自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2017年08月23日 (水) | 編集 |
IMG_4655.jpg
 写真は記事とは関係のない、めっちゃ君です。


       【 方技官5 御獄舎 】
    
 紀尾井町にある官舎の一番外れに『御獄舎』と呼ばれる建物がある。
 
 外見は他の官舎と変わらないが、官吏の出入りは無い。
 
 それどころか、よく見ると窓も壁に貼り付けてあるだけで、実際には付いていない。
 
 ここは内閣官房付きの組織、封魔方が管理する霊封じの館。早い話が祓おうとしても祓えないしつこい霊を閉じ込めて置く、幽霊専用の監獄なのだ。


「田端君、ちょっと」

 俺は、十朱補佐官と世間話をしている、この春入所したばかりの田畑職員を呼んだ。

「君は陰陽寮(封魔方のライバル組織)の古川君と知り合いだったと聞いたが?」

「はい、八柱方技官。私と彼とは延暦寺大学で共に密教学を専攻した仲でした。それがあんな事になって・・・」

「葬儀にも行ったんだね」

「ただもう家族の方にも申し訳なく顔を合わせる事もできませんでした」

「それは君のせいじゃない。彼は封じてはいけない『神』を封じようとして怒りを買ったんだ」
 

 今から一週間前の話になる。

 陰陽寮の詰所(事務所)に、栃木県の某市から祟りを鎮めて欲しいという依頼があったのだ。『先行して何が起こっているのか様子を見て来い』と、上司の希沙良次席方技官から言われた古川は、田端を誘って現地に向かった。

 そこでは県道のバイパス工事が行われていたのだが、『不貫の藪』と呼ばれる一帯の工事に取り掛かった処、けが人が続出しだしたという。

 古川と田端は現場で話を聞き、藪の中に立ち入ってみると、江戸時代に張られたと思われる古い結界があり、そこに『何人も立ち入るを禁ずと』書かれた苔むした石碑があった。

 このようなものが出た場合は、何もせず上司の判断を待てと言われていたにも関わらず、古川は「俺が鎮めてやる」と経文を念じ始めた。田端は「危険だ!」と止めたが、「工事を遅らせるのは気の毒だ」と魔封じの経文を念じたという。だが、彼が封じようとした物は単なる悪霊ではなく神だった。

 いわゆる邪神だったが、普通の悪霊とは桁違いの霊力を持った存在で並の霊能力者程度の実力で何とかできるものではない。
 事実、古川が笑いながら工作機械に飛び込んで自殺し、田端は一心不乱に奇妙な踊りを続けているという報告を現地に飛んだ吉岡補佐官から聞いた俺は、県の建設局に自ら乗り込んで、藪を回避するルートに変更するように強く指導した程だ。


「実は古川君が自分の死を受け入れられず、未だ陰陽寮に出勤しているらしい」

「そんな馬鹿な……」

 田端が絶句した。

「勿論、通常の組織ならば誰もそれに気が付かないから良いんだが、陰陽寮の職員は全員能力者だからねえ。希沙良君も困っているらしい」

「希沙良さんは張本人じゃないですか。古川を説得できないんですか?」

「説得しても、『冗談を言わないで下さい。僕はこの通り生きてるじゃないですか』と言うだけで、葬儀の写真を見せても、『そういうアプリが出回ってますねえ』と言って笑うらしい」

「ああ、ありますね。そのアプリ。先程、十朱補佐官が見せてくれました」

「そこで、希沙良次席方技官からの要請で古川君をある場所に連れて行くことになった。そこに君がうまく誘導して欲しいんだ」

「ある場所? お寺とか?」

「いや『御獄舎』だ。知ってるね」

「はい。悪霊を封印する目的で作られた官舎ですね。そんな所にですか……」

 田端しばし絶句した。

「やむを得ない措置なんだよ。それに、彼が心から死を認めた瞬間に開放されることになる。これは大事なことでね。『御獄舎』から逃れる目的で死を認めても、出ることは不可能なんだ。心から悟らないとね」

「分かりました。で、古川はいつ来るんですか?」

「来てますよ。すでに」

 希沙良の声がした。

 庶務室の端においてある来客用の椅子に神出鬼没の希沙良が座っており、その横に極めて影の薄い古川が揺れながら立っていた。

「見えるか? 田端」

「見えます……」

 田端もまた能力者だから幽霊を見るのは初めてではないが、友人の幽霊はおそらくこれが最初の経験だったようだ。
「では、よろしく」

 何事にも調子の良い希沙良が古川を残して部屋を出た。

「しかたがない。田端行くぞ。それから吉岡補佐官、お前も付いて来い」

「え、私もですか」

 テレビのワイドショーで電車事故に巻き込まれ、ケガをしていたタレントが復帰したという映像を見ていた吉岡が不満そうに言った。
「『御獄舎』はお前の設計だ。どんな霊を収容しているのかも一番詳しいだろう? この機会に新人君にも説明してやってくれ」

「わかりました」

「俺の車で行くぞ。ガレージにやつ(古川)を見学会に行くとでも言って連れて来い」

 そう言うと吉岡が止めた。

「駄目ですよ。そんな事をしたら古川君にバレまっすって。八柱方技官の愛車・マセラティGT-Sは、僕と田端君だけでもギュウギュウなのに、どうやって古川まで乗せられるんですか。おかしいと気づかれますよ」

「やつは、自分の葬式に出てても気付かず毎日出勤して来るんだぞ。そんな鈍いやつはヒザの上にでも乗せとけ」

 お茶を飲みながら話を聞いていた十朱補佐官がクックと笑った。

 俺と吉岡、田端、それに古川を乗せた本来二人乗り仕様のマセラティGT-Sは、無事紀尾井町の『御獄舎』に到着した。

 他の官舎の側面にある花壇がツツジなのに対し『御獄舎』は全面ヒイラギに覆われているということを除けば、偽の窓も良く出来ていて、さほど違和感は無かったが、玄関は眼球の虹彩認証と厳重で、責任者のものでないと開かない為、俺が開けた。

 中は人の気配がなく、受付を兼ねる管理室を含め寒々としていた。例えて言うなら廃病院に近い。

 俺は受付に座っている、元封魔方職員の小倉に訪問内容を告げた。

 この小倉という男も既にこの世の人間ではない。

 本人は自分の死を悟っているので、ここにいる必要はないのだが、責任感の強い男だったので、誰かが管理しなければならない『御獄舎』の管理人に収まっていた。遺族には年金にプラスして給与が振り込まれている。

「八柱方技官、施設の案内が終わりましたら声をかけて下さい」

 小倉はそう言って壁の中に消えた。

「ヒエッ」

 この施設の事をよく知らなかった古川が思わず声を上げた。

「驚くのはまだ早い。ここの住民はちょっと変わってるぞ。吉岡、先導して案内してやってくれ」

 俺は吉岡に施設の案内を頼んだ。

「じゃあ、まず二階から」

 吉岡は田端に古川から目を離すなと、言いつけて階段を上がっていった。

 『御獄舎』にエレベーターはない。それは義務付けられている保守点検が出来ないからだ。

 二階は薄暗いLED証明の廊下を挟んで小部屋が両側にズラリと並んでいた。

 小さな窓から覗き込むと、窓すらない部屋の中に祭壇がひとつ置かれている。ここにも電球色のLEDランプが灯されており、壁には、おそらく住民のものと思われる古い写真や死亡届のコピー等が貼られていた。

「なんだか不気味な部屋ですね。住民はどこに?」

 と言いかけた田端が直後にギャッと悲鳴を上げた。

 顔の歪んだ老人がいきなり窓の前に現れて田端を睨みつけたのだ。

「心配するな。今はまだ敵意の塊だが、この部屋からは出られない。彼は数年前に建て替えられた某マンションの一室で孤独死していた男だ。現場で祟るので僕が頭に札を貼り付けて連れてきた」

「そんな人ばかり集めたアパートですか」

 今まで何も喋らなかった古川が初めて声を出した。小さな声だった。

「そうみたいだな」

 田端が相槌を打ってやった。

「三階は女性が収容されている階。死後に性別は関係ないが、中には色情狂の霊もいるし、異性に対してものすごい憎しみを抱いている霊もいるのでね」

 吉岡は三階の一室を紹介した。田端が覗き込むと天井から首を吊ってぶら下がっていた女の霊がクルリと向きを変え田端を見てニタリと笑った。

「恐ろしい……」

「こんな連中を恐れてもらったら困るね。ここにいる者で、本当に怖いのは地下にいる霊たちだよ」

 俺は田端に言った。

「では、地下に行きますが、意識をしっかりと保っているように」

 吉岡が真顔で言った。

 地下は、特に呪い方がきつい霊の他、神格化が進んだ極めてやっかいな霊達が収容されているのだ。

 その為、我々全員が痛みを感じるような、生者にまで影響を及ぼす強力な結界を、管理人の小倉に一時的にレベルダウンしてもらって入る必要があった。

 地下室のLEDは青みがかった色だった。

 これは攻撃性を緩める効果があるのだ。

 どの部屋の戸口にも二階や三階では貼られていなかった、御札がべったり貼られている。能力者が見れば極めて徳の高い僧侶か神職が書いた強力なものと分かるだろう。

「なるほど。これは生身の人間でも火傷しますね」

 と、生身の人間でない古川が感心したように呟いた。お札に触れたのか彼の右手から煙が立ち込めていた。

「わあ、本当だ!」

 ちょっと触ってみた田端が悲鳴を上げた。

 俺と吉岡は顔を見合わせた。

 と、一番奥にある空間がパッと明るくなった。

「彼女がステージを始めるようです」

 いつの間にか背後にいた管理人の小倉がそう言った。

「先生が歌われる時は、夜中だろうが何だろうが駆けつけて鑑賞しなければなりません」

 小倉がそう説明した。

 ここに収容される時には普通にやっかいな霊だった者が、ある日力を帯びて神格化することがある。彼女はそんな霊なのだ。

「今、一番人気のある歌手がカバーしたことで、昔の彼女の歌が再認識されることになり、急速にファンが増え、地元では神社も建設され祭り上げられたんだよ」

 俺は何のことかわからない田端に説明してやった。

「さあ、ステージを鑑賞しましょう」

 俺達は、死後何十年も経っている往年の有名女性歌手のステージを聞くことになった。カラオケをバックに唄うその女性歌手の歌には万人を引きつける魅力があり、それは彼女が最も輝いていた頃の声だった。

「ああ、すばらしい! 今日の彼女の歌声は、ここを出て行く私をまるで見送ってくれているかのようです」

 小倉が涙した。

「えっ、小倉さんここの管理人を今日で辞めちゃうんですか。て、ことは後を古川に?」

 田端が驚いてそう言った。

「いやいや、彼一人だと頼りないが、他にもいるからね。田端君、君は今朝、十朱君から君自身の葬儀の写真を見せられていただろう。それを見て気づかなかったのか?」

「嫌だなあ八柱方技官、あれはSNOWみたいなアプリじゃないですか」

「そう思っているうちは、しばらくここで暮らす必要がありそうだな。でも八柱方技官、彼らだけでは少し頼りなくないですか」

 吉岡が疑念を述べた。

「君に彼らの管理も任せる予定だ」

「あ、ダメダメ、ダメです。この建物は生きている人間が暮らす設計にはなってないのでトイレさえないんです。それに僕は鬱陵峠の懸案も抱えてますので」

「分かってないようだね。俺のマセラティは確かにツーシートだが、助手席には封魔刀やら法具が数多く乗せられている。生身の人間は助手席に座ることが出来ないんだ。君はどうやってここまで来たんだ?」

「! ! !」

「古川君が神を封じようとして死んだ、例の『不貫の藪』で、君から報告を受けた私と希沙良君が何故、県の建設局に電話し、藪を回避するルートするように指導したのかというと、君までが電話の途中で奇声を発し、その後、電車に飛び込んだからだよ」

「そんなことは、そんなことはないですよ」

「今朝のワイドショーで亡くなったのは吉岡さんと実名で報じていたのに気付かずテレビを見ているようでは、しばらくここの管理人を君にやってもらうしかないじゃないか。これは君自身の問題でもあるしね」

「吉岡さんはともかく私は死んでません」
 と言い張る田畑や、

「ではこれで、陰陽寮に帰ります」
 と言う古川を残して俺は『御獄舎』を出た。

 彼らが、自分の死を悟った時は小倉のように旅立つ時だ。その時は『御獄舎』の管理人を誰に任せたら良いだろう?

 俺は少し悩みながら帰路についた。

     
    ( おしまい )


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2015年01月22日 (木) | 編集 |
DSCF7993.jpg
 写真は記事とは関係のない、クロとシマポンママです。


   【 方技官4 削魂谷 】
    
 我々、封魔方とは犬猿の仲である陰陽寮にあって、一人擦り寄って来るのが次席方技官・希沙羅だ。
 もっとも、この男が我々の詰所(事務室)にやってくる場合は殆ど、やっかいな問題を押しつけに来る時といえた。

「八柱さん、また現れましたよ。疫病神が」十朱方技官が私に耳打ちした。
「聞こえましたよ」
資料を抱えた希沙羅がこちらを見てニッコリ微笑んだ。
「くわばらくわばら」十朱が首をすくめて別室に去っていった。

「で、どんな用だ? まさか菓子折りを届けに来たわけでもあるまい」
「八柱主席方技官がご希望とあればデパートから届けさせますよ。しかし、今日は重大な案件が発生したことを報告に参った次第」
「と、いうとウチへの依頼ではないんだな」
「この件は当方で処理せよということでしたから」
「聞こう」
 俺は来客用のテーブルに案内し事務方の久美香に茶を頼んだ。

「実は削魂谷(しょうこんだに)の封印が解かれました」
 希沙羅がポツンと言った。
「何!? 誰がそんなことをした」
 俺は思わず気色ばんでしまった。それほど、これは大変なことだったのだ。
「我々ですよ。詳しく言えば陰陽寮統括の昇華さんです。上からの命令でしたので」
 平静を装ってはいるが希沙羅のカップを持つ手が震えていた。

「あれがどんなものかは政府も分かっているはず。それなのに昇華さんはあえて封印を解いたのか」
「命令でしたので」
「バカな」
「とにかくご報告まで」
 そう言って希沙羅は資料を置き、逃げるように帰っていった。

「八柱さん、やつの言っていた削魂谷とは何です?」
希沙羅が出て行くのを見届けて部屋に戻ってきた十朱が開口一番尋ねた。
「前回訪ねた庵本寺とは比較にならない強力なパワースポットだよ」
「それが問題なんですか」
「扱い方によっては国家が揺らぐ。そういう場所だ。とにかく現地に飛ぶぞ」
 俺は自衛隊のチヌーク(タンデムローター式ヘリコプター)を呼んで現地に向かった。

削魂谷は紀州山中を縦断する熊野古道から脇に逸れ、裏古道沿いに半日ほど歩いた場所にある谷で、ヘリコプターでも使わなければ人間が容易に分け入ることはできない。

今は完全な写本すら残されていない物部文書の断片を元に調べると、邪馬台国以前の古代巨石文明の時代から信仰の対象とされてきたが、あまりにも危険な為に卑弥呼が禁則地と定め、大和朝廷でもそれが受け継がれたという。

「先ほどの続きですが、いったい何が危険なんですか?」
 十朱がヘリコプターの爆音に負けない大声で聞いてきた。
 彼もまた方技官である以上、教えないわけにはいかない。俺は対面に座る十朱を隣に来させ、その耳を手繰り寄せ「安易に望みが叶う場所なんだ」と教えた。

――― 人は誰でも人生と戦っている。目標とした夢を叶えるには人一倍努力しなければならない。だからこそ、成功した人は尊敬されるし、逆に努力もせず怠けて落ちぶれた人は嘲りの対象となる。

 これが日本のみならず、世界中で教えられている道徳だ。しかし実際にはそう単純なものではない。
 人生というゲームには難易度が存在するのだ。

ハーバード大学のマイケル・サンデル教授も語るように、裕福な家の長男に生まれた者と貧しい家の末弟に生まれた者では受ける教育の質に差がある。あるいは義務教育が確実に行われる先進国に生まれた女性と、女子教育は悪だと考える国で生まれた女性では人生を切り開く力が、まったく異なるのだ。

勿論、貧困の中から成功を勝ち得た者もいる。それは真に努力した結果かもしれないが、もしかすると人生における数多くの分岐点で、不思議と助けが入ったことによるものかもしれない。

「つまり削魂谷というのは、人生の難易度を下げる能力があるんですね」
 ヘリコプターの中での説明で、削魂谷の基本的な部分を一応理解した十朱が送迎者に乗り込むと同時に質問を再開した。すでにヘリポートから削魂谷に続く街道が整備され、二車線の舗装された道路が、完成していた。俺はその風景を苦々しく見つめながら十朱の質問に答えた。

「そう、知者であれば名を成し指導者となる。商人であれば大成功し大金を得る。戦士であれば武勲を挙げ、将となる。そういう力をもたらす場所とも言える」
「すると削魂谷には、すごい神様がおられるんですね。だからこそ削魂谷が奪い合いの対象となり、卑弥呼が禁則地にしたと・・・」
 やはり十朱は本質を理解していなかった。

「いや、そうじゃない削魂谷に神はいない。そこにあるのは『虚(うつ)ろ』だ」
「それがどうして・・・」
「削魂谷は人が輪廻によって得た、隠された経験値を掃除機のように吸い取り、初心者に戻すんだ。すると、その瞬間に人生がやたら楽なものになる。初心者用のゲームは難しくないだろう?」
「あっ!」
「レベルが低いのに野心を簡単に叶える人間が増えると、社会が混乱する。だから卑弥呼は削魂谷を禁則地とし、徳川も御三家の一つを置いて、他の大名がその力を使うのを防いだ」
 俺がそこまで説明を終えた時、車は削魂谷近くのパーキングエリアに到着した。

そこは、つい先頃まで封印されていた禁則地とは思えないほど、森が切り開かれていて、削魂谷が見下ろせる場所には大勢の宮大工の手によって立派な社殿が作られていた。
「いつのまに・・・」
 俺はうなった。

「おや、これは封魔方の主席方技官殿。わざわざこのような場所までご苦労様です」
 その声に振り向くと陰陽寮統括の安倍昇華だった。ルビーのような目を持つ、この冷徹女は今朝、希沙羅を使わせるまで、我々には一切告げずに、この危険なプロジェクトを進めていたのだ。

「フフフ、秘密にしていたわけではありませんよ。周辺部から開発を進め、削魂谷本体の封印を解いたのは昨日ですから」
「そういう問題じゃない。なぜ封印を解いた?」
「万策を尽くしても日本経済の成長率が伸びない為ですよ。政府は、有望な若い企業経営者をここに連れてきて幸運を授けようというのです」

 要するに、将来日本の産業を引っ張ってくれそうな人材に強運(?)を付けさせ、ひいては日本の経済を活気あるものにしてもらおうという戦略らしかった。卑弥呼や徳川の時代には天下を目指すものが多くいて内戦になると困るという事で封印したが、いまや日本国は世界と経済戦をしているので国自体の底上げを計れると考えたのだろう。しかし、その犠牲になる若い企業人は・・・。

「それが何を意味するか分かっているだろうに。彼らのこれまでの転生輪廻が無になるのだぞ」
「いいじゃありませんか。誰もが菩薩を目指しているわけではありませんよ。何度生まれ変わっても初心者のフィールドで、面白おかしく生きればいいのです」
 そう言われると、そんな気もした。

 いずれにせよ俺には意見は言えてもプロジェクトを直接止める権限は無い。
 どうなることかと様子を見守っていると、本殿が完成するや、参拝客が続々と訪れるようになったようだ。かなり偏狭の地なので、今の所たいしたことはないが、うわさがうわさを呼んで海外にまで最強のパワースポットと知られると、日本政府の思惑は外れるのではないだろうか。
 
「そうなれば世界の誰もが幸せになるかもしれませんね」などと、十朱はのんきな事を言うが、
誰もが簡単に成功してしまう世界はきっと、ひどく退屈なものになるのではないだろうか。
俺は、ふとそう思った。

           ( おしまい )  

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2014年05月28日 (水) | 編集 |
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 写真は記事とは関係のない、骨折したウチのチビポンです。


   【 埋蔵金 】
    
  ライバル関係にある組織に属する人間が揉み手をしながらやって来た時は、警戒を怠ってはいけない。それは十中八九、ありがたくない提案だからだ。
 特にこの陰陽寮の次席法技官・希沙良がにこやかに我が封魔方の庁舎に現れた場合は、やっかいな案件を押し付けようとしていると考えるべきだった。

「いやだなあ八柱方技官。まあ、そう警戒しないでくださいよ」
 希沙良は事務方の久美香が出したお茶をフーフーと吹いて一口だけ飲んだ。
「猫舌なんですか? これは意外だ」
 十朱補佐官がからかった。
 希沙良は少しむっとしたが、すぐに笑顔に戻り、およそこの部署にはふさわしくない話を始めた。
「実は八柱方技官には埋蔵金を探してもらいたいのです」

 現在は内閣官房庁に所属する秘密組織、陰陽寮と封魔方は平安時代から存在する組織だ。警察や軍隊が人間を相手にした治安活動を行うのに対し、我々の組織は国内に跋扈(ばっこ)する魑魅魍魎(ちみもうりょう)を退治することにある。目には見えぬものが相手である為、予算が付きにくく、内閣官房機密費によって活動している。そんな組織の人間が呑気に埋蔵金探しなどできようはずもなかった。

「何かのご冗談かな?」
 俺は希沙良が差し出した地図をチラ見しながらそう言った。
「いたって真面目な話ですよ。実は政府が国際的に公約した景気浮揚策が未だまとまらないのです」
 希沙良はわざとらしくため息をついて首を振った。
「例えば法人税を周辺国並みの25パーセントに引き下げるにしても代替財源がなく、大規模な災害防止プロジェクトにも回せる資金がありません」
「それで埋蔵金探しを? バカバカしい子供の発想じゃないですか」
 側で聞いていた十朱補佐官が口を挟んだ。
「まあ、最後まで聞こうじゃないか」俺は補佐官を制した。

「十朱補佐官がそう思われるのも当然です。埋蔵金探しなど本来我々の仕事ではないし、ロマンがあることは認めても単なる夢物語ですからね。しかし、政府調査班はすでにお宝が確実に眠っている場所を掴んでいるのです。ただ・・・」
「なるほど強力な怨霊が守っているというわけですか」
 俺はようやく事態が飲み込めた。要するに景気浮揚策の資金が無い政府が、怨霊の守る埋蔵金を強引に掘り出して、その費用に充てようというのだ。

「現在の価値にして1兆円を下らないだろうというのは三箇所。一つは飛騨の国・帰雲城にあったとされる内ケ島氏理の埋没金。二つ目は源義経の埋蔵金。そして最後は邪馬台国に滅ぼされたという華羅那国の宝玉です」
「それだけ分かってるんなら、何故陰陽寮さんで引き受けないんです? 怨霊退治などはお手の物じゃないですか」
「一つ目と二つ目は、それ以前の問題なんですよ。帰雲城は天正地震によって山崩れにあい、掘り出すのに数千億かかると言われています。採算が取れるといっても予算が通るはずもありません」
「義経の埋蔵金は?」
「彼は平泉の衣川館(ころもがわのたち)で藤原泰衡の襲撃を受け、亡くなりましたが、不穏な動きはそれ以前に察知していたらしく軍資金を蝦夷の地に運ばせていました。それを埋めた地も分かっているのですが残念ながら、現在は掘り出せません」
「と、いうと?」
「樺太なんですよ。というわけで最後の華羅那国の宝玉のみが頼みの綱ということになります」
「華羅那国なんて聞いたこともありませんね」
 十朱補佐官が私に言った。
「勿論、教科書にも出てきたことはありません。今は写本すら残されていないとされる物部文書によると、『華羅那国は大陸との国交がなく、剣の質が悪いことで邪馬台国に滅ぼされた』とありますが、『下級兵士でも銀の胸当てを身に付けていた』らしく、豊かであったようです」
「その国が埋蔵金を埋めたと・・・」
「捲土重来を望んでのことでしょうが、おそらくは現在の価値にして10兆円は下らないと推測されます」
「そこに強力な怨霊がいるんですか?」
「陰陽道では相性の悪い何かが潜んでいるようです。しかも二千年近く周りの樹木の生気を吸い取って来た為に神と同格の力を宿しており強力無比。ですが、八柱方技官の持たれている破邪の剣であれば、なんとかなるやもしれません」
「場所は?」
「大崎市の・・・」
 希沙良が場所を話し始めた時、十朱補佐官が止めた。
「断りましょう! 希沙良さんの言っているのはおそらく阿樫野塚のことですよ。それが華羅那国に由来するものとは知りませんでしたが、大崎市の阿樫野塚は知る人ぞ知る聖域ですよ。うっかり荒らせば日本全体に呪いがかかるとも言われています」
「そういえば寛永の大飢饉は江戸幕府を盤石にする為に家光が阿樫野塚を荒らしたことで起きたというウワサがあるな。あれか・・・」
「寛永の大飢饉の原因まで知っておられたとは、さすが、八柱方技官!」
 希沙良はしきりと褒めそやした。
「そんな危険な塚だということを官房長官はご存知なのか?」
「首相も含めて。断れば陰陽寮と封魔方は共に廃止だそうで」
「なるほど。だとすれば受けざるを得ないな」
 俺は苦笑した。

 宮城県大崎市の中部に位置する阿樫野塚は、周辺を牧歌的な農園に囲まれた東京ドームほどの大きさの竹やぶで、春になると地元の人達が竹の子狩りを楽しんでいる。地元では竹の子山と呼ばれ、それが塚だと知っている者は、数人の長老だけだ。
 その中央付近に神主のいない周りを高い塀で囲われた小さな神社があって、そこだけは国の管轄となっていた。

 俺は事前調査の為に、十朱と共に希沙良から預かった鍵で神社の中に入った。
「希沙良の情報によれば、この小さな神社の床下に阿樫野塚への入り口があるのだそうです。でもこれは言われるまでもないですね」
 十朱補佐官が冷たい汗を拭いながら言ったのも無理はない。
 境内に一歩踏み入れた途端に侵入者を威嚇する強い敵意が地下から絶え間なく湧き上がっていたのだ。
「極めてやっかいな相手のようだね。だが方策はある」
 俺はカモフラージュの為に借りてきた市清掃局の車で待たせている久美香に破邪刀を預けると、代わりに同化の効果がある御札を持ちだして、封を解いだ。
「我々が邪馬台国の子孫だと思われると攻撃を受けるので、華羅那国の子孫だと思わせるのさ」
「なるほど。阿樫野塚の怨霊は、二千年間華羅那国の子孫を待っていたわけですからね。でもバレると、よけいに怒らせませんか?」
 十朱補佐官は本当に心配そうに、そう言った
「その場合、責任は官房長官と首相にある・・・と、いうことにしておこう」
 俺は十朱の肩をポンと叩いて元気づけると、社殿の床板を外してその下に潜り込んだ。

 同化の御札は確かに効いているようだった。先程まで嵐のように我々を襲っていた怒気は嘘のように消え、それどころか親愛の情を表す気があたりを覆っていた。
「合言葉を言えとか言われたら終わりですね」
 十朱補佐官は俺が最も恐れていることをサラリと言った。
「そんな展開にならないことを祈ろう」

 俺達はできるだけ平穏を装って、江戸時代初期に家光が掘った坑道であろうと思われる通路を下へ下へと進んだ。
 所々に落盤の跡があって白骨化した死体が放置されている点は、二十一世紀の日本とは思えないが、それでも俺達を招くような気が充満していることで、恐怖感はなかった。
 しばらく行くと明らかに石造りの床になり、しかも驚いたことに俺達の目の前でその一部が崩れると、階段が出現したではないか。
 俺達は華羅那国の怨霊に歓迎を受けながら階段を降り、その先の回廊へと進んだ。
「八柱さん、我々このまま怨霊達と並んでミイラになるんじゃないですかね」
 十朱補佐官が真顔で冗談を言った。

 だが、怨霊が華羅那国の人間のミイラという十朱の推測は間違っていた。
 怒りで寛永の大飢饉までもたらしたという怨霊の正体は、巨大な土偶だったのだ。
 しかもその姿とは・・・。

「こりゃあ、青森県の亀ケ岡から出た土偶にそっくりだ」
 十朱補佐官がうなったように、我々の目の前にある3mを超す土偶は、宇宙人の土偶と言われる亀ヶ岡の土偶と瓜二つだったのだ。
 そしてその足元には銀の宝箱が数百個も積まれていた。
 事前調査だけのつもりだったのが、我々は宝を本当に見つけてしまったのだ。

「銀の箱だけでも相当な価値があるでしょうに、中身は金塊でしょうか。もしこれが十兆円なら我々一人に一億円くらいはボーナスが出てもおかしくないですよね」
 俺は有頂天になっている十朱に対し「民間ならそうかもしれないな。だが、我々は公務員だから、そんな報酬は出ないよ」と釘を刺した。
 その上、よく見ると宝箱は銀ではなくて鈴でできていて、すべての箱にぎっしり詰まっていた中身は当時の華羅那国の通貨と思われる宝貝だった。

「政府は10兆円の皮算用をしていたようですがね。少しアテが外れたようですよ」
 後日、希沙良が笑いながら顛末を報告してくれた。

 それによると、宝箱に使われていたキロ千百円の錫を除けば、宝貝は貝細工職人や土産物屋に払い下げても数千円にしかならない為に、そのまま阿樫野塚は埋め戻して置いたという。

 やはり、埋蔵金は誰にも発見されず、ロマンであり続けたほうがいい。
 俺はそう思った。


    ( おしまい )


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2013年06月13日 (木) | 編集 |
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 写真は記事とは何の関係もないウチのクロちゃんです。


  小説 【 方技官2・パワースポット 】 


「まずはこちらを見て頂きたいのです」
 陰陽寮の次席方技官・希沙羅(きさら)が取り出したのは、インターネットからコピーしてきたものと思われる不鮮明な写真だった。

「庵本寺(あんぽんじ)という神仏混淆(しんぶつこんこう)の寺で、陰陽寮が注視しているパワースポットの一つです」
 その写真は、二年参りの参拝客で賑わう境内で、除夜の鐘を突く僧侶がバランスを崩して鐘楼(しょうろう)から転落しかけている姿を捉えたものだった。
「参拝に訪れた女子大生がスマホで撮影し、ブログに載せたものですが、これがまた・・・」

 それは我々能力者が見れば驚くべき光景だった。
「なるほど。僧侶が羅刹に襲われている」
 俺はしばらくこの恐ろしい写真から目を離せなかった。
 
「さすがは封魔方にこの人有りと言われた八柱方技官! 僧侶の周りに浮かんだ僅かな光から羅刹と見破りましたか」
 希沙羅が膝を叩いて大げさに驚いてみせた。
「いや失礼。勿論すぐにお分かりになると思っておりました」
 希沙羅が秘書に命じ、庵本寺に関する資料を持って来させた。


 ともに内閣官房付き抗魔組織でありながら、封魔方と陰陽寮は昔から仲が悪い。
 それだけに陰陽寮の次席・方技官が封魔方を率いる俺にこうした写真を見せ、相談を持ちかけるのは異例のことだった。
「実はこの僧侶をそちらで処断して欲しいのです」
「処断? 何をしでかしたかは知りませんが、羅刹は毘沙門天の眷属(けんぞく)。その羅刹に襲い掛かられたとあれば、この僧侶はすでに鬼籍にあるということでは?」
「そう思われるでしょうが実はこの明鎮という僧侶、今でもピンピンしているのです。その証拠に、これは一昨日撮られた写真です」
 希沙羅は、若い巫女をナンパしている明鎮を盗撮した写真を見せた。
「なんと・・・」
 俺は言葉を失った。


「つまり陰陽寮の連中は、その僧侶が妖怪ではないかと疑っているのですね」
 そう言いながら、十朱補佐官が公用車のナビに“庵本寺”と打ち込んだ。
「そう。それもかなりやっかいな妖怪と踏んでいるようだ」
「写真からは怪しげな妖気も感じられませんでしたし、私には普通の破戒僧に見えました」
「俺もそう思うんだが、毘沙門天の怒りを受けて現世に留まっているとなれば、ただ者ではない」
「ですね・・・。とにかく一度我々の目で確かめてみましょう」
 十朱はゆっくりと車を発進させた。


 都内西部にある庵本寺は、太田道灌が江戸城を築城する以前からあった古刹(こさつ)だ。
 神仏混淆で、戦国時代には南蛮寺も兼ねていた。

 属している宗門は小さく、国宝や重要文化財も無いことから一時期廃寺の話もあったが、戦後周辺の人口が大幅に増え、檀家も増えたことで危機を脱した。

 最近は雑誌で都内屈指のパワースポットと紹介され、多くの参拝客を集めているという。
 こうした雑誌の記事にはでっち上げが多いが、この庵本寺の場合は・・・、

「これは本物ですね」
 車を降りた十朱が、うなった。
 陰陽寮が常に注視しているのも当然で、能力の有る者ならば、たじろいでしまう程の気が充満している。
 しかもそれは神気、邪気がゴチャ混ぜという賑やかさだった。

 大門の屋根上に生きた招き猫(妖怪)がいて、怪しげな気を放ちながら参拝客を集めている一方で境内の中央には天女が住んでいるのではとみられる極限まで浄化された五重の塔があった。
 しかも、この寺に住み着いているのは妖怪や天女だけではなかったのだ。

「そこに餓鬼がいる。目を合わせば我々の正体が知られてしまうから注意しろ」
 俺は十朱に新築の地蔵堂の方を見ないように指示した。
 餓鬼自体はわりとどの寺にも住んでいるのだが、驚くべきことにこの寺にいる餓鬼達はハンバーガーを食べていた。

「明鎮という僧侶、ますます怪しいですね」
 十朱がそれとなく、この寺の特色ある餓鬼を観察しながら苦笑した。

 陰陽寮の資料によれば明鎮はこの寺の若住職で、金と女好きでこれまでも度々問題を起こしている。
 宗教法人を隠れ蓑に不動産業で儲け、フェラーリに乗って檀家参りをし、一度地蔵堂を壊して駐車場を作った時には大住職から追放されかけたこともあったという。
 昨年脱税でもあげられており、この時は一番厳しい修行場に送られて再教育をされているが懲りた様子もなく、現在はランボルギーニ・アヴェンタドールに乗って檀家周りをしている。
「これだけ見ると実に人間らしいやつですけどね」
「だが、その程度の人間なら毘沙門天が現世にまで羅刹を送り込んで来るはずはない」
「となると、どこかの漫画に出てきたような半妖でしょうか」
「わからん。とにかくやつを発見することが肝心だな」
 俺は陰陽寮の事前の調査に従い、明鎮の出没しそうな場所に回った。

 問題の明鎮は予想通り、寺が経営している文化教室の前でフラダンスを覗き込んでいた。

「人間ですよね・・・」
 十朱が俺に確認した。
 確かに明鎮からはなんら妖気も感じない。
 だが気になったのは彼が熱を上げている女。
 明鎮が覗いているのが分かるのか、少し眉をひそめて踊る姿は人と思えぬ程美しい。

「あれは人間ではなく、級外天女と呼ばれる存在だよ」
 俺は、明鎮と同じように、その女に魅入っている十朱に教えた。
「なるほど。すると明鎮は恋してはならない天女に恋した為、毘沙門天の怒りを買ったんでしょうか」
 ほんの一瞬とはいえ、心を奪われたことを恥じ入りながら十朱が尋ねてきた。
「文献ではそうした事例は無いんだけどね。それにあちらから姿を見せているわけだし・・・」
 そう、天女に恋した人間が罰されたという言い伝えはない。
 だとすると、明鎮のどこが毘沙門天の怒りを買ったのか・・・。

 俺はしばらくこの寺に関わりを持つことになるだろうと予測した。

 が、謎解きを初めて僅か10分で、あっけなくその理由が分かったのだ。
 それは境内のあちこちに貼られた“御札”。
 殆どが現世利益に関わるものだが、呼び出す神格は陰陽寮の連中も躊躇する強力なものだった。

「こりゃすごい。一命と引き換えねばならないような御札が無造作にベタベタ貼られている」
 十朱も呆れ顔で言った。
「しかも書き方が殆ど間違っている。これではなんちゃって福の神・つまり妖怪しか呼び出せないぞ」
 俺はなんとなくこの寺が神聖と共にまがまがしさが共存する訳が分かったような気がした。

 その時、「ほう、その事が分かりますかな」という声がした。
 ギクリとして振り返ると・・・、
 声の主は餓鬼だった。

「しまった!」
 俺は思わず、見えないふりをしたがそれは無駄だった。
「気になさらずとも良いですよ。私が知ることで良ければお話しましょう」
 ペロタンと名乗る餓鬼は意外に明鎮の事情に精通しているらしく、筋の通った説明をしてくれた。
 おかげで一月はかかると見ていた仕事が日帰りになった。


「つまり僧侶は妖怪ではなかったということですね。しかしそうなると明鎮なる男、羅刹の攻撃にあっても平気だった訳が分かりませんなあ」
 陰陽寮の希沙羅が俺の説明に対し、少し不満そうに言った。

「餓鬼の説明によれば、彼には特殊な役割があるそうですよ」
「特殊な役割とは?」
 俺は希沙羅を近くに寄せると周りの方技官たちに聞こえぬように耳打ちをし、その正体を明かした。
「ヒョォ~ッ」希沙羅が驚いて口笛を吹いた。
 
「明鎮の処断はもっと適当なところに回しましょう」
 俺は庵本寺の地元の税務署に電話をかけた。
 ランボルギーニ・アヴェンタドールは、フェラーリを廃車にした後、一年程の檀家周りで買える車ではなかったからだ。

「面倒な事は他の部署に回す。いかにもお役所仕事ですなあ」
 希沙羅はイヤミを言って去って行った。

「希沙羅さんに言われる筋合いは無いですよねえ」
 側にいた十朱補佐官が苦笑いした。


     ( おしまい )


 
 ※・・・この物語はまったくのフィクションです。

  
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2013年05月04日 (土) | 編集 |
IMG_1220 (2)

 写真は記事とは関係のないウチのめっちゃ君です。


  小説 【 方技官 】 


 内閣官房機密費はその性格上、オープンにできない費用とみなされ、会計検査院も調査対象にしていない。
 一般的には、国会の審議を円滑に進める為の接待費と見られているが、実はそれ以外に驚愕の経費がここから捻出されている。

 例えば、明治時代まで中務省に含まれていた組織の費用で、陰陽寮(陰陽道に基づく呪詛を行う)の他、我々封魔方(国家に災いをもたらす妖鬼を武器を用いて倒す)の方技官に支払われる給与だ。

 敗戦時、GHQの追求を逃れるために内閣官房付となったが、当時は無給で宝剣類を一部博物館に売却することで生計を立てていたという。

 だが、今では・・・。
「八柱方技官、新田原へのフライトの準備ができました」
 と、三沢基地から連絡が来た。
 我々封魔方にはそれぞれ専用機が割り当てられているのだ。

 俺は恐山にある自宅からマセラティ・GCSを三沢基地まで走らせると、すぐに機中の人となった。


「実は数日中にも覚醒が始まるであろう妖猫が発見されました」
 同行する十朱補佐官が深刻そうな表情で資料を見せた。
 いわゆる猫又だが、齢を経て転妖する並の怪異ではないと言う。

「この少女がブログでUPしなければ見落とすところでした」
 十朱は、そう言いながらタブレットにそのブログを呼び出した。

『ウチのゴンタロウです。なんとゴンちゃんは尻尾が分かれてて二本もあるんだようヽ(⌒∇⌒)ノ』
 子供っぽい文章に添付されていたのは紛れもない子猫の猫又だ。
 生まれて数ヶ月で猫又への変異を始めている、とんでもない化け物だった。

「まずいな。写真からも妖気が漂っている。覚醒すると九州の猫達全てが妖猫化するぞ!」
「それほど強力ですか」
「ああ、数百年封印された県内の魑魅魍魎(ちみもうりょう)を叩き起こす危険性もある。間に合わない可能性も考慮して陰陽寮の方技官もスタンバイさせておけ」
 
 俺は機内で妖刀や破邪弓、神具を取り出すと日本酒で清め、それぞれに印を結んで入魂をすませた。
 
「後一〇(ひとまる)分ほどで新田原基地に到着いたします」
 パイロットのアナウンスで俺は急いで農作業着に着替える。
 現地は畑が多く式服では目立ってしまうからだった。
 
「ご武運をお祈りいたします」
 担当自衛官の敬礼に見送られて俺は送迎車に乗り込んだ。

「調査官によれば少女の母親は中学校教諭、父親は役場努めで少女が学校から帰宅するまでは子猫は家の庭にいるとのことです。なお、ペットショップの店員になりすました工作員がGPS付きの首輪をプレゼントした為、子猫の位置はすでに把握できています」
 十朱補佐官はここまでの工作活動について報告をしてくれた。

「ありがたい。後はすみやかに邪を断つまで」
 俺は妖刀など七つ道具を麻袋に詰め、送迎車を降り立った。
 その瞬間、俺はこの場に漂う尋常でない気を感じ取った。

「こ、これは・・・」
 少女の家から数十メートル先に止めた送迎車の位置にまで、まがまがしい妖気が届くのだ。
 霊感の強い十朱補佐官などはその妖気に打たれ、よろめいた。
「すでに覚醒したのでしょうか」
「いや、しかし急がねばならないな」
 
 俺は印を結び呪文を唱えながら慎重に怪異に近づいた。

「八柱さんですね。ご苦労さまです。妖怪はそこにおります」
 農業用水補修工事を装って少女の家を張っていた工作員が子猫を指し示した。
 
 尻尾が二本ある以外は、どこにでもいそうな茶虎の子猫。
 おそらく一般の人間にはそう思えるだろう。
 しかし、能力があるものが見れば、龍神にも匹敵するエネルギーをそこに感じ取るはずだ。
 そんな妖猫が覚醒したとすれば・・・。

 俺は慎重に、ニボシを持って猫に近づいた。
 武器は奈良時代に役行者(えんのぎょうじゃ)自らが鍛えたという破邪鋼を用いた短刀を選択。
 闘気を消し去り、にこやかにゴンタロウの名を呼んだ。

 だがうまく子猫を捕らえた瞬間、邪魔が入った。
 
「おじさん達、誰?」
 予定より早くゴンタロウの飼い主の少女が学校から戻ってきたのだった。

「まずいな。十朱、子供を近づけないでくれ!」
 俺は補佐官に命じ、少女を止めさせると、妖猫に短刀を振り下ろした。

「斬!!」
「キャーア! ゴンタロウ~!!」
 少女が悲鳴を上げた。

 かわいそうだが、仕方がないことだ。
 俺は急ぎ、送迎車に戻った。

「我々の発見が2,3日遅れていれば大変な厄災が日本を襲うところでしたね」
 少女に顔をひっかかれた十朱と、工事を装って家を見張っていた工作員も車に乗り込んだ。
「出してくれ」

「ウワァァァ~ン! 変な叔父さん達がゴンタロウのヒゲを切った~」
 俺達は少女と子猫の泣き声を背に受けながらその場を後にした。


     ( おしまい )


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