自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 もともと、諒凰女子には風記委員という制度はない。

 日本を代表する企業のオーナー一族や名家の子女で、なおかつ成績もトップクラスといった娘達が通う学校に、そのような制度は無用というのがその理由だった。

 しかし、同じように成績がトップクラスでも栗の花学園にはそれがあった。

 「ここへ連れて来られた理由はわかりますね? 御堂さん」

 《生徒会書記》というプレートが置かれたマホガニーのデスクを前にして、深々と椅子に腰かけた小坂直子が、風記委員に挟まれて立つ琴里に言った。

 「ええーっと……なんでしょう……」

 おそらく命じられた仕事を従純にこなすという、栗の花の呆れた伝統に逆らった事が原因と思われたが、ここはボケの一手だった。

 「そう……あくまで自分は悪くないと言うわけね。つまりあなたはこれまでの伝統を無視した行動を誰かにやらされているってことかしら?」

 琴里がブンブンと首を振ったが、直子は話を続けた。

 「それは誰? 同質の先輩、倉橋真奈美さん? (ブンブン)そう、違うわね……彼女はそんな大それた事が出来る人じゃない……では誰? もしかしたら投資クラブ部長の高輪未幸さんではなくて?」

 「違います!」
 琴里が目をそらした。

 「ずいぶんキッパリ否定するのね……怪しいわ……」
 「おそらく、お嬢様の推理通りなのだと思われます……」
 横から佐倉が口添えをした。

 「彼女は何故あなたを投資クラブに誘ったのかしら? 本来、栗の花の生徒が入る場所ではないクラブに! お掃除係りが欲しかった為? それとも事務処理係が必要だったから? 違うわね……」
 直子が琴里のアゴをグイッとつかんで正面を向き直らせた。

 「あたしが勝手に潜り込んだだけで部長はなんにも知りません!」
 琴里はたまらず大声で叫んだ。

 本当は(何をトンチンカンなこと言うてんねん! このスカタン!)と言いたいところだった。

 「当ててみましょうか……高輪さんは、この学校の伝統の守護者であるこの私、小坂直子を失脚させたかった! そうでしょう?」

 (それはあんたの自意識過剰や! 高輪部長はあんたの事なんか何にも知らんわい!)とも言いたかったが言えなかった。

「あなたも知っての通り、私のお父様の会社とあの人の父親の会社は今、株式をめぐる攻防戦を繰り広げています」

 「エッ?」

 「おそらく彼女は、自分の父親の敵である小坂の娘が憎らしいと感じたのでしょう……」

 (それはあんたの方や!)という、ツッコミのタイミングだったが逃してしまった。

 「でも……何故あなたでなければならなかったのか……それがようやくわかりました! それは、つまりあなたが……」
 あまりの緊迫感に、琴里はゴクリと唾を飲んだ。

 「それは、つまりあなたが関西人だからよ!」

 安易すぎる結論に琴里はガクッとなった。



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2009年12月09日 (水) | 編集 |

「彼女は失敗した時のことも考えてあなたを選んだのよ! あなたは関西人だから、この学校の伝統について、というよりこの学校事態がよくわかっていない。さらに言えば関西人だからこそ許される目上の者に対する失礼なツッコミ! それらを計算した上であなたを選んだ! そうよ……それに間違いないわ!」

 「お見事な御推測です! お嬢様……」
 小坂直子と佐倉恵理子が手を取り合って勝手に感動していた。

 琴里は目が点になった。

 「さあ、そこまでわかった以上、あなたもすべてを自供しなさい! あなたはまだ一年生なのだし未来もあるわ! そう、風記委員にもしてあげる! どう?」

 どう? と、言われても初めから存在しない陰謀なので琴里には答えようがなかった。

 「せやから……あたしが勝手に潜り込んだだけで、部長はなんにも知りません!」
 と、繰り返すしかなかった。

 「どうやら……私達はあなたを見くびっていたようね……」
 それまで、にこやかに尋問していた小坂直子の顔から笑顔が消えた。

 「さすがに高輪部長のエージェントだわ! 佐倉、反省室の扉を開けなさい!」
 「ヒェエエー」

 ギギィーッと、書記長室の後ろの壁が開き、薄暗い小部屋が現れた。

 「靴と靴下を脱がせて、この台の上に縛り付けるのよ!」
 なぜこんな所にこんな台があるのか、それは出産台だった。

 抗議も空しく、琴里はその台に縛り付けられてしまった。

 「ミャーちゃんを出しなさい! いや、ポン太君も出動させるわ!」
 「な、何や? そのミャーちゃんとかポン太君って言うんは……」

 「ホホホホホ……今にわかるわ!」
 薄暗い部屋の隅で二対の目が光った。

 それは猫《アメリカンショートヘアー》と、犬《ラブラドルリトリバー》だった。

 栗の花学園では、卒業後すぐに名家のメイドとして就職する者も多く、その為にお屋敷で飼われている犬や猫をグルーミングする技術を教える講座がある。ミャーちゃんやポン太君はその講座で使われる生きた教材なのだった。
 「この子達はね……縛られて動けなくなった人を、ペロペロと舐めまくるのが大好きなの」

 「なーんや……」
 琴里はホッとした。

 「たかだか、犬猫のペロペロ攻撃……そんなものたいしたことはない。と、思っているのでしょうけれど……本当にそうかしら? 佐倉、放課後まで放置!」
 小坂直子がクックッと笑いながら部屋を出た。

 「御堂さん、あなたはしばらくそこで反省してなさい!」
 佐倉恵理子ら、栗の花の風記委員達もその後に続いて、ドアを閉めた。

 ミャーちゃんとポン太君がゆっくりと琴里に近づいて来た。

「佐倉、コーヒーを入れてちょうだい」
 小坂直子がテーブルの前に置かれた長椅子に腰を下ろし、サンドイッチを広げると同時に、反省室の中から琴里の笑い声が聞こえてきた。

 「ハーッハハハ! ちょっと止めて! ミャーちゃん止めなさい! ポン太君も耳なめちゃダメ! ハーッハハハ! ミャーちゃん、どこ潜りこむの? チョメー!」

 「どうやら始まったようですね……悲鳴を聞きながら食事をとるのは最高ね」
 直子は昼食を取りながら、満足そうに微笑んだ。その時……。

 「お食事中、悪いんだけどウチの子を返してちょうだい」
 そう言って書記長室に入って来たのは、宮倉嘉穂らを従えた高輪未幸だった。

 彼女は、嘉穂から頼まれた春日麗香の報告によって駆け付けたのだった。



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2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 実のところ宮倉嘉穂が、嫌っていた御堂琴里を助ける為に動いたのは意外だった。

 しかし、「反目しあっているように見えても、本当は仲が良いのね……」そう考えると未幸は、少しうれしかった。

 もっとも実際、嘉穂が心配したのは、部長の高輪未幸と彼女が率いる投資クラブだった。
 嘉穂は安藤から受けた報告で、小坂が高輪未幸に悪意を持っていると推測していた。

 それゆえ小坂直子が琴里を狙ったのは、彼女が小坂電設によって父の職を奪われた過去を持つことから、その復讐が目的で野の花に潜り込み、高輪と組んだと邪推したのだろう。
 つまり小坂直子は、その陰謀を聞き出そうとしたのだ。

 おバカ娘の琴里が、そんな深いことなど考えている訳もないが、風記委員の拷問によって、彼女らに都合のよい自供をさせられるかもしれない。
 そうなれば生徒会は、投資クラブを廃部に追い込むだろう。
 嘉穂はそう考えたのだ。

 「アハハハハ、止めて! アハハ……★〆∮※▼♀◎*!!」
 小部屋の中から琴里の苦しい笑い声が聞きとれた。

 「あそこね! 御堂さん、すぐに助けてあげるわ!」
 そう言って救助に向かった未幸の前に佐倉恵理子が立ちふさがった。

 「お待ち下さい! 彼女は校則違反の疑いがあって栗の花学園・風記委員が調査をしているのです。クラブの先輩といえども、これを止めるのは越権行為です!」
 「そうよ! 栗の花の事情に、諒凰の一般生徒が口を出す権限はないわ!」
 と、小坂直子も続いた。

 「では、あなたは何なの?」
 「私は、栗の花の風記委員を管理する生徒会書記部門の長として、ここにいるのです!」

 「話にならないわね! そこをどきなさい。あなた達のやってることこそ校則違反よ!」
 未幸に強い口調でそう言われると佐倉恵理子も道を開けるしかなかった。

 バタンとドアが開いた音で、ミャーちゃんとポン太君は逃げ出した。

 「ファ……先輩―……」

 「御堂さん……大丈夫? 宮倉さん、春日さん、彼女を助けてあげて」

 「まったく、あなたって人はどこまで世話をやかすのかしら!」
 ブツブツ言いながら嘉穂が救出に向かった。

 「まあこの子、目がグルグルだわ」琴里の目を覗きこんで吉田翔子が言った。

 「高輪さん、あなたは諒凰生徒会と栗の花学園・風記委員の仕事を邪魔しただけでなく、この学園の教育方針と伝統を踏みにじったのよ! これは学園査問委員会に諮るべき重大事項だわ!」

 小坂直子が顔を真っ赤にしてそう叫んだ。

 「栗の花の子は奴隷じゃないわ! あなた達のやったことは校則違反の前に憲法違反のようね! さあ、行きましょう」
 高輪未幸が、琴里を助けあげながらそう言った。

 「け、憲法違反ですって? あなたの父親のやってることこそ、証券取引法違反すれすれじゃないの!」

 琴里達が引き揚げた後の書記長室で、小坂直子がまだ怒り狂っていた。


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2009年12月09日 (水) | 編集 |

「ちょっと、いいかげんしっかりして欲しいわね!」
 ふにゃふにゃの琴里に肩をかしている嘉穂がいらだたしそうに言った。

 「ウーン……真奈美先輩? (!)……じゃなくて嘉穂ちゃん?!」
 「やっと正気に戻ったようね。じゃ、重いから」
 嘉穂が肩を貸していた琴里の手を払いのけた。

 「エッ?」

 「エッってなによ……」
 「もしかして嘉穂ちゃんが助けてくれたん?」

 「なれなれしくフーァストネームで呼ばないでちょうだい。そうよ!」

   ジ~ン☆☆☆☆☆……

 「本当に彼女を助けるのが目的だったんですの?」
 吉田翔子が以外そうな表情で嘉穂の耳に囁いた。

 「そう思っているようだし、結果的に助けたことは事実だから恩を売っときましょう。それにちょっと、この子に頼みたいことがあるのよ……」
 嘉穂が翔子そう耳打ちした。

 「そうよ! 私達と高輪先輩であなたを悪魔の反省室から救い出してあげたのよ! だからあなたは今後は……」

 「嘉穂ちゃん、ええとこあるなあ。あたし、見直したわ!」

 「ちょっと、なれなれしく抱きつかないでちょうだい! それより、高輪先輩が待ってるからカフェテリアへ行くわよ」
 「エッ、助けてくれた上、おごってくれるの?」

 「ふざけないで! こういう場合は普通、あんたがおごるんでしょうが!」

 嘉穂はフッとため息をついた。

 「でも、まあ無理ね。おごってあげるわよ……」
 「え~っ! 嘉穂ちゃん、やさしい!」

 「って、本当にどうしたんでしょう」
 春日麗香と吉田翔子が顔を見合わせた。

 カフェテリアに向かう途中、人だかりが出来ている場所があった。

 「ちょっと、昼休みにトイレを掃除するなんてどうかしてるわよ! 困るわね!」

 「わ~ん、ごめんなさい、ごめんなさい。でも、これ先生の命令なんだそうですー」
 諒凰の生徒達から轟々たる非難を受けながら掃除を続ける少女。それは真奈美だった。

 (う~先輩、ごめん)琴里は心の中であやまってその場を逃げた。

 「え~っと、助けてもろた上にチョコレートパフェなんておごってもろて、ええんやろか……」
 カフェテリアには高輪先輩がいなかった。
 その為、引き上げようとした琴里を嘉穂が呼び戻して、これをおごってくれたのだ。
 さすがに気味の悪くなった琴里が疑わしそうに嘉穂を見た。

 「そんなに気にしなくていいわよ……こんなもの。でも感謝してるんだったら、こちらの手助けも少し、やってもらおうかしら……」

 (なるほど……まあ、そんなこっちゃろ……)

 「せやけどあたし、放課後はラクロス部のお手伝いせんと、アカンねんけど……」
 「あなたの忙しいのは分ってるわよ。頼みたいのは今度の日曜、諒鳳男子の五月祭よ!」

 「諒鳳男子の五月祭?」

 (せっかく当たりクジを引かんですんだのに、やっぱし手伝うんかい……)

 「そう、つまり私につきあってもらいたいの……ただし、その日だけ制服を交換して欲しいのよ!」

 「ヘッ、なんで?」



(嘉穂ちゃんの言ってたあれは、いったいどういうことやろか?)

 栗の花の制服など、あの気位の高い嘉穂が「着てみたい」と言う訳がなかった。
 それでなくても助けてくれたり、いつになくサービスがよかったりと今日はどうも様子がおかしかった。

 (嘉穂ちゃんを信じてええんやろか……)
 琴里は、ちょっと不安になった。

 しかし、持ち前の明るさがすぐにその不安を打ち消した。

 (まあ、なんとかなるやろ……けど、何かもう一つ忘れていたことがあったような……)

 ラクロス部の部室の掃除を終えて、寮に引き返す途中で、琴里はふいに忘れていたもうひとつの気がかりを思い出した。

 (せや、真奈美先輩のこと……忘れてた!)

 風記委員の尋問を逃れる為についたウソによって、真奈美が代わりに昼休み、東校舎の全てのトイレを掃除させられていたのである。

 (真奈美先輩のことやから、グチられるかもしれん……)

 そう思いつつ、恐る恐る部屋のドアを開けた琴里だったが、意外にも真奈美は明るかった。

 「アッ、お帰り琴里ちゃん……風記委員の尋問大丈夫だった? 反省室に入れられたんじゃない?」
 と、少し心配したように声をかけてきた。

 琴里が、後で助け出されたことを話すと、本当に安心したようすだった。

 「ちょっと待ってってね、今カー君の羽を掃除しているところだから……これが終わったらパンケーキでも焼いたげるから……」
 見るとテーブルの上に、例のカラスのヒナがいて、ウンチでよごれた羽を、お湯で拭きとってもらっていた。

 (あぁ、この人はええ人やねんなあ……)琴里は心底そう思った。

 「ボク今日は、お昼食べてないんだけど琴里ちゃんもでしょう?」
 「いえ、あたしは、カフェテリアで頂きましたんで……」
 と、言ってからマズイと思った琴里は、チラリと真奈美を見たが、彼女は別段怒っているようには見えなかった。
 ただ……「へー、そうなんだ……」と、だけ言った。

 琴里は、自ら進んで真奈美の為にパンケーキを焼くことにした。


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2009年12月09日 (水) | 編集 |
 
 国立市にある諒鳳男子は、千歳烏山の諒凰女子と、経営母体も同じ兄妹校にあたる。
 しかもこの二校、数年後には共に聖跡桜ケ丘の新校舎に引っ越す予定になっていた。

 兄妹校といっても、諒鳳男子に野の花学園にあたるような学校はなく、五月祭のようなイベントがある時は、栗の花からお手伝い役が派遣されていた。

 「ですから諒鳳男子に潜り込み、特定の人に探りを入れるには、この栗の花の制服が必要だったのよ」
 宮倉家別邸の巨大な鏡の前で、嘉穂は琴里の制服を身につけながらそう言った。

 いつも高飛車な嘉穂だが、栗の花の制服を着ると別人のように、かわいく見えた。
 「うわー、嘉穂ちゃん似合うー。かぁわいー!」

 「そんなこと言われても、ちっともうれしくありませんわ! それよりあなた……」
 嘉穂は、諒凰女子の制服を着た琴里を上から下まで見回した。

 「えへへ、似合う?」
 「ちっとも似合いませんわね!」

 「あっ、そう……」琴里はガクっとなった。 

 「ま、ともかく車も来ましたから、まいりますわよ」
 車は琴里が初めて乗る、BMWの7シリーズだった。

 嘉穂は、送迎車の中で「諒凰の制服を着る以上、軽率でみっともない行動をとらないこと。
 それから、どんな時でも私の指示に従うように」と、くどくど言った。



 諒鳳男子(諒鳳学院)の五月祭は、異様な盛り上がりを見せていた。

 三メートル以上ある高い煉瓦塀。

 その外側、駐車上には、まるで見本市の様に内外の高級車が並び、入場門の前では、セレブ男子学生と、お近付きになろうとする女子高生達が、入場を拒む守衛と押し問答になっていた。

 入れるのは無論、諒鳳男子の父兄および、諒凰女子の生徒。招待券をもらった幸運な女子高生。それと、お手伝いに呼ばれた栗の花の生徒だけだったのだ。

 「分ってると思うけど、今回は私のフィアンセ候補を調査する為で……」

 「あっ、嘉穂ちゃん、こっち、こっち……」
 守衛は、諒凰女子の制服を着た琴里を見ると、うやうやしく最敬礼をして門を開けた。

 対照的に栗の花の制服を着た嘉穂には、顎で入って良しの合図。

 (気持ちええけど、なんか複雑や……)

 「確かに、あなたが諒凰女子の生徒、私がその専属メイドで栗の花の生徒という役割だけど、なんかムカムカしますわね。それと、あくまでお芝居なのだから、まちがっても私に命令したりしないように!」
 嘉穂が不機嫌そうに言った。

 「せやけど、なんぼ制服を交換した言うても、相手も写真持ってたら意味ないんとちゃうやろか……」
 「その点は大丈夫ですわ! 彼らは、諒凰女子の制服を着ている女性以外は、見向きもしないように訓練されているそうです」

 (なんやそら……そう言えば矢野さんがそんなこと言ってたけど事実やったんか……)

 「けれど例え服装が違っていても、この私から香り出る気品に気づいて、品のないあなたと入れ替わっているのだと気づけば合格ね!」
 「ハイ、ハイ」

 琴里は聞いていてアホらしくなってきた。

 (それにしても、この学校……なんか雰囲気が違うんやけど……なんでやろう?)

 校内に入って琴里が違和感に捉われたのは、こういった文化祭では恒例の出店がなかったからだった。
 その代わり、立食形式ながら幾つもの有名ホテルが、バイキング料理を無料で提供していた。

 小さな来訪者の為に、風船を配っているのは、栗の花の同級生・相沢ヒトミ、その脇でパンフレットを配っているのは、同じく中山未来だった。

 「あっ、中山さんがパンフレット配ってる。一部、貰ろて行こ」
 「アッ、ちょっと待ちなさい! あなたがクラスメートに顔を見られるのはまずいでしょうが……って走って行きましたわ!」

 しかし、琴里が顔を見られることはなかった。
 中山未来は緊張していたこともあって目線が低く、諒凰女子の制服を見ただけで「いらっしゃいませ、お嬢様……」と、機械的にパンフレットを手渡したからだった。

 「プププ、こら面白いわ!」
 満面に笑みを湛えて琴里が戻って来ると、嘉穂の姿がなかった。

 よく見ると栗の花の上級生から、給仕の手伝いを言いつけられていた。
 「あっ、こらマズいわ……(ちょっと面白いけど)」
 すぐに琴里は救出に向かった。

 もし、あのままにしておけば後で何を言われるか分かったものではない。
 それに、帰りの電車賃も持ち合わせていなかった。

 「ごめんな、この子に御用があるもんやさかい……」
 琴里は以前、嘉穂が言ったことをまねて言った。

 「失礼いたしました。お嬢様……」
 案の定、栗の花の上級生はすぐに嘉穂を開放してくれた。
 しかし、救出されても怒りが納まらないのは嘉穂だった。

 「あ、あなたね……今度、私から離れたら栗の花どころか関東地方からも追放いたしますわよ!」
 と、ものすごい剣幕だった。



                     ( つづく )
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