自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月10日 (木) | 編集 |

(つまりPBRというのは出してる株の総額と比べてその会社の純資産がどのくらいあるかということやな……それが同じなら一倍。それ以下やと持ってる資産の方が大きいということで、お買い得な会社ということか……)
 自分の部屋に戻った琴里は今日聞いたことを忘れない為に分かりやすくメモっていた。

 (それから、時価総額というのは……)ぴーぴーぴー

 (ええっと出してる株とその時価を掛けたもので……)ぴーぴーぴー

 (これが大きい程、大企業というわけやな……)ぴーぴーぴー

 「? ? ?」

 (なんやろう……先輩の部屋から聞こえてくる、あのぴーぴーは?)

 栗の花の学生寮は二人一室となっている。
 しかしその一室は一般的な2LDKのマンションと変わらない為、台所やバスルームが共同の他はそれぞれに小さいながらも個室が与えられていたのである。

 「真奈美先輩……それ、いったいなんですか?」

 琴里が急に部屋を開けた為、真奈美はギクリとしたみたいだった。
 彼女は大事そうに小さな ダンボール箱を抱えており、その中の物にパン屑を与えていたのだった。

 (あっ! そうか……)
 琴里にはピンとくるものがあった。

 「もう~琴里ちゃん、ノックしなきゃだめでしょう」
 秘密の物を見られた真奈美は開きなおった。

 「まあいいか……(突然、真奈美がクイズの出題者になった!)それでは問題です。この中に入っている物はなんでしょう?」
 聞かなくても分かる。それはカラスの子に違いなかった。

 しかし、琴里はあえて外すことにした。

 「夜店のヒヨコ……」

 「残念でした。実はなんとカラスの子です!」

 真奈美が箱を開けると、まだ眼も開かない小さなカラスのヒナが一匹、口ばしを大きく開けてピーピー鳴いた。

 おそらく……今朝、ラクロス部の命令で取り去ったカラスの巣の中にいたヒナの生き残りだろう。彼女はそれを捨てられなかったのだ。

 「アレッ…… 驚かないの?」
 真奈美は少し不満そうだった。

 「いえ、ビックリしました。けど先輩、コレ、どうしはるんですか?」
 琴里は、コレをどうしたのかとは聞かなかった。

 「ん~……育てんの……」
 それは人の手で育てるには、あまりにも小さすぎるように思えた。

 「せやけど……親がいなくて育つんやろか……」

 琴里の呟いたこの一言に、珍しく真奈美がむきになった。

 「大丈夫! 親なんかいなくったって育つんだから! 親なんかいなくったって……」

 真奈美はダンボール箱をギュッと抱きしめた。

                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |

「カラスを退治したと思ったら、今度は馬なの?」

 この日、ラクロス部・部長の南川奈津美(みながわなつみ)はすこぶる機嫌が悪かった。

 豊富な資金を誇る、諒凰女子だが芝生のグランドはわずか二面しかなかった。
 しかも、両翼が百メートルを超す本格的なグランドはたった一つだったのである。

 そこをラクロス部を初め、ソフトボール部、ホッケー部、サッカー部、加えて馬術部が使うのだから大変な混雑ぶりだった。

 専用のコート四面を持つテニス部が羨ましかったものの、グランドが混み合うこと自体はもとより承知だった。

 それより許せなかったのは今朝、練習をしていた馬術部が芝生の上に転々と置き土産をしていったことだった。

 「まったく、馬にどんな調教を行っているのかしら! それから馬術部のお手伝いさんがサボっていたとしか思えないわね……これは厳重に抗議しなければなりませんわ!」
 と、大変な剣幕だった。

 もちろん馬術部でも、その都度掃除をしているのだが、拭いきれないものがあったのだ。
 キレイ好きの奈津美はそれが気に入らなかった。

 「とにかくなんとかしなければ練習にもなりませんわ! すぐに馬術部のお手伝いさんを呼びに行かせなさい。ウチのお手伝いさんはどうなってるの?」
 部員達が芝刈り機に乗って作業している琴里を指した。

 「ちょっと、あなた御堂さん……馬術部に行って、そこのお手伝いさんにコレをキレイにするように言ってきてさい!」

 馬術部のお手伝いさん、つまりお世話係りといえば矢野恵子である。

 彼女は琴里が先輩とリボンを取り換えてクラブ勧誘を逃れたことを今でも卑怯者扱いしている。そんな恵子に、馬糞掃除のやり直しを依頼するのはとても気が引けた。

 「え~っと……見つかるやろか……」
 琴里は消極的に言った。

 「その場合はあなたが掃除しなさい!」
 南川奈津美は、昨日も真奈美を吊るしてカラスの巣を撤去させたという非情な女である。やむなく琴里は馬術部の厩舎へ向かった。

 「矢野さん、いる?」

 厩舎の裏側から覗き込んだ琴里だったが、そこには矢野恵子はもとより馬もいなかった。
 厩舎の正面は小さな馬場になっており、どうやらそこに集まっているようだった。

 「言ったでしょ……矢野さん、私達はあなたを、お手伝いさせる為だけに馬術部にお誘いしたわけではないと……だから今日はあなたにも実際に馬に乗ってもらいます」

 (なんや、ちゃんとクラブやらしてもろてるやん)

 厩舎の脇から覗きながら琴里は思った。

 「服装はそうね……この際、そのトレーナーでも良いですが、乗馬のマナーとして帽子だけはかぶらなければね……誰か矢野さんに帽子をかぶせてちょうだい」

 (矢野さん、良かったなあ……。ともかく、これでもうグチられんで済むかもしれん)

 「あの……ずいぶん高いんですけど……」
 しかし、あまり矢野は喜んでいない様子だった。

 「馬に乗ると目線が高くなるのは当然です! ハイ、もっとリラックスして……浅井さん、手綱を持って少し歩かせてやって下さいな……」

 ゆっくりと馬が動き出す。途端に――。

 (あっ落ちた……)

 矢野が落馬した。

 「ひぇええ~!」

 どうやら無事であったらしいが、すっかり恐れを抱いた彼女が馬から逃げようとすると、
 「だめよ! 落馬した時は、仮に骨が折れたとしても一度は跨がらなきゃならないの。そうしないと馬は人を振り落とせば楽になると思いこみ、悪い癖がつくのよ!」
 馬術部の部長はそう言って、厭がる矢野をもう一度馬に乗せた。

 (矢野さんもがんばってるんやなあ)

 琴里はすっかり感心して馬術部を去った。途中で――「あっ、そう言えば馬糞掃除を頼むの忘れてた!」と、大事なことを思い出したが、「まあ、ほとぼりも冷めてるやろ……」と呟きながら、ラクロス部に引き返した。しかし――。
 「遅いわね……もう、あまり遅いから別の人に頼んだわよ!」
 琴里は、小言を言われてしまった。

 見ると、バケツとスコップを手に、馬糞掃除をやらされているのは真奈美だった。



                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
 官舎の跡地を利用して進められた、霞が関・再開発計画の目玉であるバリアブルズ34は超高層ビルと呼ぶには物足りない高さであったが、その情報集積度の凄まじさと、幾重にも張り巡らされたファイアーウォールの鉄壁さから、日本を代表するネオIT企業が、各階に本社を構えていた。

 ネオITとは実業を企業活動の中心に置きながらも、細かな設計から生産、流通などの全てを全世界の協力企業に任せるという手法にあった。

 すなわち自身は工場、倉庫はおろか店舗の一つも持たず、全ての指示をコンピューターのみで行うという業態を取る会社の総称なのであった。

 中でも、最上階のフロア全てを占める高輪ホールディングは、ネオIT企業の頂点とも言える存在であり、それを率いる高輪総輔(たかのわそうすけ)は、階下の企業を率いる若い経営者達にとってあこがれの人であった。

 まるで、諒凰女子の投資クラブを、そのまま豪華にしたようなトレーディングルームを始め、事務室、応接室、会議場が機能的に配置された一角に会長室があり、有能な美人秘書や美人社員に囲まれて戦略を練っているのが、会長にして高輪未幸の父でもある高輪総輔であった。

 「で、小坂電設はウチの言い値で、冷却装置の納入をしてくれるんかな?」
 上場企業の会長というには似つかわしくない、セーターにジーンズというラフな格好の高輪が、昼食代わりのドーナツを食べながら言った。

 「倍の単価を要求してますね……」
 そう答えたのは、殆ど感情を面に表さない秘書の迫田美智子(さこだみちこ)だった。彼女は服装に気を使わない高輪とは対照的に、上から下まで有名なブランドに身を包んでいる。

 「フーン……城葉電に出してる値段を知らんと思ってんだね……」

 「まあ、向こうは系列ですからね……」
 そう口を挟んだのはデザイン企画の司陽子(つかさようこ)だった。少し冷たい印象を受ける迫田美智子とは対照的に明るく快活な感がある。

 この二人に共通しているものは美貌だった。

 「よし、もう少し株を買い進めて、経営陣を揺さぶろう! 15%までいっちゃうか……」
 かなり強引な手法であった。

 これまで日本ではどの業態にも系列があって、新規の参入を阻んで来た側面がある。
 ネオIT企業は、時には平和的に世界中で協力企業を募り時には得意の株式売買の手法を用いて、強引に協力者に仕立て上げるやり方で業績を伸ばしてきたのである。

 高輪ホールディングは、それらネオIT企業の日本における先駆者なのだった。

 「で、現在の株価は?」
 「7円安の278円で寄りついて、現在は9円安の276円ですね」
 「じゃ、三%持ってる市川商事さんに285円でどうかってアポ入れてみて。あの会長さん、手放したがってたようだから……」

 数十億円の取引も、この男の手にかかれば、まるでトレーディングカードの交換にしか見えなかった。

 美智子が高輪からの指令をネゴシエーターに伝えに行くのを見送って、総輔はニヤリと笑った。

 「これで小坂電設も落ちる」



                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
 諒凰の生徒会では毎年この時期、各クラブに対し予算配分の会議が開かれる。

 例年であれば、どこかの企業の株主総会のようにシャンシャンと終るはずが、この日は異様な雰囲気に満たされていた。

 「今回、私は予算配分の抜本的改革を要求します!」
 会議の冒頭で、いきなり書記の小坂直子からこのような提案が出されたからである。

 諒凰の生徒会は栗の花の予算も審議する。
 それは栗の花単独のクラブであっても、予算は諒凰から提供されているからであった。

 しかし、《片付け上手の会》を始め三つのクラブが消滅し、代わりに《通販お掃除道具研究会》等、二つのクラブが新たに誕生したといっても、これらのクラブは低予算であり、なんら問題はなかった。

 またインター杯で優秀な成績を挙げたアーチェリー部や馬術部の予算を少し増やし、逆に惨憺たる成績であったフェンシング部の予算を削ることも議論の余地はなかった。

 問題は総予算の60%を取る文化系、中でもその文化系予算の三分の一を取る投資クラブへの配分であった。

 数年前まで投資クラブは他の政治経済系のクラブと同様、もしくは創業者一族の子女の多いこの学校においてはむしろ傍流クラブとされ、密かに運営されてきた。

 それが現部長の高輪未幸が入学して以来一躍、諒凰を代表するクラブと成長することになる。

 長い歴史を重ねて、大企業に成長させた小坂電設・創業者一族の子女である小坂直子にとってみれば、このような邪道クラブはもともと邪魔な存在であったのだ。

 とはいえ投資クラブが、なぜこれほどの予算を取るようになったのかと言えば、それは未幸の父である高輪総輔がこの学園に数億円規模の寄付をしたことによるものだった。

 「あえて言わせてもらいますが、株式投資は形を変えた賭博だと思います! 2008年秋の経済危機の時にも大暴落をし、財産をなくした人も多かったと聞きます。私は健全なる教育を旨とする諒凰女子には、そぐわないものと考えます」

 しかし、直子のこの発言は生徒会に物議をかもしだした。

 現生徒会・会長の常見芳江(つねみよしえ)の父は独立系証券会社、常見証券会頭だったからである。

 「証券取引は賭博ではありません!」
 芳江は少し強い口調で否定した。

 「小坂さん個人の道徳感にまで踏み込む気はありませんが、グローバルスタンダード化の進む今日の世界においては、とても重要な経済活動といえます」

 「だけど……」
 と、言いかけた小坂直子の反論はさえぎられた。

 会長の芳江はなおも続けた。
 「さらに言えば、二十一世紀を生きていく私達にとって投資活動は、それが直接投資であろうと間接的なものであろうと、もはや避けては通れないものとなっています。あなたは家庭の事情を生徒会に持ち込んでいるのではなくて?」

 日頃はあまり口を開かない芳江に、こんな反撃を受けるのは計算外のことだった。

 (常見証券の大口の取引相手が高輪ホールディングだからって、家庭の事情を生徒会に持ち込んでいるのは、あなたの方じゃないの!)

 そう叫びたい衝動に捉われたが、出来なかった。直子は恥をかかされた思いで顔を真っ赤にして下を向いた。

 提案は取り下げざるを得なかった。


                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
「投資クラブに入れたていうのに、なんであたしはこんな所におるんやろ……」

 栗の花が使っている西校舎、その三階講堂にある諒凰バドミントン部のコートの中にあって琴里は呆然と立っていた。

 元々栗の花には独自のスポーツ系クラブはなかった為、諒凰の弱小クラブは皆この講堂に集まっていたのだった。

 「皆さんもご存じのように、先日特別入部して頂きました倉橋真奈美さんに引き続いて、今回は一年生の御堂琴里さんです!」
 バドミントン部・部長の河野静江(こうのしずえ)は数名の部員を前にして、誇らしげに琴里の紹介をした。

 やむをえず、琴里がペコリと頭を下げると部員の間から「きゃー♪」という歓声があがった。

 バドミントン部は去年ピンクリボン狩りに出遅れて栗の花の生徒・つまりお世話係りを一人も確保出来なかったのである。

 三年生に室谷加奈子(むろやかなこ)という栗の花の部員はいるものの、彼女が卒業すれば お世話係りがいなくなることから、ますます部員が集まらない処であった。

 「残念ながら、御堂さんも他のクラブとの掛け持ちではありますが、優先的にバドミントン部に参加して下さるそうです!」

 (言ってないし!)

 「そういうわけですから室谷さん、御堂さんをよろしく御指導願いますわね」
 静江はコートのモップ掛けをしていた室谷に琴里を押しつけた。

 「はい、承知いたしました。お嬢様」
 室谷はモップを置いて静江に頭を下げると、琴里に対してもニッコリ微笑んだ。

 「御堂さん、よろしくお願いします」
 やさしそうな笑顔だった。

 「はい、こっちこそ……掛け持ちですけど……よろしくお願いします」
 琴里も笑顔を返した。が……。

 「掛け持ちって……おめ、バドミントン部なめてんでねっか?」
 室谷加奈子が琴里の耳元でぽそっと言った。
 琴里はゾクリとした。

 (う~ん、前途多難やー)

 今年のバドミントン部の新入部員は三名。その他、特別会員二名。

 諒凰の新入部員が、バドミントンのルールを教わっている間に、琴里は室谷からモップ掛けの注意事項を教わった。

 諒凰の新入部員が、バドミントンの基本動作を教わっている間に、琴里は室谷からユニフォームの洗濯に関する注意を教わった。

 諒凰の新入部員が……。

 さすがに琴里はバカらしくなってしまった。

 「楽しくないです!」
 思わず琴里はそう口走ってしまった。

 すると、その言葉にバドミントン部全体の動きが止まったのだった。

 「エーッと……」
 部長の河野もとまどったようだが、最も慌てたのは指導役の室谷加奈子だった。

 「ヒェッ! も、申し訳ありません!」
 彼女は自分がとんでもないミスを仕出かしたかのように、ペコペコ頭を下げた。

 「おめ、先生に習わなかったんけ? 私らはここの社員で諒凰の生徒はお客さんって」
 室谷が汗をかきながら、強引に琴里にも頭を下げさせた。

 (なんや、やっぱり毎年言うとるんや……)

 しかしどうやら、部長の河野も内心では少し罪悪感を感じていたようだった。

 「た、確かにお掃除ばかりではつまらないわね……そうね、これからはコートの整備がすんだら室谷さんと御堂さんにも練習に参加してもらいましょう」
 という提案をした。

 おそらく、この押しの弱さゆえ、昨年栗の花の生徒を勧誘できなかったのだろう。

 ともあれ、琴里はバドミントン部における待遇を、少しだけ良くすることに成功した。


                     ( つづく )
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