自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
その頃、正式なフェンシング部員となった真奈美は、同じ講堂の一角で諒凰一年生部員らの練習の的になっていた。

 フェンシングでは、何度もアタック・サンプルといって相手に打ち込む練習をする。

 もちろん練習用の剣先にはピストと呼ばれるものがついていて、突いても危なくないようになっていたし、受ける側もプロテクトを身につけている。さらに真奈美の場合は、座布団をおなかにグルグルと巻きつけるといった完全防備だった。

 とはいえ、座布団から外れるとやはり痛いのだ。

 「ヒィッ!」とか「アゥッ!」とかいう声に、バドミントンの用具を整理していた琴里が、声のする方を振り返るとそれは真奈美だった。

 (先輩はフェンシングの防具一式もらったって喜んでたけど、やっぱしこういう事か……)

  バドミントン用具を片づけながら、琴里がため息をついた。

 結局、琴里がバドミントン部の仕事から解放されて、投資クラブの部室に向かったのは諒凰の下校時間の三十分前だった。



 投資クラブ部会議室では先日配布されたデーターブックを参考にしての新入部員対抗戦の説明が行われていた。

 「遅くなりましたー!」

 琴里が恐縮しながら会議室に入って行くと……。

 「あらホントに遅かったわね。もう他のクラブのお掃除は終わったのかしら」
 レモンティーのカップを手に、嘉穂と、そのとりまきの三人組が笑った。

 (たく……この連中は……)

 投資クラブの部員達は、琴里の事情をよく知っているようだった。

 「では御堂さんも来られたようなので、もう一度簡単に投資クラブ春の恒例行事タンポポ杯争奪戦についての説明をしておきます。あっ御堂さんはいいから座っていなさい」

 先輩の珠樹が、お茶を入れているのを見て、そのヘルプに向かった琴里を制して部長の未幸が言った。

 そればかりか、琴里がペコリとお辞儀をして席に着くと、珠樹がその前に温かいレモンティーの入ったカップを置いてくれたのだった。

  (☆☆☆☆☆!) 

 「さて、御堂さんもご存じでしょうが……争奪戦といっても投資クラブで試合を行うというわけではありません。クレバー・フォックス証券提供のシミュレーションソフトを使って行うゲームで、参加者全員に架空の資金が与えられ、一定期間にどれだけ増やせたかを競うものです……今回は最初ということで新入生の皆さんには百万円……」

 「百万円!」

  「バカね! 本当にもらえるわけではないでしょ!」
 金額の単位に驚いた琴里に嘉穂がチャチャを入れた。

 未幸が咳ばらいをして話を続ける。

 「それと、期間は短いようですが、五営業日・つまり一週間で競ってもらいます。その資金内で買える株式であれば何を購入してもかまいませんが、選べる銘柄は一つとします。ですから今回はポートフォリオは組めません。単位にはこだわりませんので、通常は千株単位のものを十株購入することも可能とします。また、一度宣言した銘柄と株数は、二度と変えられません。このあたりは実戦的に行います。何か質問は有りませんか?」

  「パソコンの扱えない子がいます!」
 嘉穂が琴里を指さしてひやかした。確かにそれは事実だった。

  「大丈夫です。インターネットでの直接取引に関しては少しずつ覚えていってもらいますが、今回はみなさんが選んだ銘柄を私達が入力することにします。というわけで明日までにそれぞれ選定をして来てもらいます」

 高輪未幸の言葉で、この日の会合を終えた。


                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |

「選定と言われても……こんなにある会社の中からどれを選んだらええものやら……」

 寮の自室に戻りデータブックを広げて悩んでいると、いつのまにか後ろにカラスのヒナを大事そうに抱えた真奈美が立っていた。

 「ヘー……闘士じゃなくって投資クラブだったんだねー 琴里ちゃん、お金持ちになれるねー」
 と、彼女は感心したように言った。

 琴里がタンポポ杯のルールを説明すると興味を持ったようで、「それならこのカー君に選ばせたらいいよ」などと言い出した。

 株式投資はデーターにもとづいて行うもので、宝くじではない。

 とはいってもいくつか自分自身でピックアップした中からカラスに選んでもらうのもいいかもしれない。
 琴里はそう思ってカー君に聞いてみることにした。

 まだ幼いカラスのヒナは真奈美の手を離れると不安そうにピーピー鳴いて、カタカタという足音をたてて紙の上を歩き回り、七つある候補の一つ、ユタカ自動車の上でウンチをした。

 「カー君はユタカ自動車を選びました」
 真奈美がインチキ占い師のような口調で言った。

 とはいえ、ユタカ自動車は琴里にも良い選択のように思われたので、カー君の意見に従って これに決めることにした。

 「で、ユタカ自動車だったらいくつ買えるの?」
 「えーっと……データブックによると、記載時点で64万円って書いてあります」

 「ということは、百万円だと1株しか買えないってことだね」
 「ですね……」

 後で分かったことだが、これは最低購入額といって、それぞれの企業が定める売買単位にもとづいて、その時点の株価で算出したものだった。ユタカ自動車の場合、このデーターブックが出された時点の株価が6400円であり、百株単位で売買される株であった為64万円と書かれていたのだった。

 そんなことなど知らない琴里は翌日、クラブで嘉穂達を大喜びさせることなった。


                     ( つづく )
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2009年12月10日 (木) | 編集 |

「今回は皆さん方の選んだ銘柄を私達が代行して、パソコンに入力することにいたします。証券会社ではこれを対面取引といって、担当の証券マン達が行ってくれます。年配の方や初めて間もない人にとっては有難い制度ですが、インターネット取引と比べると手数料はかなり割高になります。それでは順番に皆さん自身が選んだ銘柄と株数を述べていって下さい」

 副部長の井原真澄がタンポポ杯の参加者十四人に向かって言った。

 「では、山辺律子(やまべりつこ)さん」
 「ハイ、みずもホールディングを二つ、お願いします」

 「二千株ってことね……では、吉田翔子さん」
 「私はフラット電子を百株お願いします」

 「春日麗香さん」
 「東海鉄道を一単位お願いします」

 「わかりました。でもここでは何株って言ってください。次は宮倉嘉穂さん……」
 「私はブルファコムを三千株お願いしますわ」

 上級生の間からホーッという声があがった。ブルファコムはマザーズという新興市場に属する企業で、PERは百三十倍という高さながら、知る人ぞ知る高成長企業だったのだ。

 「さすがに宮倉さんね……よく調べてるわ」
 上級生の間から称賛の声が上がった。

 「それじゃあ最後になったけど御堂琴里さん」
 唯一の、栗の花学園部員に一年生だけでなく上級生の視線も一斉に集まった。

 「ええーっと……あたしはユタカ自動車を1株お願いします!」
 「エッ! 1株? 1株でいいの?」

 (なんでやろ? 気のせいかみんなの目が点になったような……)

 「あの御堂さん……ユタカ自動車は……」
 安西珠樹がなにか言おうとするのを、部長の未幸が止めた。


 株取引においては全てが自己責任となる。
 ことに単位の間違いなどは、その投資家を破滅に追い込む事すらあるのだ。

 もし、琴里が本当に間違ったのであれば実害のない今のうちに、経験をした方が良い。
 未幸はそう考えたのだった。

 しかし、未幸の思惑とは別に嘉穂達は大喜びだった。

 「では、御堂さんはユタカ自動車を一株と……」
 真澄がパソコンに入力し終わるのを待って、たまらず大笑いを始めた。

 「さすがは堅実な御堂さん。百万円の予算で、たったの6700円(この日の時価)しか使わないなんて」
 麗香が言うと……。

 「でも、きっと単位を間違えたのね。ユタカ自動車は百株単位。確かに、データーブックには最低購入額が64万円と書かれているけど、それは百株購入時のお値段ですのに……」
 と、嘉穂も笑った。
 
 (そうみたいやけど……笑わんでもええやんか! 未幸先輩も教えてくれへんし……)

 しおれた琴里に追い打ちをかけるように翔子もからかった。

 「でも証券会社が独自で行っているミニ株(通常の単位の十分の一から購入できる制度)でさえユタカは十株からなのに、今回のゲームの盲点を突いて一株だけなんてものすごい作戦だわ!」

 しかしこの時、未幸が「そうね、御堂さんは間違えただけかもしれないけど、確かに面白い作戦かも知れないわ……」と、つぶやいたのを聞いたのは傍にいた珠樹だけだった。


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2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
 諒凰生徒会、会議室から少し離れた場所に書記長室《兼、風記委員本部》があった。

 「では、お嬢様の提案された投資クラブの予算削減案は賛同を得られなかったということですか?」
 今にも部屋の調度品を壊しそうな小坂直子をなだめながら、挽きたてのコーヒーを彼女のもとに運んで来たのは直子の専属メイド、佐倉恵理子(さくらえりこ)だった。

 「そうよ! あの会長、父親が証券会社で、高輪ホールディングが得意先なものだから、その娘に対しては何も言えないのよ!」
 「ですが、生徒会は全ての生徒に対して平等でなくてはならないのでは……そのようなことが許されるのでしょうか……」

 「大人の世界では、よくある話……でもここ諒凰にまでそんな関係を持ち込むなんて! なにか他の手を考えなければならないようね。例えばスキャンダルとか……」
 「実は栗の花の一年生が一人、投資クラブに入部しています」

 「詳しいのね……」
 「恐れ入ります……栗の花学園は一学年一クラスですから、風記委員は全員を把握しております」

 佐倉恵理子は小坂直子の専属メイドであるだけでなく、学内では、栗の花の生徒の私生活を監視する、風記委員長も兼ねている。

 「でも、栗の花の子が諒凰の政治経済系クラブに入るなんて前代未聞の話だけど、校則違反という程ではないわね」
 小坂直子が興味なさげに言った。

 「ですが、彼女は投資クラブに入部するにあたり、上級生のリボンを借り、他のクラブの勧誘を退けたという噂があります」
 「それは確かに問題ある行為ね。それがもし投資クラブが主導したものだとしたら、フェアではないわ!」
 「ハイ、運動部でもない投資クラブがなぜそれ程までして栗の花の生徒、つまりお世話係を欲しがったのかはわかりませんが……」

 「いずれにせよ、その子から少し事情を聴きたいものね。それからそのリボンを貸したという先輩も投資クラブから買収されていた恐れがあるわね……その二人のお名前は?」
 少し機嫌の戻った直子がコーヒーを口に運びながら恵理子に尋ねた。

 「御堂琴里という生徒です。先輩というのは同じ部屋の倉橋真奈美で、二年生です。彼女達は、結果的にペナルティーを受けて、三つの体育会系クラブのお世話係りをさせられることになりましたが、御堂の方は先日バドミントン部において、反乱を起こしたという話です!」

 「反乱? 穏やかじゃないわね……どのような?」
 「お世話係りだけではバカバカしいから、自分も練習させろと言ったとか……これは同じクラブの室谷という者から報告を受けたもので、確認したわけではありませんが……」

 「そういう態度が他の生徒に飛び火する前に、ここに呼び出して詰問する必要がありそうね……」
 「それにしても入学したばかりの子が次々問題を起こすものでしょうか……」

 「そうね……同室の先輩が操っている可能性があるわね。リボンの交換にしても彼女の協力なくして出来ないものね……まずは彼女の連行を許可します!」



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2009年12月10日 (木) | 編集 |

「倉橋さん、逃げてばかりじゃ練習にならないでしょ! もう少し相手の攻撃を正面で受けて! 不用意な攻撃にはパラードでかわしなさい」

 相変わらず、諒凰一年部員の練習の的になっているのは真奈美だった。

 昨日から、彼女は防具に巻いていた座布団を取り上げられている。フェンシングもまた、他の格闘技と同じように反復して型を身につけることが重要で、それが練習メニューとなっていたのである。

 一言でいうと真奈美は、カンフーでいう木人(ぼくじん)の様な役割をさせられているのだが、座布団を巻いていると、あまりにも無抵抗になって、練習にならないのだった。

 「その為にプロテクターだって支給してるんじゃないの……」
 部長の深田泉美(ふかだいずみ)が思わずグチった。

 だいたいフェンシング部が、他のクラブより高待遇でスーツやプロテクターまでも支給したのは一年生の練習相手にする為だった。

 「ハイ、アターック! 倉橋さんはパラード。羽月さんが再びアタック! これを五十回繰り返したら、次の人と変わってあげて」

 「ひぇーん……痛いですー」
 諒凰の一年生、羽月(はづき)が面白がって逃げ回る真奈美をチクチク突いているのだ。

 「だから、倉橋さんにはもう少し相手の剣をかわす努力をするように言ってるでしょ!」
 深田泉美が、少しいらだったように言った。

 フェンシング部は、ここ数年低迷が続いている。
 先日の関東選手権でも成績はふるわなかった。
 そんなわけで、今朝も生徒会の方から部費の削減を言い渡されたところだった。

 現在の部員はわずかに七人。その内、泉美を含む二人が三年生、残る五人の中の一人は真奈美だから、これは戦力にならない。

 団体戦は三人で行われるのが普通だから一応、出場は出来るものの、補欠を入れるとギリギリの数になる。

 伝統あるクラブを存続させる為にも、泉美ら三年生がいる内に強化を果たし、良い成績を上げて下級生に引き継ぎをしなければならない。

 それなのに、バドミントン部やチアリーディング部と競り合って、ようやく手に入れたお世話係の真奈美がまったく練習相手にならないのだ。

 泉美はフーッと大きなため息をついた。
 「やっぱり、他と掛け持ちでも、あの一年生の子に来てもらった方が良かったかしら」

 その時、風記委員の腕章を付けた佐倉恵理子が栗の花の生徒数人を引き連れて練習場に入って来た。

 「練習中恐れ入ります。お嬢様……」
 
 「なんなの? あなたたちは!」
 練習の邪魔をされた泉美が、強い口調で抗議した。

 「申し訳ありませんが、生徒会の命令で倉橋真奈美さんを少しお借りいたします」

 生徒会の名を出されれば泉美には抵抗が出来なかった。




                     ( つづく )
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