自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2016年09月21日 (水) | 編集 |
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写真は記事とは関係のない、チビポンを見守っているクロちゃんです。

   【 鬼次郎金融10 リベンジポルノ 】
 
 ある日、真由美との連絡に使っているスマホのメモに驚くような内容の記載があった。

『私はこれまで保母さんになろうと努力してきました。けれどこんなことをされたら、夢は全部諦めないといけないでしょ。ステテコ登校の次はこれ? 安倍先生はあなたのことを悪霊じゃないと言われましたが、だとしたら悪魔です。お願いだから私から出ていって!』

 恨みがましい文面とともに「フェイスブックから」という画像が添えてあった。

 それは正面を見据えて不自然なポーズを取った真由美の全裸写真だった。

 もちろん俺はこんな卑劣なことはしない。だとすると第三者が介在していることになる。

 フォロワーである友人数人だけの限定公開だからといっても、パスワードに生年月日を使うという無防備さがもたらした結果だが、冗談で済まされるものではない。

 だがその前に一つだけ、払拭しておかねばならない懸念材料があった。

「もしもし、先生かい?」
 俺は真由美と俺の秘密を誰よりもよく知っている安倍に電話した。

「ひとつ聞いておきたいことがあるんだが、真由美の中にもう一人いるという可能性はないか? つまり二重人格ではなく、多重人格ということだが」
 安倍はしばらく押し黙って考えた末、「それはないと思う」と答えた。

「100%断言はできないが、今まで診察してきた私の経験則からいって可能性は低いはずだ。それに最近は君たちが協力してスマホメモを取ってくれているので、少なくとも数週間は君たち以外の人格が乗っ取りを図ったと思えない」

 俺はそれだけ聞くと「何があったんだ? 言え」という安倍からの質問を「後で話す」と言って電話を切り、開店前の栄子のガールズ・バーに向かった。仲間の力を借りて、早急に悪意ある合成画像(!)を作った犯人を見つけ出す必要があったからだ。


「これはいわゆるリベンジポルノというやつっすねえ。真由美さんにふられた元彼氏とかが嫌がらせにやってんすよ」
 栄子が常識的な判断をした。

「だが俺の知る限り、真由美に彼氏がいたことはない」
「そらまあ、何かっちゅうと姉(あね)さんが出てきはるんやもん。彼氏ができるわけ・・・」
 従業員(その1)の鈴木がよけいな突っ込みを入れたので、ポカッと叩いておいた。

「もしかすると真由美さんというより、姉(あね)さんの方に恨みを抱いている者ということかも・・・。となると、犯人の特定が難しいっすね」
 それはそうだろう。俺に恨みを抱いているやつは数十人を下らない。

「その中で可能性の高いのは、真由美を監禁しようとして失敗し慰謝料をふんだくられた宗教団体。フィッシング詐欺に仕返しをしてやったヘンテコ商会。栄子のガールズ・バーを乗っ取ろうとして、直接対決で潰したライバル店・店長。内容のない講義を指摘してやった某国立大教授。直接焼きをいれてやったスピリチュアル詐欺の祥剣采(しょうけんさい)。同じように制裁を下したストーカー野郎で元アルバイト先の上司・山田・・・」

「山田!」

 俺と栄子は顔を見合わせた。

 FBIのプロファイラーでも、この種の犯罪行為を行う可能性が一番高いのはこの男と推測するだろう。

 しかも放っておくとフェイスブックに留まらず他のサイトにも写真をばらまきかねない。だが、確固たる証拠がなければどうにもできないのが辛いところだ。

 そう思いながら唯一の手がかりと思える画像を見ると、奇妙な事に気付いた。

「この正面を見据えている写真は免許証か履歴書に貼る写真っすねえ」
 栄子がそう言った。しかし俺が違和感を感じたのは、首から下の方だった。

「それもそうだが、この体の部分はよく見ると人間じゃないぞ」
 それは某等身大ドールメーカーが製造する、ひと目では人間と見分けがつかない精巧な高級フィギュアの体だったのだ。

「こういう高額なフィギュアを持っているマニアはすぐに分かるんじゃないっすか?」
 栄子の指摘は当然だが、そう簡単ではない。この種の高級フィギュアは未だに偏見が強く、誰が購入したかは、本人が語らない限り分からないようになっているものだ。

 殺人事件絡みで裁判所からの強制捜査でも入らない限りメーカーも個人情報を渡さない。ましてこの犯人が単にインターネットから引き出した画像を合成しただけという可能性もあるのだ。

「写真画像からは特定できないか・・・」 
 俺がそう呟いた時、鈴木がヘラヘラ笑った。

「簡単に分かりますよ。ただアカウントに変な工作をしてへんかったらですけどね」
 そういえば鈴木はハッキングの天才で、以前俺にその技術を少し伝授してくれたことがあった。

 鈴木によれば、誰かが成りすましでログインしても、その記録は残る。つまりはサーバーから犯人のアカウントを記録し、そのアカウントでアクセスした全てのサイトを調べれば山田かどうかを特定できるというのだ。

「その前に、この顔写真の類似画像が他の場所に使われていないか探らんとあかんか・・・」
 鈴木はグーグルの画像認識プログラムを使って、エロサイト等にも同じ、もしくは類似の写真が流されていないか検索をした。

「どうやら、まだそこまではやっとらんようですわ。ほなアカウント検索っと」

 鈴木はたちどころに同じアカウントによるアクセス先を調べ、犯人が立ち上げている幾つかのブログやミクシー、フェイスブック、ツイッターを見つけ出した。

「やっぱ、このアカウントは山田はんのもんに間違いなさそうや」

 鈴木がパソコン画面に出したのは山田のフェイスブックで、会社での活躍ぶりや、奥さんと台湾旅行に行った時の楽しそうな顔の写真が並んでいた。

「それだけやないで。山田はんは別にアパートを借りとったみたいで、こっちのブログのタイトルは『ボクの秘密部屋♡』や」

 そこには山田の顔は一切写っておらず、代わりに裸エプロンやバニーガールの格好をさせた等身大フィギュアが毎回UPされていた。

 さらに鈴木が山田のパソコンに侵入すると、そこにはデーター化された今回の真由美の写真が制作過程も含めて記録されており、さらに製作中の新・真由美エロ写真まであった。

「はあー、これは決定的っすね」栄子がため息をついた。

「この卑劣やろうが! 奥さんがいる上、等身大ドールまで購入しても飽き足らず、未だに真由美に執着しやがって。どうしてくれよう」

 俺はまず、山田のPCから真弓に関するデーターをすべて抜き出し記録すると、やつのPC上にある同じデーターは消去。

 それからフェイスブックには『ボクの秘密部屋♡』の記事を全てリンク。さらに、『ボクの秘密部屋♡』に集まるブロ友に向けて、やつの本性をさらすべく、最新記事で「楽しいリベンジポルノ」を付け足し、顔はわからなくした真由美の写真を、ブロ友達が愛すべきドールと合体させて悪事を働く様子をUP.。

 ついでに「NEVERのまとめ」には山田の笑顔写真付きでで『Hな合成写真・作り方まとめ』を載せておいた。

「これでよし。やつは社会的偏見をなくそうと努力しているドール愛好家達からも強烈な非難を受けるはずだ。それと真由美の方には安倍先生から誤解を解いてもらうとしよう」

「姉(あね)さんを怒らせたら大変っすねえ・・・」

 栄子が苦笑した。

      (第10話・リベンジポルノ おしまい)

 

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2016年04月06日 (水) | 編集 |
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 写真は記事とは関係のない、ウチのめっちゃ君です。(^^;)

   【 鬼次郎金融9 口寄せ 】
  

「佐倉真由美、お前とこうして話ができる日が来ようとは。ワシは嬉しいぞ」
 それまで物静かだった口寄せの巫女が、私をギロリと見て笑った。

口寄せとは、自分の体に霊を憑依させ、その想いを語らせるというもので、亡くなった親族の霊を呼び出し遺族と語らせる恐山のイタコなどが有名だ。
しかし、時には霊障をもたらす憑き物を退治する目的で、霊能者が霊媒体質の巫女などを使って悪霊と対峙することがある。今、私が受けているのがそれだ。

「出たな。主が鬼次郎か! 我が名は祥剣采(しょうけんさい)! 大日如来の命を受け、四天王・八部衆の力を借りて邪気を祓う者なり」
 緋色の袈裟を着て数珠を振りかざた霊能者が、巫女を見据え朗々とよく響く声で叫んだ。

「グオ~、眩しい! 止めろ、止めてくれ」
 あの憎たらしい鬼次郎が巫女の口を使い、珍しく弱音を吐いた。
「ヨシ!」
 それを見て、私は思わずガッツポーズを取った。

 中学生の時、酷いイジメにあって、私は我を失った。『誰でもいいから助けて欲しい』と願ったのがきっかけで、鬼次郎という悪霊が取り憑いたのだ。
 鬼次郎は私の体を操り、粗暴な行動で不良学生達をやっつけてくれたが、その代償は大きかった。以来、私はずっと鬼次郎に取り憑かれ、お金と友人と時間を奪われ続けている。

 勿論これまでにも、かかりつけの精神科医や、短大の校医である安倍先生(本当か嘘か知らないが、彼はあの有名な安倍晴明の末裔だという)にも相談したのだが、その誰もが私を『解離性障害(二重人格)』の患者であるとして、鬼次郎=悪霊説を信じてくれなかった。
 それが数日前インターネットで、祥剣采という霊能者の『スピリチュアル・悩み相談』を受けたところ、「他の者には分からなくとも、私には見える。あなたは、その鬼次郎という悪霊に間違いなく取り憑かれている」とズバリと言い切ってくれたのだ。

「鬼次郎とやら、この者から去れい、地獄に落ちて二度と出て来るでなーい!」
 霊能者は、私の背中を如意笏(お坊さんが手に持つ孫の手のようなもの)で叩きながら、ビクリとするような大声を張り上げた。だが・・・、
「グオー、負けぬ、ワシは真由美から離れぬぞ」
 巫女はもがき苦しみながらも、そう言って抵抗を示した。
「おのれ、悪霊めが」
 霊能者は汗を拭いながら私に向き直ると、「佐倉さん、やつを追い詰めようと思うたら、やはり『祓い塩』がいるようなんやが使てよろしいか?」と尋ねた。
 
 私は鬼次郎を追い出すためならと思い、「ハイ」と答えたものの、霊能者が仏壇の脇から取り出した盆の上には塩の小袋が山のように積まれていて、『強力祓い塩 一袋5万円』と書かれていた。
 ご、5万円! それはいくらなんでも・・・と言おうとする前に、霊能者は塩を3袋ほど掴み、それをビリビリと引き裂いてしまった。

 霊祓い、基本料金2千円のはずが、15万円・・・。
 私はクラリとしたが、ここで鬼次郎を引き寄せては元も子もない。後でリボ払いにでもしてもらおうと踏ん張って霊能者の戦いを見守った。

「ゲッ、その塩は! 止めろ、止めてくれー」
 鬼次郎は巫女の口を借りて悲鳴を上げたが、霊能者は容赦なく塩をまく。しかし、巫女は一度もんどり打って倒れたものの、再び起き上がり「負けぬ、負けぬぞ」とつぶやいた。
「もう少し塩が必要か」
 霊能者は再び塩に手を伸ばした。
「あ、これ以上は・・・」
 お財布の中の資金に余裕のない私は、頭の中が真っ白になった。


 目を覚ますと、どう見ても僧侶には見えないゲス顔のオヤジが派手な袈裟を着て、何やらお経らしきものを、厚化粧のチーママ風・巫女に向かって、がなりたてていた。
 見たところここは寺ではなく、ただの民家のようだが、オヤジの背後にある仏壇は異様に大きく、そこに東南アジアの土産物っぽい仏像が四体置かれている。

 お経の合間に挟む言葉をよく聞くと、『鬼次郎』とか『悪霊』とかほざいているようだ。察するに鶏頭の真由美が、今度は霊能詐欺にひっかかったのだろう。
そのバカバカしさに呆れつつも、しばらく見ていると、今まで悲鳴をあげていた巫女が、くわっと目を見開き、「負けぬぞ! ワシは悪霊中の悪霊、いかにお前が徳の高い霊能者であろうと、この鬼次郎は負けぬ」と言い出した。

「しつこいやつだ。もっと塩を」
 そう言ってエセ霊能者が手を伸ばした盆の上には塩の小袋がいくつか積まれている。
 あろうことか『強力祓い塩 一袋5万円』という札が立てかけてあった。
 すでに塩まみれになっている鬼次郎役・巫女の前には、小袋が10袋位は転がっている。つまり、このインチキ野郎は、ざっと見で50万円を真由美に要求する気なのだろう
「許せん・・・どうしてくれよう」
 俺は怒りのあまり、拳を強く握りしめた。

「佐倉さん、もうちっとで鬼次郎を退治できます。聖水も使てよろしいか?」
 すでに真由美と俺が入れ替わっていることも知らずエセ霊能者は聖水の壺を指差した。そこには汚い字で『聖水20万円』と書かれてあった。

「アホかー!」
 俺は我慢できず、インチキオヤジの尻を蹴飛ばした。
 何度も言うようだが、別人格の俺が真由美の体を掌握すると、人間自身が抑えている安全弁が外れ、火事場の馬鹿力を出せる。
 霊能者は部屋の壁まで蹴飛ばされて、目をパチクリさせ、巫女は演技を止めて凍りついた。
 面白いので俺はここで一芝居を打ってやることにした。

「悪霊の鬼次郎はこっちだ! そんなことも分からんのか、この無能力者めが」
 おとなしかった真由美が豹変し、俺が目の前に現れたのに驚いたのか、巫女はガタガタと震え出したが、さすがに詐欺の場数を踏んでいるオヤジは違った。

「なんや姉ちゃん、祈祷料が高いんで怒りだしたんかいな。せやけどこれはビジネスや。今まで使った塩の代金はきっちり払てもらうで。ワシを蹴ったぶんもな!」
 要するにこのオヤジは始めから真由美の話など信じていなかったのだ。
おそらくは霊も二重人格もこの世にあるとは思ってもいないだろう。信じているものは金と暴力だけ。そういう輩は対応も簡単だ。

俺は側で腰を抜かしているチーママ・巫女を尻目に、霊能詐欺のオヤジを右手で吊し上げ左手でビンタをした後、何度か放り投げ、踏みつけ、蹴飛ばして、また踏みつけた。
それからスマホを取り出すと、安倍にこの出来事を予測を交えて報告してやり、最後に「これだから真由美と融合なんぞはまだできないと言ってんだ」と怒鳴ってやった。


 気が付くと私は自分のアパートに戻っていた。
 ということはバカ高い祈祷を受けながら鬼次郎は消えなかったということになる。
 それなのに私は後日きっと、あの霊能者から数十万円もの塩代を請求されることになるのだろう。
暗澹とした思いで涙を拭いながら、ふと机の上を見ると、一枚の紙が置いてあった。
そこには「インチキ悪霊祓いで佐倉様にはご迷惑をおかけしました。幾重にもお詫びいたします。 祥剣采」と書かれていた。

その下にミミズがはったような字で「エセ霊能者が出した詫び賃は、俺がもらっておく。お前には、500円だけやる」と書かれており、テープで500円玉がとめてあった。さらに追記文もあり、「何度も詐欺に引っかかりやがって、この鶏頭! 二度とこんなバカをするな」とあった。

 気を失った後、いったい何があったかは知らないが、鬼次郎がまた暴れたという事は容易に想像がついた。
私はふっと溜息を付きながらインターネットを立ち上げ、念のため『祥剣采のスピリチュアル・悩み相談』を開こうとすると、「ご指定のファイルは見つかりませんでした」という表示がでた。


   ( おしまい )


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2015年04月08日 (水) | 編集 |
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 写真は記事とは関係のないクロちゃんです。


   【 鬼次郎金融8 新たなる危機(?) 】

    
  この前のアルバイトは散々だったが、店を経営する栄子は「まあ、予想はしていたっす。姉(あね)さんの場合は裏方中心でもいいっすよ」と大目に見てくれた。
 そこは良かったが、この件でも俺と真由美のコミュニケーション不足が露呈した。

今まではお互い、机の上にメモを残すというやり方を続けてきたが、その方法だと敏速に状況を伝えることができない。このままだと彼女が社会人となった時、困ることが生じるだろう。そこで俺は短大での水泳授業の後、(実は真由美は、必修授業であるにもかかわらずプールに入るのを恐れて俺に任せていた)学校医・安倍に相談してみることにした。

「人格同士のコミュニケーション問題は、多重人格者ではよく報告されていることだよ」
俺の相談に安倍は即座に答えた。
「で、何かいい方法はあるのか?」
「君次第だろうね。要するに真由美さんが、どれだけ信頼してくれるかだよ。例えばスマホにはメモ帳アプリというものがある。これを利用して自分が覚醒している間は、常にメモを取ることにし、お互いにそれを共有すれば今起きている状況の把握がスムーズにできる」
「なるほど」
「実は真由美さんは、そのアプリを使っているんだが、君を信頼していないのでこのことは伏せておいてくれと言われていたんだ」
 あのやろう・・・俺は怒ったが、真由美ならやりそうなことだった。

「で、そのアプリを共有できる暗号は聞いているのか?」
「治療の一環なので、私には教えてくれたよ。だが、それを言えば私が真由美さんとの約束を破ったことになり、信頼を失うことになりかねない。だからこれはウッカリ者の高橋君が漏らしてしまったということにしておいてくれ」
「エー、僕がですかぁ」と、助手の高橋は抗議したが、こいつがバカなことは真由美もよく知っているので、さほど怒らないだろう。
 
 さっそく帰りの電車の中で、そのメモアプリを開いてみると、見逃せないことが書いてあった。

11時8分 お母さんからTEL。内容は例の未公開株。前回は買わなかったけど、持っていれば高値で買うので譲って欲しいという大手証券会社のチラシが郵便ポストに入っていたそうだ。ちょっと惜しかったね。

13時21分 お母さんからまたTEL。例の未公開株を持たないかという誘いがまたあったとか。詳しくは分からないが「ヘンテコ商会」という会社はすごく伸びてる会社で、公開されれば二百万円の株が一千万にはなるらしい。だから大手の証券会社は四百万円で譲って欲しいと言ったのだとか。でもウチにはお金が無いから縁のない話ね。

 買わなかったか。俺はホッと胸をなでおろした。ところが、メモにはまだ続きがあった。

14時16分 またお母さんからTEL。「ヘンテコ商会」の株は分株できるので五十万円でもいいそうだ。それなら買うべきねと言っておいた。鬼次郎はいつも株を持っていることで私に自慢してたけど、これで私達も株主だー。問題はすぐに大手証券に譲るべきか、長く持っているかね。

14時48分 またまたお母さんからTEL。積み立て貯金の残高は五十万円もなかったそうだ。少し借りることはできるけど期日までに振り込めなかったしチャンス逃したかな? また明日も電話がかかってくるといいね。

「この鳥頭どもめ~!(鶏並みの記憶力しかない人) 以前、詐欺にあったのを忘れたか」
俺は買い換えたばかりのスマホを思わず握りつぶしそうになった。
 あわてて、次の停車駅でホームに降りると、真由美を装って典子に電話をかけた。
「あ、お母さん、私、真由美だよ~ん。今、友達から聞いたんだけど、それ詐欺なんだって! ヘンテコ商会なんて会社はないし、大手の証券会社を名乗るパンフもインチキなんだって。ウソだと思ったらそこに書いてある大手の証券会社に電話をかけて・・・エッ、ダメダメ! チラシの番号は罠だから! 私が本当の電話番号を教えるから、そんな話があるのか直接聞いてみればいいよ。それから明日は絶対に電話に出ちゃだめだよ」
 そう言って電話を切ると、真由美のメモ帳アプリに、思いっきり彼女を罵倒する言葉を残しておいた。

 もしかすると「ヘンテコ商会」とは以前、真由美を引っ掛けた「変梃子商会」なのではなかろうか。やつらは痛い目に合わせて、典子達もカモリストから外しておいたはずだが・・・。
 俺はその足で栄子の店に行くと、裏社会の事情に詳しい鈴木に尋ねた。

「そうです。それは鬼次郎さんが言われる変梃子商会に間違いないですわ。やつらは元々、フィッシング詐欺専門で、引っ掛かった者だけを相手に詐欺をしていたんですが、ドジ踏んで、かなりやばいスジから借金をしてしもうたとかで、そのしのぎの為、最近派手に暴れまわっているんやそうです。当然、警察も気付いていて、証拠が集まりしだい逮捕すると思います」
 だったら、早いとこ引導を渡してやっても良いかもしれないな・・・。

 俺は栄子の店を出ると、ダウンタウンにあるパソコン喫茶に入り、以前にも行った方法で、やつらの新たなカモリストから電話番号を削除。変わりに各地の消費生活センター相談室や警察・総合相談センター、悪徳詐欺と戦う弁護士連盟の電話番号に、それぞれ入れ替えておいた。

 それにしても典子の騙されやすいのにも困ったもんだ。典子には青年後見人制度を利用したいものだが、そうなると引き受け手が真由美になる。
 俺はマタイの福音書15章を元にしたブリューゲルの有名な寓話画を思い出した。

    
 治さなければと思うのだが、私はやはりプールが怖い。
 ウチの保育学科では、体育の水泳が必修科目になっているのだが、私は入れない。
 中学で酷いイジメにあい、プールに沈められかけた事がトラウマになっているようだ。
 そのため私は、水泳の授業がある時は鬼次郎に任せていた。授業が終われば、友人達とのティータイムになるので、それを嫌う鬼次郎は私にタッチする。はずだったが・・・、

 気が付くとすでに夜になっていた。
 今日はアルバイトもないので、問題はないが鬼次郎がルールを守ってくれないと、これから先も困ることになる。
 そこで、このこともメモ帳アプリに書き込んでおくことにした。
実はこのメモ帳アプリに書き込むというのは安倍先生の発案で、どの時点まで私がコントロール権を握っているかを調べるのが目的だ。そのため安倍先生と助手の高橋さんとは情報を共有している。暗証番号があって、悪霊の鬼次郎は入ってこれない仕組みになっていた。それなのにアプリを開けてみると・・・、
 鬼次郎が書きこんでいた!

 このバカ、また詐欺に引っかかりやがって! 「ヘンテコ商会」なんて会社が存在するか。
てめえは、このあいだフィッシング詐欺にあったのにまだ懲りないのか。鳥頭!
 おまえにうまい話なんて一生こねえ。よく覚えておけ。電話に出るな。メールもするな。
 追伸・・・おまえがメモ帳アプリなんてやってるのが怪しいと思ったから、高橋を騙して暗証番号を聞き出した。今後は俺に秘密を作ろうなんて思うな。
                               鬼野 次郎

 私は、あまりの罵詈雑言にショックを受けて、その場でスマホを落としかけた。


今回の危機は未然に防げたが、あんな見え透いた詐欺に引っかかりそうになるとは・・・。

 サイバー犯罪も電話を使った詐欺もますます巧妙になってくるし、インチキ宗教もなくならない。真由美や典子のような連中は、冗談抜きで後見人が必要だろう。
たぶん、彼女達は人一倍、頭の中がお花畑なのだ。

 そう思っていたが、翌日・・・、

 昼休みの時間に安倍に会いに行くと、やつは外食中で、校医室には高橋だけがいた。
「やあ、佐倉さん・・・じゃないか。その表情は鬼次郎さんですね」
 見ると、高橋は超豪華な「豊森屋のうなぎ弁当」を食っていた。
「どうしたんだ? 株で損したと聞いたが、取り返したのか」

 俺の言葉に高橋はニヤリと笑い、
「実は昨日、(佐倉)真由美さんのメモを読んで、手に入れたんですよ」
「何を?」
「未公開株です。五十万と、研修医にはかなり高かったですが、これが数倍で売れるんです。ムフフ・・・」
「まさかと思うがヘンテコ商会か?」
「そうです、よくご存知で。あ、メモ帳見ましたか。彼女のお母さんに連絡先を教えてもらったら、僕でも買えたんです!」

 どこまでもご機嫌の高橋を地獄に突き落とすのは容易(たやす)いが、ここは自分で詐欺に気付くまで放っておくか・・・。

 どうやら、ここにも青年後見人が必要な人間がいたようだ。

              ( おしまい )


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2015年02月04日 (水) | 編集 |
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 写真は記事とは関係のないウチのシマポンママです。


   【 鬼次郎金融7 アルバイト 】

    
 株式投資は人生を豊かにする手段の一つだが、生活費全てを株に頼ってはいけない。

 こうした投資活動にはリスクが伴うし、第一それだけでは味気ない。やはり人間は、人と交わってお金を稼ぐことでこそ、幸せを感じられるのではないだろうか? 

 だが残念ながら、この俺・鬼野次郎は普通の仕事をすることができない。

 真由美の体は一日の大半を、彼女自身が使っているので、別人格である俺が掌握できる時間は彼女が危機に陥った時や、レム睡眠時のわずかな間に限られているためだ。
 

「そういう事ならお任せっす。あねさんが仕事してみたいと言われるなら、ウチの店はいつでも大歓迎! 短時間でもOKですし真由美さんが出て来ても不安のないようにフォローするっす」

 事情を良く知っている栄子が、『少し仕事を体験してみたい』という俺の願いを快く引き受けてくれた。

 掃除や調理などの細かい仕事は苦手だが、従業員にからむ酔っ払いを蹴り出したり、倉庫からビールケースを運ぶくらいならできるだろう。

 と、考えていたのだが、栄子が与えてくれた仕事は裏方ではなかった。

「こ、これを着ろっていうのか?」

 それは栄子達が経営するガールズ・バーの制服で、今流行の集団女性歌手が着るような、女子高生風のミニだった。

 ガールズ・バーの仕事なのに当たり前じゃないかと奇異に思われるかもしれないが、裏方以外は思いもよらなかったのだから仕方がない。

 確かに中学や高校時代には、真由美に変わってセーラー服も着ていたが、もっちゃりした垢抜けしないもので、膝から上が出ることもなかった。その上、最近では部屋の中でステテコにクレープシャツ、もしくはラクダの上下で通していたので、こんなものを着てカウンターに立つのは、人前でトップレスになるより勇気がいることだった。

「あねさん、ファイトっす!」「いてまえ、鬼次郎さん!」「きばってくれんね」

 栄子と鈴木(従業員その1)、香田(従業員その2)が応援してくれた。

 身長170センチあるスレンダーな美人で、もっと大人っぽい服装の方が似合いそうな栄子や、『夜露四苦』とか『喧嘩上等』と刺繍の入った、レディースの戦闘服がピッタリきそうな鈴木や香田までが、どうにか店の制服を着こなしてがんばっているのだ。ここまでくれば敵前逃亡などできなかった。

俺は「お、おう!」と気合を入れて一挙に着替えた。

    
 気がつくと私は大きな鏡のある事務室に座り込んでいて、AKBっぽい服を着た女の人達に取り囲まれていた。よく見ると誰もが怒った表情で私を睨んでいる。

 そのうちの一人は私も知っている栄子さんだった。

 この人は高校の頃、不良グループを率いて私に絡み、鬼次郎に倒されてからは、あいつの友達になった。

 とすると、突然私が鬼次郎を押しのけて現れたので怒っているのだろうか。あわてて立ち上がり、とりあえず「ごめんなさい」と謝ろうとした時、自分も彼女らと同じ服を着ていることに気づいた。

「あ、あれ?」

 どうみても鬼次郎の趣味ではない服に一瞬戸惑った。

「あなた、真由美さんね」

 栄子さんが、自身の制服についたホコリを払いのけながら静かな口調で言った。

「あねさん、逃げはったか・・・」

 関西弁の女性が溜息をついた。

 経緯を尋ねると・・・、

① 鬼次郎が自分も仕事を実体験してみたいと言い出したので、ならばと栄子さんが、自分の店(ガールズ・バー)で働くように勧めた。

② 鬼次郎はどうやら裏方を想定していたようで、つなぎの作業服で現われたが、制服を着てカウンターに立つのだと言われて当惑。

③ それでも説得され制服に着替えたところ、意外にもすごく可愛いので、栄子さんが調子に乗ってカチューシャを頭に乗っけようとすると、突然蹴りを入れて逃亡した(つまり私を引っ張り出した)ということらしい。

「要すっに、いつっちゃとは逆のパターンたいね」

 九州弁の女性が腕を組みながらポツンと呟いた。

 どうやら私が怒られているわけではなさそうなので、「鬼次郎がご迷惑をおかけしました」と頭を下げ、やつの着てきたつなぎに(こんなもので電車に乗ってくるなんて)着替えて帰ろうと制服を脱ぎかけると・・・、

「ちょっと待って。真由美さん、今日はウチで働いていってちょうだい」と止められた。

 そうはいっても「気の弱い私にガールズ・バーの店員なんて勤まるはずがないじゃないですか」と言うと「だからいいのよ」という返事が返ってきた。


「君はいったい自分をどんな人間だと思ってるんだ?」

 先日、庵本寺短期大学の校医・安倍が俺にそう尋ねた。

「だから、真由美の別人格であり、彼女のナイトだ。それともあんたはまだ俺が悪霊だと思ってるのかい?」

「そうじゃない。君が想定する君自身だ。君は真由美さんが14歳の時に誕生したから6歳だというわけじゃないだろう? では何歳だ? 真由美さんと同じ20歳か?」

「そうだな。35歳というところか」

「なるほど。では君の性別は?」

「舎弟は俺のことをあねさんと呼ぶ。真由美と二心同体だから当然だろう」

「君自身はどう考えている? 家の中ではステテコ姿でいるようだが・・・」

「別人格に性別なんてあるかよ」

 俺は答えたが、実は年と共に真由美との趣味の違いが鮮明になってきていた。

「君自身は気づいていないようだが、ステテコ姿は君が思い描く人物像を体現しているんだ。真由美さんが買ってくる今時の女子大生ファッションへの拒否反応でもある」

 安倍はそんなふうに俺の心理を分析した。その時はバカなと思ったが、案外そうなのかもしれない。だから栄子の店の制服は着るのが嫌だったのかも・・・。


「ねえ、どうしたの急にフラっとしちゃって。手にキスをしたら感じちゃった?」

 ハッと気がつくと、俺はガールズ・バーのカウンター内におり、例の制服を着て酔客の相手をさせられていた。目の前に太った中年男が座り、俺の左手を取って顔をスリスリしているではないか。

「お願いだから、メルアドの交換しようよ~」

 あまりのキショク悪さに思わず右こぶしを握ったが、その手を鈴木にがっちりと抱きかかえられてしまった。

「鬼次郎さんやね? この人は、お客さんや、お客さんや!」

 見渡せば店内には他にも数人の客がおり、各々スタッフが付いていた。

 元々は俺が蒔いた種だが、今回だけは真由美に助けてもらおうという考えが甘かった。

 彼女なら仕事を断って逃げるか、嫌々でも何とか勤まるのではないか踏んだのだが、どうやら断れなくて、接客中に中年男の攻撃に会い、耐えかねて逃げたようだ。

「ダメですよ。牧さん、新人を困らしちゃ。あねさん、暴力は禁止っす」

 栄子がうまく救出してくれた。

 それにしても、これはキツイ。俺は真由美に「すまない」と呟きながら再び逃げた。

    
 おそらく10分程しか経ってないだろう。私はまたガールズ・バーのカウンター内に呼び戻された。私の驚いたような表情を見て、

「鬼次郎さん、また逃げはりましたか」

 と、関西弁の人(鈴木というらしい)があきれたように首を振った。

 先程の嫌な中年男性は栄子さんが引き受けてくれていたので、私は新しく店に入ってきたお客さんを接待することにしたのだが、そのお客さんというのが・・・、

「鬼次郎さんが、ここで仕事をするというので、先生から様子を見に行けって言われたんですよ」

 安倍先生の助手、高橋さんだった。

「裏方って言ってたのに、カウンターに出てるじゃないですか」

 どうやら高橋さんは、私を鬼次郎と勘違いしているようだ。

 そればかりではない。続いて入ってきた団体客は鬼次郎がエリア内履修している大学の金融学で知り合った学生達だった。

「やあ、佐倉さんが社会勉強のためアルバイト先のガールズ・バーに来いって言うから、みんなで来たよ~」

 なんで鬼次郎はこんな所にみんなを呼んだんだろう?

 私はパニックを起こして過呼吸状態に陥った。


 うまく真由美とタッチできたと思った俺だったが、またまた呼び出されてしまった。

 しかもカウンター越しに、ズラリと知り合いが並んでいるではないか。

 これは、栄子の店の裏方に雇ってもらったと思った俺が、感謝の意味も込め、スマホメールでかき集めた客だが、まさかこんな格好で晒し者になるとは思わなかった。

 強引に真由美とタッチしても無駄なようなので、「鬼次郎さん、逃げたらイカンばい」と叫ぶ香田の声を聞きながら、事務所に逃亡した。

 背後から「あねさん、クビっす」と大笑いする栄子の声が聞こえてきた。


    ( おしまい )


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2014年12月31日 (水) | 編集 |
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 写真は記事とは関係のないウチのクロちゃんです。


   【 鬼次郎金融6 株式投資 】

    
  保険医の安倍先生から「幼稚園での実習授業は継続しても良い」という許可はもらったが、かといって完全に信頼を取り戻せたわけではなかった。

「内海さんから伺ったけど、私たちは応援しているから今まで通りがんばってね」
 保育士の先生方は励ましてくれたが、その言葉はどことなくぎくしゃくしていて、実習をしている間は、常に誰かの視線を感じるようになってしまった。

 それにしても有名な安倍清明の子孫と聞いていたので、私に取り付いた悪霊の鬼次郎をすぐに追い出してくれるかもと期待していたのだが、その願いは叶わなかった。

「結論から言って、鬼次郎は君に憑依した霊ではなさそうだ」と診断されたのだ。
 やはり安倍先生も鬼次郎はもう一人の私と考えたようで、これには少しがっかりしたが、「鬼次郎と話をして、君が困っていることは止めさせるよう努力する」と言ってくれたので、そこに期待をするとしよう。
 と、思いながら家に帰ってみると、見過ごせない書類が届いていた。



 保険医の安倍は食えない男だ。高橋という助手を狂言回しのように使って相手の注意を逸らしながら、自分は側面からつぶさに観察する。
 しかもこの男は傍流とはいえ、安倍清明の子孫で近代医学による解析だけでなく、科学では解明できない要因でさえ見抜いてしまうのだ。

 安倍と対峙する前日、真由美から「あなたの行動のために私の将来が閉ざされそうです。明日、保険医の安倍先生に会うので、その時には必ず、必ず、出てきて話を聞いてください」という手紙が置いてあった。

無視しようかとも思ったが、『必ず』の文字がダブルになっていて、かなり思いつめた感があるため、その保険医に会うことにした。
 自殺でもされたら、俺が生まれた意味が無いからだ。
 だから俺は、すなおに安倍の呼び出しに応じることにしたのだ。

 結果、俺が悪霊ではなく、また理性をなくして暴力行為に走るような幼い人格でもないと分かってもらえたようだが、「俺が消えると真由美は守れない」という主張に対して安倍は、「それでもやはり、君は真由美と融合すべきだ」と頑なに言い放った。
 安倍に言われるまでもなく、俺にもいつかはそんな日が来るのではないかと考えている。だからこそ、その時のための準備を怠れないのだ。

    
それは、私に宛てた国民健康保険の納付書なのだが、その支払い金額が今月からなんと、三万六千円(!)になっていたのだ。
 今までは、低所得なので一万円以内で済んでいたのに、これは到底払える金額ではない。私のアルバイトは月に八万円程度で、そこから年金、家賃、食費などを支払っているからだ。

さっそくこの額は間違いではないかと役所に駆け込むと、株式投資の儲けを分離課税にせず、総合課税にして申告したためだという。
そう言われても税金のことなんかわからないし、まして株式投資などしたこともない。
ただ、思い当たることが一つだけあった。

鬼次郎だ!

私は家に帰るとすぐに、鬼次郎にあてた抗議の手紙をしたため、やつの部屋のパソコンに
「このバカ高い保険料はあなたの仕業でしょう? 私は払えないので何とかして下さい」
と、書いて貼り付けておいた。


 いつか俺が消えてしまったとしても、ある程度まとまったお金と、俺の仲間たちがいれば、真由美は困らないだろう。
現在、俺が保有する資産は数百万円。これは不良どもや悪得宗教団体、ストーカー親父等から取り上げた慰謝料を元に、インターネットの株式投資で増やしたものだ。
 鬼次郎金融が真由美に貸し出して利子を取ったものなど微々たるもので、物の数にも入らない。(ただし、これは真由美の社会勉強なので、やめる気はない)
 将来、俺が真由美と融合して消えるまでには、これを数千万円にしてやるつもりだ。
 
 株式投資はネット専門で行うと経費が安い。百万円の取引でも千円ほどの手数料で済む。そこを利用して一部上場の優良企業で配当が高く、PER・10倍以下PBR・1倍以下の株を中心に、デイトレードの自動売買を繰り返すのだ。

一単位、数十万円の株なら一日のうちに数千円上下する。それが狙い目だ。
わずかな額でも現物のみの自動売買でコツコツ貯めていけば、日経平均に多少動きがあっても対応できる。また安全のため、資産の半分は絶対に残して置く冷静さが必要だ。
 俺は毎日目標価格を設定しながら、この方法で資金を増やしてきた。

 だが、この分野で初心者の俺は、真由美の所得が低いことで、分離より申告制が有利と、判断したのが間違いだった。

 確かにそうすることで、一部控除が受けられたが国民健康保険は別だった。地方自治体は株で得た利益で支払う市民税の額で計算し、真由美を高額所得者扱いにしてしまったのだ。
 天網恢恢疎にして漏らさず。これは皮肉だが日本の徴税制度はなかなか良くできている。

 ともあれ、真由美の八万円程度の収入で三万六千円は払えるはずもない。
 そこで、これに関しては今までの保険料との差額を俺が支払ってやることにした。
 それと共に、株主に与えられる優待券を活用して、彼女のご機嫌をとることにした。

    
 抗議の手紙を書いた翌日、私のディスクの上に鬼次郎から、「保険料の差額分は俺が払ってやるから安心しろ」というメモが置いてあった。
 いったいどういう風の吹き回しかと思ったが、そこはまあ鬼次郎が原因なのだから、当たり前といえる。

 しかし、私がそれより驚いたのは、そのメモの横にお金持ちだけが持っていると言われる『株主優待券』が添えてあったこと。
 マ○ド、○寿司、ファミリーレストラン等、よくこれだけ持ってるなと感心するほどで、そこには「使ってよし」というメモも貼り付けてあった。

 ここまで来るとさすがに気味が悪い。
何かの罠ではないかと優待券の冊子の裏を見ると、やはりというべきか、定価より少し安いだけの料金表が書いてあった。
 つまり、鬼次郎はこれらの優待券を私に売りつけようとしていたのだ。

 それが分かって、何故かホッとしてしまう自分が悲しかった。


    ( おしまい )

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