリボンの人はすぐに部室に連れて行かれるから、もし入りたいクラブとかあるんなら先に入っとかないとね……嫌いなクラブに入れられたら悲惨だよー」
 そう言って、真奈美はまた大量の湯を掛けた。

 「あたしは、もう入るクラブ、決めてますねん!」
 「えっ! 本当? なになに?」

 「投資クラブて言うとこです」
 「へぇー闘士クラブかぁー……勾玉見せ合うクラブだよね」

 (たぶん先輩は二重に間違っているような気がする……)

                    ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |
   

 真奈美が注意を与えたように……翌日、クラスはものものしい緊迫感に満たされていた。

「ねえ聞いた? ピンクリボン狩りの話……今日のお昼から解禁なんだって……」
 そう切り出したのはクラスで一番の事情通、矢野恵子(やのけいこ)だった。

「それって何?」
 と、聞きかえしたのはこの学校に一番詳しくない羽田弥生である。
 およその事は真奈美から聞いていた琴里だったが詳しく聞くと大変な話だった。

 諒凰にはおよそ四十のクラブがあり、そのうち十七が体育会系だという。
 それらの体育会系クラブと、幾つかの文科系クラブは常に、お世話係りと言う人員を必要としており、その役を担うのがピンクリボン(つまり栗の花の一年生)なのだ。

 栗の花の一年生は琴里達の一クラス、つまり二十五人しかいない。
 そこで本日、お昼の解禁と同時に、壮絶な争奪合戦が繰り広げられるというのだ。

 そんなわけで、琴里のように入りたいクラブのある子は、ハンターからうまく逃げて意中のクラブにたどり着かねばならないということになる。

「エーッでも私、クラブって嫌いじゃないよ。バレーボール部なんかだと、むしろ入れてもらいたいくらいだな~」
 と、クラスメイトの一人が不思議そうに言った。
「そうそう私も格闘系のクラブに入りたいな」
 と、別の一人も続いた。

「あらそう? でも、あなた達はお世話係りだから滅多に試合になんて出れないわよ……それなのにもしチームが試合に負けたら連帯責任で、千本レシーブとか絞め落とし百回なんてさせられるの。しかも諒凰の生徒達にはこのペナルティーはないわ。なぜなら彼女達はセレブだからそんな真似はさせられないの。コーチの怒りは試合にも出ていないあなた達に向けられるのよ!」
 ピシリと言い放つ矢野恵子の言葉はどこまでも非情だった。

 クラス中が静まり返り、すすり泣く子も出る中、気の抜けるような琴里の声が響いた。

「あー良かった。あたし今日はちょっと早く起きて部屋の先輩のリボンと交換させてもろてん!」
 ニコニコ顔で腰の黄色いリボンを見せた琴里にクラスの皆は凍りついた。

 どうやらこれはとてもいけない行為であるらしかった。

 とはいえ、リボンの交換が効を奏したのか、琴里は恐ろしいハンター達の罠をすり抜け、無事に栗の花学園一年生のフロアーを駆け抜けることができた。

 しかし、クラスの他のメンバーは悲惨だった。

 塚西聖子(つかにしせいこ)はトイレに隠れていたが、静かになったとみて、出てきたところを水泳部に見つかり、入部させられた。

 石川一美(いしかわかずみ)は全力ダッシュで寮に引き返す途中、諒凰陸上部のスプリンターに捕まった。

 中山未来(なかやまみらい)にいたっては、テニス部の先輩に捕まりそうになった時、「こっち、こっち」という声に助けられ、礼を言ったところ、それはレスリング部の部室で、そのまま入部となった。

 最も悲惨だったのは事情通の矢野恵子だ。
 彼女は馬術部の先輩、数人の勧誘を受けた。

「私達の馬術部は、栗の花の子でも分け隔てなく試合に出場出来るのよ!」
「で、でも私は知ってるんです……それには自分の馬が必要だってことを!」
 ニコニコとやさしそうな先輩の顔が急にこわばり、辛うじて笑顔を保つ。

「それは心配ないわ。去年からは学校の馬でも試合に出れるようになったの。だから……」
「そ、それでも馬具は自分持ちでしたよね? 私達に、そんな高いものは買えません……結局、先輩は私に馬糞掃除とかさせるつもりなんじゃないですか?」

 馬術部の先輩の笑顔が消え、彼女はチッと舌打ちした。

「今、チッて言いましたよね。やはりズボシなんですね!」
 彼女は諒凰馬術部の先輩をピシリと指さした。その瞬間、彼女は拉致された。

「わ~、みんな悲惨やなあ……」

 琴里は階段の隅からそっと顔を出し、クラスメイトの無事を祈りつつ西校舎を後にした。



                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
 諒凰の教室が並ぶ東校舎。

 その三階にある投資クラブ部室では、新人歓迎のお茶会が開かれていた。
 今年の新入部員はこれまでに十四人。すべて諒凰の生徒だった。

「栗の花のあの子、無事にここまで来れるかしら……」
 紅茶のオレンジポコにミルクを注ぎながら、心配そうな表情でそう言ったのは三年生で部長の高輪未幸だった。
 本来、オレンジポコはそれほど高級な紅茶ではない。しかし、彼女はこの紅茶が大好きなのだっだ。

 投資クラブの部室は、恵まれた環境にある諒凰文化系クラブの中でも、抜きんでた豪華さだった。

 コンピューターがずらりと並ぶ、トレーディングルームの他に、会議室と事務室があり、さらに彼女達が今、お茶会を開いている休憩室まで備えていた。

 「今年はどのクラブも、ピンクリボン狩りに力を入れていると聞きます。特に昨年、栗の花の一年生を一人も確保できなかったバトミントン部やフェンシング部、ラクロス部、チアリーディング部などは必死だとか……その子がここまでたどり着けたら奇跡としか言えません……」
 まるで士官のようにりりしい姿勢で答えたのは副部長で二年生の井原真澄(いはらますみ)だった。

 「無理ね!」
 新入部員の宮倉嘉穂がクックと笑い、とりまきの春日麗香や吉田翔子と顔を見合わせた。

 「今頃はソフトボール部あたりに捕まっているころね」
 「もしかしたらレスリング部かしら? ホーホホホッ!」

 と、その時――

 「遅くなりました! 投資クラブ入部希望者で~す!」
 と言う元気な声がした。

 「栗の花学園一年生、御堂琴里。よろしくお願いしま~す!」
 はずむように、飛び込んで来た琴里がクラブのメンバー全員に向かい、ペコリとお辞儀した。

 嘉穂達が驚いて呆然とする中、喜んだのは高輪未幸だった。

 「まあ良かった……心配してたのよ。珠樹さん、この子にもお茶をあげてちょうだい」
 諒凰の二年生、安西珠樹(あんざいたまき)が立ち上って給湯コーナーに走った。

 ここには給湯係の、栗の花の生徒はいないのだ。

 「それにしてもよくここまでたどり着けたものね……ってアラ? あなた一年生ではなかったの?」
 琴里の黄色いリボンに気がついたのは、未幸と同じ三年生の牧村紀子(まきむらのりこ)だった。

 一同が(? ? ?)と、なる中、琴里はあっけらかんとして――。

 「ああこれですか? 昨日、寮で同室の先輩からピンクリボン狩りの事を聞いたもんですから、今朝その先輩から借りてきました! エヘヘヘヘ……」

 琴里にミルクティーを作っていた、珠樹がスプーンを落とした。

 高輪未幸は飲みかけたティーカップを持ったまま、目が点になった。

 他のメンバーも凍りついている。やはりこれはとてもいけない行為だったらしい。

 「で、でもその先輩には許可をとったのでしょう?」
 気を取り直して未幸が訊ねた。

 「いえ……でも先輩は二年生だから、大丈夫なんだろうと思いまして……」
 さすがにまずいと思った琴里は、しおれた表情で言った。

 「つまり無断で交換してきたってわけね……」
 そう言いながら、高輪未幸がすっくと立ち上がった。

 「おそらくその先輩は、とても困っていらっしゃるでしょう……」
 彼女はスーっと息をついで、少し強い口調で言った。

 「今すぐ返してらっしゃい!」

 叱られた琴里はピョンと立ち上がって慌てて部室を出ようとした。
 「アッ、お待ちなさいこれを……」
 未幸が琴里の肩につけたのは投資クラブのワッペンだった。

 「それはすでにあなたがクラブに所属したという証。それを付けていればあなたがピンクのリボンでも他のクラブから勧誘されることはないわ」

       (☆☆☆☆☆!!)

 「ありがとうございます!」
 琴里は深々と礼をして部室を後にした。

 とにもかくにも琴里の作戦は成功したのだ。
 あとは真奈美先輩に黄色のリボンを返すだけだった。



                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |
  
 しかし、琴里が出て行った後の投資クラブでは、彼女を本当にメンバーに迎えても良いものかという議論が行われていた。

 「あれは明らかな校則違反ではありませんか?」
 副部長の井原真澄が疑問を投げかけた。

 「彼女の先輩はお気の毒にも、今頃は嵐のような勧誘を受けていることでしょう。それもあの子に、気をつけなさいと注意をうながしたからですわ。つまりその先輩は、恩をアダで返されたということですわ」
 やれやれと、首を振りながら嘉穂が言った。

 「そうね……確かにあれは良くないわね。でもあの子がそんな手を使わなければならなかったこの制度にも問題があります。だから私は今回、あの子の入部を認めたいと思います」   
 未幸が部長権限で押し切った。

 「それに……とても明るい、いい子じゃありませんか」



 西校舎の二階は栗の花・二年生の教室になっていた。

 琴里の肩には先程、高輪未幸から貰ったワッペンが輝いている。諒凰のクラブにはそれぞれのワッペンがあり、これは投資クラブのワッペンだった。

 一年生でもこのワッペンさえ付けていれば、もう勧誘されない為、真奈美に黄色いリボンを返しに来たのだった。

 と、廊下の隅に人だかりができており、数人の諒凰の運動部員達が一人のピンクリボンを巡って争奪戦を繰り広げていた。

 「なんですか、あなたがたは! この子はラクロス部が見つけたのですよ!」
 「いいえ、もともとチアリーディング部が目を付けていたのです!」
 「フェンシング部としては譲れません!」
 「可哀想なことはなさらないで! この子は、バドミントン部で預かります!」

 両手両足をラクロス部、チアリーダー部、フェンシング部、ラクロス部に引っ張られ、さながら 車裂き状態になっているのは小柄で栗色の巻き毛の少女、真奈美だった。

 「エ~ン! ボク一年生じゃないですー これは取り替えられたんですー」
 寮の部屋の中でのボーイッシュな真奈美と比べると、殆ど別人という情けなさだった。

 「ほらごらんなさい。彼女だってチアリーディング部を希望してるじゃありませんか!」
 「どういう耳をなさってるのかしら? 彼女はラクロス部に入りたいと言ったんです!」
 「エ~ン! 言ってません、言ってませ~ん!」

 (これはとてもリボンを返せる状態やないなあ……)

 琴里は真奈美に向って、廊下の端から「ご免なさい!」と手をあわせてその場を走り去った。


                    ( つづく )
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