自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2012年01月11日 (水) | 編集 |
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  こちらのイラストはブロ友のMECHAさんが描いて下さいました。


   【 毘沙門天 】

 大晦日から新年にかけ、庵本寺の境内は二年参りの人々で賑わう。

 おりしも響いてきたのは除夜の鐘。
 打ち鳴らされる鐘の数は、人の煩悩の数と言われ、鐘の音はそれを払う意味があるとか・・・。

 しかし、この鐘を突いているのが明鎮となると、無限に突いても効果はなさそうだった。

 俺はそんなことを思いながら、線香煙る地蔵堂の中で、次々訪れる参拝客を見送っていた。


 飢えと寒さに悩まされた昨年の正月と比べ、今年はずっと楽になった。

 寒風吹きすさぶ中、着る物とてなく、食物を口にすれば、火がつくという、
悲惨な餓鬼の境遇・・・。

 そうした状況も俺達は徐々に改善し、地蔵堂を住処とする事も許可され、
 食物も貯蔵、発酵させることにより、口に出来るようになった。

 だからこそ、この正月は昨年とは違った楽しいものになるはずだったのだ。

 それなのに・・・

 仲間の一人、ピッピがここにいなかった。

 ピッピはあの偽サンタ事件の後、天界の調査部に召喚され、
大天女様に手をひかれて光の中に消えて行った。
 元々、鬼籍に入っていなかったピッピは、餓鬼に転生した事自体がミスだったのだ。

「ピッピ~、いったいどこ行ってしもたんや~!」
 プンプンが嘆いた。
 

「悲しいよね・・・」
 境内を巡回していたガングロ天女の安舞子(あまね)が立ち寄って、ポツンと呟いた。

 大天女様の話では、この境区の餓鬼は定員が三人という事で、すぐに誰かが補充されるということらしいが、その誰かではとてもピッピの代わりになれそうもなかった。
 今や日常になったプンプンとの、まるで夫婦漫才のような掛け合いも、聞けなくなったのだ。

「そういえば、貧姫も落ち込んでるのよね」
 安舞子が本殿の欄干・特設御札売り場をふり返りながら言った。

 貧姫は、フラダンス教室のおばさん達と一緒に巫女装束で、
 初詣客に家内安全や商売繁盛(!)といった御札を売るボランティアをしていたのだが、
悪口を言い合うピッピがいなくなった喪失感で、魂が抜けたようになっていたのだ。

「何があったのか知らないけど、私達は福を授ける仕事。貧乏神みたいな顔してちゃダメよ」
 と、正体を知らないおばさんに注意されるほどだった。


「クッソ~、こうなったら天界まで行ってピッピを取り戻して来たる!」
 プンプンがめっそうもない事を言いだした。

「気持ちは分かるけど、無理だと思うよ」
 安舞子がプンプンをなだめた。

「大天女様の話だと、ピッピ(奈津美)は、仮死状態になって魂だけが飛ばされて来たんだって・・・。だからもし彼女の意識が戻ったら、ピッピは存在しなくなる訳でしょ」
 
 安舞子のいう通りだった。しかし・・・、

「そんなら意識が戻らんかったら、ピッピはずっと昏睡状態のままやないかプププ・・・」
 プンプンには、どうにも納得いかないようだった。

 確かにピッピは、亡くなってもいないのに、餓鬼になった。
 しかも餓鬼であることは彼女にとって不本意で、自らを妖精と言い変えていたほどだ。
 だから、もし人に戻れるのなら、彼女にとっては朗報と言える。

 だが、プンプンが心配したように、人に戻ればすぐに昏睡から脱け出せるわけではなかった。
 ことによると寿命尽きるまでずっと、眠ったままかもしれない。

 ならば餓鬼として後二年ほど生活し、また新たに人として生まれ変わった方が良いではないか。
 本音はともかく、それがプンプンの主張だった。 

「そんな都合良くいかねえんだよ!」
 おばさん達から休憩をもらった貧姫が、巫女装束のまま、話に割り込んで来た。

「天界の掟を破れば、みんな魂を解体され、二度と輪廻の輪に入る事が出来なくなるんだ。てめえはそれでいいのかよ!」
 貧姫が悔しそうに、竹刀で地面をビシバシ叩いた。

「そんなら明鎮は、なんでいっつも許されてるんやプププ・・・」
 プンプンはそう言いながら山門の上の招き猫を指さした。

 見れば、庵本寺・山門の上に数匹の招き猫が乗っかり、参拝客をヒョイヒョイと招いていた。
 お店によく見られる招き猫だが、生きた招き猫というのは初めて見た。
 どうやら、これも明鎮の呼び出した妖怪に違いなかった。

 有名な寺社仏閣でもない庵本寺に、押すな押すなの参拝客が押し寄せているのは、
おそらくこの招き猫の力によるものだった。


「言われてみれば、明鎮は何故天罰を食らわないんでしょうなあ・・・」
 俺が首をひねった、その時・・・。


「今、明鎮と言ったか!!」
 と、地蔵堂を震わす大声がした。

 恐る恐る外へ出ると、そこにいたのは憤怒の表情をうかべた、雲を突く大男だった。
 天人の衣をはおり、剣を腰に、数名の羅刹を従えている。
 参拝客には見えない様だが、10m四方に結界が出来、その中に人の姿がなかった。

「び、毘沙門天(びしゃもんてん)様!」
 安舞子が膝を付いたので、俺達(貧姫も含む)も「ヘヘーェ・・・」とばかりに土下座をした。

「そこの者、今、明鎮と言うたな。やつはどこにおる!」

「ハハー、み、明鎮でしたら、ただ今鐘を突いております」
 俺は震えながら、明鎮を指さした。

「なんと、あれほど騒ぎを巻き起こした張本人が野放しか。今回鬼籍のない者が餓鬼に転生した事件も奴が原因だというに・・・」
 
 その言葉に俺達はひっくり返った。
 ピッピが死んでもないのに、間違って餓鬼になったのは明鎮のせいだというのだ。

「び、毘沙門天様、それは誠でございますか」
 思わず俺は餓鬼である事も忘れ、毘沙門天に質問してしまった。

「思わず口をすべらせてしまったが、それは知らずとも良い話」
 毘沙門天はオットとばかりに口をつぐんだ。
 どうやら天界の人達は非常に正直なようだった。

「こうしてはおれん。やつを連行する!」
 毘沙門天は配下の羅刹に合図すると炎の雲に乗り、鐘楼に向かった。

 ほどなくして鐘楼の方角から明鎮の悲鳴が聞こえた。
 俺達は慌てて人混みをかき分け、そちらに走った。

 と、そこで見たものは・・・。

 除夜の鐘を突き終え、鐘楼を降りて来た明鎮が、空を指さしガクガク震えている光景だった。

 イケメン住職、明鎮ファンの女性参拝客は、彼が何に脅えているのか分からず、ざわついている。
 どうやら、毘沙門天は明鎮にだけ姿を現したようだ。

「御札を駆使し、天界・人界を騒がせたる明鎮、その罪軽からず。よっておまえを連行する!」
 毘沙門天は落雷のような声で、眷属(けんぞく)に「明鎮の魂を抜き取れ!」と命じた。

 その恐ろしさに明鎮は腰を抜かし、鐘楼から転がり落ちそうになっている。

「いけません。貧姫、彼を助けなさい!」
 その声は大天女様、吉祥天(きっしょうてん)だった。

 確かに人間の明鎮が鐘楼から転落するのを防げるのは、人間化した貧姫しかいなかった。
 貧姫は巫女服をなびかせ、疾風のように鐘楼を駆け登ると、すんでのところで明鎮をささえた。

「おお、あなたは・・・」
 こんな状況だというのに、たちまちシャッキッとなるのが明鎮だった。


「貧姫、何をする! その者は・・・」
 毘沙門天の怒声を、吉祥天が遮(さえぎ)った。

「毘沙門天殿、明鎮を天界で裁く事はなりません!」

「むう、吉祥天殿か・・・何故に?」
「気付きませんか? かの者の正体は、啓愚師(けいぐし)ですよ」
 
「エーッ!」吉祥天の話を聞いていた安舞子が思わず声を上げた。

「なんと、そうであったか・・・」
 たちどころに毘沙門天の表情から怒気が消えた。


「ケイグシってなんや?」
 事情のわからないプンプンが安舞子にたずねた。
 勿論、俺もそれを聞きたかった。

「啓愚師っていうのはね、バカな事をやって、罰を受けることで、人に仏法を教える反面教師の役なんだって。人間に転生してる明鎮は、自分の正体を知らないんだけど、あれも大切な役目らしいよ」
 
「ゲッ、すると明鎮の本当の姿は天人?!」
 それは、驚天動地の話だった。

「となると、相当高位の天人ってことになるのよねー」
 安舞子は苦笑いをした。

「けど、明鎮のアホてゆうても、口が飛べへんやないかプププ・・・」
 プンプンの口が消えたのは、安舞子にチャチャを入れたからだろう。

「それは明鎮が人間に転生しているからですよ」
 大天女様が教えてくれた。

「なるほど啓愚師とあれば、その能力が高いのもうなづける。彼が無意識にあのように愚かな振る舞いを続けるのも、その仕事に忠実な為であったということか・・・」
 毘沙門天は、やれやれと首を振りながら、眷属を引き連れ、天界へと登っていった。


 毘沙門天が嘆いたのも当然で、明鎮はまるでこちらの話を聞いてもおらず、
「あのような魔物から身を挺して私を守ってくれたとは・・・」
 と、場所もわきまえず貧姫を抱き寄せる始末。

「エーイ、うっとおしい。あれは魔物じゃねえ、てめえを捕まえに来た毘沙門天様だろうが!」
 と、鐘楼の上で、貧姫に踏みつけられていた。

「まあ、あれはいつものこと。どうやらこの一件も片付いたようですね」

 俺は引きあげようとする吉祥天に、先程毘沙門天から聞けなかった事をオズオズ尋ねてみた。
「大天女様、ピッピが鬼籍に入っていないにもかかわらず、餓鬼になったのは、明鎮の責任だったのでしょうか?」

 すると、吉祥天は笑いながら、
「そのようですね。彼は奈津美という大好きな歌手が事故に会ったのを報道で知り、昏睡状態にある彼女を回復させる御札を書いたのです」

「で、それが間違っていたと・・・」
「そうです。彼は魂の回復を願うべきところ、回収の御札を書いてしまったのです」

 という事だった。

「でも彼女は今朝、長い昏睡状態を脱し、病院で目を覚ましたようですよ」
 帰り際、大天女様はそう教えてくれた。

 それは吉報だが同時に、二度とピッピに会えないという事だ。

「喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら・・・」
 俺は、なんとも言えない複雑な気分だった。


 が、しかし・・・。
 

 庵本寺にまた桜の季節が巡って来た頃、ふたたび俺達はピッピと再開できた。
 ただし、厳密には餓鬼のピッピではなく、人間の栗本奈津美だった。

 彼女は俺達との生活を“妖精になった夢の話”としか考えていなかったが、リハビリには庵本寺・文化教室のフラダンスを選んでくれたのだ。

 フラダンス教室のオバサン達は、もう一人若い子が入ってきたと大歓迎で、指導には先輩の貧姫が当たる事になった。

 勿論、元から、歌手・栗本奈津美が好きだった明鎮も大喜びで、貧姫と奈津美、双方にすり寄ろうとしたが、貧姫からは蹴りを入れられ、屈強な奈津美の父・剛三からは投げ飛ばされと、そこはさすが啓愚師の面目躍如といったところだった。


「ピッピにはもう、俺らが見えへんのやなあ・・・」
 手を振っても答えてくれないピッピに対し、プンプンが寂しそうにつぶやいた。

 俺もまた一抹の寂しさはあったが、それでもピッピが餓鬼の道から解放され、まるで、魂が抜けたかのように一心不乱にフラダンスを踊っているのはうれしかった。

「どうせ聞こえはしないだろうが・・・」
 俺はやはり、ピッピに声をかけてやりたかった。

「お帰り、ピッピ!」


 すると、背後から・・・、

「ただいま!」と、いう声がするではないか。
 ギョっとして振り返ると、そこに立っていたのは紛れもなく餓鬼のピッピだった。

「エッ? すると今、フラダンスを踊っているのはいったい・・・」

 その疑問に答えてくれたのは、このフラダンス教室をいつも見守っている弁財天で、
「困りましたねえ・・・、どうやら奈津美さんは幽体・離脱癖がついてしまったようです」
と、笑った。


 なんとなく、また賑やかな日々が戻ってきそうな予感がした。



         (  完  )

  一年間、励まして頂き、ありがとうございました。
  おかげで完結出来ました。(^▽^)/



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2011年12月06日 (火) | 編集 |
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  こちらのイラストはブロ友のMECHAさんが描いて下さいました。


   【 偽サンタ 】


「ポインセチアと聞けば、連想する物な~んだ?」
 唐突にピッピが言った。

「そらクリスマスやないか? フライドチキンにケーキも連想するで」
 プンプンが舌舐めずりをしながら答えた。

「ケーキねえ。私は何故か、まっ赤なアルファロメオを思い出すのよねえ・・・」

 それは、もしかしたらピッピの封印された生前の記憶かもしれない。



「それにしても、ここはポインセチアだらけやな」 
プンプンがあたりを見回しながらつぶやいた。


プンプンの言ったようにポインセチアは、クリスマスを彩る花。
それだけに、本来お寺とは縁遠い花と言える。

が、ここ庵本寺では・・・。

本堂の欄干(らんかん)に百株を超えるポインセチアが見事に並んでいた。

「なんでもフラダンス教室がクリスマスパーティ、開くんだって」
「クリスマスパーティ? 一瞬、納得してしまいそうやけど、ここはお寺やなかったか?」

「いくら神仏混淆(しんふつこんこう)と言っても、ここまでとはね・・・」
 冬だというのに俺は汗を拭った。

「だろ。私も不思議に思ったんだが、なんでもこの寺は秀吉の禁教令が出るまで、南蛮寺も兼ねていたらしいぜ」
 人間化した貧姫がフラの衣装にダウンジャケットを着て、俺達の話に割って入った。

「あ、なによ。あんた自分だけあったかそうなの着込んでプププ・・・」
 ピッピの関心はそっちだった。

「仕方ねえだろ。人間化すると寒いんだから」
「妖精(?)だって寒いわよ!」
 修行の賜物か、この頃は瞬時に口が復活するピッピが反論した。
確かにピッピの言う通り、いくら餓鬼でも冬は寒かった。

「それはね。君達が裸だからだよ。フッホッホ」

 声がした方向にふり返ると、そこにいたのは・・・、

「げっ、サンタじゃねえか?」
「そうみたいね・・・」
「確かにサンタや!」
「サンタさん・・・ですかねえ」

 赤い服に大きな袋。それはどう見てもサンタクロースだった。
 どうやら、庵本寺はなんでも有りのようだった。

「かわいそうに裸じゃ寒いだろう。そこの良い子には綺麗な服をプレゼントしようかね。フホッホ」
 サンタは担いでいた袋から、三枚の服を取り出してピッピの前に並べた。

「さて、この中から好きな物を君にあげよう。まずは餓鬼ちゃん用の、人から見えないダウンジャケット。それから同じく、あったか虎シマパンツ。そして最後は、軽くて丈夫。小さな天女の羽衣。フッホッホ」

ピッピの目が大きく見開いた。
「まあ、ステキ! じゃ私、羽衣にする!」

「なるほど三択ロースってか。年末定番のオヤジギャグやな」
「と、いうことはこれも妖怪のようだね」
 羽衣を着て喜ぶピッピを見ながら、俺は偽サンタの正体を確信した。

「ちょっと待て!」
 どうやら貧姫も正体に気付いたかと思いきや・・・。

「そ、その天女の羽衣は私の分もあるのか!」
 目を輝かしながらサンタに詰め寄った貧姫に、俺達はずっこけた。

 サンタがピッピに与えた物は、安舞子(あまね)の羽衣とさほど変わらない物だったが、普段はボロ羽衣しか着れない貧乏神の貧姫にはあこがれなのだろう。

「おお、もちろん君にもあるよ。フホッホ・・・。ひとつは七色の美しい天女の羽衣、それから翼が付いた銀色に輝く天使の羽衣。そして最後のひとつは純白の・・・」
 サンタは言うが早いか、袋の中から純白の衣装を取り出すと、それを貧姫に投げつけた。
 すると驚くべき事に、一瞬にして貧姫の服が切り替わったではないか。

「ワー、なんだこの帽子は?」

 それは帽子ではなく角隠しだった。

「あれは、花嫁衣装やないか?」
 プンプンがジト目で呟いた。

「そうだね。高そうな文金高島田だ・・・」
 俺も相槌を打つ。

 となると、この偽サンタを呼び出した者の正体は明らかだった。


「おお、私の為にそのような衣装を着てくれるとは!」
 突然本堂から飛び出してきた若住職・明鎮が貧姫を抱きしめた。

「アホか~! どうやらこれは貴様のせいらしいな」
 貧姫が明鎮をグシグシと、足蹴にしているのを、あきれて見ていた俺達は、ふと異変に気付いた。
 今まで一緒にいた偽サンタとピッピがいなかったのだ。

 あたりを見回すと、偽サンタは異様に膨らんだ袋を、重そうに担いで逃げていた。

「ワー、もしかしてピッピが!」
 あわてて追いかけようとした俺達を止める者がいた。

「大丈夫、すでに安舞子がマークしました」
 それは大天女様だった。

「あれは、サンタクロースならぬ三択Lose。三つの品物の中から正解を選ばせて、間違うと連れ去ってしまうという、悪質な妖怪です」
 すると、ピッピはどれを選ぶべきだったのかと一瞬興味がわいた。


 遠くの方で、三択Loseが安舞子に御札を張られていた。

「三択Loseは、以前出現した偽大黒と同じ種類の妖怪スカウトですが、どうやらピッピの正体には気付かなかったようですね。どうせピッピは重すぎて、妖怪の世界には連れて行けなかったでしょう」

 安舞子がピッピを袋から助け出した。

「なんや目つきが悪うなってないか?」
 プンプンが指摘した通り、ピッピの目がつり上り、悪魔メークのちょい悪ピッピになっていた。

 どうやら彼女は袋に入れられていた僅かな時間で、妖気に当たったようだった。

「何しやがんでえコラ。痛えじゃねえかプププ・・・」
 自分の手を引く安舞子に向かって、ピッピがまるで貧姫のような悪態をついた。

「せやから、そんなもの着とったら妖怪にされてしまうがな」
「そうだよ。早く脱がないと・・・」

「うるせえな。これは私がもらったものなんだよ!」 

 プンプンと安舞子はピッピのタチの悪さに手こずっているようだが、俺にはそれより気になる事があった。

「大天女様は先程、あの妖怪はピッピの正体を知らなかったとおっしゃいましたが・・・」

「そうでしたね。実はあの様なスカウト達が妖怪に出来るのは、すでに鬼籍にある者だけなのです。けれどピッピは、というより、栗本奈津美さんは未だ鬼籍に入っていない事が判明したのです」


 それは衝撃的な発言だった。


   ( 第13話、おしまい )


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2011年11月10日 (木) | 編集 |
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  こちらのイラストはブロ友のMECHAさんが描いて下さいました。


   【 キューピッド 】


 重厚な大輪の菊には、独特の存在感がある。
 愛好家も多く、ここ庵本寺・境内でも毎年展覧会が開かれているようだ。

「こんな近くで観れるなんて、私達菊の妖精だけの特権ねえ」
 大勢の人で賑わう竹垣の外を眺めながらピッピが言った。
 餓鬼は人に見えない存在なので、俺達は展示してある菊を竹垣の中から眺められるのだった。

「もしその姿が鏡に映ったら、菊の妖精には見えへんと思うで~」
 ピッピの言葉に、さっそくプンプンが突っ込んだ。

「じゃあ、なんの妖精よ」
「まあ、せいぜい蛙の妖精やな」
「それはプンプンだけね。それより見て。こうして白菊の花に囲まれて目を閉じている私、オフィーリアに見えない?」
「なんやそれ」

 オフィーリアは「ハムレット」に出てくる悲劇の少女だ。
 しかしその時代、ヨーロッパに菊はなく、彼女は川でおぼれて死んだはずだった。
 たわいのない冗談だが、一瞬ピッピが本当に死者に見えた。

「縁起でもない事を言うのは止めなさい!」
 思わずそう言ってしまった自分がおかしかった。

 俺達は出来るだけ早く、三年間と予想される餓鬼の任期を終えたかったはずなのだ。
 それがなんとなく、今の生活を楽しんでいる事に気付いたのだった。

 確かにこうして、二人の掛け合い漫才を聞きながら、まったりしているのも悪くない。
 だが気をつけないと、こんな時は必ずと言っていいほど事件が起こるのだ。

 やはりというか、なんというか・・・。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~ん!」
 遠くから聞こえてくる泣き声にふり返ると、まるで古代ローマ時代の様な服を着た小さな男の子が、人間化した貧姫に追いかけられているのが見えた。

 フラダンスの衣装にホウキを持って走って来る貧姫に、境内の老若男女がいっせいに道を譲る。
 それはそうだろう。人間化した貧姫は見えるが、男の子はおそらく見えない存在なのだから。
 俺達はかかわり合いを避けるため、そっとその場から去ろうとしたのだが見つかってしまった。

「ペロタン、ピッピ、そいつを捕まえろ!」

 おおかた、子供の妖怪なのだろう。
 協力しないと後がうるさそうだった。

「ワー、何だ。レプラコーンか?」
 立ふさがった俺達に子供の妖怪が悲鳴を上げた。

 どうやらこの妖怪は餓鬼という存在を知らないようだった。

「この野郎、そこでじっとしてろ」
 貧姫がホウキをふりあげて男の子に襲いかかろうとするのを、プンプンが止めた。

「止めなさいよ。あんたショタコン? プププッ」
 天女である貧姫をショタコン呼ばわりしたピッピの口が消えた。

「バカ、こいつはキューピーの妖怪だ。弓を持ってるのが分からねえのか」

 そういえば、男の子は背中に弓を背負っていた。

「放してください。僕には使命があるんです」
 言うが早いか、キューピッド(?)は貧姫に向かって弓を放った。

「バーカ、私は天女だ。その弓は人間にしか当たんねえよ」
 そう言いながら、貧姫は変身を解き、元の姿に戻った。

「ワー正体は魔女だったのか~」

「ちゃうちゃう、そんなええもんやない。あれはたんなる貧乏神、プププッ・・・」
 いつものように、プンプンの口も消えた。

「ハ~、どうやらまた若住職の仕業(しわざ)らしいですな」
「そうゆうたら明鎮、人間化した貧姫に熱上げとったからキューピー呼び出したんやな。それにしてもこんなん、どこがええんやろ、ププププッ・・・」
「なんだと~!」

 プンプンと貧姫のバトルが始まるかと思いきや、割って入る者がいた。
「明鎮様の悪口を言う者は私が許さない!」

 見ると、貧姫に放ったはずの矢がそれて、ピッピのおでこに刺さっていた。

「アレッ? 人間以外には射さらないはずなんですが・・・」
「そりゃあ、てめえが偽モノだからだろうが!」

 貧姫が竹刀で地面をバシっと叩いた。

「違うよ。どうやらこの子は本物のキューピッドみたい」
 いつのまにか出現していた安舞子(あまね)が言った。

「なんですか、これは。前が見えないじゃないですか」
 キューピッドは、安舞子によって、キョンシー状態にされていた。

「なるほど。妖怪退散の御札を張られても消えないようですな」
「うん。となると、大天女様にも報告しないとね~」
 安舞子は、キューピッドの身柄を俺達にまかせて大天女様に報告に出かけた。

 毎回毎回、若住職は天女の仕事を増やしているようだった。

「けど、こいつが本物やったら、なんでピッピに刺さったんや?」
 プンプンが言ったのは当然の疑問で、「そういえば」と、みんなの関心がピッピに移った。

 そのピッピは・・・、「私の明鎮様はどこかしら。探しにいかないと・・・」などと、まだ矢が突き刺さったままだった。

「ほら、完全にいかれとる」
「ドワーッ 貧姫様、早くピッピの矢を抜かないと」
「あ、そうだった」

 しかし、貧姫が思いっきり引っぱっても矢は抜けなかった。
「クッ抜けねえぞこれ」

「イタタタタ、なにすんのよ」
 ピッピが足をばたつかせて抗議した。

「無駄ですよ。その矢は簡単には抜けません」
 キューピッドが得意げに言った。

「てめえ、すかしてんじゃねえぞ! こいつは元々標的じゃねえだろうがよ」」
 貧姫がキューピッドの口を両手で押し広げた。

「ふわわわ~、ご免なさ~い」
 キューピッドはあっけなく降参したが、弓が抜けない事に変わりはなかった。

「で、いつになったら、ピッピの矢が抜けるんだ?」
 貧姫がキューピッドをがっくん、がっくん揺さぶった。
(注・・・子供には、こういうまねをしないでくださいね(^^;))

「キューピッドは矢を射るだけの存在。刺さった矢のその後については知らないはずですよ」
 神々しい光と共に大天女様が立っていた。
どうやら安舞子がお連れしたようだった。

「キューピッドの矢は、恋愛が成就するか、相手側から完全な拒絶を受けるまで、一月程度は留まると言われています。しかし、ピッピは人間ではなく、姿も見えません。本来は恋愛の対象ではないので、キューピッドの矢が刺さる訳もないはずなのです」

「けど、刺さってまんがなプププ・・・」
 なんでも茶化すのがプンプンの悪いクセだった。

「このような事例はないのでしょうか」
 俺は慎重に大天女様に尋ねた。

「過去に数例、記録があります。が、それらはいずれも・・・」
「いずれも?」
「いえ、この件に関しては、少し調べて見る必要がありそうです」
 大天女様は多くを語らず、キューピッドを連れて天界に戻られた。

 結局、ピッピに刺さった矢は、わずか三日程で消え、
「私がなんであんなバカ住職を好きになるのよ」と、いつもの彼女に戻ったが、
この後、驚愕の事実が明るみに出ることになった。

 それはさておき、あのキューピッドは実に真面目なやつで、
 依頼人(明鎮)の命令を誠実に実行していたことが判明した。

人間化した貧姫を狙って、フラダンス教室で放った矢は実に三十七本!
それらはことごとく外れて、まわりの中高年ダンサーに刺さっていたようだ。

 おかげで若住職の法話会は『明鎮命♡』と書かれた鉢巻きを巻いたオバサン達が仕切る、異様な熱気に包まれたものになった。

    ( おしまい )
 

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2011年10月13日 (木) | 編集 |
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  こちらのイラストはブロ友のMECHAさんが描いて下さいました。


   【 猫又 】


 お寺に曼珠沙華(まんじゅしゃげ)はよく似合う。
もっとも、その意味はサンスクリット語で“天上の花”を表わし、仏典にも出てくるのだから当然かもしれない。

 思い起こせば、俺が生前僧侶を務めていた寺にも大量の曼珠沙華が咲いていた。
 ただしそれは白花で、この庵本寺に咲き誇る真っ赤な曼珠沙華とは少し趣(おもむき)が異なっていたけれど。


 それにしても、俺が今いる曼珠沙華の森(?)は静かだった。

いつも賑やかなピッピとプンプンが、賞味期限の切れたハンバーガー目当てに、貧姫の手伝いに出ていたのだ。

 貧姫は前回のペナルティとして、フラダンス教室がない日はトイレ当番をさせられており、境内・五ヶ所のトイレで二週間、浄化活動(!)をしてまわる事になっていた。

トイレの女神様という歌はあるが、そこにいるのが貧乏神と餓鬼達ということがわかれば、利用する人はためらうに違いない。

 そんな取りとめもない事を考えていると、ガングロ天女の安舞子(あまね)が通りがかった。
 彼女は今朝から何度かここを通っている。
 おそらくは例の猫又を捜索するように言われているのだろう。

 そんな彼女に、俺は聞きたい事があった。

「安舞子様、安舞子様、少しお尋ねしたい事が・・・」

それは、最近フラダンス教室のおばさん達が噂をしている若住職の事だった。
 というのも、この件に関しては俺にも少し責任があるからだった。



「うん、その噂なら本当らしいよ」
 安舞子は包み隠さず答えてくれた。

「なんでも一週間ばかり気絶した後、急に人が変わったみたいに、煩悩が消えたんだって」

「と、いうとやはりアレを読んだんでしょうかねえ・・・」
 俺はタオルで脂汗を拭いながら言った。

 俺がアレといったのは、若住職が猫又を使って天界から盗み出したイシラヤ・ピタカという究極のエロ本のことである。
 これを読めば、この世の全てのエロスがバカバカしくなり、悟りを開いてしまうことから、人類という種の滅亡を招くと言われ、禁書中の禁書とされている。
 (無論、彼はそれがエロ本とは知らずに盗み出したのだが・・・)

そんな本の封印を(阿比留文字で書かれていた)先日俺は猫又に騙され、解いてしまったのだ。
この件で、貧姫は責任を取らされたが、俺にはおとがめ無し。
 そのあたりがちょっと、後ろめたかったのだ。


「読んだのは間違いないっしょ。大住職は明鎮が変わったって喜んでるらしいけど」

「では、若住職は大丈夫なんですね?」
 責任上、その点は不安だった。

「わかんないけど、突然修行を積んだ高僧みたいになったとかで、近々呼び戻すらしいよ」

 ということは、それ程人格崩壊をしていないようだ。
 俺は正直ホッと、胸をなでおろした。

 ところが・・・。

「いけませんよ。胸をなでおろしていては」
 突然の声にふり返ると、そこにギターを持った弁天様がいた。

「いくら煩悩が消えたと言っても、それは自然な姿ではありません。しかも私達の不祥事によって人が変わったのなら尚更です。ことに明鎮殿は大切なお方。そこで、この天界の書物“忘却の書”の封印を阿比留文字が分かる貴方に解いてもらおうと思います」
弁天様は懐から天界の書物を取り出した。
 
「ハハーッ」
 すぐに弁天様の命令通り、天書の封印を解こうとした俺を、安舞子が止めた。

「ペロタン、弁天様の悪口を言ってみて!」

「い、言えませんよ。そんな事」

「言ってみて! この弁天はおそらく偽者よ」

 だが、俺が悪口を言って確かめるまでもなかった。
突然、偽・弁天の顔が猫になると同時に、羽衣の裾からは二本に分かれた尻尾が出現したのだ。

「やっぱりね~。天界から“忘却の書”が盗まれたと聞いて、たぶんまたここへ来ると思って張ってたんだし~」

「クッさすがは安舞子! 貧姫のようにはいかニャイか・・・」

「おとなしく成仏・・・」
「そうはいかニャイ!」
 御札を張ろうとした安舞子の手をすり抜け、偽弁天が脱兎のごとく逃げ出そうとした、その瞬間。

「ウギャ~!」
 偽・弁天はまるで雷に打たれたように、その場に倒れたのだった。
 どうやら、安舞子はあらかじめ結界を張っていたようだ。

「ハイ、おしまい。成仏、成仏」
 安舞子が猫又の額に御札を貼ると、それは只のミケ猫になり、そのまま消えて行った。

「あの猫又は、若住職が子供の頃に可愛がっていた猫なんだって。大天女様を呼び出そうとして間違って出したみたい」

「なるほど、それで若住職に忠実だったんですね。でも、あの結界はお見事でした」

 俺がそう言うと、彼女は「あ、忘れてた」とテヘっと笑い、「みんな、もういいよ~出てきて~」と叫んだのだった。

 すると、この場所を囲むように三方から御札を持った、貧姫、プンプン、ピッピが現れた。

「あれ、みんなはトイレの浄化をしてたんじゃなかったのかい?」

「敵を騙すにはまずは味方からというじゃない」
 ピッピが俺の背中をポンポン叩いた。

 どうやらこの作戦を知らなかったのは、俺だけだったらしい。


「安舞子も餓鬼さん達もよくやりました」
 いつのまにか背後に大天女様と弁天様が立っていた。

「貧姫もよく頑張りましたね」
大天女から名前を上げられず、ちょっとふくれっ面の貧姫に弁天様が声をかけた。



 それから数日後、まるで高僧の様に煩悩が消えうせたと評判の若住職・明鎮が庵本寺に帰って来たのだが・・・、



「なあ、鬘(カツラ)かぶってフラダンス教室を覗き込んでる変なオッサン、明鎮やないやろか?」

 プンプンが指をさす本堂の練習場を見ると、確かにそこに小さな子猫を抱いた不審な人物がいた。

 よだれを垂らしながら、人間に化けた貧姫のフラダンスを凝視しているのはまさしく若住職・明鎮だったのだ。

「天界のエロ本を読んで色欲が消え失せたんじゃなかったの」
 ピッピの、この当然の疑問に大天女様も「変ですねえ・・・」と首をかしげたが、

「要するに本物の女の方がええいう事やな。天界の書もたいしたことないプププププ」

 プンプンの言葉が正解かも知れなかった。

 恐るべし、明鎮。その偉大なる煩悩は、彼が死の床につくまで消滅しない事だろう・・・。



    ( おしまい )


 

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2011年09月14日 (水) | 編集 |
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  こちらのイラストはブロ友のMECHAさんが描いて下さいました。


   【 コスモス 】




 あれ程にぎやかだった蝉が消え、変わってコオロギ達が鳴き声を競うようになった頃、俺達が待ち望んだ地蔵堂が落成した。

 地蔵堂は、大住職が地蔵盆に合わせて建造を急がせていたが、少し遅れてこの時期になったのだ。
とはいえ、どうやら今年の冬は屋根のある場所で眠る事が出来るようだった。

 そういえば境内の花も、主役の座を秋桜(コスモス)が占めるようになっていた。
いつのまにか、もう秋なのだ。


「秋桜(コスモス)って言ったら思い出す歌手、だ~れだ?」

 ピッピが出したこの問いに、俺はすかさず「さだまさし!」と答えた。
 だが、その答えが意外だったのか、ピッピとプンプンは顔を見合わせた。
(しまった山口百恵というべきだったか?)

「コスモス言うたら、ミマスかやないかい。って、そらコスモス違いや~」
プンプンが自分でボケ・突っ込みを入れた。

「そういえばコスモスって宇宙の意味もあるのね。なにか関連性があるのかしら」

「コスモスとは元々ギリシャ語で、秩序とか美しさを表わす言葉だからね。群生して咲いてる秋桜が秩序ある美しさに見えたんだろうね。ちなみにカオス(無秩序)はその反対語だよ・・・」

 俺はここぞとばかり、持てる知識を駆使して答えたが、ピッピはもう聞いていなかった。

 しかし、まったく別の人物がそれを聞いていたようだ。
 
「なるほど前世の知識を持つ餓鬼とはあなたの事ですね」
 ふり返ると、そこに一人の天女が立っていた。

 その羽衣は安舞子(あまね)とは格の違いを感じさせ、弁天様のそれに似たものだった。
また、始めて見る天女にもかかわらず、不思議にもその姿はどこか見覚えがあった。

 記憶をたどるとそれは、俺が昔いた寺の壁画にあったた吉祥天だったのだ。
 
 茫然として見とれていると、駆けつけて来た貧姫が、「てめえら頭が高~い、その御方は大天女様だぞ」と、どこかの時代劇の様な事を言った。

「ヘヘ~ッ」
 俺はプンプン達の頭を押さえ、ひれ伏せさせた。

「なんや貧姫、前は『大天女に抗議してやる!』とか言うてた割に、腰が低いなプププ・・・」
 はしくれとはいえ、いちおう天女の貧姫に、失礼な事を言ったプンプンの口が消えた。

 だが、それよりもとんでもないのはピッピで、
「でも、大天女様にしては後光とか見えないわねえ」などと失礼な事を言い放ったのだ。

 俺は大慌てで、なぜか消えなかったピッピの口を押さえたが、それより早く、
「くぅおら餓鬼ども、大天女様に失礼な事を言うんじゃねえ」
 と、貧姫が竹刀で地面をバンバン叩いた。

「よいのですよ。餓鬼達をいじめてはなりません」

 大天女様は、おだやかな表情で貧姫をたしなめると、俺に向かって、
「実は、前世の知識を持つあなたに、頼みごとがあって参ったのです」と言われたのだ。

「あなたは、その胸に書かれた真性・阿比留文字が読めるのですね」
 そう言われて俺は、思わず自分の胸を見た。
 そこにはうっすらと、阿比留文字で『我ここに在り』と書かれていた。

 これは僧侶だった俺が死ぬ前に自分で書いたもので、プンプン達は読めないまでもこれを見る事によって過去の自分の名前を思い出していたそうだ。
 

「実はここに天界の書物があるのですが、阿比留文字で封印されていて、人間の目には見えません。私はある方の依頼を受けて、これを届けなければならないのですが、あなたに封印を解いて欲しいのです」
 そう言って、その書物を俺に差し出されたのだった。

そこには<我が名はイシラヤ・ピタカ。その名を三度唱えよ。それが封印を解く鍵なり>とあった。
 
 俺がそれを翻訳し終えると大天女様は満足そうにうなずき、「やはり私が見込んだだけの事はありました」と言うと、貧姫に対しても「あなたも地区の貧乏神としては過分の働きをしましたね。ここに姿を見せない天女(安舞子)に代わって地区担当にしてあげましょう」
などと言い出されたのだった。

 貧姫が感激して「ハハーッ、ありがとうございます」などと平伏し、ピッピ達が貧姫を地区担当にする事に抗議している中、異変が起きた。

「偽・吉祥天! あんたを捕縛します!」
 サイレン音と共に天兵、数名を引きつれたガングロ天女・安舞子が中空を引き裂き、現れたのだ。

 これには俺達も度肝を抜かれたが、一番驚いていたのは貧姫かもしれなかった。

「貧姫、ペロタン、そいつを捕まえて!」
 などと言われても、大天女様を捕まえる事など出来ようはずもなかった。

「よく見て、尻尾があるでしょ!」
 そう言われてよく見ると、この大天女様には長い黒髪に隠れてニャンコの尻尾が二本あった。

「大妖怪、猫又よ。例によって若住職が呼び出したのね」
 安舞子は御札を取り出し、猫又を封印しようとしたが、この妖怪は以前の妖怪のようにはいかなかった。

 猫又は、天兵の包囲をするりと潜り抜け、安舞子が飛ばした御札をもサラリとかわすと、
突然ケラケラと笑い出し、「無駄よ! 無駄々々! 我はすでに最強の秘本を手に入れたわ! 後はこれを修行中の明鎮様にお渡しするのみ」と言い残して地中に消えていった。

「明鎮、どこまでも我らを患わせてくれるようですね」
 天兵の背後にまばゆい光が射したかと思うと、そこから神々しい天女が現れた。

 正真正銘、大天女の吉祥天様だった。

「ヘヘ~ッ」
 俺達はまたしてもひれ伏した。ただし、今回は貧姫も一緒だった。

「貧姫、ペロタン。困った事をしてくれました。あの書物の封印を解くカギを渡すとは・・・」

「ヘヘ~ッ」
「大天女様、いったいあれはどんな本なんです?」
 安舞子がまるで緊張感なく尋ねた。

「あの書物は使い方によっては人類全体を滅ぼす事の出来るものなのです」

「ヒィ~」
 事態の重大さに貧姫が悲鳴を上げた。

「な~んてね。イシラヤ・ピタカはたんなるポルノです」
(※・・・ピタカとはインドにおける説話集のようなものをさす)

「ハイ?」
 全員が自分の耳を疑った。

「ただし、あれは天界の秘本とも言える究極のポルノです。いうならば修行の為のもので、ひとたび読めば、一週間は魂の抜け殻の様になりますが、その後は全てのエロスがバカバカしく思えてきて、色欲から完全に解放されると言うものです」

「つまりそんな本が人類に行き渡れば、滅亡するということですね」
 俺は何という事をしてしまったのかと、後悔した。

 しかし・・・、

「だいじょうぶ、あれは写本です。天界の写本は期限付き。お一人様限定になっているのです」
 吉祥天は笑いながら言った。
 どうやら、パッケージを開けると一週間で消える、お試しDVDの様なものらしかった。

「それに天界の書物院の天女達もあの猫又に騙されたのですから、私があなた達だけを責める理由がありません。ただ、貧姫については、ガサツさが短所と弁天殿の言っていた意味がよくわかりました」

 その結果、貧姫はフラダンスを極めるまでは昇級試験も受けられない事になり、彼女が俺達を管理するという悪夢も当面なくなった。

 俺はといえば、今後阿比留文字を使う事を禁止され、胸に浮かんでいた『我ここに在り』の文字も消されたものの、それ以上のおとがめはなかった。

 それにしても、あの本をまるで世界征服の本であるかのように思って読んだ明鎮はどうしていることだろう。

 色欲の消えうせた明鎮など、想像もできないが、修行を終えて帰って来たら一度見て見たいものだと俺は思った。


「秋桜(コスモス)といえば思い出す歌手、だ~れだ?」
 ピッピのこの質問に対する理想的な答えを知っていたのはガングロ天女だった。

「栗本マキナ・本名奈津美。つまりピッピ、あんただよね~」
 安舞子が笑いながら答えた。

        ( おしまい )

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  こちらのイラストはブロ友のMECHAさんが描いて下さいました。



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