自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2011年12月24日 (土) | 編集 |
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  この画像はデコじろうで作成しました。


 この話は「血判状の秘密」最終回の続編になり、エピローグの前に入るお話です。

 内容としましては、ある日突然現れた男達から、「おまえは、我々と同じく戦国時代の武将の生まれ変わりで、名前は又兵衛というものだ!」と、言われた沙希が訳も分からないまま、お家再興を手伝わされるというもので、その首領格のご家老様というのが、小学生という、おバカな設定です。
 前回の特別編より、四年後のお話で、女子高生だった沙希は大学生に、しんご君達は五年生になっています。

 もしできますれば「血判状の秘密・第一話」だけでもお読み頂くと理解して頂きやすいのではと思います。(^^;)

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血判状の秘密1話・2話 血判状の秘密3話・4話 血判状の秘密5話・6話
血判状の秘密7・8・9・10話 血判状の秘密11・12・13・最終話 



      【 特別編・願かけ 】

「待たせたな。では参ろうか」
 小学五年生になるしんごを従えて、さっそうと駅前に現れたのは柳井だった。

「ちょっと待ちなさい。なんで里美ちゃんじゃなくて、あんたなの?」

 沙希は、あまりにも自然な様子で駅に入ろうとする柳井のダウンジャケットを掴んだ。

 剣道部・初等科の遠足ということで、しんごから引率役にと呼び出された大学生の沙希だったが、約束の時間になっても数名いるはずの部員が一人も現れない為、場所でも間違えたかと心配していたところだった。

 柳井といえば、(彼は里美に宿る前世の記憶なのだが・・・)四年前にしんごと里美の運命を知り、
(やがてはこの二人の子が、途絶えた戦国大名・吉沢家の当主となって蘇るらしい)
お家再興という目的の為に、自ら消滅したはずだった。

 それがまた何故、里美が小学五年生になったこの時期に復活したのだろう?
 沙希は、少し不安を感じた。

「どういうことなのか説明してちょうだい!」
 詰め寄る沙希に、柳井は「そのことは道中、おいおい説明いたす」と言葉をにごす。

 しんごに聞いても「さあ、僕にもさっぱり・・・。里美ちゃんは、昨日練習中に頭を打ったのか、突然昔のようになってしまったんです」と心配げに話すだけだった。



「そうそう遠足の場所だが、これから向かうは剣鹿山(けんろくさん)。そこは、鎌倉時代より続く由緒ある修行場でな。真冬の滝行で有名な所じゃ」

 柳井はサラリと言い放ったが、沙希にはとても小学生が遠足で行く場所とは思えなかった。


「却下!」
沙希は、柳井が切符を買うのを止めた。が・・・、

「これはな、お前の友にして鶴姫が娘、奈津美の回復を願っての事でもあるのじゃ」
などと言われれば、強硬に反対も出来なかった。

 中学時代からの友人、奈津美は学祭で歌った曲「コスモス」が認められ、CDデビューするという幸運に恵まれたのだが、好事魔多し。
父親(鶴姫)の愛車・アルファロメオでFM局に向かう途中事故にあった。

 以来、一年ばかり昏睡状態が続いている。

 だから、彼女の回復を願っての滝行でもあると言われれば、沙希には断われなかったのだ。
 とはいえ、「でもある」という言葉は少し引っかかった。


「それにしても、柳井さんはどうしてその事を知ったのだろう・・・」
 沙希は電車の対面シートに座り、しんごに滝行の心得を語っている柳井を見ながら呟いた。

「どうやら御家老は、今でも時折現れては鶴姫様と連絡を取り合っているようでござる」
 いつの間にか背後の席に左近が座っていた。

 現在は郵便局員ながら、前世では吉沢家に仕える忍者であった左近は、常日頃から気配を殺して、里美(柳井)としんごを見守っていたのだ。


「おお左近、そこにおったか。ここに来て掛けるがよい」
 柳井が、沙希の隣の席をすすめた。

「ねえ左近さん、前から思ってたんだけど、柳井さんってどういう存在なの?」

 沙希にしてみれば柳井という存在は、左近や鶴姫と比べても異質なものに思えた。
 左近や鶴姫は前世の記憶を取り戻した後も、今生の記憶を持ち合わせている。
 ところが柳井の場合、出現すると里美の人格は消え、里美自身にその間の記憶がない。

「さて、拙者にも良く分かりませぬが、おそらくは別の人格として存在しているのではと・・・」

「と、いうことは里美ちゃんが出現している間は、守護霊の様な存在で観察してたのかしら」
それはちょっと嫌だなと沙希は思った。

 沙希自身も、又兵衛という武士の生まれ変わりだというが、前世の記憶はない。
 以前一度、妖刀に操られた時に、一瞬その能力が目覚めたものの、独立した人格は出なかった。
 しかし、今も沙希の生活を背後から前世の自分が見守っていたとしたら・・・。

「ないない、それはない!」
 沙希はそんな考えを打ち消した。

「しかし、こうして全員で修行をするのも久しぶりだな」
 柳井が駅弁を食べながら、満足そうにうなずいた。

 全員と言っても、車中に鶴姫はいない。
 鶴姫こと倉橋剛三は、奈津美の事故以来憔悴しきっていた。

休日は娘に付きっきりで、おそらく今日も病院にいるのだろう。
沙希はそう思ったが・・・、


「ああ御家老様、今日はよくおいで下さいました」
 と、機嫌良く剣鹿山駅まで出迎えに来ていた。

「奈津美殿に、このところ良い兆候が出始めているのでござる」
 なんでも知っている左近が沙希の表情を見て、ポソリと言った。

「ささ、参りましょうか」
 柔らかな物腰で、鶴姫が修行場への道案内を始めた。


 体格の良い鶴姫は、修行僧の姿が良く似合う。
 苔むした岩が散乱する道を先導して歩くその姿は雄々しく、沙希には頼もしく見えた。

「ここからは道がまた一段と険しくなるので、足元には十分お気を付け下さい」
 鶴姫がそう言った、まさにその時・・・、

「どいて、どいて、そこをどいてくれー!」
 と、ものすごい勢いで修行僧が駆け下りて来た。
 その背後からは、屈強な坊主達が鬼の形相で追いかけてくる。

 沙希達は慌てて、壁面に身を寄せた。


「な、何事じゃ?」
 さすがの柳井も驚いて目を丸くしたが、
鶴姫は「あれは、修行が辛くて脱走した坊主ですよ」と、平然と言った。

「お坊さんが逃げ出すような恐い所なんでしょうか」
 しんごが、ちょっと不安げに尋ねた。

「大丈夫ですよ。修行場には一般用の場所もありますから。それに先程の人は、庵本寺の明鎮という脱走の常習犯で、ここでは有名な人なんです」
 鶴姫がホホホと笑いながら、しんごの不安を取り除いた。

「その明鎮とやらは、どうやら捕まったようじゃ」
 柳井の声に沙希がふり返ると、先程の坊主が、他の坊主に両脇を抱えられ、「きりきり歩かんか~!」と連れ戻されていた。

「やはり怖い所かもしれない・・・」と、沙希は心配したが、一般向けの修行場は鶴姫の言うとおり、清流にかかる落差数メートルという小さな滝で、年配のにわか行者達でけっこう賑わっていた。


「少し物足りない場所だが、ここで滝に打たれるとするか。鶴姫、全員の締め込みを用意せい」
 
スパコーン! 沙希が枯れ枝でぶった。

「な、何をする!」
「あんたと私は白装束でしょうが! 私にあんな恰好で滝行しろって言うの?」
 と、すでに締め込み姿の左近や鶴姫を指さした。

沙希は鶴姫から受け取った白装束を脱衣小屋で着替えると・・・、
「とにかく奈津美の回復を願っての滝行なら、大人だけで十分。しんご君やあんたを風邪ひかしたら、引率して来た私が責められるわよ・・・って寒!」
 と、思いっきり悪態をつきながら清流に足を踏み入れた。

しかし・・・。

「フッ、それはあっぱれな物言いなれど、この滝行にはもう一つの目的があるのじゃ。しんごを鍛えるという重要な目的がの・・・」
 そう言いながら柳井もまた、着替えの終わったしんごの手を引き、流れの中に入る。

「やっぱり、そんなことだろうと思った。だいたいあんたは・・・」
 詰め寄ろうとした沙希だったが、柳井の様子はどことなく暗かった。

「実はな、わしは・・・というより里美がだが、もう長くはないのじゃ」

「エッ!」
 衝撃的な告白に、全員が凍りついた。

「そ、それは誠にございますか!」
「なんと、おいたわしや!」
左近は天を仰ぎ、鶴姫は締め込みの裾を目に当て、涙を拭った。

「四年前、わしはしんごと里美の運命を知り、自ら退いた。だが、里美の寿命が持たぬようであれば、その後の計画も変わってこよう・・・」
 柳井は身も凍るような滝に打たれながら「オン・マカシリ・エイソワカ」と真言を唱え出した。

「で、でも里美ちゃんが病気ってのは確かなの? だったら、こんな所に来ちゃダメじゃないの」

「残念ながら確かな事実じゃ。数カ月前より里美の体に異変が起きておっての。月に一度出血があるようなのじゃ。里美は気丈にふるまってはおるが、わしの見立てでは重い病に違いない」
 柳井が無念そうに唇を噛んだ。

「ヘッ? ◇●☆∮Д〒・・・・・・・・」

「ねえ左近さん、柳井さんっていったい、いくつで亡くなったの?」
「確か御家老様は四十八歳であったかと・・・」

「奥さんとか、娘さんはいなかった?」
「勿論おられましたよ。それはそれは、お美しい奥方でございました」
 割って入ったのは鶴姫だった。

「ハァ、戦国時代の男ってそんなものかしら・・・」
「おそらく、御家老様の堅物ぶりは特別でございましょうな」

「これ、聞かぬか! それゆえワシは今一度現れ、里美の命脈尽きぬ間にしんごを鍛え直し、また新たな嫁を探すことに・・・」

「あんたね、里美ちゃんは健康そのものじゃないの! もういっぺん、死んで来い~!」
 沙希は思わず柳井を一本背負いしていた。

 ドッボ~ン!
 滝つぼに投げ入れられた柳井だったが、その途端・・・、

「キャー何するんですか。沙希先輩~」と、里美に戻っていた。

「あわわ、ごめんなさい。早く助けなきゃ」
沙希はあわてて滝つぼに飛び込み、しんご達と力を合わせ、里美を引っぱり上げた。

里美にすれば、昨日の練習中から記憶が無く、気がついた瞬間、沙希によって冷たい水の中に投げ入れられたのだ。
まったく訳が分からなかった。

沙希は、「どうして私はこん所に連れて来られたんですか~」と、泣きじゃくる里美を慰めながら、「あの卑怯者め~」と、柳井を呪ったが、怒りをぶつける相手は既にいなかった。

 そんなこんなで、今回もまた柳井によって、とんだ災難に見舞われた沙希だったが、ひとつ嬉しい事があった。

 まさかあの滝行が功を奏したとも思えないが、なんと一年ぶりに奈津美が目を覚ましたのだ。


 鶴姫の喜びようは大変なもので、彼を信奉する暴走族・数百人を引き連れ、剣鹿山まで文字通りのお礼参りに出かけたが、通報され警察に捕まった。

 奈津美は一年以上昏睡状態にあった患者とは思えないほどの元気ぶりで、長い間妖精になった夢を見ていただの、リハビリにはフラダンスを習ってみたいだのと言い出して、医者を驚かせた。


 その奈津美を見舞った帰り、沙希は左近に対して、
「もしかしたら柳井さんはまた戻ってくるのかしら」と尋ねてみた。

「さあ、それについては拙者にも・・・」
「その言い方やめて」

「ハイハイ。それはまあ、柳井さん次第じゃないかな」
 左近は、やはり多くを語らなかった。


   (特別編・おしまい)


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2011年08月01日 (月) | 編集 |
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  この画像はデコじろうで作成しました。


 この話は「血判状の秘密」最終回の続編になり、エピローグの前に入るお話です。

 内容としましては、ある日突然現れた男達から、「おまえは、我々と同じく戦国時代の武将の生まれ変わりで、名前は又兵衛というものだ!」と、言われた女子高生・沙希が訳も分からないまま、お家再興を手伝わされるというもので、その首領格のご家老様というのが、まだ生まれ変わったばかりで、小学校一年生という、おバカな設定です。

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      【 水練(すいれん) 】

「よいか皆の者、仇敵・清姫一派亡き後、我らが御家再興を阻止せんとする者はなくなった」

 紅葉丘市民プールの幼児用・ウオータースライダーを乗っ取り、上機嫌で演説をしているのは柳井こと高橋里美(7歳)だった。

「また我らが探し求めていた御館(おやかた)様も、将来しんごの子として再生される事が分かった! なれば今我らが取るべき道はなにか。それは将来しんごと出合うであろう女子(おなご)を探し出し守ることと、さらには心身を鍛え、来るべき再興の時に備えることである」

 柳井の演説を感無量の面持ちで聞き入るのは鶴姫こと倉橋剛三、左近こと田中幸雄。
 手を叩いて喜んでいるのはしんご(6歳)だった。
 間違っても仲間と思われたくない沙希は、一般人にまぎれて遠巻きに見守っていた。


 沙希にすれば、せっかくの夏休みに、「海へ行こう」と言う奈津美達の誘いを断り、
 何故こんな近場のプールに、柳井達と来なければいけないのかと、腹のたつ話だったが、
 これは左近や鶴姫を犯罪者にしない唯一の方法だった。

 しんごが泳げない事を知った柳井が、水練(すいれん)をやろうと言い出したのだが、
 小学1年生の柳井達だけではプールに入れてもらえず、
 かといって鶴姫達が連れだすのはちょっと親達の許可が取れそうにもなかった。
 結果、剣道部・主将(?)の沙希が初等部の後輩をプール連れて行くという形をとったのだった。

 しかし、それがどれだけ大変な事か、沙希は思い知るはめになった。


「御家老様、御見事な演説でござりました」

 満足げに演説を終えスライダーを滑り降りて来た柳井に、鶴姫が喜々としてタオルを差し出した。

 左近はといえば、他の人にはただの幼女にしか見えない柳井を平伏して迎え、ゴザを敷いた休憩所に案内したのだった。

「うむ、喉がちと渇いた。冷酒(ひやざけ)を所望(しょもう)出来ぬか」

 胸をはだけて左近からビールを受け取ろうとする柳井を、駆けつけて来た沙希があわてて阻止した。


「あんたねえ、子供がお酒飲んでいいと思ってるの?」

 黙って見ていると、引率してきた沙希にまで責任が及びそうだった。


 そうでなくとも先程は、女子更衣室にフラフラ入ってこようとする鶴姫を叩きだし、逆に男子更衣室にズカズカ入って行く柳井を連れ戻しにと、大変だったのだ。

 無事に今日という日を終えて、帰宅できるか甚だ心許なかった。


「どれ、ではしんごに伝統の塚本流泳法を教えるとするか」

 ビールの代わりに渡されたミルクを飲みほした柳井がスクッと立ち上がった。

「よいか、しんご、塚本流・泳法は甲冑(かっちゅう)を付けたまま、泳ぐ泳法じゃ。無論ここには甲冑などないので砂袋を付けて泳ぐ事にする。よく見ておくのだぞ」

 柳井はスク水に合計10キロの砂袋を結わえつけると・・・、

「鶴姫、左近、すまぬがワシをあのプールの中に放り投げてくれんか」
 と、競泳用・水深2mのプールを指さした。

「ち、ちょっと、止めなさい!」

 あわてて止めようとする沙希も間に合わず、柳井はザブーンと競泳用プールに放り投げられた。

「だ、大丈夫なの?」

 沙希は半信半疑で見守ることにしたが・・・、柳井は浮いて来なかった。

「沈んでるじゃないの! 早く助けなさい!」


 沙希の声に、慌てて左近と監視員が飛び込み、柳井を助け出した。

 幸い柳井はすぐに水を吐いて無事だったが、予想通り鶴姫と左近は管理室に呼び出され、厳重注意を受けるはめになった。


 結局・・・。

「しんご君、私とプク・プク・パー、しようか」

 沙希が幼児用プールで顔を浸ける練習からさせることになったのだ。

「プク・プク・パー」
「よし、うまいうまい!」

 が、そこに復活した柳井がやってきて、
「おお、又兵衛(沙希の事)御苦労。ならば次はしんごにも砂袋を・・・」
 などと訳の分からない事を言いだしたので、

「あんたは黙ってそこで休んでなさい!」

 と、沙希もついつい大声で怒鳴らざるを得なかった。



「やっほー、沙希、頑張ってるわね。感心感心」

 ドキリとしてふり返るとそこに同級生の友美、麻衣、そして奈津美がいた。

「エッ、あんたたち海に行ったんじゃなかったの?」

 沙希にしてみれば何故、自分がドギマギしなければならないのか納得がいかなかったが、その訳は柳井達にあることはあきらかだった。

「おう、おまえは鶴姫の娘ではないか・・・」

 柳井がプールサイドから目聡く奈津美を発見した。
 
 沙希はすかさず柳井を幼児用プールの中に引きづり込むと、

「あんたがしばらく、しんご君の練習を見といてちょうだい」

 そう言いつけて奈津美達の相手をする事にした。

「今日は海に行くんじゃなかったの?」

 沙希はできるだけ平静を装って奈津美達に聞いた。


 しんごの世話を柳井に任せるのは多少不安だったが、ここはそうせざるを得ない。

「プク・プク・パー」

 どうやらしんご達は沙希の命じた練習を続けているようだった。

「沙希が初等部の生徒さんの面倒を見なけりゃならないって言うのに、私達だけ海で楽しんじゃ悪いもん」
「ヘー、友達思いなんだ」

 沙希は笑ったが、内心は奈津美達が海に行ってくれていたら良かったのにと思っていた。


「ハハハ、うまいぞしんご。では次は塚本流泳法を・・・」

 柳井がまた、つまらない事を言いだした。

「塚本流はだめ! しんご君はそのまま顔を浸ける練習を続けていなさい!」

 まったくこれだから、奈津美達と楽しく話も出来ないのだ。と沙希は舌打ちをした。


「ねえ、塚本流って何?」

 友美が興味深そうに聞いてきた。

「子供が考えたお遊びよ」

 沙希はそう答えるのがせいいっぱいだった。


「プク・プク・パー」

それにしても柳井達が気になった。

「ブク・ブク・ブバァ~」
 
 案の定・・・。

「ゴボ・ゴボ・ゴボボボボ・・・」
「わっ、しんご、どないした。しっかりせえ」

 という声が聞こえてきた。


「キャー、何やってんの。そこどきなさい!」

 沙希はしんごをプールサイドに引っぱり上げると、水を吐き出させた。


「どうやら沙希、すっごく忙しそうだね・・・」
「じゃ、じゃあ私達流れるプールへ行くから」
「がんばってね。沙希」

 彼女達が気を利かせてくれたおかげで、奈津美と鶴姫・親子の対面だけは避けられたのだった。

 その鶴姫達は、しばらくして解放されてきた。

「沙希殿、御苦労をおかけしました」
「面目ござらぬ。沙希殿お疲れでございましょう」

 左近達はねぎらってくれたが、言われるまでもなく沙希はクタクタだった。
ただ、不思議と何かミッションをクリアーしたような充実感はあった。

 というわけで、水練はこれにて終了となったが、

「今日はプク・プク・パー、覚えた!」

 喜ぶしんごに、柳井も満足そうで、

「よしよし、こうして鍛えておくと、しんごにもやがて良き女子(おなご)が現れようぞ。それともしんごにはもうクラスで好きな子はできたか?」

 などと、冗談もまじえ上機嫌だった。

「サトミたん!」

 その質問には、しんごが間髪をいれず答えた。



「ねえ、もう手っ取り早く柳井さんに、しんご君の将来の奥さんはあんたなんだと言ってやれば?」

沙希の言葉に鶴姫が首を振った。

「御家老様が、ご自分で気付かれねばならないのですよ。でないと元の里美殿には戻られませぬ」

「そういうものなの?」

「そういうものでござる

 鶴姫に代わって左近が答えた。


 ふと見ると柳井としんごはまだじゃれ合っていた。

「これこれ、抱きつくでない。良いか、ワシはお主に好きな女子が出来たのかと聞いておる」

「サトミたん!」

「いや、そうではなく・・・」


 なんとなく平和だな・・・と沙希は思った。


   ( 特別編・おしまい )


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2010年12月15日 (水) | 編集 |
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   この表紙はデコ次郎で作成しました。



          【 これが縁なのでございますよ 】


 もはや、この場を切り抜けられるのは天海僧正直伝の秘術・“操魂律令”をおいて他にはない。
 招雲は急ぎ茶室に戻った。

 茶室の中も荒らされた痕跡があり、もしや大事な置物が奪われたのではないかと肝を潰した招雲だったが、幸いにも甚五郎の猫の置物は無事で、中身もそのままだった。

 柳井程度の相手に、温存しておいた“操魂律令の粉”の大半を使うのは、口惜しかったが、今は惜しんでいる時ではなかった。

 廊下から聞こえてくる喧騒が次第に大きくなっているのだ。
門弟達が左近の剣や鶴姫の剛力に抗しきれず、柳井がここに迫っているのはあきらかだった。

「やはり、我の計画を邪魔だてする者はやつらであったか。ええーい、全てくべてやるわ!」

 招雲はその手に粉を握り締めた瞬間、茶室の襖が吹き飛んだ。


「柿園招雲、いや細田邦親、覚悟しやれ!」

 門弟を薙刀で吹っ飛ばして、突入して来たのは鶴姫だった。

「沙希殿はご無事か!」

 続いて左近と柳井も到着した。

「フッ、これは鶴姫様、ずいぶん大きう成長なさりましたな。対してご家老様は縮まれたご様子」
 追い詰められているはずの招雲が余裕の笑いを浮かべた。


「やつの持っている、粉をくべさせてはなりませぬぞ!」
 遅れて到着した又一郎が叫んだ。

「クッ、ねずみめ、生きておったか・・・だがもう遅い! 亡霊どもよ、出でよ!!」」
 招雲が手にした全ての粉を囲炉裏に投げ入れた。

「うぬー、しまった!」
 悲痛な叫びを上げた柳井達だったが、その直後・・・。



「はや? 邦近、これはいったいなんのまねじゃ?」
 と、全員の目が点になってしまった。

 しかし、「ウワー、どうしたことじゃ~!」と、一番驚いているのは他ならぬ招雲だった。

 落ち武者の亡霊が数百人も現れ、たちどころに柳井達を撃退してくれると期待したのだが、現れたのはなんと、茶摘み娘達の精霊だったのだ。


「夏もちーかづく八十八夜、ハイハイ・・・♪♪」
 30センチにも満たない可愛らしい精霊達が陽気に招雲の周りで踊り出した。


 どうやら、何者かが粉を抹茶と入れ替えておいたらしかった。
 
 もはや万事休すと思えた招雲だったが、その時わらわらと門弟達が茶室になだれ込んで来た。

「おお、ようやく助けに来たか!」

 喜んだ招雲だったが、残念な事に門弟達は会長様を助けに来たわけではなかった。

「お、お助け下さい猊下!」などと、逆にすがられてしまった。

 いったいこの上、何事が起こったかと、その背後を見た招雲の目に映ったものは・・・

 妖刀、村正を振りかざし、門弟をなぎ倒しながら近付いて来る沙希だった。

 門弟達は生贄を求める幽鬼のような存在となった沙希から逃げ惑っていたのだった。


 その様子に「おお、又兵衛、ついに覚醒したか!」と、喜ぶ柳井とは対照的に・・・

「沙希殿・・・」と、左近は絶句した。


「ふっ・・・。だが、それはそれで好都合。もはや憑依で良しとしよう。清姫殿、娘を乗っ取り、操ってくだされ!」

 招雲が印を唱えると、沙希の背後に妖艶な着物姿の清姫が現れた。だが・・・。

「おっと清姫様、あなたをやつと共に地獄に落とすわけにはいきませぬ」

 沙希の中に半ば侵入しかけていた清姫を、背後から又一郎がはがい絞めにした。

「放せ下郎、汚らわしい!」
 
「身分は浮世の事、霊魂にはありませぬ。今日で、私も四十九日。一緒に冥土に旅立ちましょうぞ」

 又一郎は、柳井達に・・・。

 「又兵衛を頼みますぞ」と言い置くと、清姫と共に消えて行った。

 同時に、沙希が刀を落とし、その場にパタリと倒れこんだ。


「沙希殿!」

 その体を左近が抱き起こし、ふわりと郵便職員の制服をかけた。


「さて今度こそ、覚悟してもらおうか」

 柳井がふり返ると、すでに招雲は乱入してきた“息子達を取り返す会”のメンバー達により、タコ殴りにされていた。


「まあ、邦親のことは彼らに任せるといたしましょう」と、鶴姫が笑った。

「そうじゃな、それより又兵衛がついに記憶を取り戻したようじゃ!」
 と、喜んで沙希のもとに駆け寄った柳井だったが、

 意識を取り戻した沙希から出た言葉は「御家老様」ではなく・・・。
「あれ、柳井さん何でここにいるの?」だった。

「まあ、引き揚げるか・・・」と、落胆する柳井とは対照的に、
「それにしても沙希殿、無事でよかった」と左近はうれしそうだった。

「ホホホ、そうでございますねえ」
 傷だらけの鶴姫が二人の様子を見て愉快そうに笑った。


「里美たん!」
 茶室を出たところで、顔中涙と鼻汁でグシグシのしんごが、柳井を発見して抱きついてきた。
 しんごは、しんごで柳井達を探し回っていたのだった。

「や、しんご。お主は車で待っておれと言ったはずだが」
 実は、大活躍をしたヒーローの事を知らない柳井が、怒って見せた。

「とにもかくにも、又一郎殿の言われた障害はこれで完全になくなりましたなあ」
 鶴姫が晴れやかな表情で言った。


「と、いうことは、もうこんな馬鹿げた騒ぎから解放されるのね」
 取り返したセーラー服の乱れを気にしながら沙希が皮肉を言った。

 よく覚えていないが、沙希は相当危険な目にあわされたようなのだ。
 こんな事が続くようなら、本当にこの連中と縁切りを考えた方がいいと真剣に考えていたのだ。

「おそらく、もうこういった敵は現れぬでしょう・・・」
 左近が沙希を気遣いながら言った。



「ならば今こそ、お家再興の狼煙(のろし)をあげるのじゃ!」
 疲れを知らない柳井が宣言をした。

「どれ鶴姫、この境内から一度空に御館様(おやかたさま)捜索の人形(ひとがた)を放ってくれぬか。抵抗がなくなったのであれば空に舞い上がるはず!」
 
「ハイハイ、では上げて見ましょうね」
 鶴姫がツナギのポケットから人形・数十枚を取り出し、念をこめて空に放った。

 と、いつもであればすぐに落ちてくるはずの人形が勢いよく空に舞い上がったのだ。

「おお、どちらの方角に飛ぶのじゃ?」
 興奮した柳井がしんごと共に空を見上げたが・・・。
 人形はすぐに急降下して、しんごの頭の上にバラバラと落ちて来た。

「やはりまだ駄目か・・・」
 柳井はガックリと肩を落としたが、鶴姫の表情は違った。

「そうではありませぬ! しんご殿こそ、御館様の縁者だったのでございますよ」
「なに、しんごが御館様の生まれ変わりであったか!」

「いいえ、それならば今までの時点で反応もあったはず・・・と、なると」

「と、なると何?」
 沙希も興味を持って話に割り込んで来た。

「御館様はまだこの世に再生されていないのです。つまりしんご殿は将来の御館様の父君になるのでございましょう」

「でかした! ならば我らは日々剣の鍛錬を重ねつつ、しんごと将来夫婦(めおと)になるであろう女子(おなご)を捜索すればよいだけの事!」
 柳井がポンと手を打った。

「ハイハイ、そうでございますねえ」
 鶴姫が笑いながら柳井の髪に張り付いた人形を払った。

「うむ、明日より忙しくなるぞ。又兵衛も少し剣技を思い出したようだし、楽しみじゃ」


「ねえ、気付いてないのは柳井さんだけ?」
 沙希が左近の耳元に囁いた。

「・・・のようですな」

「でも鶴姫さん、柳井さんがあんな調子じゃ二人が結婚するなんて、とても思えないんだけど・・・」

「大丈夫ですよ沙希殿。御家老様の究極の目的はお家再興・・・。その障害になると思えば自ら、意識を里美ちゃんに譲って、消えていかれます」


 鶴姫は、「紅葉丘学園・剣道部を再建するぞ!」「おー!」などと、盛り上がっている柳井としんごを見つめながら、少し寂しそうに笑った。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「気をつけろ沙希、相手は女子高生といえども・・・」

 全国剣道選手大会・関東地区予選。
 決勝に勝ち進んで来た相手、若干16歳の少女に対して、沙希に注意を促したのは、
 戦う郵便局長として、自身全国大会に駒を進めている夫、左近だった。

「わかってる。警視庁の名にかけて、そんな女子高生なんかに後れは取らないわよ」
 沙希は頭に手ぬぐいを巻きながら、左近にほほ笑んだ。

「ごめんね沙希、お父さんったらせっかく一緒に応援に来たのに、なぜか相手側の応援に回っちゃって・・・」
 応援席から奈津美が手を合わせた。

 奈津美のお父さんにはいつもミニパトの整備を頼んでいる。

「いいって、いいって鶴、じゃなくて倉橋さん、あの子の才能に惚れ込んでるみたいだから・・・」

 笑いながら相手の様子を見ると、その少女がしきりとアドバイスを受けているのが見て取れた。
 アドバイスの相手は、やはり高校生。

 新人戦でいきなり全国優勝を果たしてしまった、質実剛健学園の内村慎吾だ。
 内村は、一回戦から沙希をマークしており、その子の為に詳細にメモを取っていた。

「両者、前へ」審判が即した

 対戦相手の瞳が面を通して見て取れる。
 格上の沙希に対し、少し緊張した様子・・・。

「その真剣なまなざし、好きよ」
 沙希は心の中でつぶやいた。

「あなた達は十年前の事なんて何も覚えてないだろうけど・・・」


 審判が始めの合図をした。


「でも・・・」

 沙希の表情が、剣士のそれに変わり、竹刀をギュッと握りしめた。



「行くよ。柳井さん!」



          【 完 】

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2010年12月07日 (火) | 編集 |
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   この表紙はデコ次郎で作成しました。



          【 妖刀村正 】



「申し上げます。正門前で座り込んでいた“息子達を返せの会”の集団が、柳井らにそそのかされ、境内への侵入を計って、警備の者と争っております」

「やつらめ、この大事な時に! かまわん、わずか十人程度の過激集団など、柳井もろとも取り押さえて警察に引き渡せ! 宗門の門弟から屈強な者を選んで大人数で排除に当たれ」

 読経を続ける招雲に代わって、そう命じたのは石塚頼茂だった。


 十人程の集団など、倍の人数で排除すれば片が付く。清姫が現れさえすれば、その説得にあらがえる者は殆どいない。それまで抑えつけられればいいだろう・・・。

 そう軽く考えていた石塚頼茂だったが・・・。
 

「さらに申し上げます。百人もの暴走族の集団が連中に加わり正門の強行突破を計っております」

「なにー!」

 そう言えば、先程からエコとは無縁の、やかましいエンジン音が周辺から聞こえていた。

頼茂があわてて修練場を飛びだすと、すでに一部の暴走族は境内に侵入しており、GTRに乗ったいかにもガラの悪そうな総長が竹刀を片手に、追い返そうとする門弟達を逆に追いまわしていた。

「おらおらー! 拉致した女子高生を返しやがれー!!」

 これは鶴姫が動員をかけた、栗の花モータースに出入りする暴走族だった。


「このままでは持ちません。やはり警察に連絡いたしましょう!」

 頼茂もまた、警察の介入に傾きかけた時、招雲が飛び出してそれを阻止した。

「ならん、それはならんぞ!」

 確かに、女子高生を拉致して行っているこの儀式を警察に見られるわけにはいかなかった。


 とはいえ、暴走族はすでに境内に侵入しており、その中心で「沙希ちゃんを返さねえか!」と怒鳴り声をあげているのは、左近の運転するアルファロメオに乗った鶴姫だった。


「鶴姫、左近、もうよいだろう。屋敷に突入して又兵衛を助け出すぞ」

 アルファロメオの後部座席には、柳井としんごも乗り込んでいた。


「しんご、お前はここにおれ、しっかりとこの車を守っておるのだぞ」

 しんごを危険にさらすわけにはいかないと、思った柳井が、機転を利かせ安全な役割を与えた。


「されど、どの建物の中に沙希殿が捕らわれているのでございましょう。左近殿、そなたご存じか」

 鶴姫が少し不安そうに左近を見た。


 その不安を打ち消したのは柳井で・・・、

「心配いたすな。すでにこの館内は探らせておる。又一郎! 又一郎はどこにおる!」

 と、大声で幽霊の又一郎を呼んだ。


「ハ、ここにおりまする」

 現れたのは、ズタボロ(!)の又一郎だった。


「や、これはどうしたことじゃ。霊体のお主がこのような目にあわされるとは・・・」


「招雲めが、落ち武者の亡霊を差し向けて来たのです。だがすぐに奴らの刀を取り上げ、冥土に旅立たせてやりました。老いてもこの又一郎、まだまだやつらに負けませぬ。又兵衛に天下一の剣を教えたのもこのワシですからの・・・招雲めは潜入しているのが私だとは気付かず・・・」


「とりあえず、御無事でなによりでした。それでは沙希殿の救出にまいりましょう」

 武勇伝を打ち切り、行動を即したのは左近だった。

左近にとっては沙希の安全が確保されるまで、気を緩めることはできなかった。

 沙希の存在は左近にとって大きなものになりつつあったのだ。


「そうでありました。今のところ又兵衛は無事なようですが、招雲めは茶室にて頼茂と密談をいたし、又兵衛を別室に監禁していると申しておりました。その後は落ち武者のとの格闘になりましたゆえ、すでに移動しておるやもしれません。茶室まではこの又一郎が案内(あない)しますゆえ、お急ぎくだされ」

「それは助かりまする。では参りましょうぞ」

 鶴姫が樫の木の薙刀を持つ手に力を込めた。

「うむ。ではしんご、しっかりと車を見張っておるのだぞ」

 柳井はそう言い残して、鶴姫や左近と館内に消えて行ったが、残されたしんごとて、はやる気持ちは同じだった。

 オモチャの刀をキッと握りしめると、言いつけも聞かず、柳井達の後を追って車を飛び出したのだった。
 




「ううぬ、頼りがいのない者共よ。かくなるうえは、落ち武者の亡霊らを呼び出すほかあるまい!」

 門弟達のたび重なる敗走にブチ切れした招雲は、ついに儀式を中断し、邪魔者の排除を優先することにした。

「ここは頼茂、お前が死守せよ。我(われ)が戻るまで、何人たりとも娘に近づけてはならぬぞ!」

「ハッ、不測の事態にそなえて、研修所の猛者達を連れてきております。彼らは剣道選手権でも常に上位入賞を果たしている者共。左近に後れなど取りません」


 招雲が立ち去ると、頼茂は修練場の外を守る部下達を中に呼び入れ、入口を固めさせた。

「よいか、必ず猊下のご期待に添うのだ。たとえその身が・・・」

 と、言い終わらないうちに、修練場の中から巫女たちの「キャー」という悲鳴が聞こえた。


「しまった敵が天井裏から侵入でもしたか!」

 頼茂達があわてて修練場の扉を開くとそこにいたのは・・・



 村正を手にして立ちあがった沙希だった!


「なんだ、娘が目を覚ましただけか・・・。あの刀に刃はついていない。取り押さえろ」
 
 ホッとして部下に命令を与えた頼茂だったが、次の瞬間には凍りついてしまった。

 半ば眠りから覚めやらず、フラリと立ち上がっただけの小娘と思って、うかつに近づいた部下が、沙希の放つ村正の一刀によって壁際まで弾き飛ばされ、悶絶して白目をむいてしまったのだ。

「ま、又兵衛が覚醒したのか・・・」

 頼茂には前世の記憶がなかったが、招雲からは当時、武蔵と並ぶ剣豪と聞かされていた。

 そんな又兵衛が、よりによって妖刀・村正を手にしているのだとしたら・・・。

 一瞬、顔が恐怖でひきつりそうになった頼茂だったが、よく見れば相手は只の女子高生だった。

「ひるむな、剣を握ったこともない女子高生が妖刀に操られているだけだ。少々の怪我はさせてもかまわん。木刀で村正を弾き飛ばせば簡単に取り押さえられる」・・・ことはなかった。

 まるで映画の1シーンでも見ているのかと錯覚するような、見事な部下の倒され具合を、あっけに取られて見ていると、突然目の前に白い裸体が現れた。

 頼茂が覚えていたのはそこまでだった。






 一人、柳井達の後を追っていたしんごだったが館内は広く、彼らを発見することはできなかった。

 しかも車に戻る道もわからず、案の定迷子になってしまったのだった。

 自然と涙があふれ、日本庭園の中をとぼとぼ歩いていると茶室があった。

 皮肉な事にしんごは、門弟に阻まれてなかなかたどりつけない柳井達より先に、茶室に来てしまったのだった。その中にしんごの目を引く面白い猫の置物があった。


 茶室の窓は閉まっていたが、ちょうどしんごの背丈の所に、どうやら通り抜けられそうな、風を通す為の小窓があり、そこから侵入することが出来た。

「おもしろい猫・・・」

 カラカラと音の鳴るその置物を振り回すと背中の蓋が開き、中から刺激臭のある粉がこぼれ出た。

「は、は、は、はーくしょん!!」

 しんごのくしゃみは、置物の中に残った粉の大半を吹き飛ばしてしまうことになった。

 慌てたしんごだったが、その時、去年おばあさんの漢方薬をこぼしてしまった記憶がよみがえった。

 あのときは、かわりにほうじ茶を詰め込むことによって叱られるのを回避したのだ。

 幸い、近くに同じような緑色の粉が大量に入った缶を見つけられた。


 しんごは近づいて来る、招雲の門弟を怒鳴りつける声を聞きながら、紙一重のところで置物の中身を満たし、脱出に成功した。


        (続く)
 
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2010年11月29日 (月) | 編集 |
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   この表紙はデコ次郎で作成しました。



          【 柿園招雲 】



「沙希姉たんが捕まった~!」

 不覚にも柳井達が気付いたのは、しんごの叫び声によるものだった。

「しまった! 奴らの狙いはワシではなかったのか。左近、追うぞ!」

 ドカドカと、三人(!)が左近の郵便バイクに乗り込んだものの、追える状態ではなかった。

 すでに沙希をのせた黒塗りのセダンは、猛スピードで走り去っており、いかに左近が運転の名手でも、子供を二人乗せて、それを追いかけることは不可能だったのだ。


「なあに、やつらの行く先は分かっておりまする」

 ふと背後から聞こえた声に柳井がふり返ると、それは空中に浮かぶ又一郎だった。(第8話・又兵衛の父参照)

「おお又一郎、お主(ぬし)まだ成仏しておらんかったか。鶴姫の読経もさほど効果がないのお・・・」

「前にも申しました通り、四十九日までは滞在できまする。ここは私が先行して様子を探りますゆえ、御家老様は鶴姫様と合流して、すぐに駆けつけて下され」

「かたじけない。だが又一郎、敵 細田邦親は、霊力にたけておる。密偵を行うにも十分気を付けよ」

「心得ておりまする・・・」又一郎が中空にかき消えた。




 柳井達が敵とする、細田邦親は 今や柿園招雲を名乗る霊媒師で、日本全国に数十万人の信徒を抱える襲徳無道会の会長でもあった。

 卓越した霊力によって政財界でも信徒を増やし、豊富な財力と人脈で、払い下げられた旧官舎跡地に日本庭園を備えた巨大な教団本部を築いていた。

 その境内を囲う白壁は、まるで城壁を思わせる堅固なものだったが、これは外敵の侵入を阻むことより、洗脳を伴う厳しい修行で脱走を計る、門弟(信者)達を閉じ込めるためのものだった。



「どうやらぬかりなく、成し遂げたようだな」

 教団本部、最深部にある茶室で茶をたてているのは、豪奢な袈裟を着込んだ柿園招雲こと細田邦親だった。

「ハッ、全ては猊下(げいか)の指示通り、小娘の拉致を終え、別室に監禁しております」
 
 床に頭をこするようにして報告しているのは研修会社の指導主任・石塚頼茂だ。

「うむ、清姫の憑り代(よりしろ)は、生前に彼女を知る者でなくてはならぬでな・・・。その役割は幼児である柳井より、女子高生の沙希の方が適任なのだ。我は、人たらしの清姫を教主に仕立て上げ、教団を世界宗教にしようと考えておる。五年もあればそれが出来よう」

「ですが猊下、拉致が長引きますと、やつらだけでなく警察が動き出すことになりましょう・・・」

「心配はいらぬ。今晩にも帰す予定だよ。ただし教団に入信した清姫となってな・・・」

 笑いながらも招雲は、ふと何かに感づいた様子で、床の間に飾られた猫形の茶筒に手をやり、蓋を取ってそこから緑の粉を取り出した。

「左甚五郎の猫の茶筒でございますか・・・見事な一品なれど、なにやら刺激的な匂いが致しますな・・・」

「おっと、くしゃみをされてはかなわぬ。これはな、こういうものよ!」

 招雲は抹茶のような粉末を囲炉裏にくべた。

「どわー!!」

 石塚頼茂が悲鳴を上げたのも無理は無かった。

 囲炉裏の中から落ち武者の亡霊が数体現れ、天井に向かって、あたかも階段があるがごとく駆けあがって行ったのだ。

 とたんに天井裏から、争うような音が響いてきた。

「天井裏にネズミがおったのだ。おそらくは柳井一派の手の者であろう」

「猊下、その技は・・・」

 腰を抜かした頼茂が、平静を装いながら尋ねた。

「天海僧正が秘術・“操魂律令”。僧正は天下平穏を成す為、徳川にこの秘術を授けたのよ。そして我はこの秘術を得る為に徳川に付いた。術を我がものにしたところで家康の首を切るつもりが、斬られてしもうたがな。だが、今生では役立つことになった」

 天井から聞こえる、身の毛もよだつような悲鳴を聞きながら招雲が笑った。

「片づけたか・・・では、憑り代に清姫を宿らせるとするか。頼茂、行くぞ!」



 教団本部の片隅にある、“修練場”は、魂の格を上げる修行の場とされ、本部に合宿している若い門弟達が日夜修行に明け暮れていたが、ここ数日は閉鎖されていた。

 教祖、柿園招雲が神と語る重要な儀式をとり行う為という説明がされていたが、真実は・・・。


「猊下、全て準備が整おておりまする」

 十数人の巫女がいっせいに頭を垂れ、招雲を修練場に迎え入れた。 

 そこには祭壇が設けられ、その中央に沙希が一糸まとわぬ姿で眠らされていた。


「これはまた本格的な儀式でございますな」

 石塚頼茂が沙希の裸体に目を奪われながら言った。


「今回は、柳井の時のように憑依ではなく、完全なる魂の入れ替えを行う儀式ゆえ、それなりの準備が必要なのじゃ」

 そう言いながら招雲は神棚に祭られてあった日本刀を手に取った。

「妖刀村正・・・。これまで、どれほど多くの生き血を吸ってきたことか・・・」

「ゲッ、まさかこの娘の命を・・・」

 さすがに石塚頼茂もあわてたが、招雲はカラカラと笑いながらそれを否定した。

「心配はいらぬ。この刀はもう人を斬れぬよう、刃を全て落としてあるでな」

 招雲は村正の刃をベロリとなめてみせた。

「だが、血に飢えた怒りは、村正の妖力をさらに引き上げておるのじゃ。お前には分かるまいが、部屋全体が妖気でビリビリ震えておるわ。この刀であればこそ生きながら魂を切り離すことができるのじゃ。では、始めるとするか・・・」

 招雲の読経を合図に、数人の巫女が自らの血を村正に注いだ。

 妖刀が不気味な光を放ちだしたその時・・・


 けたたましい騒音と怒声が、静かな聖域であるはずの修練場の中にまで響き渡ってきた。



            ( 続く )

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