自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2017年09月20日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチにやって来るハチワレ(仮称)です。

   【 ハエと蚊の役割り 】
 
 大学における研究とは、テーマを見つけ、仮設を立て、検証するということだ。

 研究結果は常に世界初の物でなくてはならず、誰かが発表した後で同じ物を公表しても全く価値がない。
昨今ではそういった意味で研究者は皆、過酷な環境に置かれていると言える。

 原因はコンピューターとインターネットの発展だ。これにより研究者は文献の検索等で大幅な時間の節約ができるようになったと同時に、秒単位で世界のライバルと競い合わなければならなくなり、敏速に成果を上げられない研究者は大学を追われるのだ。


「諸君、山田教授の『南洋・地衣類研究室』が廃止になった」
 一週間ぶりに全国食べ歩きを終え、研究室に戻ってきた内村教授の第一声がこれだった。

 諸君と言われても、この研究室には助手の俺と大学院生の未華子しかいない。
 俺と未華子はお互いに顔を見合わせながら「やっぱり」と呟いた。

 山田教授の『南洋・地衣類研究室』は、表向きは『南洋における地衣類の研究を通し、新薬の開発をする』というものだが、実際の所、教授はサーフィン好きでその為に南洋を選んだだけなのだった。研究所員も皆、今時珍しい小麦色で潮焼けしており、あまり研究熱心とは言えなかった。

「これで今年、我が研究室が廃止されるという最悪の事態は回避されたと言える!」
 教授は胸を張り、未華子は小さく拍手したが、だからといって来年度の存続が約束されたわけでもなかった。

 我が研究室は主に『種の役割と有益性』という漠然としたテーマの研究をしており、山田教授の『南洋・地衣類研究室』と共に廃止リストの最上位にあったのだ。

「しかし教授、大学側からはこの所ずっと、早く研究論文を上げろと催促されています! 目に見えた成果が出ないと明日は我が身ですよ」
 俺は脳天気な教授に、少し危機意識を持ってもらいたかった。
 他の研究室からも誘われている未華子と違って、俺の場合は研究室の廃止=失職=ホームレスだったからだ。

 だが教授は俺の苦言に対し、ニヤリと笑うと、
「心配するな吉田君、ちゃーんと秘策を練ってある」
 と言ってポケットからUSBを出した。

「なんですか? それは」
「名誉教授の丸岡さんから借りてきたI◯M社のAI(人工知能)、『できる君』だ」

「そんな小さい物に入ってるんですか?」
 未華子が目を丸くした。
「そうなんだよ。もっともこのUSBは128ギガもあるけどね」

 教授は得意げだが、それはおそらく機能を簡略化した、『お試し版』だ。
 1週間しか使えないし、規約により研究発表にも使えない。本物の『できる君』はウチのような貧乏研究室で使えるような値段ではないのだ。
 それを指摘すると教授は、
「勿論、分かってるさ。これを起動すると1週間だけI◯M社のスパコンと繋がり、膨大なデーターを検索しながら仮説を検証させることができる。僕はね、今までに書き溜めた多くの仮説を1週間の内に全て検証させてみようと考えてるんだ」
 と得意気に言った。

「例えばどんな検証をさせるんですか?」
「そうだねえ。『絶滅危惧種は食物連鎖上で役割を終えた種か』というのはどうだい?」
「面白いですね。打ち込んでみましょう」
 すると・・・、

A [なんとも言えない。⇒ 種を限定する等、質問の仕方を変えること] 
という答えが帰ってきた。 

「なるほど。では『パンダは食物連鎖上で役割を終えた種か』と打ち込んで見なさい」
A [Yes 現在においてパンダは食物連鎖の傍流を担っているに過ぎず、その見方に於いては有用な種とは言えない] と出た。

「えー、ひどい言い方です。パンダ、可愛いのに!」
 未華子が抗議した。

「だから、食物連鎖上はだろう。客寄せとしては十分に有用なんじゃないの」
 と俺はなだめた。

「では食物連鎖上で最も重要な生物はなんだろう?」
 教授が興味本位で質問を打ち込んだ。

A [答えは、ハエ。蝿は生物の屍処理に最も適した生物である。この役割を代替する者としては菌類が考えられるが、菌類の異常な繁栄は全ての多細胞生物にとって危険!]
 と、出た。

「驚いたな。そういう見方もあるのか。すると蚊も重要な役割があるのか?」

A [答えはYes。 全ての生物の中で最重要な役割を持った働き者]
「だそうな。何故?」
 AIは数多くのデーターから驚くべき推測を述べた。要約すると・・・、

 環境の変化は人為的な物でなくとも、地球上では絶えず起こっており、進化を忘れた種には終末が訪れる。蚊は血を吸うことによってベクターウィルスを感染させ、多種間での遺伝子交流を促進させる役割を担っている。故に蚊が絶滅すると地上の生物も絶滅する。
 ちなみに水中の生物の場合は水事態がウィルスの感染に寄与していて、蚊がいなくても滅びることはない。

 という事らしい。

 教授はこの仮説を気に入り、次の論文は『地球生物の生態連鎖における、パンダの不要性とハエ・蚊の有用性』で行くと言って興奮しているが、パンダを愛する世界中の人々から石を投げられるのが必至だ。
 と、そこで俺はある事に気づいた。

インターネットに繋がった状態のAIで、仮説の証明や研究論文の作成をすれば、それらは全てビッグデーターとしてI◯M社の知るところとなり、同種の研究論文を先に発表されてしまわないのだろうか? また、そんな道義的に問題のある事をしないとしても、各大学の研究室が何を研究しているのかは筒抜けになるに違いない。

 我が慶明大学でも丸岡・名誉教授が、お試し版をばら撒いているとすれば、各教授の研究内容がビッグデーターとして取り込まれていたとしてもおかしくない。

 と、すると・・・。

 俺は試しに、慶明大学において現在最も不要な研究室はどこか? と聞いてみた。
 すると案の定・・・、

A [それは内村教授とその研究室]
 と、予想通りの答えが帰ってきた。
 ウチの研究室の価値は、ハエや蚊には遠く及ばないようだ。

            ( おしまい )

   
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