自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2017年04月29日 (土) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのシマポン親子です。

   【 英雄との遭遇 】
 
「宇宙船カリエトは現在、減速してネオアースからわずか100億キロ付近を航行中。まもなく乗員はコールド・スリープを終え、ひと月後にはこちらに到着すると見られます」
 航宙局のマクナガン長官の言葉に会議室はどよめいた。
「ついに我々は600年前の英雄と対面できるのか」
 行政長官である私のみならず、誰もが感慨ひとしおだった。

 カリエトは2115年、人類がまだ火星や木星の衛星エウロパの海に都市を築いている頃、大いなる夢を抱く若者数十人と移住に必要な機材、植物の種、数々の動物の冷凍卵を乗せて11光年離れた地球型惑星Aq77cに向け、帰らぬ旅に飛び立った初めての恒星間宇宙船だ。
 ワープ航法も確立されていなかった時代、スイングバイ航法によって光速の約50分の1にまで加速し、600年をかけて到達するという壮大な計画を持って送り出された大冒険時代の船なのだ。

 だが、宇宙工学の進歩は彼らの勇敢な試みをさほど意味のないものに変えてしまった。
 タイタンの権益を巡る紛争によって飛躍的に発展した技術はついに人類にワープ航法をもたらせ、新たな植民船は先に旅立ったカリエトを安々と追い抜き、わずか数ヶ月で、今我々がネオアースと呼んでいる星(Aq77c)に降り立った。

 それから600年、Aq77cの開発は進み都市が出来、森が生まれ、生命の痕跡がなかった海には地球から運び込んだ幾多の海洋生物が爆発的に繁殖した。Aq77c改めネオアースは文字通り、第二の地球として歩み出し、新たな宇宙開発の拠点となって繁栄し続けている。

 勿論、人類は勇敢な冒険者達を乗せたカリエトを忘れたわけではなく、回収すべきかどうかの議論はされていた。しかしカリエト本体に起きた何らかのアクシデントで、その位置が数百年間も分からなくなっていたのだ。それが数ヶ月前、個人所有の宇宙クルーザーによって、我々の住むこのネオアースから900億キロの地点で発見されたのだ。

 船体は隕石による破損でかなり損傷を受けていたが、一見したところ、居住空間には問題がなさそうだったので、派遣されたパトロール船が寄り添う形で見守ってきた。
 そのカリエトがもうすぐネオアースに降り立つのだ。

 ここでふと我々はカリエトに乗る600年前の英雄をどう処遇したら良いのかという問題に直面した。

なにせ彼らが飛び立って数年後に開発されたワープ航法によって、彼らが人類で初めて降り立つはずであったAq77cは人口30億人の賑やかな惑星に変貌しているのだ。
つまり本来彼らが得るべきであった栄誉も0からの開発という生きがいもすでに無い。
我々が彼らの立場であれば全てを捨てて夢にかけた600年は何だったのかと落ち込むのではないだろうか。

「彼らをネオアースの砂漠地帯に誘導し、そこで初めての開発という夢を見てもらってはどうか」というバカげた意見も出たが、600年前の技術でもドローン等を使い星の隅々まで見渡すことも可能で、本当のことが分かった時点で彼らは激怒するだろう。そこで・・・、

 ここは正直に人類初の恒星間飛行を成し遂げた英雄として、その業績にふさわしい地位と生活基盤を与え、本を執筆してもらったり、銀河テレビに出演してもらったりして栄誉を称えるのが良いのではないかという結論に達した。

 一月後、万全の体制を整えて我々はカリエトを待った。600年前の資料からカリエトがAq77cのどの地点に降りるのかが分かっていたので、その付近にあった数軒の農家には移転してもらった。
(なおこの時、『立ち退きをしてもらうのが農家だから良かった。これが有力者の邸宅であれば』云々と言った行政官はクビになった)

 空の上から遠目に見ても傷だらけのカリエト本体がゆっくり垂直着陸をしてきた。すでに船体の大部分を占めるエンジン部分はネオアース突入前にすでに切り離している。
 我々は「ヒーロー歓迎!」と書いた横断幕を上げて数万人で待ち構えた。

 だが、ドアが開いても誰も降りてこなかった。
 無理もない。無人の荒野に降り立つはずが、宇宙人(!)数万人に取り囲まれているのだ。
勇敢な冒険者といえども面食らうことだろう。そこで・・・、

 私は志願した女性行政官ら数人と共にカリエトの中に乗り込んだ。

 が、中で見たものは・・・、想像されたよりも酷く損壊した移住区と、ケースまで破壊されたコールドスリープ装置。そしてそこに眠る56体のミイラだけだった。

「なんてことだ。英雄達はすでに全員が亡くなっていたのか」
 私は落胆し、船を降りようとした。とその時、一人の行政官が声を上げた。

「長官、このコールドスリープ装置はまだ機能しています」
 それは通常サイズのコールドスリープ・カプセルの約2分の1の大きさで、唯一壊れておらず、目標の地点に降りたというのに未だ凍りついたままだった。

「子供も乗っていたのか。たぶん大人達が基地を開設してから起こす予定だったのだろう。だが、大人達が全員死んだので起こされることもなく眠り続けているんだ。早く起こしてあげなさい」
 私は後から船内に入ってきた、当時の機器を扱える技術者にそう命じた。

 白い氷に閉ざされたカプセルを温風が包み、やがてそこに眠る者が姿を表した。

「子供じゃありません。猫です! 生きています」
 技術者がピクリと動いた猫を見て驚いたように叫んだ。
 成人用のコールドスリープ装置に寄り添うように置かれていたその小さなカプセルは、おそらく、その人が可愛がっていた猫だったのだろう。首にはチャコと書かれたリボンが巻かれていた。

 もし我々が先にこの惑星を開発していなければ、このまま何千年も眠り続けるか、生命の全く存在しない星で唯一人死の時を待つしか無かったろう。

「あなたが連れてきたチャコちゃんは、我々が大事に育てます。この星には猫がすでに沢山いるので、チャコちゃんの友達もすぐにできますよ」
 私は猫のカプセルの隣で眠るミイラにそう言った後、恐る恐るチャコを抱き上げると、小さな英雄はミャウーと鳴いた。

 ようこそ、ネオアースへ。長旅ご苦労様でした。

      ( おしまい )

   
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2017年03月08日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのめっちゃ君です。

   【 冒険者 】
 
 標高8848m。インド亜大陸とチベット高原を隔てるヒマラヤ山脈の中にあって、14の8000m級ピークを持ち、周囲に100を越す7000メートル級の山々を従えてそそり立つ神々しき山。それが地球最高峰エベレストだ。

 1953年にイギリス・ジョン・ハント隊のエドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイが世界初の登頂をして以来、この世界一魅力的かつ有名な山は、登山ルートの開発やシェルパー、ガイドの育成等により数多くの冒険家、登山家を迎え入れて来たものの、地表では考えられない大気の薄さ、氷点下30度の厳しい気温、強風、雪崩などによって命を落とす者や山頂を目前にしてアタックを断念する者も後を絶たない。

 だが、一度山頂に到達した成功者は、近隣にそびえるアマ・ダブラムやローツェの雄峰、雲海の隙間から垣間見えるネパールやチベットの人里、あるいは遥か彼方まで続く陽炎のようなインド亜大陸など、この世のものとは思えぬ絶景を目にすることができるのだ。

 そして今、俺はこの場所にいる。


 大学時代、友人の脇田に誘われ山岳部に入った俺は、先輩部員や脇田と一緒に富士山を始め立山連峰、八甲田山といった国内の山々に挑み、多くの経験をした。さらに、部長となった大学4年の時には希望者を募って、スイス側からマッターホルンの登頂にもチャレンジ。その頂に立つ事に成功した。この後、俺と副部長の脇田は無謀にもエベレスト登山をも計画したが、これはさすがに資金面で苦しく、スポンサーも無かったことで在学中は断念せざるを得なかった。

「社会人になったら、資金を貯めて、いつかはエベレストに・・・」
 これは俺と脇田の共通の合言葉になったが、現実的には簡単じゃなくて、俺自身の就職をもってその計画も立ち消えになった。


「南米アンデスのアコンカグア(6960m)制覇!」
 これは卒業後、数年経って我が家に届いた脇田からの写真付き年賀状だ。
 父親が持っていた巨額資産を引き継いだ脇田は、自称冒険家となり、南米のアコンカグア登頂に成功し、30代のうちに北アメリカのデナリ(6190m)アフリカのキリマンジャロ(5895m)といった各大陸の最高峰を次々と制覇していった。

 一方、俺の方は25歳で同い年の佐和子と社内結婚し、長女が生まれてからは、日本の山にさえ登ることも無くなった。あえていえば38歳で赴任先のオーストラリア支店で催されたハイキングで佐和子と娘を連れて、コジオスコ(オーストラリア大陸最高峰2228m)に登ったくらいで、翌年の脇田に宛てた年賀状には「俺も七大陸最高峰の一つ、コジオスコを制覇したよ」と、いささか自嘲気味に書き添えた。

 しかし、脇田は大真面目にも「それはおめでとう!」という返事を送ってきた上、
「俺はこの秋、40歳を記念して、いよいよ南極大陸のヴィンソン・マシフ(4892m)に挑むつもりでいる。君が挑んだコジオスコとヨーロッパ最高峰エルブルス山(5642m・ロシア)にはすでに登った。そしてヴィンソン・マシフを制覇した後には、エベレストに出かけようと思っている。何故これを最後に持ってきたかと言うと、君と一緒に登頂したいからさ」と書いてきたのだ。

 俺がエベレストに? それは今となっては夢物語だな。しかしこんな熱い友人の誘いをどうやって断ったら良いのだろう・・・。
 と、悩んでいた処、数ヶ月して脇田の方から断りの連絡を入れてきた。

「君と一緒にエベレストにと思っていたが、しばらく延期してもらいたい。実はヴィンソン・マシフで酷い凍傷にかかり、足の指を半分位失ってしまった。数年はリハビリに務め、再度鍛え上げないと世界最高峰には挑めそうもない」

「あら、良かったじゃない。あなたが本当にエベレストに行きたいなんて言い出したら離婚しようかと思ってたわ。文子の高校進学も控えているのに、危険な遊びの費用だけで数百万もかかるんでしょ」
 倦怠期に入っていた妻が冷たく言った。

 オーストラリアで一緒にコジオスコに出かけた頃は、微笑んでいてくれていた妻もこの頃はすれ違いが多かった。

 仕事にしか生きがいを見いだせなくなっていた俺は、平日帰宅が遅くなっていた。その為すでに眠っている妻や、夜は部屋からはめったに出てこない娘と話すこともない。休日は自宅にいるが、娘は友人と外出。妻はカルチャースクールのフラダンス教室の仲間達と買い物や旅行に出かけるといった具合だ。

 そんな状態だから、また山に登りたくなったかと言えば、それはなかった。
 東京の本社努めになって以来、会社帰りに新橋でいっぱい飲むという習慣がすっかり身についた俺は、エベレストどころか医者から「たまにはハイキングにでも出かけないとメタボ指数が相当上がってますよ」と言われても、近郊の高雄山ですら登りたくなかったのだ。

 都会で安全に暮らしている者に命の危険などはない。と、思っていたがそうでもなかった。
メタボ体質は確実に俺の命を削り取っていたのだ。娘の文子が大学に進む頃、リハビリを終えた脇田が我家に俺を尋ねてきたが、その時俺はすでに小さな位牌の中に入っていた。

「申し訳ない。もう少し早く山に誘っていれば、こんな死に方はさせなかったのに」と悔やむ脇田に対し、佐和子はお礼を言いながら、とんでもない提案をした。

「この人は若い頃、いつか脇田さんとエベレストに登るんだと言ってました。残念ながら、病に倒れ、その夢は果たせませんでしたが、脇田さんがエベレストに登られるのでしたら、この位牌を一緒に連れて行って頂けないでしょうか? うちは娘だけですから永代供養として、お寺に祀ろうと予定していましたが、地球上で空に最も近い場所に置いてもらえたら、この人も本望なはずです」

 脇田がそんなアホな提案を受け入れるとは・・・。
「ワー、やめてくれ~!」と叫んだが、無論そんな声は届かなかった。


 標高8848m。大気も薄いエベレスト山頂は夜になると満天の星空が広がる。地上の光もスモッグも届かぬここは別世界だ。ただ、天気は移ろいやすい。ひとたび嵐が吹き荒れると、風速80mを超える猛吹雪がすべてを飲み込む氷雪地獄と化す。
 そんな中に俺はいる。

律儀な脇田は、エベレスト山頂に俺の位牌を埋めて行ったのだ。
「次に俺が来るまで、ゆっくり楽しんでくれ」
 そう言って熱い男は手を振りながら山頂を後にした。

「次とはいったいいつだ? 早く迎えに来てくれ」
 小さくなる脇田の背に向かって俺は必死で呼びかけた。
 
          ( おしまい )

追伸、
 このエベレスト山頂付近には、『虹の谷』と呼ばれている場所がある。(実話)
名前はメルヘンチックだが、この名前の由来は雪原に散らばる遭難者のカラフルな服装から来ているのだ。

 毎年のようにエベレストでは遭難者が出るが、高度の高いこの場所にはヘリコプターが使えない。その為、遺体の回収が出来ない。また常に氷点下のこの場所では、腐敗することもない為、あちこちに遭難者の遺体がそのまま転がっているのだ。

 ここに集うドイツ人、イギリス人、アメリカ人、国籍も生まれた年代も違う様々な人達と、昼となく、夜となく、話し合うのが、もっかの俺の楽しみとなっている。


   
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2017年02月08日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのクロちゃん&チビポンです。

   【 年寄茸 】
 
 仙京山漢方店はここ数年の健康食品ブームに乗って驚異的な躍進を遂げ、その主力商品である『不老丹』はアンチエイジングに効能ありと言われ、世界各国でベストセラーになっている。

 ただ、この会社は上場しておらず、京山会長のマスコミ嫌いもあって、あまり取材には応じてこなかった。そんな会長が何故か駆け出しの記者である俺の取材を受けてくれたのだ。
『健康食品会社の会長は本当に元気なのか?』というタイトルで取材したいと申し出たのが気に入られたのかもしれない。


 警備員の厳重なチェックを受けて、地下三階にある会長室に通されると、
「おお、あんたが『週間文朝』の十和田はんどすか」
 と、京山会長が上機嫌で迎えてくれた。

「取材に応じて頂き、ありがとうございます。ああ、本当にお元気そうですね」
 俺はその容姿にまず驚いた。
「若う見えますやろ。これが『不老丹』の効果どす」
 情報によると齢90歳を上回るはずの会長は矍鑠(かくしゃく)という表現を通り越して、まるで50代の若さにに見えた。

 他の健康食品グループの会長達が元気そうでも年相応に見えるのとは対照的だった。
「驚きました。『不老丹』を飲み続けていると、本当に強力なアンチエイジング効果があるんですね」
「そうどす。ただ、市販の『不老丹』は安全のため、若干効能を抑えとるんどすわ」
「なるほど。アレルギーの人とかいたら困りますしね」
 『不老丹』の主成分は舞茸などのキノコを抽出したものと発表されているが、やはりその中にはライバル社には見せたくない薬効成分も含まれているのかもしれない。

 俺は、会長の生い立ちや、京山漢方店をここまで成長させた苦労話などの取材を終え、会長に礼を言って腰を上げた。と、その時、それまでにこやかに笑っていた会長の顔が真顔になった。

「実はこれから話すことはオフレコにしてもらいたいんやが・・・」
 そう言われても、記者である以上、聞いたことを伏せるのは悩ましい事だし、もしそれが犯罪に関わるものであれば黙っているわけにはいかない。俺がそう説明すると・・・、

「それはそうどすやろ。けど、これはあんたの命にも関わる事どすね」
 と、不気味なことを言った。俺の懸念をよそに会長は壁に取り付けてあったモニターのスイッチを入れ、デスクの引き出しからは古びた大きな手鏡を取り出した。

「京都には昔から不思議なものが伝わっとりましてな。これは『怪(あやし)の手鏡』というんやが、ワシが若い頃に古刹の僧侶から、寺の改修と引き換えにもろうたもんどす。これで見ると、普通では見えへん生き物が見えますんや」
 そう言いながらモニターに何やら画像を映し出す。

「赤ん坊の写真が写ってますやろ。その頭に何か見えしまへんか?」
 確かにその赤ん坊の頭には椎茸くらいのキノコが生えていた。全体的に白っぽく透明で淡い光を放っている。その光は体全体を覆っていた。

「これは、この鏡を通して写した写真で、そのキノコは『年寄茸』と言うんどす。実はこの赤ちゃんだけやなく、どの赤ちゃんにも、人にも犬でも猫でも虫でも、全部このキノコが生えとるみたいなんどす」

 会長が見せてくれた次の写真はちょっと驚きだった。それは渋谷のスクランブル交差点を、鏡を通して写した写真で(そのせいか、左右が逆になっている)そこには多くの人々が写っているのだが、どの人の頭からも先程の『年寄茸』が生えていた。ただ、その大きさは赤ん坊の物とは比較にならない位に大きい。制服の女子高生で直径30cm、中年のサラリーマンにいたっては座布団ほどの大きさがあった。

「『年寄茸』はどの生物にも寄生し、宿主からコラーゲン等を奪って成長しよります。次にお見せする写真は、かなり衝撃的どす」
 会長がそう言って見せた写真は、有名な100歳老人姉妹『鉄さん、鈴さん』の写真だったが、彼女達の頭の上のキノコは敷布団位もあって身体中に覆い被さっていた。

「もしも、このキノコがなかったら人も動物も老けへん言うんやったら、見ることも触ることもでけへんこのキノコを、どうやって取るんかということどすわ。それには他のキノコを使うのが一番なんどすわ」

 会長は群生している植物や菌類が他の種を攻撃するメカニズムを教えてくれた。
 動けない植物たちは、相手にとって、いわば毒となる物質を放出し自分たちのコロニーに進出しないようにしている。
『不老丹』というサプリは、他のキノコを煮詰めて作ったものだが、そのエキスで人間の体に「年寄茸」に対する防御壁を作っていたのだ。

「ただし、ウチの『不老丹』は「年寄茸」を弱らせるだけで、完全に殺すことはでけまへん。完全に殺すには、ある種のウィルスを自分の体に感染させるんどすわ」
「つまり、会長さんはウィルスを使ったということですね。それを売り出さないのは、一度感染させるともう必要がなくなるので商売にならないとか」
 俺は確信を突いたと思ったが・・・、

「いやいや、これは商売とかの話やないんどすわ。ワシは年寄茸というものは人間や動物にとって害を与えるだけのものと思うてました。それで、最初は自分の体を実験台に、キノコにだけ効くウィルスを使って完全に消滅させたんどす。見とくなはれ、ワシにはもうキノコがありまへんやろ」
 会長は自分の頭を鏡に照らして、俺に見せた。

「ところが、キノコが無くなったんで喜んどったら、その後、大変な事が分かったんどす。なんとワシは陽が射す町を歩くと、大火傷をするようになったんどす。年寄茸は、人間からコラーゲン等を奪い取る代わりに、淡い光を傘のように放射し、紫外線から体全体を守っとったんどす。その上、キノコが無くなると嗜好まで変わるのか、無性に人間の血が飲みたくなるんどす。もうお分かりですやろ。年寄茸が消えた人間は、吸血鬼の様にになるんどす!」

「すると、僕をここに呼んだのは血を吸うため?」
 俺は思わず後ずさった。

「誤解せんとくなはれ。ワシは社員から研究用として血をもらって生きとります。だから、他所様を殺めるようなことはしとりまへん。そうやなくて、ワシはもう一度、別の年寄茸を体に移植して、日中堂々と町を歩けるようになりたいんどす」
「そんなことができるんですか。体はウィルスに感染しているのに?」
 少し落ち着いて記者魂が蘇った俺は会長に質問した。

「確かに普通の年寄茸では、もう生えてきよりまへん。けど、動物実験の結果やとレア種の『青年寄茸』なら、このウィルスにやられへんちゅうことが分かったんどす。勿論移植には頭皮を2mm四方使うので、人間の物やないと、あかんわけやけど、その『青年寄茸』を生やしているのが・・・」
 会長は俺の頭に鏡をかざした。そこには座布団大の、青い年寄茸が生えていた。

「テレビを見てて『青年寄茸』を生やしとる人を、鏡を使うて探しとりましたら、人気俳優の不倫報道番組でしゃべるあんたの頭に生えとりました。ワシは何とか、あんたに連絡をしたかったんやが、その方法が分からんかった。どうしょうかと悩んどる時に、あんたの方から取材の申込みがあったんどすわ」

「つまり、僕の頭に生えている『青年寄茸』を、一部の頭皮と一緒に移植させて欲しいということですね。それならどうでしょう? この事を僕が報道する代わりに、会長にキノコをお分けするというのでは?」
 しかし、会長はクビをふった。

「いや、年寄茸の事を報道したら世界中でパニックになりますやろ。こっちの条件としては、頭皮をほんのすこし分けてもらうのと引き換えに、あんたの命を守るという事どすな」
「き、脅迫ですか? 言うことを聞かないとこの場で血を吸うとか・・・」
 しかし、会長は笑いながらこれを否定した。

「それも誤解どすな。あんたは『青年寄茸』が、どんなに危険なキノコなんか分かってはらへん。ええどすか? 『青年寄茸』が大きうなると肝硬変になりますんや! 十和田はんは近頃、肝臓の数値が極端に悪うなってまへんか?」
 そういえば、この処γ-GTPが600近くにも跳ね上がって、医者からは入院を強く勧められていたのだった。

「あ、『青年寄茸』を弱らせることができるんですか?」
「できま。ウチの市販されていない『特別強力・不老丹』を服用されれば・・・」

 俺は会長と取引する他なかった。


           ( おしまい )

   
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2017年01月11日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのシマポンママです。

   【 上々の客 】
 
 最近、本当に不景気だ。
 毎日店を開けていても、客が来ない日が多い。
 この店がある商店街は、郊外とはいえ駅前にあり、人通りがまったく無いわけではない。
 なのにどの店も閑古鳥が泣いていて、近頃ではシャッター通りと呼ばれているそうだ。

「ええっと、おたくは何時まで開いてますか?」
30分ばかりコートの試着を繰り返していた客がそう言った。
「夜は七時まで開いてます」
 俺はにこやかにそう答えたが、心の中ではため息をついていた。
 何時までと尋ねる客で、戻って来る客はまずいない。
「じゃあ用を片付けて、都合でまた来ます」
 二度と来ない客はそう言って店を出た。

 紳士用品の店・厚河商店は数年前に俺が経営を引き継いだ。
 店主が高齢で跡継ぎも無く、自宅件店舗を売り出していたので、昔から商売に興味があった俺が、妻の反対を押し切って買ったのだ。
 だがそれは失敗だった。
 商店の経営は外部の人間が想像するより厳しく、二人揃って会社を辞めた鈴木家の台所はたちどころに苦しくなっていった。
 再び都会で就職した妻は程なく俺に離縁を迫った。47歳になる俺と違って妻はまだ35歳。子供もいないので、人生やり直しがきく考えたのだろう。

店を大きくして、妻には早まった事をしたと後悔させてやろう。
そう意気込んで人気ブランドメーカーと契約したが、その選択はさらに経営を圧迫した。
現金問屋と違って、直接契約するブランドメーカーは、毎年ある程度のロットを買い付けねばならず、在庫ばかりがかさんで行ったのだ。
「これは契約を解除した方がいいです」
 と税理士にも言われ、今回で契約を打ち切ったが最後の支払いが今月末に迫っていた。

 つまり残り3週間ほどの間に30万円程用意しなければいけないのだが、銀行は融資をしぶり貯金も無く、生活費にも事欠く始末。近頃では食費も削り、朝取りした裏山に生える山菜やキノコをオカズにしているくらいで、このままでは怪しい金融機関に頼らざるを得ない状況に陥っていた。

 そんな時、現れたのがあの客だった。

 中肉中背の中年男。寡黙でこれといった特徴のない顔をしたその客はふらりと店に入って来ると、売れ残ったコートとセーター(7万円相当)を無造作に選び、カードを出した。
 
 高額商品をあまり迷いもせず、さっさと買う客は何か怪しい・・・。
 そう疑ったが、カードは別に女性名義でも外国人名義でもなかった。
なんと偶然にも名前の欄にはICHIRO SUZUKIとあり、これは俺と同じ名前だったが、鈴木一郎という名は、姓・名セットでは日本で一番多い名前だろうから、それはいい。
その上、客は慌てている様子もなかった。
 ただまあ最近では、そんな上客もいないだけに、俺は多少身構えたが、CAT(クレジットカード端末)はすんなり売っても良いとのシグナルを出してくれた。

「ありがとうございました」
 俺は深くお辞儀をして客を送り出した。
これで後、23万円ばかり都合出来ればメーカーへの支払いができることになる。残りは3週間あるので、少し早いバーゲンセールでも始めるか・・・。
と、考えていた処、翌日その客が再び現れた。

 今回もさっさとブランドのブルゾンやセーター、ジーンズ等を買い、代金は10万円余り。
 カードの方はこれまたすっきりOKが出た。
 もしかしたら単身赴任でもしておられる方で、出身地が暖かい県のため、冬のコート類の用意がなかっただけだろうか?
 それとなく聞いてみたが、口では答えず頷いたようでもあり、無視したようでもあった。
 まあ、いいか。2日連続して買う人もいないわけではない。そう思い返したが、その客は翌日もその翌日もやって来た。
 カードの売上金は15日までならその月の末日に5%の手数料が引かれた上で入金される。(客の方にカード会社から請求が来るのは翌月以降)
 おかげでおかしな金融機関で借りなくてもメーカーへの支払いができることなったが、あまりの都合良さに不安が募ってきた。

 あの客はいったい何者なのだろう? 本当にウチの店の商品が欲しかったのだろうか?
 もしかすると悪意のある客で、こちらの決算日を知っており、ギリギリのところでクレームでもつけて返金を迫り、破滅に追い込もうとしているのではないか?
 いやいや、俺は今までに人に恨まれるようなことはしていない。同姓同名ということからみて、あれは未来から助けにやってきた俺自身に違いない。
 などと、SFじみたことまで思い浮かんだが、実際そんなことはあり得ない。
 きっと頑張っているのにうまくいかない俺に、鈴木の神様が助け舟を出してくれたのだ。
 と、無理に納得してみたが、不安から変な汗まで吹き出てきた。

 翌日は定休日だったことから、俺は隣町にあるメンタルクリニックに出かけ、医師に得体の知れない不安に苛まれていることを告げた。
 と、しばらく質疑応答を繰り返していた医師は、おもむろに棚にあったファイルの中から一枚の写真を取り出し俺に見せた。

「最近では食費を節約するために裏山の山菜やキノコを採っていると言われましたが、そのキノコとはこれでしたか?」
 それは確かに最近よく食べるキノコだった。

「なるほど。これで分かりました。あなたは他からこの地方にやって来られた方だからご存知ではなかったのでしょうが、これはシメジではなく『思い込み茸』という毒キノコなんですよ」
「はあ・・・」
「つまりこういうことです。あなたは客を望むあまり、幻影の客を相手にしていたのです。おそらくカードの書類にサインしたのはあなた自身。だから客が同じ名前であったというのも当然です」
 医師はきっぱりとそう言った。

「いやそれにしても、ここに来られてよかった。自分のカードを使って自分の店で買い物をしたということになれば、カード会社から契約違反を通告されたり、粉飾決算にも問われかねません。しかし、こうしてメンタルクリニックに来られていたということであれば、罪には問われないでしょう」

 医師の話は驚くべきもので、とても納得がいくものではなかった。が・・・、
 翌日からはその客は現れず、後日、俺のパソコンにカード会社から、『鈴木一郎様・今月の請求額』として、客が買い物をしたのと同額が記されていた。
さらには離れて暮らす親父から、「一郎、コートやセーターを送ってくれてありがとう。あまり貰ってばかりでは悪いので、少しでも受け取ってくれ。商売がんばりなさい」という電話と共に20万円ばかり送金されてきた。

         ( おしまい )

   
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2016年12月14日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのチビポンです。

   【 鑑定しちゃうぞ 】
 

 インンターネットを見ていたらトッズの素敵なバッグを見つけた。
 欲しいなあ・・・。勿論エルメスなんかと比べると安いんだけど私にはちょっと高い。

 実は私はすでに一つ持ってるんだけど、これは真っ赤な偽物だ。お店をすでに辞めた子が3万円の借金のかたに押し付けた。その子は「失礼ねモチ本物よ」なんて言ってたけど・・・。

 私はスマホのアプリ『鑑定しちゃうぞ』を立ち上げて、パチリと写真を撮った。
 すると、撮られたバッグの写真に「ニセモノ~」という大きな文字が出た。
実は前に専門家にも鑑定してもらったことがあるけど、ニセモノと言われていたのだ。

 ところで『鑑定しちゃうぞ』というこのアプリ。これは最近すごく流行っているスマホ用アプリだ。絶対に正確というわけではなく、一応お遊びなんだけどよく当たる。
ブランドバッグなんかは本物が記憶されているようで、経年劣化以外の変異点があると「ニセモノ~」という表示が出る。

ただ、本物を委託されて製造している工場が影でコピー商品を作るとさすがに見分けがつきにくいと見えて「ワカンナイ~」と出る。
 その点は正直だ。面白いのは絵画の鑑定で、美術館で名画を鑑定すると「ホンモノ!」と出るが、展覧会のおみやげに買ってきた、印刷した名画をかざすと「ホンモノだけどニセモノ~」と出る。おそらく印刷したものはドットがあるとかで、見分けがつくのだろう。

 そればかりではない。面白いのはこのアプリ、おおよその値段まで教えてくれるのだ。
例えば有名な絵画では、直近の取引価格を参照して現在の推定価格を、そうでないものはアプリ独自の判断で、かってに値段を付けてくれる。つまり無名のイラストレーターの作品でもすぐれたものには「ホンモノ!」と出て作品に見合った価格が、有名であっても本当はデッサンの狂ったような作品には、容赦なく「ニセモノ~。1円の価値も無し~」と出る。人間が鑑定する場合と違うのは、その作家が人気あるとかないとかのプレミア価格は考慮されないことだ。

 つまり、このアプリがあれば、こんなニセモノのトッズを3万円の代わりに押しつけられることはなかったということで、あの時に知らなかったことが残念だ。
 と、そこで私の頭にひらめきが走った。

 確か私は値打ちの有りそうな大皿を三枚持っていたのだ。
実家とは縁遠くなった私だが、死んだじっちゃんから「あいつにもこれをやってくれと」骨董品の皿をもらっていたのだ。テレビで柿右衛門だとか古伊万里だとか言って鑑定してもらっている人は大抵がニセモノを掴まされている。じっちゃんの場合も悪どい店主からカモにされていた可能性が高いが、もしホンモノだったらトッズのバッグくらいは楽に買えるだろう。こんな便利なアプリがあるんだから、ちょっとやってみよう。

 そう思って押し入れに詰め込んであった『いらない物入れ』の中から昭和の古い新聞紙で包まれた大皿を取り出した。
 大皿はどれも直径40センチくらい。なにやら昔風の絵皿で、値打ちがあるんじゃないかな? という目でみれば、そう見えなくもない。
 もし1000万くらいするものだったらと思うと手が震える。とりあえず壁に立てかけて鑑定してみよう。

 私はアプリの表示が出ているのを確かめて、パチリと写真を撮った。すると・・・。
 まあ、そうだよね。「ニセモノ~。1円の価値も無し~」とでた。
 この皿だって料理に使えば1円の価値もないってことはないでしょうに。ずいぶん失礼な言い方ねと思いながらも二枚目を・・・。

 残念ながらこれも同じ結果になった。もしかすると皿の鑑定は得意ではないのかな? と思いつつ三枚目を撮ってみると、ジャジャジャーンという、今まで聞いたこともない音がして。「ホンモノで~す」とでた。ご丁寧に「古伊万里ではなく明治から大正に作られたもの伊万里皿で推定2万円」とある。『鑑定しちゃうぞ』は皿にも詳しかったのだ。

 2万円だとトッズは買えないけどサマンサタバサくらいは買えるだろう。
 私は皿がホンモノであったことがうれしくて、お店に出る時間が迫っているというのに、さっそくツイッターでみんなに知らせることにした。

 お皿を抱えての自撮りは難しい。私は顔写真は載せてないので、そこはギリギリ見えないようにしてカシャっと・・・。と、思ったら手がすべってズルットと皿が落ちそうになった。

「危ない!」
 すんでのところで皿を落とさずに済んだが、撮れた写真は私の顔のドアップだった。
 この時、まだ『鑑定しちゃうぞ』が残っていたのだろう。アプリはご丁寧に私の顔を鑑定してくれた。

「ニセモノだからホンモノ~」アプリは微妙な表現をしてくれた。
「そりゃそうでしょうよ。この業界、ホンモノだったらニセモノだもの」
 私はそうボヤキながら、新宿二丁目にあるお店に出かけた。

           ( おしまい )
   
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