自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月10日 (木) | 編集 |

寮にもどった琴里は、珍しく大車輪の活躍をした。

 まずはお風呂にたっぷりとお湯をはり、疲れて帰って来るであろう真奈美先輩の為に、すぐ出せるよう、冷たい麦茶を用意した。

 (おっと忘れるとこやった……)

 琴里は黄色いリボンのついたエプロンを、きれいに折りたたんで机の上に置いた。

 「いや~先輩、今朝はねぼけてエプロン間違えましたー(ってウソくさいなあ……)」
 「すみません。朝方、停電があったもので(な~んてすぐばれるし……)」
 「(ここは知らなかったことにして)アッ先輩、お帰んなさい。遅かったですね」
 と、琴里が一人漫才をしていた瞬間にドアが開き、真奈美がそこに立っていた。

 「ヒェ~!」
  あまりのタイミングに思わず琴里が悲鳴を上げた。

  しかし真奈美はそのままドカッとうつぶせに倒れ込んだ。
  体中からシュゥシュゥと湯気がたっている。
  彼女は、ほとんど死んでいた。

 よく見ると、真奈美の制服にはバドミントン部やフェンシング部、ラクロス部、チアリーディング部などのワッペンがベタベタと貼られている。どうやらそれら、すべての部室に引っぱり込まれたようだった。

 「あの先輩、こんな所で眠ったら風邪ひきますよ。お風呂も沸いてますし……」

 「………」
 しかし、真奈美は無言だった。

 「じゃ、毛布でもかぶって下さいね……」
 琴里はソ~ッと静かに毛布を掛け、そのまま逃げ去ろうとした。が、その瞬間真奈美の手が動き、琴里の足首をムンズと捕らえた。

 「琴里ちゃん……なんかボクに謝ることない?」
 それはまさしくホラー映画だった。

 「ヒェ~!」

 結局、真奈美先輩は《4の字固め》《股裂き》《逆エビ固め》などプロレス技、六連発で許してくれた。

 「そう闘士クラブに入ったんだ。じゃあ勾玉買わなきゃね」
お風呂からでた真奈美は、相変わらず投資クラブの意味を取り違えてはいたものの、通常の 明るさを取り戻していた。立ち直りの早いのも彼女の良い所だった。



 勝ち組と負け組が一ヶ所に集まれば、このような状態になるのだろうか……。
 ピンクリボン狩りが行われた次の日、栗の花学園一年の教室は明暗入り混じっていた。

 馬術部のワッペンを付けた矢野恵子を筆頭に、体育会系クラブに入部させられた者達のドヨ~ンとした暗さとは裏腹に、栗の花学園が中心になって運営している料理研究会だとか人形 劇団のような意中のクラブに入部できた者は喜々とした表情をうかべていた。

 「あなた達どうやって脱出できたのよ。まさか御堂さんのような方法で?」
 今更聞いても無駄と知りつつ、中山未来(レスリング部)が聞いた。

 「そんな非常識なことはやっていません!」

 (やっぱりそう思われとるんかい)

 「私達は《空白の五分間》を利用したのよ」
 ソムリエ研究会入部を果たした星野香織(ほしのかおり)が言った。

 それは、言うなれば栗の花の生徒だけに与えられる特権のようなものだった。

 栗の花学園の指導方針は《奉仕と感謝》。
 それだけに、ボランティアは最も奨励される行為である。

 その為、昼の休み時間に自ら進んで学校の掃除や整頓を行う者には、四時限目の授業が終わる五分前に退席することが認められていたのである。

 つまり、彼女達はそれを利用して意中のクラブの前の廊下を掃除しつつ、四時限目終了のチャイムと共に部室に駆けこんだのだった。

 「そ、そんな方法があったなんて……」
 ショックを受けたのは、今や事情通の看板がはげた矢野恵子だった。

 もちろん琴里も(その方法さえ知ってれば、真奈美から《カニ挟み》や《ヘッドロック》を受けんでもすんだのに……)と残念がったのは言うまでもなかった。


                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
「あらためまして、みなさん投資クラブへようこそ」
 昼休みに集まった新入部員を前にして部長の高輪未幸が笑顔で言った。

 「現在の世界は、不確実な時代に入っています。サブプライムローンで傷ついた日本経済も、ようやく立ち直ってはまいりましたが、国家も地方も多額の債務を抱えている有様です。こうした中で自助努力によって、自らの資産を守り育てることは、とても大切なことです」

 「ハイ、この中に資産のない人が紛れ込んでいます!」
 宮倉嘉穂が口を挟んだ。

 「それはかまいません!」
 副部長の井原真澄が少し強い口調で言った。

  (や~い怒られた)

 未幸が軽く咳ばらいをして話を続けた。

 「外貨為替取引・商品取引・株式取引と投資にはいろいろありますが、諒凰の投資クラブでは株式投資を専門に行います。というわけで実際に取引しているところをご覧にいれましょう」

 高輪未幸はトレーディングルームのドアを開け新入部員をそこに招きいれた。

 諒凰投資クラブが誇るトレーディングルームは視聴覚教室を改造したもので、防音装置付きの壁正面にはクラブが注目する株の現在値を映す大型モニターが数台掛けられている。

 以前、語学学習用の装置が置かれていた、三十席の独立したブースには光通信で結ばれたコンピューターがズラリと並べられており、上級生がインターネット取引を行っていた。

 「言うまでもないことですが株式の取引とは将来値上がりの見込めそうな株を見つけ出し、安値で購入して高値で売ることにより、その差額を利益として得るものです」

 嘉穂達が(そんなこと分かってますわ)という顔をした。

 「例えばそうですね……安西さん、中央航空の現在値はどうなってますか?」

 二年生の安西珠樹がコンピューターを操作し、すぐに現在値をモニターに出した。
 「前場は12円安の375円でひけています」

 (わ~ 専門家や!)琴里は上級生のあざやかなパソコン操作に感心した。

 「やはりそうですか……一時期バレル40ドルを割り込んでいた石油価格がこの処、再び上昇しています。これは航空燃料の高騰を意味しているのですが、中央航空では新幹線との価格差を配慮してこれ以上運賃を上げることが難しくなっています。つまりは企業収益の圧迫要因となることから、ここしばらく株価もさえない状態が続いています」

 嘉穂達が、もう一度(そんなこと分かってますわ)という顔をした。

 「それでは宮倉さん、このような時代でも業績を上げ、株価を上げる可能性の高い企業とはどんな企業でしょうか?」

 「そ、それはもちろん石油元売りですわ! 石油価格が再び上昇に転じたとなると、産油国に権益を持つ石油元売り会社などは、高い利益を生むものと思われますわ」
 宮倉嘉穂が、模範解答をした。

 「なるほど、考え方としてはそれで良いでしょう。ですがそういった元売り会社は、既に投資家が株価を吊り上げている場合が多いので注意が必要です。株式投資はこれから値上がりが予想される会社に投資するものです。仮に、石油価格が下げに転じた場合、元売り会社は真っ先に売られる可能性もあるという事を考慮しておいて下さい。では、あなたはどうですか?」
 未幸が、琴里を指した。

 琴里は一瞬ドギマギとしたが、心を落ちつけて答えた。

 「ええっと……それやったら同じ資源でも水はどうでしょうか? 日本には海水を淡水に代える浸透膜にすぐれた技術を持つ会社があると聞きます。逆浸透圧の為、圧力をかけるのにコストがかさむとしても、改良されるのではないでしょうか。例えば深海の圧力を利用した井戸のような技術が出来ればコストも低く抑えられますし、淡水は比重が軽いのである程度なら海面近くまで押し上げられてきます」

 「バカね。あなたは……そんな夢みたいなことが出来るわけないじゃないの」
 嘉穂がダメ出しをしようとした瞬間……。

  「でも、面白い考え方だわ。確かにこれからは水資源を扱う会社も有望ね……」
 などという声が、聞いていた上級生からあがった。

 その時、昼休みの終わり五分前を告げるチャイムが鳴った。


                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
  別棟にある諒凰の体育館は、その一階が体育会系の部室、二階は見晴らしのいいカフェテリアになっていた。

 ここはちょっとした大学並の設備で昼は軽食堂となっているが、放課後の今の時間は、おいしいスィーツを楽しみながら、お迎えの車を待つ諒凰の学生達でにぎわっていた。

 「どうにもあの子は気に入りませんわね!」
とりまきの春日麗香と吉田翔子を前に、そう言い放ったのは宮倉嘉穂だった。

  「あのような子をどうして部長はかばわれるのでしょう?」
麗香も不思議そうに続けた。

 「セレブの中には、純真で恵まれない人々にことさら同情を持って接する人達がいます。高輪先輩もそのような方なのでしょう。けれど私にはあの子がどうしても純真とは思えません!」
 嘉穂がきっぱりと言った。

 「そうですね……ピンクリボンの一件でも彼女の狡猾さが現れていましたからね」
 「ここはひとつあの子のバケの皮をはがし、ごひいきの先輩から追放宣言を出して頂かねばなりませんわね!」

 その時、傍でテーブルの跡片付けをしていた栗の花の生徒が、カップに残っていた水をこぼした。

 栗の花の七時限目には家庭のお給仕という科目があり、彼女もその授業中なのだ。

 ピンクリボンでグルグル眼鏡にお下げ頭というその娘は初めて見る娘ではあるが、どこか以前に見かけたような感があった。

 あたふたしているその娘を見かねて栗の花の上級生が駆け付け、嘉穂達に頭を下げた。

 「失礼いたしましたお嬢様! ほら、あなたも頭を下げて!」
 上級生にグイッと頭を押さえられたその娘は不満そうに「せやかて……」と呟やいた。

 「せやかてですって?」
 嘉穂達がいっせいに振り向いた。

 「し、失礼いたしましたっチャ……お嬢様……」
 汗をかきながら眼鏡っ子が言った。

 彼女は「す、すぐにお水を取り換えますですっチャ……」と言い残して走り去った。

 「あっ逃げた……」
 翔子があっけにとられた表情で言った。

 「髪型も変え、眼鏡もしてましたけど確かにあの子、御堂琴里ね……」
 嘉穂がストローを、両手でポキリと折り曲げた。

 「どうやら私達の話を聞いていたようですね」
 麗香も続く。

 「恐るべし御堂琴里!」
 そう言ったのは翔子だった。

 「これは本当につぶさなくてはいけませんわね……」

 一同がウンウンと、うなずいた。

 嘉穂は学内で禁止されている携帯電話を取り出してどこかに連絡を取った。

 「私です。調査班の安藤を呼び出しておいてちょうだい。ええ、素性を調べて欲しい子がいるの……」


                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |

 「どう、どう? 琴里ちゃんカッコいいでしょ!」
 琴里が寮の扉を開けるとそこにフェンシングの剣を持った真奈美が立っていた。

 「えっ? 先輩、そんなものどうしたんですか?」
 「へへーん、ボク正式にフェンシング部に入ったんだ~」

 (入った? 入らされたんやろか……)

 「この練習用の剣だってもらったんだよ。それに見て! ほらこのワッペン!」
 真奈美の制服の右肩に、諒凰フェンシング部のワッペンが一枚だけ貼られており、逆にこの前まではベタベタと貼られていたラクロス部やバドミントン部のワッペンが消えていた。

 「あっ! ほんまや、ワッペンが一枚に減ってる……先輩、それやったら他のクラブからは脱出しはったんですね」

 この件に関しては、琴里もちょっと責任を感じていたのだった。それだけに、真奈美が逃げだせたとあって、正直ホッとしたのだった。

 「うん。バトミントン部、ラクロス部、チアリーディング部の方は、ボクと琴里ちゃんが時々部室を掃除しに行くことで話がまとまったんだ~」

 (まとまっとらんやん、ちっとも! それになんであたしまで……)

 「四つのクラブが条件を出し合ってさ、ボクが一番気に入ったクラブを選んだんだよ~」
 真奈美が満足げに言った。

 (クラブに入らんですむ、という選択肢はなかったんかい……)

 「いや~ボク、一年の時は《片付け上手の会》に入ってたんだけど、(どんなクラブや? それは……)部員が少なくて廃止になってたんだよね。だから今度は頑張るんだ~」
 そう言って真奈美は鏡の前でアタック・トゥシュのポーズをとった。

 琴里は馬鹿らしくなって、心の中でそれ以上突っ込むのを止めた。

 「そうそう明日は木曜日だから、琴里ちゃんは始業前、チアリーディング部のお掃除ね」
 真奈美がぽそっと言った。

 琴里は一挙に、”どよ~ん”とした気分になった。
 「うえっ……行かんとどないなるんやろ?」
 「逆さ釣りって、笑って言ってた……」



翌日、琴里は寝坊した。すると……二時限目の休み時間に、それはやって来た。
 思いっきり笑顔の諒凰上級生。チアリーディング部の面々だった!

 「ここに御堂琴里さんはいらっしゃるかしら?」
 「いらっしゃるかしら?」
 クラスの者達がいっせいに琴里を指さした。

 (裏切りもの~)

 「私はチアリーディング部、部長の山名蓉子(やまなようこ)です。あなたが御堂さんね? 寮の先輩、倉橋真奈美さんからあなたに、お話がなかったかしら……」
 チアリーディング部の山名蓉子部長が、やさしい笑顔で言った。

 「ええっと……その~」
 「なかったかしら?」
 双子の副部長、山名舞子(やまなまいこ)も明るい笑顔で繰り返す。

 「ああ~申しわけありません。今日は寝坊してしまいました」
 しかたなく、琴里もさわやかに笑顔を返した。

 「そうですか……それは仕方ありませんわね。けれど、もし来週もまたお寝坊されたら……あんなふうに逆さ釣りってことで……」
 そう言いながら、部長は窓の外を指さした。

 「ゲッ!」

 見れば芝生グランド脇の木に吊るされている栗の花の生徒がいた。

 よく見ると別に逆さ釣りではなく、ヘルメットを被った完全防備でカラスの巣を撤去しているのだった。

 木の下から指示を出すラクロス部員の命令で、少女が巣に手をかけた瞬間、親カラスが怒って攻撃を始めた。
 「イタイ、イタイ! ボクのせいじゃないって! わ~ごめんなさい、ごめんなさい!」
 どうやら、ぶら下っているのは真奈美のようだった。

 「あの……でも、あたしは基本的に関係ないやないかと……」
 そう言いかけた琴里を、チアリーディング部の部長はさえぎった。

 「あなた、先輩の倉橋さんのリボンを無断で交換したそうね……」
 「ウッ!(しゃべったか)」
 「そういうわけで、あなたもチアリーディング部の特別会員だから合宿にも参加するのよ」
 山名蓉子部長が笑顔を絶やさず言った。

 「エッ? でも……」

 「す・る・の・よ!」

 「ハイ……」

 呆然と立ちすくむ琴里の後ろで、矢野恵子と中山未来がハイタッチをしていた。

 「じゃ、そういうことで……」
「そういうことで……」

 チアリーディング部の先輩達は、笑顔を絶やさず帰って行った。


                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |

 「アウッ…… 少しお茶を飲み過ぎましたわ」
 放課後、大急ぎでトイレに駆けて来たのは宮倉嘉穂だった。

 ところが……。

 「エッ! 清掃中ですの?」

 運悪く清掃中の看板が入口をふさいでおり、中から叱咤の声が聞こえてきた。

 「まったく、あなたはモップの使い方も知らないんですか!」
 「せやかて、これ、ボトボトやないですか……」
 「これは、このようにすれば……ワッ冷たい! ホースは降ろしてちょうだい!」
 この会話を、外で聴いていた嘉穂が怒りに震えた。

 「どうやらまた、あの子”御堂琴里”が、からんでいるようね! やむをえませんわ」
 嘉穂は隣の教職員用トイレに飛び込んだ。

 一応ここにもモップが立てかけてあったのだが、そんなことは気にしていられる状態ではなかった。

 さすがに諒凰の教職員用トイレというだけあって、三畳程もある個室の奥には豪華な化粧台があり、その横に高級な便座が唯一つだけ置かれていた。

 ここは、普段は教職員と車椅子の人に使用が限定されていたが、一般のトイレが清掃中といった場合には、誰が使ってもいいことになっていたのである。

 しかし……。

 「もうここはいいわ。あなたは隣のトイレを奇麗に拭いてらっしゃい!」
 と、追い出されてきた琴里がガラッと教職員用トイレを開けた為、便座の上に腰かけたばかりの嘉穂と鉢合わせになってしまったのだ。

 「ヘッ?」

 琴里の目が点になった。

 「な、なんですの、あなたは……いきなり! その上私はちゃんと鍵をロックしましたのに!」
 嘉穂が顔を真っ赤にして抗議した。

 「あれ、知らんかった? ここの教職員用トイレは上の鍵を閉めても外から開くから…… ロックする場合は、その下にあるレバーを降ろすんや」 
 「わ、わかったから早く閉めなさい!」
 パニックを悟られないように、沈着冷静を装って嘉穂が静かに言った。

 バタン! 

 「ええっと、このレバーを降ろすのね…… でも届かないわね。少し前にいかないと……」
 嘉穂がなんとか扉にまで手を伸ばした時、もう一度トイレの扉が開いた。

 「言い忘れてたけど、最初にレバー降ろしとかんと便器に座ってからでは手が届かへんねん。せやから、あたしが見張って……る必要はないみたいやなぁ……」

 嘉穂はオシリが丸出しになっていた。

 「いいから、早く閉めてちょうだい!!!」
 琴里が「エヘッ」と笑いながら扉を閉めた。

 「絶対に……ぜ~ったいに許せませんわ!」
 嘉穂は化粧台の前で、しばらく怒り狂っていたが、ふと大事なことに気がついた。

 「しまった! あの子に口止めをさせるのを忘れてましたわ」



 懸念が当たった……のかもしれない。宮倉嘉穂が部室に入った瞬間、先輩達がクスッと笑ったような気がしたのだ。

 「嘉穂ちゃん、嘉穂ちゃん……」
 「ハイなんでしょう……ってあなたなの!」
 呼びかけたのは琴里だった。

 「いや、なんかボ~っとしてるから、どうしたんかと……」
 「あなた、いつから私をファーストネームで呼ぶ身分になりましたの? それよりちょっと、こっちへいらっしゃい」
 我に返った嘉穂が、琴里を部室の外へ引っ張りだした。

 「まさか先程のことを、ペラペラしゃべったんじゃないでしょうね?」
 「あたしは口が堅いから……」
 琴里の目が少し泳いでいた。

 「ならいいわ。もし、しゃべっていたら宮倉家グループ企業の総力を結集して、あなたを抹殺するところでしたわ。い、命拾いしましたわね…… ホーホホホ」

 もっとも真相は、ヘラヘラしゃべっている所を、部長の未幸から「それは、誰でもある失敗なのだから笑うところではありません」と、たしなめられた後だったのだった。

 思わず一緒に笑ってしまった麗香と翔子が、バツの悪そうな顔をしていることに嘉穂は気付かなかった。


 「さて、新入生の皆さんには本日より、本格的に株取引について勉強していってもらいたいと思います」

 なんとなくザワついている部室のムードを引き締めたのは、やはり高輪未幸だった。

 「この間も少し触れましたが、株式投資の基本は、今後値上がりが期待される銘柄を人より早く見つけ出し、値上がりを待って売ることにより、利益を得るというものです」
 あたりまえですわ。と言わんばかりに嘉穂がうなづいた。

 「では、どの銘柄が値上がりするのか? それは誰にもわかりません。ですが、ヒントはあります。それはこの企業データーブックをよく読むことです。安西さんお願いします」
 二年生の安西珠樹が新入生全員に分厚いデーターブックを配った。

 「それは、私達からのプレゼントです。ですから、心配はいらないですよ。御堂さん」
 琴里が心配そうに、データーブック裏表紙の値段を見ている為、未幸が言った。

 「さて、この中で私達が特に重要視している項目の一つがPERです。これは株価を一株あたりの利益で割ったもので、その株が現在、割高か割安かを計る指標の一つです。あり得ない話ですが、もし一株しか発行していない会社があったとして、その会社の年間の利益が一億円で、株価が十億円ならPERは十倍ということになります」

 未幸は新入部員が理解してくれたかどうか、一同を見渡した。

 「同じように年間の利益が二億円あるのに株価は十億円のままならPERは五倍ということになり、こちらのほうが割安ということになります。次にPBRですがこれは……」


                     ( つづく )
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