自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2017年10月18日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのめっちゃ君です。

   【 猫とトキソプラズマの関係 】
 
「君はジュネーブ議定書を知っているね。だとしたら何故こんなおぞましい物を私の前に出してきたんだ!」
 オランフ大統領は提出された書類を見て激怒し、執務室の机を叩いた。
 
「まあまあ、大統領落ち着いて下さい。君、大統領にお茶でも差し上げて」
 ハノーバー上級戦略官が慌ててとりなし、ボーイを呼んだ。

「ティーパーティは好きだが、関税はかからんだろうね」
 大統領は少し落ち着き、紅茶を飲みながら冗談を言った。
「まあ、話だけでも聞いてやろう。少しぬるいようだが君も飲み給え」
「ありがとうございます、大統領。では私はコーヒーをブラックで」
 上級戦略官は砂糖を断り、芳醇な香を楽しむと一口飲んだ。それからおもむろに書類を広げ、その説明を始めた。

「まず最初に説明をしなければなりません。これは生物兵器ではなく、治療薬です」
「ならばどうして公衆衛生局ではなく君が書類を手にしているんだ?」
「極秘だからです」

「フン、それみたまえ。どうせ軍の研究所から上がって来たものだろう。細菌か?」
「いえ、この兵器もとい治療薬はサトリ茸というキノコが原料で、インド山中のごく限られた地域から取れる貴重な物質です」
「毒キノコなのか? それをミサイルマンじゃなくてコメットマンに飲ますんだろう?」

「ミサイルマンに飲ましても仕方ないですからね。いえ、毒性はありません。また特定の要人が対象でもありません。紛争地域全体にばら撒くのです。培養には成功しましたが大量に必要ですし、容姿という別の問題もあるので煮沸した抽出液を薄めた物になっています。でないと、頭のてっぺんからキノコが生えますので」

「煮沸して薄めた抽出液を、ばら撒くとどうなるんだ?」
「体内に取り込まれると、論理的に話が通じるようになります。寛容さが戻り、中東では一部の先鋭的な教義の流布はなくなり、本来の平和が戻るでしょう。コメットマンは造形技術を活かして北極ではなく、南極1号とか2号を製造するようになるかもしれません」

「そんなバカな。死に至らせる毒ならともかく、人間を操る力などキノコにあるものか」
「そう言われるのではないかと思っていました。そこで補足資料も添付してあります」
 そこには『猫とトキソプラズマの関係』と書かれた資料があった。

「キノコではありませんが、生物が特定の物質で人間の感情をも操るという例としてこのトキソプラズマを上げました。これは猫を最終宿主とする寄生虫です。珍しいものではなく全人類の三分の一の体内にもいると言われています。エイズ患者や妊婦などを除けば、ほぼ無害と言われているものですが、ただこれに寄生されますと・・・」
「どうなるんだ?」
「主な症状としては、猫が好きになります。ですからまあ、人間の場合はさほど問題がないんですが、実はネズミにも寄生するんです」
「すると?」
「猫が好きになります」

「何? そうなったら・・・」
「ハイ、猫の前に平気で現れて食べられるという悲劇が起こります。つまりネズミはトキソプラズマにコントロールされ、自ら猫に命を捧げることになります」
「恐ろしいな。ネズミは寄生虫にコントロールされることがあるのか。だが人間は猫が好きになるだけなんだろう?」

「女性の場合には社交的になり、容姿にも気を使い愛情豊かになるそうですが、男性の場合は嫉妬深くなり、規則に従うのを好まなくなる事もあるとか」
「まあ、猫と共生しているような寄生虫だからな。猫の気質を投影しているのかもしれんな。で、君の言ってることを証明するような統計はあるのか?」
「フランスではトキソプラズマを持っている人が80%、日本が低くて20%ほどだそうです」

「説得力があるな。フランスで民主革命が起きたわけも、感染率の低い東洋で人間が従順なのも説明できる。だが、君は先にサトリ茸が治療薬と言ったが、トキソプラズマに害がないのであれば、なぜ今回のプロジェクトを持ってきたんだ?」
「それはですね」
 上級戦略官が紫色に着色された顕微鏡写真を取り出した。

「これは最近発見されたトキソプラズマの亜種でシープ・トキソプラズマというものです。猫を宿主とする物とは違い、羊を最終の宿主とするもので、これに感染するとドーパミンが泉のように湧き出てきます。性格も変わり、社会の規範、国際的な枠組みを極端に嫌うようになって、自分達だけが正義だと勘違いするテロリストになります。どの羊にもいるわけではありませんが、特定の地域では・・・」

「なるほど。言うことは分かった。生物が出す物質には感情までコントロールするものがあるというんだな。だから毒には毒というわけか。が、シープ・トキソプラズマの感染者だけにサトリ茸を飲ますという事は事実上不可能ではないのか?」
「ですから抽出液の薄めたものを散布するんです。するとこのキノコの出すアンチヘイトキシンという物質によって、様々な考え方を容認できるようになり、人間が丸くなります」

「しかし、今までの話を聞いているとサトリ茸を飲ますべきは偏狭な指導者だけで、むしろそれにおとなしく従う国民には猫のトキソプラズマをばら撒いた方が効果的なような・・・」
 オランフ大統領は、ハッとして目を見開いた。

「待った。まさかとは思うが、だから被験者第一号として私を選んだというオチではないだろうな。例えば先程飲んだ紅茶とかにサトリ茸の薄めたものが入っているとか」

 だが、上級戦略官は落ち着いてコーヒーを飲むと、それを否定した。
「いいえ。大統領に薄めた抽出液なんて効きませんよ。貴方には生きたサトリ茸の胞子をたっぷりと飲んでもらいました」

 その言葉に大統領は激怒した。
「なんだとハノーバー、貴様自分で言ってる事が分かっているのか!」
 オランフ大統領がティーカップを床に叩きつけたその瞬間・・・、
 ポンと頭に小さなキノコが開いた。

「許す!」
 キノコを頭に乗っけた大統領は満面の笑みを浮かべて戦略官を抱擁した。


    ( おしまい )
 
   
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2017年09月20日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチにやって来るハチワレ(仮称)です。

   【 ハエと蚊の役割り 】
 
 大学における研究とは、テーマを見つけ、仮設を立て、検証するということだ。

 研究結果は常に世界初の物でなくてはならず、誰かが発表した後で同じ物を公表しても全く価値がない。
昨今ではそういった意味で研究者は皆、過酷な環境に置かれていると言える。

 原因はコンピューターとインターネットの発展だ。これにより研究者は文献の検索等で大幅な時間の節約ができるようになったと同時に、秒単位で世界のライバルと競い合わなければならなくなり、敏速に成果を上げられない研究者は大学を追われるのだ。


「諸君、山田教授の『南洋・地衣類研究室』が廃止になった」
 一週間ぶりに全国食べ歩きを終え、研究室に戻ってきた内村教授の第一声がこれだった。

 諸君と言われても、この研究室には助手の俺と大学院生の未華子しかいない。
 俺と未華子はお互いに顔を見合わせながら「やっぱり」と呟いた。

 山田教授の『南洋・地衣類研究室』は、表向きは『南洋における地衣類の研究を通し、新薬の開発をする』というものだが、実際の所、教授はサーフィン好きでその為に南洋を選んだだけなのだった。研究所員も皆、今時珍しい小麦色で潮焼けしており、あまり研究熱心とは言えなかった。

「これで今年、我が研究室が廃止されるという最悪の事態は回避されたと言える!」
 教授は胸を張り、未華子は小さく拍手したが、だからといって来年度の存続が約束されたわけでもなかった。

 我が研究室は主に『種の役割と有益性』という漠然としたテーマの研究をしており、山田教授の『南洋・地衣類研究室』と共に廃止リストの最上位にあったのだ。

「しかし教授、大学側からはこの所ずっと、早く研究論文を上げろと催促されています! 目に見えた成果が出ないと明日は我が身ですよ」
 俺は脳天気な教授に、少し危機意識を持ってもらいたかった。
 他の研究室からも誘われている未華子と違って、俺の場合は研究室の廃止=失職=ホームレスだったからだ。

 だが教授は俺の苦言に対し、ニヤリと笑うと、
「心配するな吉田君、ちゃーんと秘策を練ってある」
 と言ってポケットからUSBを出した。

「なんですか? それは」
「名誉教授の丸岡さんから借りてきたI◯M社のAI(人工知能)、『できる君』だ」

「そんな小さい物に入ってるんですか?」
 未華子が目を丸くした。
「そうなんだよ。もっともこのUSBは128ギガもあるけどね」

 教授は得意げだが、それはおそらく機能を簡略化した、『お試し版』だ。
 1週間しか使えないし、規約により研究発表にも使えない。本物の『できる君』はウチのような貧乏研究室で使えるような値段ではないのだ。
 それを指摘すると教授は、
「勿論、分かってるさ。これを起動すると1週間だけI◯M社のスパコンと繋がり、膨大なデーターを検索しながら仮説を検証させることができる。僕はね、今までに書き溜めた多くの仮説を1週間の内に全て検証させてみようと考えてるんだ」
 と得意気に言った。

「例えばどんな検証をさせるんですか?」
「そうだねえ。『絶滅危惧種は食物連鎖上で役割を終えた種か』というのはどうだい?」
「面白いですね。打ち込んでみましょう」
 すると・・・、

A [なんとも言えない。⇒ 種を限定する等、質問の仕方を変えること] 
という答えが帰ってきた。 

「なるほど。では『パンダは食物連鎖上で役割を終えた種か』と打ち込んで見なさい」
A [Yes 現在においてパンダは食物連鎖の傍流を担っているに過ぎず、その見方に於いては有用な種とは言えない] と出た。

「えー、ひどい言い方です。パンダ、可愛いのに!」
 未華子が抗議した。

「だから、食物連鎖上はだろう。客寄せとしては十分に有用なんじゃないの」
 と俺はなだめた。

「では食物連鎖上で最も重要な生物はなんだろう?」
 教授が興味本位で質問を打ち込んだ。

A [答えは、ハエ。蝿は生物の屍処理に最も適した生物である。この役割を代替する者としては菌類が考えられるが、菌類の異常な繁栄は全ての多細胞生物にとって危険!]
 と、出た。

「驚いたな。そういう見方もあるのか。すると蚊も重要な役割があるのか?」

A [答えはYes。 全ての生物の中で最重要な役割を持った働き者]
「だそうな。何故?」
 AIは数多くのデーターから驚くべき推測を述べた。要約すると・・・、

 環境の変化は人為的な物でなくとも、地球上では絶えず起こっており、進化を忘れた種には終末が訪れる。蚊は血を吸うことによってベクターウィルスを感染させ、多種間での遺伝子交流を促進させる役割を担っている。故に蚊が絶滅すると地上の生物も絶滅する。
 ちなみに水中の生物の場合は水事態がウィルスの感染に寄与していて、蚊がいなくても滅びることはない。

 という事らしい。

 教授はこの仮説を気に入り、次の論文は『地球生物の生態連鎖における、パンダの不要性とハエ・蚊の有用性』で行くと言って興奮しているが、パンダを愛する世界中の人々から石を投げられるのが必至だ。
 と、そこで俺はある事に気づいた。

インターネットに繋がった状態のAIで、仮説の証明や研究論文の作成をすれば、それらは全てビッグデーターとしてI◯M社の知るところとなり、同種の研究論文を先に発表されてしまわないのだろうか? また、そんな道義的に問題のある事をしないとしても、各大学の研究室が何を研究しているのかは筒抜けになるに違いない。

 我が慶明大学でも丸岡・名誉教授が、お試し版をばら撒いているとすれば、各教授の研究内容がビッグデーターとして取り込まれていたとしてもおかしくない。

 と、すると・・・。

 俺は試しに、慶明大学において現在最も不要な研究室はどこか? と聞いてみた。
 すると案の定・・・、

A [それは内村教授とその研究室]
 と、予想通りの答えが帰ってきた。
 ウチの研究室の価値は、ハエや蚊には遠く及ばないようだ。

            ( おしまい )

   
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2017年07月26日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのクロちゃんです。

   【 医療用ロボット・プロジェクト 】
 
  無知の知を説いたのはギリシャの哲学者・ソクラテスだ。
人間はどこまで学び、考えたとしてもそんな物はごく僅かで、知らない事の方が多い。
己の無知を知る者は、自分を博学と吹聴する者よりずっと知識が深い。という意味だろう。

 だが、人間の世界では、少なくとも自分がプロであると宣言する分野においては、何でも知っていると相手に信じ込ませないといけない商売がある。
 宗教家や教師、医師などだ。
「私が言う以上、間違いがない」と断言する事は、それがプラシーボ効果を狙ったものなら良いが、時に浅学なるがゆえの思い込みで、人を誤った道に導く者が出るのは問題だ。

 東大阪で産業用ロボット部品を作る、吾妻加工(株)の社長・吾妻和豊(63)のかかりつけ医師もそんな人だった。
 数日前からカラオケに行っても痛くて歌えない等、喉の異常を感じていた吾妻は、もしや癌ではという恐れを抱いて、駅前のかかりつけ医に診察をしてもらった。

「こらあ、なんてことない風邪やな」
 医師はそう言って、うがい薬と解熱鎮痛薬を処方した。正直、吾妻はそれを聞いてホッとし、家に帰って薬を飲み、しばらく安静にしていたが二三日経っても症状は良くならなかった。

「◯X医院は、前からヤブや言うてますがな。悪い事は言えへんから評判のええ△◇医院に行きなはれ」
吾妻は妻に言わるまま、別の医師にかかったところ、今度は
「こらあ、急性喉頭蓋炎言うやっちゃ。要するに甲状腺に炎症が起きとるちゅうこっちゃ」と診断され、抗菌薬とステロイド薬を投与された。
「これできっとすぐに治るでえ」
妻は断言したが、痛みは増すばかりだった。

「こらあかん。俺の病気はもっと悪いに違いない。やっぱり、癌やなかろうか」
もはや大病院へ行って徹底的に診てもらうしか無いと考えた吾妻は覚悟を決め、紹介状を持たずに、名医と評判が高い和田医師のいる大学病院を尋ね、これまでの経緯を述べた後、生検等を依頼しようとしたが、和田医師は、
「これはもしかすると、原因が喉やのうて、心臓にあるんやないか?」と言い出した。

「そんなアホな・・・」
と思いつつも心電図を取ると明らかな異常が示された。
 和田医師は、「心臓の痛みは横隔神経を通じて脳に届く際に、脳が錯覚を起こして、喉の痛みやと思い込む事があるんや」と言った。
結局、吾妻はカテーテル手術を施されて回復。喉の痛みも嘘のように消えた。

「良かったですね。もうちょっと遅れとったら、心停止してたかもしれませんで」
「本当にまあ、お父ちゃん良かったねえ。先生、ありがとうございました」
 妻は何度も和田医師に頭を下げたが、吾妻には割り切れないものが残った。

 日本の医療制度では病気にかかった者はまず、規模の小さな病院か町の診療所で診察を受けることになっている。そこで治せないような重病が見つかると、初めて大病院を紹介される仕組みになっているのだ。
 何故、そうなっているのかと言えば、重篤な患者が速やかに大病院で治療を受けられるようにする為だ。


「それは俺にも分かるんや。けどなあ、今回みたいに専門外の知識が不足しとって、誤診をされたら、患者はたまったもんやないで」
 吾妻はいきつけのスナックでママを相手に愚痴を言った。
「どうしようもないがな。健康に気いつけたらええんや」
「ほな、酒も控えなアカンな。店にもあんまり来られへんようになるなあ」
「そんなん言わんといてえな。ちょっとお酒飲むんは逆にストレス解消にええねんで」
 ママは吾妻のコップにビールをついだ。

「テレビで言うとったんやけど、アメリでは、家庭医ていう制度が定着して、初診を担当する地域の医者は自分の専門分野だけやのうて、診療科をまたぐ知識を身に付けとるそうや」
「何の話やそら?」
「アメリカは大きいよって、専門医制度を取れんていう事情もあったんやろうけど、その方が良かったんやなあ。だいたい患者は素人やから、病気の原因がどこにあるんか分かれへん。ママかてこの間、大腸がんになったかもしれんて騒いどったけど、痔やいうて肛門科に回されたやろ」
「誰から聞いたんやそれは!」
「要するに、内科に行くべきか、循環器科か、それとも精神病院へ行ったらええんか、そんなもん、分からんちゅうこっちゃ。それやったら」
「諦めて死ぬんかいな」
「ちゃうわい! あらゆる知識を持った、スーパードクターが必要やて言うんや」
 吾妻は立ち上がってそう叫んだ。
「そんなもん、あんたが言うてもどうにもならんがな」
ママの言うとおり、それは厚労省の担当分野で、号令をかけるのは政治家だった。
「そらそやな」と、吾妻も椅子に座り直したが・・・、

考えてみると、吾妻の家業は産業用ロボットの部品メーカーだった。
「それやったら、スーパードクターを俺が作ったろうやんけ!」
吾妻は宣言し、「つけっ!」と言って自宅に戻ると、さっそく設計図を書き始めた

が、よくよく考えると吾妻がやろうとしているロボット医師で重要なのはAI(人工知能)であり、その入れ物であるロボット等はさほど重要ではないことに気づいた。
「あかん。AIはさっぱり分からん・・・」

 これがもし他の地域であれば、そこで諦めたかもしれない。しかし、吾妻のいる東大阪は中小企業の経営者が集まって、国家もしくは巨大企業でしか作れない人工衛星を自作してしまうという土地柄だった。
 吾妻は翌週の親睦会で、皆が酒に酔ったところでスーパー・ドクター・ロボット構想をぶち上げた。
「おもろい! やったろうやないか」
 ベロベロに酔った小松沢金属の社長が賛同した。
「ウチも混ぜんかい」「俺んとこも乗った!」
 殆どのメンバーが賛同し、帰ってから妻に報告して「アホかいな!」と怒られた。

 ともあれ、誰もが子供のように熱中し、ツテを頼って大学のAI研究室も巻きこみ、プロジェクトは動き出したが、そんな活動がテレビで流されると途端にストップがかかった。

 本来は一番協力して欲しかった、医師会と厚労省だった。

「そらまあ、考えてみたら当たり前やわな。最近は囲碁でも将棋でもプロがAIに勝たれへんのやから、そんなもんができたら連中は商売あがったりやで」
 と、大松電装機器の三代目が言えば、

「この間も駅前のヤブに行ったら、『アンタもくだらん物に首突っ込んどるらしいな。そんなやつはワシんとこへ来んな。塩でも飲んどれ!』て、言われてしもたわ」
と、園村産業の婿養子が力なく笑った。

「ウチの親会社は、『医療分野が売上の半分以上を占めとるから、お前とこと契約しとるとマズイ』て脅されてしもたわ。せやから悪いけどウチは降りるわ」
 メンバーの大部分が弱気になったが、

ここで戦略の変更を提案したのが、小松沢金属の社長だった。
「ロボットはアフリカ向けや言うたらええんや。アフリカは医師も足らんし、衛生環境も悪い。エボラなんかが流行っとる時は欧米のボランティアも現地に行きたないんやないか? そんな場所で活躍するロボットであって、優秀な日本の医療環境で使うもんやないて言うたらええやないけ」
「せやけど、それは最初の目的やないやないか!」
 吾妻が噛み付いた。

「なんでもええんや。このまま厚労省が協力してくれへんかったら、AI研究しとる大学も降りよる。アフリカが目的やて言うたら、人道上も反対されへんやんけ。それにな、連中も本当は分かっとるはずや。日本がこの研究を辞めたかて、よその国が先行するだけやてな。だいたい囲碁のAIかて、その最終目的が医療用やいうのは、誰でも知っとる事やないけ」
 小松沢金属・社長の意見はなかなか説得力があった。この発言によって、

「週間秋冬が医師会の圧力を取材しとったから、そんな風に説明するわ」
 大松電装機器の三代目が宣言した。
こうして吾妻達のプロジェクトは再び動き出し、NHKでも『面白い試み』と話題にされるようになった。
しかし、この話がアルジャジーラTVによって世界に配信されると、別の問題が持ち上がってきた。

「えらいこっちゃ。スェーデン・カロリンスカ大学の偉い先生が引き抜かれた!」
 日本がこの分野の研究を始めたことを知ると、中国の国営企業やイギリスの研究所が名医と呼ばれる人達の囲い込みを始めたのだ。
診察用のAIは、名だたる医師の診察手順をアーキテクチャー化してプログラムに組み込む事によって成り立っている。
だが、医療もビジネスである為、ライバル達は特殊な疾病の推察方法を持つ医師の手順に、特許のような形で指導費を支払う契約をしていたのだ。
 無論、東大阪の町工場の予算で対抗できるものではなかった。

 しかし、捨てる神あれば拾う神あり。名医の引き抜きがネットで話題になると、
「私はもう現役は退いているが、多少なりともお役に立てるなら協力させてもらおう」
 と申し出てくれた医師がいた。かってNHKのドクターGに出演し、同業の視聴者をも唸らせた名医だった。
 これをきっかけに続々とこのプロジェクトに参加してくれる医師も増えた。
 駅前のヤブ医師までが、「こうなったらワシも協力したろうやないか!」と申し出てくれたが、これは小松沢金属の社長が丁重にお断りした。

 AIのプログラミングが順調に進む中、吾妻達のロボット本体の組み立ても佳境に入った。
 残念ながら今回は二足歩行は諦め、どこかの電話会社のペッ◯ー君のように車輪になったが、手は6本でそれぞれに注射やメスをもたせることもできる。吾妻は阿修羅みたいやなと思ったが、大松電装機器の三代目は「ノース2号かいな」と、マニアックな事を言った。

「診察手順のプログラミングはまだしばらくかかるんですが、駆動系のテストをお願いします」と研究所の学生が言ってきたので、β版ソフトをインストールすると、それまで首をうなだれていたロボットがシャキーンと胸を張り、「ドウ ナサイマシタカ?」と言うではないか。

 吾妻達は小躍りして、どこかに病人はいないかと探すと「今朝から、ちょっと鼻水が出るねんけど、あんたらの為に、ジュースの差し入れ持って来たったで」という、スナックのママを見つけ、ロボットの前に立たせた。
「おい、診察させたら医療法違反やで」
「診察ちゃうがな、駆動検査や」

 ロボットはセンサーのついた指をママの鼻に押し入れると、何やら計算をしだし、診察を下した。
「前立腺炎デスネ。セルニルトン ヲ ショホウ シマショウ」
「エ~、ママは男やったんかい!」
「ちゃうわい、このポンコツ・ロボット!」
 ママはロボットの頭を思いっきり叩いた。

 どうやら、開発の道はまだまだ遠そうだった。


   ( おしまい )

   
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2017年05月31日 (水) | 編集 |
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   写真は記事とは関係のない「ルドルフとイッパイアッテナ」を観るウチのクロちゃんです。

   【 外来種 】
 
「今回、こちらに伺いましたのは、先に伝えましたワクト・プラバ第二星系条約に基づき、新たに判明した外来種の駆除について承認を頂きたかったからです。分かっておられるとは思いますがここで言う外来種とは地球上で移動したアライグマのようなものではなく、他の星系からもたらされた生物及び異星人によって遺伝子操作された生物を言います」
 扇風機のような平顔のパラスカス星人が国連総長に対して、独特の胴体ピストン運動を繰り返しながらそう告げた。

「銀河連盟1等外務官の方にこんな辺境の惑星までお越し頂き、痛み入ります。勿論地球政府は連盟のご意向に従う所存です」
 ボハンギ国連総長は、笑顔を絶やさず、かといって卑屈に見られないよう気を使いながら連盟からの使者に対してそう答えた。イギリスや中国・ロシアなど、会議室にいる10数人の国連大使もボハンギの言葉に逐一大きく頷いて激しく同意している。
『茶番劇だな。初めから逆らえるはずもない』お歴々に紅茶を運びながら俺はそう思った。


 2087年、ワシントン上空に飛来した4隻の巨大UFOに、パニックになったアメリカが攻撃をしかけて滅ぼされた。その際のUFOからの反撃が極めて激烈で、太平洋と大西洋が繋がり、当時のアメリカはアラスカ共和国、ロッキー諸島、ハワイ共和国を残すだけだ。
 アメリカと同盟国であったイギリスや、俺の故郷の日本は、ためらっているうちに、決着が付いたので助かったといえる。

 この攻撃により世界は沈黙し、ニューギニアのポートモレスビーに移された国連が、使者を迎え入れて失礼を詫たことで、地球は連盟の末席に加えてもらうことができた。( 国連が、ロンドンやパリ、東京ではなくポートモレスビーを選んだのは混乱を最小限に抑えるため )以来100年間、地球人は連盟の指導の元、観光を生業として細々と生きている。


「我々は10年前、外来種が持ち込まれたことで一時大混乱になった経験がありますからね。銀河連盟が外来種を駆逐してくださるのは大歓迎と言えます」
「そう、ボグタ星の観光客が持ち込んだパラサイト・スライム。あれは酷かった」
 ボハンギ国連総長の言葉にフランス大使が頷いた。

 パラサイト・スライムは沼の星・ラウンに住むアメーバー状の生き物で、悪魔のスライムと言われている。触れると一瞬で対象の生物を包み込み、体内に浸透するのだ。やがてその生物は遺伝子を書き換えられ、知覚器官のある頭だけを残し、首から下はスライムになる。今でもパソコンの写真サイトには『閲覧注意』と付いた画像が数多く残されている。
この化物を連盟の専門チームが地球上から一掃してくれたのだ。余談だが地球にスライムを持ち込んだボグタの若者は自身がスライム化されラウンで終身刑にされているそうだ。

「で、駆除を予定されているのは、どのような動植物が対象なのでしょうか?」
「まず一つは、地球人がカモノハシと呼んでいる生物です」
パラスカス星の外務官は壁面に写真とDNA解析表を映し出した。
「カモノハシ? カモノハシなら地球に昔からいる生物ですが・・・」
訂正を試みたオーストラリア大使に対し、連盟の外務官はますます胴体ピストン運動を強めながらその発言を打ち消した。

「カモノハシには進化の過程の化石が一切見つかっていないのではないですか? しかもそのDNAには爬虫類、鳥類、哺乳類の系統が全て入っています。(事実です)不思議に思われたことはないですか?」
「そういえば奇妙な生物ではあるな。鶏と同じように肛門・尿道・生殖口が一つになっている単孔類だし、性染色体が5対もあるし・・・(事実です)」
「あれは140万年前に連盟に属さないタミラス星の科学者が、この星で行った実験によって誕生した生物なのです」
「しかしそうだとしても、カモノハシはすでに生態系に組み込まれている。これを排除するというのは、やりすぎではないのですか?」
 諦めきれないオーストラリア大使の言葉に、数人の大使が賛意を示したが、連盟の外務官は容赦なかった。

「地球には強力なウイルス・ベクターがいます。このウイルスは対象の生物のDNAを別の生物に転写する能力を持っています。千年や1万年といった単位では、さほど問題はありませんが、長い目で見るとその星にいる全ての生物に影響を与えるのです」
「そ、それはそうかもしれませんが、すでに140万年も経っているのに・・・」
 オーストラリア大使はギュッと唇を噛んだ。

「で、もう一つの生物とは?」
 国連総長の質問に対し、パラスカス星の外務官は居並ぶ大使達を順番に指さした。
「え、我々人類ですか?」
「バ、バカな!」
「140万年前、あなた方が“ホモ・ハビリス”と呼ぶ霊長類の一種にタミラス星の科学者は、自分達のDNAの一部を移植しました。古い記録によれば宇宙船の事故で故郷に帰れなくなった寂しさを紛らわすために行ったとされています。こうした記録が最近の調査で明らかになったことで、連盟としてもワクト・プラバ第二星系条約を履行しなければならなくなったのです」
 パラスカス星の外務官は冷徹に言い放った。

「ホモ・ハビリスの中から人為的に作られた知性ある種こそがホモ・エルガステルであり、それがホモ・サピエンスに繋がったと我々は見ています。ライフサイクルが極めて短いウイルス等は別ですが、10年以上の動物でこんな急速な進化をした例はありません」
「少し遺伝子が入ったというだけで、我々地球人を抹殺すると言われるのか!」
 中国の大使が激昂した。

「抹殺するとは言ってません。あくまで地球の生態系を守るため、あなた達には人工惑星に移って頂こうと考えています。残念ながら、あなた達は去勢され外部とは隔絶されますが、食料や娯楽施設を与えられ、最後の一人が死ぬまで安楽に暮らしていけます」
 バラスカス星人の言葉で俺は、日本における[特定外来生物による生態系等に係わる被害防止に関する法律]によって、隔離されている交雑種の施設を思い浮かべた。

「もし我々が隔離を拒否したら?」
「残念ながら実力行使となります。その場合は全ての国がアメリカのようになるでしょう」
「生態系を守ると言いながら陸地をなくしたら人間以外の生物も絶滅するではないか!」
 イギリスの大使がテーブルを叩いた。

「地上の生物は多かれ少なかれ毒されています。特に人間の近くにいる動物はウイルス・ベクターの悪戯により、まるで人の様な行動を取るようになっています。あなたがたが拒否された場合、我々は海洋生物のみを守ることになるでしょう」
 パラスカス星の外務官の言葉によって、俺は実家にいるオッサン臭くなったシロを思い出した。

「いかんせん、我々に勝ち目はありません。やつらには重力砲があって、狙ったプレートを千メートル沈下させることができるんですよ。ここは他の生物を守る為、人間が犠牲になるしか無いのではないでしょうか」
 一人の大使が弱気なことを言った。

「ありえん! 我が国は断じて自国を守るぞ!」
 それは勿論、どの大使もできればそうしたいと考えているだろう。
「ではあなたは、どうやって彼らと戦うんです? アメリカが3分で消滅したというのに」
 そう言われると、大使達全員が押し黙った。そんな中、

「拒否します!」
 俺は思わず大声を上げていた。
「君は誰だ? ボーイか。何の権限があって勝手な事を言っているんだ。退出しなさい」
 国連事務総長がガードマンを呼んだ。

「俺は、ここでアルバイトをしている国連大学の学生で、銀河連盟法を学んでいる者です。連盟法ではこういった場合、加盟惑星が異議を唱えて裁判を起こす権利を有しています」
「何、そんなことができるのか?」
 大使達がいっせいにパラスカス星人を見ると、俺の発言を聞いた外務官は天井にも届くかと思われる程の胴体ピストン運動を繰り返していた。それは誰の目にも動揺しているように見えた。

「君、裁判になると勝てる確率は?」
 大使達の目が今度は俺に突き刺さる。
「正直に言えば、ワクト・プラバ第二星系条約はかなり重要な条約ですので、このままではまず勝てません。ですが、連盟での裁判は長引くのです。地球時間で言えば数百年は続きます。その間に・・・」
「なるほど。我々も反陽子爆弾等を開発して、やつらに対し恫喝外交をやるのですな」
 どこかの大使が言った。

「いえその逆です。数百年の間に様々な星系と交流し、味方を増やしていくのです。そしてあらゆる惑星の知的生命体が様々な要因で繋がってきたことを証明し、地球人にのみ向けられた不当な扱いを訴えていけば、やがて未来が見えてくるはずです」
「それで行こう!」
 国連総長のボハンギが力強く俺の肩を叩いた。

 パラスカス星人はと見ると、天井に頭をぶつけて泡を吹いていた。

                    ※・・・この物語はフィクションです。
     ( おしまい )


   
y001
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2017年04月29日 (土) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのシマポン親子です。

   【 英雄との遭遇 】
 
「宇宙船カリエトは現在、減速してネオアースからわずか100億キロ付近を航行中。まもなく乗員はコールド・スリープを終え、ひと月後にはこちらに到着すると見られます」
 航宙局のマクナガン長官の言葉に会議室はどよめいた。
「ついに我々は600年前の英雄と対面できるのか」
 行政長官である私のみならず、誰もが感慨ひとしおだった。

 カリエトは2115年、人類がまだ火星や木星の衛星エウロパの海に都市を築いている頃、大いなる夢を抱く若者数十人と移住に必要な機材、植物の種、数々の動物の冷凍卵を乗せて11光年離れた地球型惑星Aq77cに向け、帰らぬ旅に飛び立った初めての恒星間宇宙船だ。
 ワープ航法も確立されていなかった時代、スイングバイ航法によって光速の約50分の1にまで加速し、600年をかけて到達するという壮大な計画を持って送り出された大冒険時代の船なのだ。

 だが、宇宙工学の進歩は彼らの勇敢な試みをさほど意味のないものに変えてしまった。
 タイタンの権益を巡る紛争によって飛躍的に発展した技術はついに人類にワープ航法をもたらせ、新たな植民船は先に旅立ったカリエトを安々と追い抜き、わずか数ヶ月で、今我々がネオアースと呼んでいる星(Aq77c)に降り立った。

 それから600年、Aq77cの開発は進み都市が出来、森が生まれ、生命の痕跡がなかった海には地球から運び込んだ幾多の海洋生物が爆発的に繁殖した。Aq77c改めネオアースは文字通り、第二の地球として歩み出し、新たな宇宙開発の拠点となって繁栄し続けている。

 勿論、人類は勇敢な冒険者達を乗せたカリエトを忘れたわけではなく、回収すべきかどうかの議論はされていた。しかしカリエト本体に起きた何らかのアクシデントで、その位置が数百年間も分からなくなっていたのだ。それが数ヶ月前、個人所有の宇宙クルーザーによって、我々の住むこのネオアースから900億キロの地点で発見されたのだ。

 船体は隕石による破損でかなり損傷を受けていたが、一見したところ、居住空間には問題がなさそうだったので、派遣されたパトロール船が寄り添う形で見守ってきた。
 そのカリエトがもうすぐネオアースに降り立つのだ。

 ここでふと我々はカリエトに乗る600年前の英雄をどう処遇したら良いのかという問題に直面した。

なにせ彼らが飛び立って数年後に開発されたワープ航法によって、彼らが人類で初めて降り立つはずであったAq77cは人口30億人の賑やかな惑星に変貌しているのだ。
つまり本来彼らが得るべきであった栄誉も0からの開発という生きがいもすでに無い。
我々が彼らの立場であれば全てを捨てて夢にかけた600年は何だったのかと落ち込むのではないだろうか。

「彼らをネオアースの砂漠地帯に誘導し、そこで初めての開発という夢を見てもらってはどうか」というバカげた意見も出たが、600年前の技術でもドローン等を使い星の隅々まで見渡すことも可能で、本当のことが分かった時点で彼らは激怒するだろう。そこで・・・、

 ここは正直に人類初の恒星間飛行を成し遂げた英雄として、その業績にふさわしい地位と生活基盤を与え、本を執筆してもらったり、銀河テレビに出演してもらったりして栄誉を称えるのが良いのではないかという結論に達した。

 一月後、万全の体制を整えて我々はカリエトを待った。600年前の資料からカリエトがAq77cのどの地点に降りるのかが分かっていたので、その付近にあった数軒の農家には移転してもらった。
(なおこの時、『立ち退きをしてもらうのが農家だから良かった。これが有力者の邸宅であれば』云々と言った行政官はクビになった)

 空の上から遠目に見ても傷だらけのカリエト本体がゆっくり垂直着陸をしてきた。すでに船体の大部分を占めるエンジン部分はネオアース突入前にすでに切り離している。
 我々は「ヒーロー歓迎!」と書いた横断幕を上げて数万人で待ち構えた。

 だが、ドアが開いても誰も降りてこなかった。
 無理もない。無人の荒野に降り立つはずが、宇宙人(!)数万人に取り囲まれているのだ。
勇敢な冒険者といえども面食らうことだろう。そこで・・・、

 私は志願した女性行政官ら数人と共にカリエトの中に乗り込んだ。

 が、中で見たものは・・・、想像されたよりも酷く損壊した移住区と、ケースまで破壊されたコールドスリープ装置。そしてそこに眠る56体のミイラだけだった。

「なんてことだ。英雄達はすでに全員が亡くなっていたのか」
 私は落胆し、船を降りようとした。とその時、一人の行政官が声を上げた。

「長官、このコールドスリープ装置はまだ機能しています」
 それは通常サイズのコールドスリープ・カプセルの約2分の1の大きさで、唯一壊れておらず、目標の地点に降りたというのに未だ凍りついたままだった。

「子供も乗っていたのか。たぶん大人達が基地を開設してから起こす予定だったのだろう。だが、大人達が全員死んだので起こされることもなく眠り続けているんだ。早く起こしてあげなさい」
 私は後から船内に入ってきた、当時の機器を扱える技術者にそう命じた。

 白い氷に閉ざされたカプセルを温風が包み、やがてそこに眠る者が姿を表した。

「子供じゃありません。猫です! 生きています」
 技術者がピクリと動いた猫を見て驚いたように叫んだ。
 成人用のコールドスリープ装置に寄り添うように置かれていたその小さなカプセルは、おそらく、その人が可愛がっていた猫だったのだろう。首にはチャコと書かれたリボンが巻かれていた。

 もし我々が先にこの惑星を開発していなければ、このまま何千年も眠り続けるか、生命の全く存在しない星で唯一人死の時を待つしか無かったろう。

「あなたが連れてきたチャコちゃんは、我々が大事に育てます。この星には猫がすでに沢山いるので、チャコちゃんの友達もすぐにできますよ」
 私は猫のカプセルの隣で眠るミイラにそう言った後、恐る恐るチャコを抱き上げると、小さな英雄はミャウーと鳴いた。

 ようこそ、ネオアースへ。長旅ご苦労様でした。

      ( おしまい )

   
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