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自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2018年06月06日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのめっちゃ君ともんちゃんです。

  【 教えて ベンベン 】 
 

「オッケーベンベン、教えて。ハンガリーの首都はどこ?」

「その声は小堀貢(みつぐ)さんですね。答えはブタペストです」

 孫の貢は、数日前に嫁が契約してきた人工知能のベンベンを気に入ったようで、終日利用する。

 今も小学校から渡された『サマースキル』(昔風に言えば『夏の友』)の答えを、テーブルの上に置かれた土偶型のベンベンに聞いているのだ。

 ベンベンは若い女性の声でやさしく答えてやるので、目をつぶってやり取りを聞いていると、まるで我家に家庭教師がいるようだ。

 しかし、学校の宿題の答えをそのまま教えてもらうのは、さすがに良くないと思った俺は、

「そういうのは本で調べて書きなさい」と注意すると、貢はキョトンとして「本ってどれ?」とタブレットを掲げ、電子書籍のタイトルをズラズラ並べた。

 そうだった。そういえば近頃は教科書も参考書も電子書籍だ。

 以前、孫の部屋を覗いた俺は、学習机の脇に本棚がないばかりか、机の上にすら本が無いのを見て愕然としたことがある。

「いいんですよ、お爺さん。私達の頃ならネットで調べるのが当たり前だったんですけど、最近はどの子も人工知能を利用するみたいですから」

 嫁はそう言うが、あまり安易な方法に頼ると貢の脳みそが退化するのではないか? 

 そこで俺はちょっと前に貢が質問したカンボジアの首都を覚えているか聞いてみた。

 すると・・・、

「その声は小堀健三さんですね。答えはプノンペンです」

 と、ベンベンが艷やかな声で答えるではないか。

「お前に聞いてない」

 俺が怒鳴るとベンベンは「英語に翻訳します。Do not listen to you! です」と言った。
「違うだろ俺は、ま・ご・に・・・」

「おや、マレー語がご希望でしたか。Jangan mendengar kepada anda! です」

 ムカついた俺がベンベンにグーパンチを食らわすふりをすると、ベンベンは急に赤く光り出し、「警告、警告! 私を壊すと器物損壊罪に問われる可能性があります」と、大昔に見たアメリカドラマ・宇宙家族ロビンソンに出てくるフライデーのように叫んだ。

 そういえばベンベンはウチの所有物ではなく、レンタル品だった。

 最近はどの家でも、アレ◯サを搭載したam◯zonのエコーだとか、グー◯ルの人工知能付きのスマートスピーカーが置いてある。

 これらは2万円程度、機種によっては1万円以内で手に入るので買っても高くないが、ベンベンは無料のレンタル品で、しかも置くだけでポイントが貯まるというお得な人工知能だ。主婦の間では大人気らしく全国の家庭に置かれているので、嫁が電気屋で契約してきたものだ。

 しかし、俺は昔気質で、無料の上に特典まであるというのが引っかかった。

 製造元はテレビでよく聞く、海外に本社がある通販会社、『便COM商事』のようだが、だとすると物品販売が目的に違いない。案の定、ベンベンは家に来て二週間を過ぎた頃から、家族の会話を盗み聞きして、商品を売りつけ始めた。

「お爺さん、山下さんからお婆さんの初盆のお供えが届いてるんですが、お返しはどうしましょうか?」

 呼び鈴に答えて玄関に走った嫁が水羊羹の詰め合わせを手に、戻ってきた。

 するとベンベンは、俺が答えるより早く、

「山下さんへのお供え返しはベンベンにお任せ下さい。大人気、渓水閣のそうめんはいかがでしょうか? お値段は1000円、1500円、2000円とあり、別途消費税と郵送料がかかりますが、ベンベンからの注文だと2000円以上の品では郵送料がかかりません」と言った。

「あら、便利。お爺さん、ベンベンの勧めるそうめんにしましょうか」

 嫁は安易にベンベンの提案に乗ったが、俺はどうにもやり方が気に入らないので、

「そういうのは届くかどうか心配だから、デパートからにしなさい」と言うと、

「デパートに行かなくともベンベンなら安全かつ敏速にお届けできます」と口を挟む。

 俺も意地になって、

「いい。俺が行ってくるから、こいつからは買わないように」と言って家を出た。

 デパートでそうめんを山下さんに送っての帰り、ロボット相手に憤っている自分がおかしくなり、次回はベンベンから買ってやるかと思ったのだが、家に帰るやいなや気が変わった。ベンベンが嫁に化粧品を売りつけていたのだ。

「小堀浩子さん、最近お肌の悩みを抱えてはおられませんか? そういう方にはビィジームZ。こちらは、一流薬品会社とタイアップした乳液で、トラネキサム酸によってシミを無くし、さらにレチノールやセラミドの効果で弾力性のあるお肌を作ります」

 俺は明らかに興味を示している嫁を制し、ベンベンを抱えるとスイッチを探した。

 が、スイッチが無い。そこで俺は本人(?)に聞いてみることにした。

「おいベンベン、お前のスイッチはどこにある」

 するとベンベンはケラケラと笑いだし、

「私にスイッチはありませんよ。小堀健三さん。体内のリチウム電池と室内の蛍光灯からの発電で数年は充電無しで使えるようになっています」と答えたのだ。

「それより、小堀健三さんにお勧めの商品があります」

「いらん!」

 俺はそう言い残して奥の部屋に引っ込もうとしたが・・・、

「小堀健三さんの、インターネット検索データーから、『日活ロマンポルノ・DVD全集』はいかがでしょうか? 大内達夫さんも大絶賛の海外ポルノもございます」と色っぽい声で言い出した。

「ちょっと待て。いつ俺がポルノサイトを検索した? それに大内達夫って誰だよ」

 だが、ベンベンは俺の抗議を無視して「グラビア写真集の熟女物もございます~」と言う。

 これは明らかにベンベンが俺を敵視し、嫌がらせをしているに違いない。

 そう思った俺は、事情が分からず「まあ、お爺さんたら」と、クスクス笑っている嫁を置いて奥の和室(仏壇が置かれた部屋)に戻り、年季の入ったノートパソコンで、『ベンベン 評判』とググった。

すると、出るわ、出るわ・・・。

 コメントによると、

「これは悪のAIです。やつの勧める商品を買わないと家族の前でポルノを勧めてきました」

「私の場合は、友だちの前で、尿漏れパンツの特売日です~と言って恥をかかせました」

「僕は、ゴキブリが首筋に乗った妻の悲鳴を録音され、DVの疑いがあると通報されました」

 やはりそうか・・・。

 俺は確信して家の無線LAN・ルーターを切ると、ノートパソコンをオフラインにして、表示されたベンベンに関するコメントを嫁に見せた。

 しばらく読んでいた嫁は青くなり、「契約を解除して、別のスマートスピーカーを買ってきます」と言ってベンベンを箱詰めし、元の電気屋に持っていった。

 やれやれ、これでひと安心。

 そう思って残りのコメントを見ると、さらに酷いことが書かれていた。

「恐ろしいのは契約を解除した後のことです。私を恨みに思ったのかベンベンは、全国にあるベンベン達と連絡を取り合い、私を貶める作戦を開始したのです(大内)」

 今頃全国の家庭に置かれたベンベンが、かってに俺の名を使って「小堀健三さんも大絶賛の熟女物グラビアはいかがでしょう?」なんて宣伝していることだろう。

           ( おしまい )

   
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2018年05月30日 (水) | 編集 |
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写真は記事とは関係のないウチのチビポンとシマポンママです。


  【 ガイダンス(進路指導) 】 
 

 ザブト・バッキャは見た目がちょっと怖い。身長が3メートル少々、体重約400キロ。表面が粘液で滑(ぬめった)った灰色の肌、頭の周りに均等に散らばった八つの目は落ち窪んで白目がち、鼻の穴はやたら多く、口は、(もしそれが口だったとすれば)、例えていうなら赤塚不二夫の漫画に出てくるダヨーンのおじさんの様(ただし中央の肉柱を起点に360度どこからでも開く)といった具合。そう、ザブトは地球人ではなく、星間連邦屈指の文明星・ヒハナブラ星人なのだ。

 だが、その見た目とは裏腹に5級文明しか持たない地球人に対し紳士的で、この地域では日本語が話されていると知ると、日本国のネゴシエーター(交渉人)である田中昌や記者達に対して、英語ではなく流暢な日本語で話してくれた。声の質も穏やかで、誠実な印象を与えるようにトーン調整をしているようだ。

「星間連邦では遺伝子操作が禁止されているので、こういった植物の栽培は違法になります。掛け合わせの品種改良はケースバイケースといったところでしょうか」

 ザブトは遺伝子組み換えで巨大化したトウモロコシを長く細い手に取り、そう言った。

「例えて言うならば人間がミルクを絞らなければ乳房が際限なく膨らむ牛とか、毛を刈らないと動きが取れなくなる羊等は自然界に存在してはいけないのです」

 我々はザブトの言葉を一言も漏らすまいと、ボイスレコーダーを彼の口らしきものに向けた。


 人類は10年という猶予期間の間に連邦基準にあった社会変革を遂げなければならない。そうでなければ等外文明として監視対象種族、酷い場合は畜産動物に降格という運命が待っている。

 一例を上げれば、恒星カンビウスの第二惑星を支配していたダックン帝は、夜郎自大で、連邦の意思に従わなかったばかりか、派遣されたヒナハブラ星人を切り捨てた為に、知的生命外種と見なされ、狩猟ゲームの対象にされてしまった。その結果彼らは、今やアンタレス周辺にある宇宙酒場の名物パイの材料に、革は安価な敷物として土産物屋で売られている。


「勿論地球人にも生命倫理に関する基準はあるかと思います。しかし田中さん、ここは異を唱えず私の言うことに従って下さい。遺伝子操作種、全面的人間依存型の家畜等はその個体種が命をまっとうするのを待つ。新しい生命を生産してはなりません」

「というと、ホルスタインのような牛、メリノ種のような羊も今生きている個体を抹殺しなくて良いのですね」

 田中は少しホッとした。

「勿論です。彼らだって生きています。必要以上に殺処分する必要などありません!」

 ザブトのその言葉は、田中や秘書官、そして周りの記者達に大いなる希望を与えた。

 この恐ろしげな風貌の宇宙人が、やさしい心の持ち主であることが分かったからだ。

「もう一つ、外来種は本来の生息地に戻すこと。これはそうしないと元々その地域にいた、同種の生物の絶滅を招くからですが、地球ではどのように規定されていますか?」

「地球でもそれが理想と考えられています。ですが・・・」

 私は答えに詰まってしまった。というのも日本中のアライグマやアメリカザリガニやブラックバス、ミドリガメ等を全部捕まえることすら困難なのに、それらを生きたまま本来の生息地に返すなんて出来ようハズが無いからだ。種によっては捕らえ次第、殺処分にされている。

 だが、もしそれを言ってザブトを怒らせてしまったら・・・。

「おや、実行されていないのですか?」

 ザブトは不思議そうに尋ねた。答えに窮した田中に変わって答えたのは一人の記者だった。

「そうしたいのはやまやまですが、技術的に困難なんです。数が多くて。ブラックバス等は釣り上げた個体は持ち帰って食べるか殺処分して畑の肥やしにしています」
 
 するとザブトは「なるほど、なるほど。確かに間引きも必要かもしれませんね」と頷き、

「ならば、我々がお手伝いしましょう。ヒハナブラのボランティアは染色体レーダーを持っており、簡単に捕獲することも、また捕らえた個体を一挙に運ぶ技術もあります。うまくいけば数ヶ月で日本中のアライグマやウシガエルをアメリカ国に送り、向こうからは野生化して増えてしまったニホンザルや葛、サクラ等をこちらに送り返すことができます」

 その言葉に田中は少し引っかかりを感じた。

「サクラ? もしかして1912年に日米友好の為ワシントンDCに送ったサクラを日本に送り返すということですか?」

「それは勿論です。あのサクラはSSR比較法で日本原産種のソメイヨシノと分かっていますので」

「いや、しかし。それは・・・」

「田中さん残念ですが、星間連邦は例外を認めないのです。同じ様に日本中にあるサボテンはメキシコに、シクラメンはヨーロッパに送り返すことになります」

 さっきケースバイケースも有り得ると言わなかったか? と田中は突っ込みたかったがここはグッと我慢した。

「それから、言いにくいのですが、人間・・・、要するにホモサピエンスがアフリカ原産であるのはご存知ですね」

 ザブトはとんでもないことを言い出した。

「いや、だって鳥でもそうですが連れて来られたのではなく自主的にやってきた、あるいは自然に種が飛ばされて自生した生物は別ではないですか?」

「田中さん、もしかしてホモサピエンスが自主的に海を渡ったとお考えなのですか?」

「え、でも我々はそう習いましたが・・・」

「あなた達が知らないのも無理はありません」

 ザブトは大きく首(?)を振って、いくつもの鼻からため息を吐き出した。

「ですが残念ながら、田中さん達のご先祖のホモサピエンスを各大陸に運んできたのは、あなた達が『グレイ』と呼んでいる、不良宇宙人なんです。本来ヨーロッパにはネアンデルタール人が、インドネシアにはジャワ原人が、中国には北京原人が、この日本には明石原人が住んでいました。ネアンデルタール人を例に取れば、我々は数万年前に滅びかけた彼らを保護し、人工の惑星で増やしてきました。準備が整い次第、彼らを元の生息地に戻してあげるつもりです」

「そんなバカな。ネアンデルタール人はともかく、他の原人はホモサピエンスと時代が違う」

「知的生命体の要因がなく、自然に滅びた種は対象外ですが、それでもホモサピエンスには故郷に戻ってもらわないと・・・」

「つまり、80億人もいる人類全部をアフリカに閉じ込めると?」

「正確に言えば、今のサハラの辺りです。南部には同じ霊長類のゴリラがいますので」

「しかし今の人類ならばすぐにアフリカを自主的に出て元の国に戻って来ますよ」

「星間連邦は千年間、それを禁じます」

「それでは我々は飢え死んでしまう!」

 記者の一人が大声で抗議した。

「大丈夫ですよ。我々の手で少し間引いて差し上げますから」

 そう言ってザブトは巨大な口を開き、その記者を丸呑みにした。


           ( おしまい )

   
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2018年02月14日 (水) | 編集 |
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 写真は記事とは関係のないウチのめっちゃ君です。

  【 幌鷺村・大雪騒動 】 
 

「困った。まさに想定外の大雪だ。村人からはなんとかしてくれと悲鳴が上がっているが、役場の者たちが総出で雪かきをしても後から後から降り積もってどうにもできない」

 防災服に身を包んだ幌鷺(ほろさぎ)村の吉川村長は疲れ果てた様子で頭を抱えた。

 地球温暖化が叫ばれて久しいが、幌鷺村では夏も気温が上がらずで米は不作だったし、この冬は氷点下の日が続いている。温暖化どころか、どこかの学者の言っていた小氷河期が来ているんじゃないのか? 吉川はそう愚痴らずにはいられなかった。

「村長、お年寄りの多い米山地区ではもう3日間も移動販売車が来ておらず、ガスはなんとか持ちそうですが、食料が心もとなくなっています。しかも電柱が雪で倒れて電気が供給できませんので、テレビも見れずガラケーだけが頼りとか」

 助役の須藤が疲れきった顔でそう言った。

「自衛隊や県警に救援を要請しているのか」

「現在各方面に出動中だそうです。国道や幹線道路が優先とかで、もう少し待って欲しいとのことです」

「じゃあ、米山地区の人にはスノーモービルを出して、中央公民館に非難してもらえ」

「スノーモービルなんてウチの村にはないですよ。元々『椰子の実ジュースの飲める日本のパラオ』で村おこしをしていたぐらいですから、除雪車だって耕運機を改造したのが1台あるだけです」

「渓流下りのラフティング用のゴムボートならあります!」

 そう提案したのは観光広報課の女性事務員・浦部だった。

「川は凍ってるだろうが!」

「ええ、ですからソリの代わりにして犬に引かせます」

「犬?」

「例えば村長が飼ってらっしゃる大五郎君です」

 浦部が奥の村長室に設置されたアラジンの対流式セキユストーブの前で丸まっている犬を指差した。

「パグ犬に引かせると言うのか。だったら君のとこにも犬がいるだろう? 昨日バス停前のスーパーでペディグリーチャムを買ってるのを見かけたぞ」

「ウチのルーカスはトイプードルです!」

「じゃあ、大五郎とルーカスと、言い出しっぺのお前がお年寄りを乗せたゴムボートを引け」

「・・・。やっぱり無理ですね・・・」

「他に何かいい案は?」

 その時、オズオズと手を上げたのは普段は全く目立たないの総務課の久保田だった。

「実は先程、除雪車を貸してくれるという会社から電話があったんですが・・・」

「なんで早く言わない! 今やってる会議が次の慰安旅行に熱海に行こうか白浜温泉に行こうかという議題だとでも思ったのか?」

「いえその、先方がずいぶんと遠慮がちな言い方で、会社の名前も伏せていましたし、実験段階の除雪車というのも怪しく、詐欺ではないかと・・・」

「詳しく聞かないと分からないじゃないか。とにかく今はワラにもすがりたい気分なんだ。それに実験機ならタダで除雪してくれるかもしれん。電話番号は控えてあるんだろうな」

 吉川村長がとりあえず説明を聞こうと電話してみると、相手の会社はたいそう喜んでくれ、このプロジェクトは某国立大学や国が蔭で支援してくれていて、今回はデーター取りも兼ねているので、無料で引き受けるということだった。

 しかも除雪車はすぐにでもスタンバイできる状態になっており、大型バス程度の大きさながら、並の除雪車の十台分以上も性能があるということだった。

 だとすると断る理由はない。

「それは願ってもない。すぐにお願いします」

 吉川村長がそう言うと、相手企業は二つだけ条件を付けてきた。

 曰く、実験中の物だけに、企業秘密もあって作業領域の100メートル以内には近づかないようにして欲しいということ。それとデーターを取るため除雪車の走る村道を一筆書でなぞれる(つまり同じ箇所は二度通らない)ように準備して欲しいということだった。

「そりゃまあ、実験ということなら、そういうこともあるでしょう」

 吉川はなぜ一筆書きにそれ程こだわるのか不思議に思ったが、とりあえず承諾した。

 数時間後、大型ヘリに吊るされてやってきた雪上車は、少し異様な形状をしていた。

 前方にはラッセル車のような扇風機が備え付けられており、荷台にはバキュームカーのタンクを縦に付けたようなものを背負い、その周りをチューブがグルグルと囲んでまるでカタツムリのようだった。

「なるほど。こりゃあ試作機だな」

 吉川は役場の窓から、その無骨で奇妙な車を遠巻きに眺めて苦笑した。

 だが、ヘンテコな形状にもかかわらず、その除雪車はすごかった。

 というより、それは除雪車というより雪原熔解車とでもいうべき代物だった。なぜなら、

 通常の除雪車の場合は前方の大型扇風機のような装置で取り入れた雪を、そのまま周りに吹き飛ばすだけなのに対し、この車両は一旦車内に取り込んで雪を溶かし、高温のお湯にして周りにばら撒くという仕組みだったのだ。

 強力無比の破壊力で、車両の周りは湯けむりが立ち、たちまち役場前大通りはアスファルトの路面が現れた。

 それだけではない。なんとこの車は途中で電線が倒れて電気の供給の滞っている地区に車内で発電した電気を蓄電池を通して供給してくれたのだ。

 ただ、その正体が気になった。

「村長、あのタンクの側面にある黄色い『三枚羽・扇風機』のマーク、気になりませんか?」

 浦部が役場の窓から双眼鏡を覗きながら言った。

 それは吉川も少し気になっていたところだった。どこかで見たことがある。そう、それはハザードシンボルというやつだった。そういえば車の周りで作業している者たちも頭から足先まで全身を白い防塵服で覆っている。

「あれ・・・、原子力除雪車ですね・・・」

 助役の須藤がポツンと言った。

「グッ、まあいい。俺たちは何も見なかったし、聞いてもいなかった。とにかく作業が終わったらお礼を言ってさっさと帰ってもらおう」

 だが、そう簡単には終わらなかった。


 役場前の大通りにあった雪が除雪車によって綺麗に片付けられたという情報に勇気づけられた横町商店街の店主たちが「わしらも協力しよう」と一致団結し商店街の表通りの雪を除雪車が来る前に片付けてしまったのだ。

 それを見た他の地区の人達もこれにならった。

「村長、約束が違う! 除雪車の前方の雪が全部片付けられてるじゃないですか」

 役場の中に白い防塵服の男が一人、血相を変えて駆け込んできた。

「すまない。確かに片付けられてしまった場所はデーターが取れないな。急なことで住民には、よく伝達されていなかったようだ」

「そういう事じゃない。雪がないと車の中心部の温度が上がるんです。だからあれほど一筆書きができるようにコースを設定して欲しいと言ったのに。どうしよう。除雪車が雪のない場所を通る事になる」

「そうなると?」

「冷却材の雪が無いと、最悪、炉心熔解を起こして、放射能漏れと水素爆発が起こります」

 これを聞いて、役場の職員全員があんぐりと口を開けた。

「しかし、ヘリコプターで運んできた時は・・・」

「ヘリコプターには強力な冷却装置がついていたんです。でも今は冷却材の交換で基地に戻っています。すぐには引き返せない」

「まあ大変・・・」

 浦部が他人事のように言った。

「じゃあ、どうすれば・・・」

「こうなれば人海戦術しかありません。申し訳ありませんが村で動ける人は総出で除雪車0の前に雪を用意して頂きたい」

 浦部がそれを聞いて、村の防災無線室に駆け込んだ。

 戦後初めて村に総動員礼がかかった。

 雪を片付けて、ちょっと一服していた商店主達も学校の子供達も、コタツに入ってミカンを食べていたお年寄りも、パグ犬の大五郎も、トイプードルのルーカス君も、脇坂農園の牛豚もゴムボートに雪を乗せ、除雪車の前にひたすら運んだ。

 おかげで、数時間後にヘリコプターが除雪車を迎えにやって来た時には、米山地区の一番小高い山裾まで、雪はきれいに無くなっていた。

 こうして南国・幌鷺村の雪騒動は終りを迎えたが、翌日綺麗に除雪された商店街で営業している店は殆ど無く、通りは閑散としていた。

 唯一賑わっていたのは、森永整骨院で、ここには湿布薬を貰おうとする村人が列をなしていた。

           ( おしまい )



 参考までに・・・最も小型の原子炉はアメリカARSC社のUTRという機種だそうで、炉心の大きさは70cm×60cm×50cmと超小型。現在も研究用として近畿大学にあるそうです。
http://www.ele.kindai.ac.jp/utr-kinki/

   
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2017年11月15日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないシマポンママとクロちゃんです。

   【 感知器 】
 
 「猫の目は、光を感知する杆状体(かんじょうたい)が人間より発達しているものの、色を見分ける錐体(すいたい)細胞は二種類しか無いので三種類持つ人間と比べると、緑や赤が鮮やかに見えません。その為、彼らは一般的に色弱であると思われがちですが、そうとも言えないのです」

テーブの上に科学雑誌や論文を広げて、全国賃貸住宅連盟の山下会長に説明している田辺教授は、獣医学博士ではなく超常心理学者だった。

「確かに猫に花を見せても色あせた写真のようにしか見えないかもしれませんが、光を認識するのは脳なのです。人間は脳の中で、本来は入ってきた情報を遮断している可能性があり、猫は遮断しないので紫外線等は人間よりもよく見えているという研究結果もあります。まだ脳の発達過程にある幼児が、あらぬ方向を指差して笑うのもそのせいでしょう」
「そ、それはウチの孫がよくやっています」

 山下がブルっと震えた。田辺教授は満足そうに頷くと話を続けた。

「また猫はフリッカー融合頻度が高い事から人間の目には滑らかに動いているように見えるアニメーションも猫の目には高速で点滅しているだけに見えます。その能力ゆえ猫達が何もない壁を凝視している時には、そこに異物が潜んでいる可能性があると私は考えています」



 最近、連盟加入の賃貸アパート・マンションで事故物件が増えている。

 いわゆる瑕疵(かし)物件というやつで、殺人事件が起きたという様な特殊なケースだけでなく、入居者の高齢化による孤独死で何日も経ってから発見されるという場合が多い。日本では、そうした物件は予め借り手に知らせる義務があるので、多くは期間を定めて、家賃を割り引く事で、納得して借りてもらっている。

 勿論部屋で死人が出たとしても、殆どの場合何も起こらない。
 単に気持ちが悪いという精神的な理由だけだ。

 ところが中には本当に「幽霊が出た!」と言って、入居者が引っ越してしまう場合がある。こうなるとその物件は噂になり、家主はお祓いを頼んだりタダ同然の家賃設定をしなければならなかったりと苦労する。
 
 もし、予め部屋に霊が憑いていない事が証明できれば、連盟加入の家主もそれ程家賃を割り引かなくても済むし、後に噂になって苦労する事もないだろう。

 賃住連の山下会長が、著名な超常心理学者である田辺に会いに東都大学を訪れたのは、その対策を相談する為だった。

「なるほど。紫外線域も感知でき、極めてシャッター速度も早いカメラを制作して事故物件を撮影すれば、そこが何もいない部屋なのか、それともお祓いを必要とする部屋かを選別できるということになりますね」

 山下は教授の言葉をボイスレコーダーに記録しながらそう言った。

「そうですね。ただ、それだけでは十分と言えないかもしれません。山下さんは人間の中に稀に四種類の錐体細胞を持つ人がいるのを知っていますか? そういう人から見れば、我々には同じ緑に見えていても鮮やかさの異なる色に見える事があるそうです」
「ほう? 犬猫が二種類、普通の人間が三種類なのに対し四種類の錐体細胞ですか。そんな能力を持った人が存在するんですか」

「例えばサンティエゴに住む画家のConcettaさんがそうです。彼女は四色型色覚を持った人で、これは我々哺乳類の祖先が夜に活動する生活をしていたことから進化の過程で忘れてしまった能力と言われています。さらに言えば四色型色覚は性染色体のXに起因しているので女性特有とも言われています。私は、カメラにはそうした機能も追加した上で異物が感知できたら、それを通常の人間が分かる色彩に直して見せてくれたらいいと思います」

「これは面白い試みになるかもしれません。協賛してくれるメーカーにもお願いして、製作してみようと思います」

「完成したらウチの研究室にも、ぜひ一つ分けて頂きたい」


 山下会長は教授から聞いた事柄を実現させるべく、経済界のツテを頼って、長野にある精密機器メーカーでプロトタイプを製造してもらった。

 担当してくれた技術者・高畑は興奮したように「これは人類の宗教観を根底から覆させるかもしれませんよ」と言いながらかなり重いカメラを渡し、さらに実験で撮った『写っちゃった』画像をモニターに出していくつか見せてくれた。

 どうやら高畑はカメラの性能を試すため、インターネットに度々登場するいくつかの有名心霊スポットまで足を運んだらしい。カメラの大型モニターには一度見ただけでトラウマになりそうな恐ろしい亡霊が写り込んでいた。

「想像以上のものができましたね・・・」
 山下のカメラを持つ手が震えた。

「これさえあれば、会員の悩みを軽くできます。ただ賃貸物件は東京だけで約340万戸(国土交通省)あり、その中でウチの連盟に加入する物件は12万棟で50万戸。家主も7万人を超えます。これを全国で展開するには相当数のカメラが必要になってきます」

「その事に関しても手は打ってあります。会長が今持っておられるカメラは試作品で、実はこのカメラの必要最小限の機能を組み込んだモバイルができたのです」

 高畑はポケットに入るスマホ型のモバイルを見せた。
 モニターには現在彼らのいる研究室が映し出されていた。

「スマホに組み込む装置として売り出すことを考えています。今は研究室以外、映っていませんが、幽霊がいればそこに映り込みます。暗視機能もすぐれているので別の用途にも使えるでしょう。そうなれば提供料金も安くできます」

 高畑は胸を張った。

「すばらしい。ぜひお願いします。ネーミング等もお考えですか?」

「ええ、ポケットに入るモバイル型Ghost sensor,、略して『ポケ・モバ・ゴースト』でどうでしょう。ウチの社長には承諾を頂きましたが・・・」

 その安易なネーミングと、モバイルのカメラを向ければ、そこに潜む何かが見えるという機能に、山下は若干不安を覚えたが、高畑の熱意に押されてGOサインを出してしまった。

 すると案の定、京都にある某ゲーム会社からクレームが付いた。

 製品化され、連盟所属の家主の元に届くのはもう少し先になるだろう。


         (おしまい)

   
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2017年10月18日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのめっちゃ君です。

   【 猫とトキソプラズマの関係 】
 
「君はジュネーブ議定書を知っているね。だとしたら何故こんなおぞましい物を私の前に出してきたんだ!」
 オランフ大統領は提出された書類を見て激怒し、執務室の机を叩いた。
 
「まあまあ、大統領落ち着いて下さい。君、大統領にお茶でも差し上げて」
 ハノーバー上級戦略官が慌ててとりなし、ボーイを呼んだ。

「ティーパーティは好きだが、関税はかからんだろうね」
 大統領は少し落ち着き、紅茶を飲みながら冗談を言った。
「まあ、話だけでも聞いてやろう。少しぬるいようだが君も飲み給え」
「ありがとうございます、大統領。では私はコーヒーをブラックで」
 上級戦略官は砂糖を断り、芳醇な香を楽しむと一口飲んだ。それからおもむろに書類を広げ、その説明を始めた。

「まず最初に説明をしなければなりません。これは生物兵器ではなく、治療薬です」
「ならばどうして公衆衛生局ではなく君が書類を手にしているんだ?」
「極秘だからです」

「フン、それみたまえ。どうせ軍の研究所から上がって来たものだろう。細菌か?」
「いえ、この兵器もとい治療薬はサトリ茸というキノコが原料で、インド山中のごく限られた地域から取れる貴重な物質です」
「毒キノコなのか? それをコメットマンに飲ますんというんだろう?」

「いえ、これに毒性はありません。また特定の要人が対象でもありません。紛争地域全体にばら撒くのです。培養には成功しましたが大量に必要ですし、容姿という別の問題もあるので煮沸した抽出液を薄めた物になっています。でないと、頭のてっぺんからキノコが生えますので」

「煮沸して薄めた抽出液を、ばら撒くとどうなるんだ?」
「体内に取り込まれると、論理的に話が通じるようになります。寛容さが戻り、中東では一部の先鋭的な教義の流布はなくなり、本来の平和が戻るでしょう。コメットマンは造形技術を活かして北極ではなく、南極1号とか2号を製造するようになるかもしれません」

「そんなバカな。死に至らせる毒ならともかく、人間を操る力などキノコにあるものか」
「そう言われるのではないかと思っていました。そこで補足資料も添付してあります」
 そこには『猫とトキソプラズマの関係』と書かれた資料があった。

「キノコではありませんが、生物が特定の物質で人間の感情をも操るという例としてこのトキソプラズマを上げました。これは猫を最終宿主とする寄生虫です。珍しいものではなく全人類の三分の一の体内にもいると言われています。エイズ患者や妊婦などを除けば、ほぼ無害と言われているものですが、ただこれに寄生されますと・・・」
「どうなるんだ?」
「主な症状としては、猫が好きになります。ですからまあ、人間の場合はさほど問題がないんですが、実はネズミにも寄生するんです」
「すると?」
「猫が好きになります」

「何? そうなったら・・・」
「ハイ、猫の前に平気で現れて食べられるという悲劇が起こります。つまりネズミはトキソプラズマにコントロールされ、自ら猫に命を捧げることになります」
「恐ろしいな。ネズミは寄生虫にコントロールされることがあるのか。だが人間は猫が好きになるだけなんだろう?」

「女性の場合には社交的になり、容姿にも気を使い愛情豊かになるそうですが、男性の場合は嫉妬深くなり、規則に従うのを好まなくなる事もあるとか」
「まあ、猫と共生しているような寄生虫だからな。猫の気質を投影しているのかもしれんな。で、君の言ってることを証明するような統計はあるのか?」
「フランスではトキソプラズマを持っている人が80%、日本が低くて20%ほどだそうです」

「説得力があるな。フランスで民主革命が起きたわけも、感染率の低い東洋で人間が従順なのも説明できる。だが、君は先にサトリ茸が治療薬と言ったが、トキソプラズマに害がないのであれば、なぜ今回のプロジェクトを持ってきたんだ?」
「それはですね」
 上級戦略官が紫色に着色された顕微鏡写真を取り出した。

「これは最近発見されたトキソプラズマの亜種でシープ・トキソプラズマというものです。猫を宿主とする物とは違い、羊を最終の宿主とするもので、これに感染するとドーパミンが泉のように湧き出てきます。性格も変わり、社会の規範、国際的な枠組みを極端に嫌うようになって、自分達だけが正義だと勘違いするテロリストになります。どの羊にもいるわけではありませんが、特定の地域では・・・」

「なるほど。言うことは分かった。生物が出す物質には感情までコントロールするものがあるというんだな。だから毒には毒というわけか。が、シープ・トキソプラズマの感染者だけにサトリ茸を飲ますという事は事実上不可能ではないのか?」
「ですから抽出液の薄めたものを散布するんです。するとこのキノコの出すアンチヘイトキシンという物質によって、様々な考え方を容認できるようになり、人間が丸くなります」

「しかし、今までの話を聞いているとサトリ茸を飲ますべきは偏狭な指導者だけで、むしろそれにおとなしく従う国民には猫のトキソプラズマをばら撒いた方が効果的なような・・・」
 オランフ大統領は、ハッとして目を見開いた。

「待った。まさかとは思うが、だから被験者第一号として私を選んだというオチではないだろうな。例えば先程飲んだ紅茶とかにサトリ茸の薄めたものが入っているとか」

 だが、上級戦略官は落ち着いてコーヒーを飲むと、それを否定した。
「いいえ。大統領に薄めた抽出液なんて効きませんよ。貴方には生きたサトリ茸の胞子をたっぷりと飲んでもらいました」

 その言葉に大統領は激怒した。
「なんだとハノーバー、貴様自分で言ってる事が分かっているのか!」
 オランフ大統領がティーカップを床に叩きつけたその瞬間・・・、
 ポンと頭に小さなキノコが開いた。

「許す!」
 キノコを頭に乗っけた大統領は満面の笑みを浮かべて戦略官を抱擁した。


    ( おしまい )
 
   
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