自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
 渋谷区・松濤にある宮倉家別邸は、三百坪という小ぢんまりとした造りながら、当主のひとり娘、嘉穂の趣味に合わせてベルサイユ風にデザインされていた。

 「それで私が依頼した件については調査が終わりましたの?」
 クラブがなかった為に、早々と帰宅していた嘉穂が風呂上がりの髪をメイドに梳かせながら、宮倉家調査班の安藤に尋ねた。

 「ハッこれに……」安藤が依頼された報告書をうやうやしく差し出した。
 ホストクラブにでも出ればナンバー1にでもなれそうなイケメンである。

 「まず、最初のお嬢様に対するフィアンセ選考会議では諒鳳学院(諒凰学園の男子部)二年に通われる村岡修三(むらおかしゅうぞう)様が有力となりつつあります。この方は、武蔵コーポレート銀行会長の御子息です」

 「あらそう……」嘉穂が他人事のように言った。

 「次に、御学友の……」
 「ではありません! が、続けてください」

 「ハッ、御堂琴里という方ですが……大阪市浪速区に両親と愛犬のスピッツと共に……」
 「そう、両親とも健在なのね……恵美子さん、ミックスジュースをお願い」

 「ハイ、ただし父親は現在失業中ということで、母親がスーパーのパートタイムで家計を支えています。」
 「つまり典型的なボンビーさんなのね……」

 嘉穂が興味なさげに呟いた。

 「現在ではそういうことです。しかし、父親は数年前まで御堂金属工業という会社で……」
 「あら、会社経営を?」
 「いえ、経営者は別の方で、父親はこの会社で技術主任を務めていたようです」

 「なんなの……まあ大阪では御堂という名字は鈴木さん、田中さんについで多いのでしたわね……」

 「…………」

 「それで、リストラされたのね……」

 「ハイ、御堂金属工業はすぐれた技術を持っていましたが、取引先の倒産に巻き込まれてしまいました。資金繰りに困った同社は、小坂電設という会社の傘下に入ったのですが、その際に半数の社員がリストラされました。御堂琴里の父、遼太郎は元々、リストラの対象ではなかったようですが、部下達が無造作にリストラされていくことに憤慨した彼は新しい経営陣にたてつき、結局は自身もリストラされたというわけです」
 安藤はいっきにメモを読み上げた。

 「親子二代にわたって自分の立場をわきまえていないのね。でも小坂電設ってこの頃よく聞くような……」
 「このところテレビで、高輪ホールディングが狙っている会社として話題になっていますからね……」

 「高輪ホールディングといえば先輩のお父様の会社ね……」
 「ちなみに小坂電設会長の御子息も諒凰女子に通っておられます」

 「――ってことは生徒会書記で風記委員長の小坂直子さん!」
 「ハイ、この二人の父親は今や自社存亡の命運をかけ、互いに争っておられます。おそらく、負けた方の御令嬢は諒凰を去ることになるものと思われます……」

 「なるほど……それで生徒会書記局は投資クラブを目の敵にしてるのね。それで、どちらが優勢なの?」
 「問題が起こらなければ、間もなく小坂電設は高輪ホールディングに敵対的買収をされるものと思われます」

 「つまり、高輪先輩の側が勝つということね……」

 「ハイ、あくまでホワイトナイト等、想定外の出来ごとが起こらなければ……ですが」

 「なるほど……それで、おまえが先程言ってた村岡修三ってどんな人?」



                     ( つづく )
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村


スポンサーサイト
2009年12月10日 (木) | 編集 |

「会長、市川商事に続いて眉中物産の社長からも小坂電設を売却したいという意向があったそうです」

 バリアブルズ最上階にある高輪ホールディング、その会長室に飛び込んで来たのは美人秘書の迫田美智子だった。

 このところ、高輪ホールディングと小坂電設の交渉は暗礁に乗り上げていた。

 ネオIT業界の雄である高輪ホールディングは新製品をパソコン上で開発をしては、それを提携する様々な企業に製造させ、流通させている。

 その部品の単価をめぐって小坂電設と交渉していたのだが、折り合わなかった為に、傘下に置くべく株式の保有比率を上げることにしたのだった。

 ところが、このことが小坂電設経営陣の怒りを買う結果となった。

 突然、小坂電設が交渉を打ち切って来たのだ。

 新製品は小坂電設の冷却装置なしでは完成しない。

 高輪ホールディングとしてはやむなく敵対的買収という伝家の宝刀を抜いたというわけだった。

  「で、どこからその話が?」

 読んでいた漫画雑誌を置き、会長の高輪総輔が眠そうな声で聞きただした。

  「主幹の常見証券からです。眉中物産はこのところ、想定していた円高を超えた為、下方修正を繰り返していたのですが、再度の下方修正では次の株主総会が持たないと判断したのでしょう。保有する株式のうち市場を通さなくても売却できそうな小坂電設の株式を手放して配当金に充てることに決めたようです」

 美智子は指輪型のモジュールで、軽く総輔のパソコンに触れた。
 データーが送信され、常見証券から相手方の条件等がモニターに提示される。

 この指輪型のモジュールは高輪ホールディングが開発した製品で、無線RUNで送れば危険な情報を手早く目標のパソコンに移すものだ。
 世界各国の諜報部も得意先となっている。

 「眉中さん、確か十二パーセント持ってたよね……確かにそれだけの株を市場で売却するのは大変だよね」
 総輔がモニターを見ながら呟いた。

 「どうします? 売値は288円ですが……」
 「283円なら全部引き取るっていっといて。それより高いと、いらないからって」

 「わかりました。そう伝えます」


                     ( つづく )
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村
2009年12月10日 (木) | 編集 |
 
 栗の花学園寮307号室では、またしても真奈美がシュウシュウと湯気を立てながら倒れていた。

 この日、生徒会書記室に連行された真奈美は風記委員の佐倉恵理子らからネチネチと、尋問を受けたのだった。

 もちろん尋問は暴力を伴ったりはしない。
 野蛮な行為は栗の花、諒凰女子、共に厳禁なのであった。

 しかし猫のペロペロ攻撃や、鳥の羽を使ったくすぐり行為は、正しい尋問の手段として認められていた。
 真奈美はこれらの攻撃を二時間にわたって受けたのだった。

 「琴里ちゃんが投資クラブに入る時に、ボクが何か陰謀をめぐらしたっけ?」
 ダウンしたままの真奈美が、団扇と水を持ってきた琴里にグチを言った。

 「ボク、バドミントン部で待遇改善の実力行使をやれって琴里ちゃんをそそのかしたっけ? 何だかわかんないことで二時間位、風委員の人達からくすぐりの拷問を受けたんだけど……」

 真奈美は逃げようとする琴里の手首を掴み、そのままよじ登るようにして、もたれかかって来た。

 「ひぇーっ! で、でもあれですよね……自分でくすぐっても全然平気やのに……人にくすぐられたら、なんでダメージが大きいんでしょうね……」

 琴里がすっトボけた。

 「明日は琴里ちゃんに尋問するって言ってたから気をつけないとね……」
 プロレス技をかけてくるかと身構えた琴里だったが、真奈美にはそんな気力は残っていないようだった。

 「カー君に、ご飯あげなきゃ……」

 真奈美はフラフラと自室に入って行った。



 予想に反して、翌朝チアリーディング部・部室の清掃をしていた琴里のもとに生徒会からの呼び出しはなかった。

 琴里はホッとした反面、この先いつ現れるかわからない風記委員の佐倉恵理子のことを考えると少し憂欝になった。

 生徒会の尋問逃れの作戦を練りながら、いつになくおとなしく働く琴里の態度に喜んだのはチアリーディング部の山名蓉子部長だった。

「あの子もようやくチアリーディング部に骨を埋める決心をされたようですわね……」
「ですわね……」と副部長である双子の妹も満足げな表情で追随した。

 もっとも当然、琴里にそんな気はなかった。

(真奈美先輩のことやから尋問から逃げ出したいあまり、何をゆうたかわからんし……)

と、ため息をついた時、始業五分前を告げるチャイムが鳴った。



                     ( つづく )
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村
2009年12月10日 (木) | 編集 |

 こんな琴里のブルーな気持ちを吹き飛ばすようなハイテンションで教室に現れたのは、担任の真田由紀だった。

 「ハーイ皆さん。席についてー 今日は楽しいお話があります!」
 ニコニコ笑いながら、由紀が教室内の掲示板に《諒鳳五月祭》のポスターを張り出した。

  「皆さんは、諒凰女子とは兄妹校にあたる,諒鳳学院高校があることはご存じですね。通常,諒鳳男子と呼んでいますが、ここは日本でも有数のエリート男子高校……イケメン達の学び舎です! なんとその高校の五月祭に栗の花学園がお手伝いをすることになりました」

  「キャー♡」

 一斉に教室中から歓声が上がった。が、それを事情通の矢野恵子が水を差した。

 「栗の花学園は毎年やってま~す!」

 「まあ、それはそうなんですけど……」

 由紀先生はあまりウソがうまくない。どうやら、これもまたウラがありそうだった。

 「つまり諒鳳男子には、諒凰女子における栗の花学園のようなお手伝い高校がありません。そこで学祭の間だけお手伝いをするというわけです。でも相手が男子校だけに毎年カップルが何組も誕生するとか……」

 「と、いう事はありません。今まで一度も……」またしても矢野が沈んだ声で水を差した。

 「エッ、なんで?」一人の生徒が不思議そうに尋ねた。
 無論、琴里を始めクラスの他の生徒達も同じ思いだった。

 「諒鳳男子といえば日本を代表する資本家や名家の跡取りが通う学校……」
 矢野が静かにそのわけを話し始めた。

 「それだけに、学園が開放される五月祭には、玉の輿を狙う女子中高生達が殺到するわ。だけど諒鳳男子の生徒達が相手にするのは、同じ名家の子女が通う諒凰女子のみ! 彼らは他の女子には見向きもしないように、日頃から訓練を受けているのよ」

 ここで彼女は大きく息を継いだ。

 「特に栗の花の子なんて、異性とすら思っていないわ! つまり私達は諒鳳男子と諒凰女子の出会いを演出する、そのお手伝いの為に派遣されるのよ!」

 矢野はクラス全体の反応を見回すような感じでピシリと言い放った。

 クラスのテンションが一気に下がった。
 「先生、これもやっぱり義務なんでしょうか……」
 羽田弥生が暗い声で聞いた。

 「いえ、その義務ではありません……」
 由紀先生はバツが悪そうだった。

 「ですが……その、一年生のクラスからも十人位は出てくれないと私が困るんだもん……」
 と、ほとんど泣きそうだった。

 中山未来がため息をつきながら「皆さん、くじ引きをしましょう」と、提案した。
 その結果、不幸にも矢野恵子、中山未来らが当たりくじを引いてしまった。

 (それにしても、この人らはどこまでついてないんやろうか。まあ、とにかく助かったわ……ラッキー!)

 琴里はクジに外れたことを喜んだが、その幸運は長くは続かなかった。

 昼休み、忘れていた恐怖が助手を二人引き連れて、琴里のもとに襲来したのだった。



                     ( つづく )
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村

2009年12月10日 (木) | 編集 |

「風記委員長の佐倉恵理子です! このクラスに御堂琴里さんがいますね……お聞きしたいことがあるので、生徒会まで出頭願います!」

 有無を言わせぬ雰囲気があった。

 いまから食事……では、おそらく通らないだろう。そこで琴里は一計を案じた。

 「実は先生から東校舎のおトイレをすべて、昼休み中に掃除して欲しいて言われてますんで……」
 口から出まかせの安易な話だったが風記委員達は信じてしまった。

 「どうしましょうか? おそらくこの問題児のことですから、そういったペナルティーが課せられていたとしても、おかしくないように思われます……」
 風記委員の一人が佐倉恵子と顔を見合せてそう言った。

 「仕方ないわね。では連帯責任として同室の……何と言ったかしら昨日のあの子、そう倉橋さんにトイレ掃除の方をやらせなさい。あなた二年のクラスへ行ってちょうだい」

 「あっ! えーっと……」
 思わぬ展開だった。真奈美先輩にはまたグチを言われそうだが、ここは成行きにまかせるしかなさそうだった。

 とはいえ、腕章を巻いた風記委員に挟まれて生徒会室まで連行されて行くのは、琴里といえどもバツが悪かった。

 (クラスの子らもクスクス笑うてるし……しかも生徒会室って、諒凰の東校舎やんか! ウ~ン、絶対に見られたくない人もいてるのに……)

 うまくいかないもので、その見られたくない人達とバッタリと出くわしてしまった。

 「あれは御堂さんではありませんか?」
 カフェテリアに向かおうとする宮倉嘉穂の肩を叩いてそう言ったのは、とりまきの春日麗香だった。

 「あら本当、あの娘だわ。風記委員と一緒ってことは、また問題を起こしたのかしら……」
 嘉穂が怪訝そうに呟いた。

 「いい気味ですね……おそらく生徒会書記で、風記委員を牛耳る小坂さんの逆鱗にふれるようなことをしたのでしょう。油を絞られるとよいのですわ。ホホホ……」
 おかしそうに、笑ったのは吉田翔子だ。

 「でも、なんだか変ですわ……栗の花の風記委員だけが動いているのだとすれば、東校舎に連れてこなくても良いはず……生徒会書記の小坂さんが命令しているのだとすれば、何かウラがあるのかもしれないわ……」
 嘉穂は昨日、安藤から聞いた小坂家と高輪ホールディングの確執を思い出した。

 「麗香、すぐに高輪先輩を呼んで来てちょうだい!」
 春日麗香は、嘉穂がなぜ御堂琴里の事など心配するのかと思ったが、ともかくカフェテリアの方へ駈け出した。

 「まあ……どういうことでしょう?」
 訳が分からず首をかしげた翔子だったが、その腕を嘉穂にひっぱられ、風記委員達の跡をつけ始めた。


                     ( つづく )
にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村