自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2016年11月14日 (月) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのもんちゃんです。

   【 法事 】
 
 そいつは膝を抱え、座り込んだ姿勢のまま自転車並みの速度で、道路を滑る様にしてやって来た。
 よく見ると尻のあたりから小さな車輪が突き出しており、それが高速で回転することにより移動しているのだ。
 風に僧衣をなびかせながらから、その異様な風体で我が家に現れたのは檀家寺が寄越したロボット僧侶だった。

 この日は亡き祖父の27回忌ということで、庵本寺に連絡したのだが、折悪しく他家と法事が重なった為、申し込みの遅れた我家には予備の僧侶が派遣されてきたのだ。

「遅くなりました。わたくし、庵本寺より参りました庵宝と申します」
 ロボット僧侶は車輪を体内に仕舞い込むと乱れた僧衣を直し、首にかけてあった風呂敷包みを手に持ち替えて、深くお辞儀した。

「ご苦労様です」
 相手がロボットであることがわかっていても、姿形が人間そっくりな上、丁寧な挨拶をされると自然とそう答えてしまう。
 仏間に控える年寄りたちが、怒り出さないかと不安を覚えたが、背筋をピンと張り、風呂敷包みから取り出した袈裟を身に着けたその姿は風格がある。これなら昔京都から嫁いで来て法事には口うるさい叔母も容認してくれるかと思い、部屋に通した。

「遅くなりました。わたくし、庵本寺より参りました庵宝と申します」
 ロボットは先程と同じ言葉を繰り返した。

「あれ、若住職さん? 若い頃のお父さん、明珍さんにそっくりやないの」
 庵宝を見て叔母がそう言った。それはそうだろう、このロボットは現住職の20代の頃の姿そっくりに作られていると聞いたことがある。
「すると、家の前にフェラーリを?」
 母が小声で俺に言った。
 現住職は若い頃、フェラーリで檀家周りをして、大住職から大目玉を食らったことがあるそうだ。今はそういうことはないだろうが、その血を引く若住職なら同じことをするのではと思ったのだろう。
 要するに母も叔母もその他数名の参列者も、庵宝がロボットであることに気付いていないのだ。

「いや、歩いて来たみたい」
 俺は詳しくは説明しなかった。とにかく経を上げたら、さっさと帰ってもらおう。

 俺が仏壇の前に敷かれた座布団に案内すると、庵宝は落ち着いた所作で正座をし、少し間を置いてから朗々とした声で経を読み始めた。

 如是我聞 一時佛 在舍衞國 祇樹給孤獨園
 與大比丘衆 千二百五十人倶皆是大阿羅漢

 俺の背後に座った母と叔母が小声で「いい声ね」「シッ」と話しているのが聞こえた。
叔母の隣りにいた叔父も「ウンウン」と小さく答えているようだ。
 どうやらこのロボット僧侶は気に入られたようだ。

 復次舍利弗 彼國常有 種種奇妙 雜色之鳥 白鵠孔雀
 鸚鵡舍利 迦陵頻伽 共命之鳥 是諸衆鳥 晝夜六時 出和雅音
 其音演暢 五根五力 七菩提分 八聖道分

 そういえば『法事が重なりましたので、ロボット僧侶の庵宝を寄越します』と電話口で言った住職が、『彼には宗門の中でも非常に徳の高い僧侶の声が入ってますので』と語っていたことを思い出した。

 舍利弗 如我今者 稱讃諸佛
 不可思議功徳 彼諸佛等 亦稱説我 
 不可思議功徳 而作是言 釋迦牟尼佛 能爲甚難 希有之事 能於娑婆國土
 五濁惡世 劫濁 見濁 煩惱濁 衆生濁 命濁中
 得阿耨多羅三藐三菩提 爲諸衆生 説是一切世間 難信之法

 なるほど。時折躓くいつもの住職の読経とは違い、すべての経文が聞き取りやすく、ありがたい気がする。
 勿論、経文の意味も坊主の良し悪しも分からない俺だがこの経を吹き込んだ僧侶と、普段やってくる住職とでは格の違いが明白だという気がした。
 とはいえ、名のある高僧の音声データーだけならインターネットにも転がっている。
 宗門にはフリーの僧侶もいるだろうに、そちらを派遣せずロボットを寄越したのは、前回の法事の際のお布施が足りなかったせいだろうか?
 などと色々考えているうちに読経が終わった。

 きっかり15分。母がお茶を出さないうちにお布施を持たせて寺に返そうと立ち上がった時、また読経が始まった。
 終わったとばかり思い足を伸ばしていた参列者の縁者も、慌てて座布団に座りなおす。
「今回のお坊さんは丁寧やね」と叔母が母に囁いた。

 舍利弗 當知我於 五濁惡世 行之難事 得阿耨多羅三藐三菩提

 今回の読経もきっかり15分で終わった。

 やつが講話を始めてボロを出さないうちにと「ありがとうございました」と言って、庵宝の横にお布施の入った袋を差し出したのだが、ロボット僧侶はサービス精神旺盛なのか、またまた読経を始めるではないか。

 さすがに30分を超えての正座は苦しいので叔母達は奥の部屋で休みだしたが、母は俺だけでも坊さんの後ろで座っていろと言う。
 仕方がないのであぐらを組んで、もう15分付き合うことにした。
 で、今度こそ終わったと思ったのに、終わらない・・・。

 如是我聞 一時佛 在舍衞國 祇樹給孤獨園
 與大比丘衆 千二百五十人倶皆是大阿羅漢

  お経がどれも同じに聞こえるのは気のせいだろうか。

 参列した親戚縁者は入れ代わり立ち代わり座りに来るが俺はそうはいかない。
 ぐったりしながら、苦行を続ける事さらに1時間半。ふいに家の電話が鳴った。
 これ幸いにと立ち上がり、受話器を取ると、電話の相手は庵本寺の住職からだった。
「ウチの庵宝がまだ戻らないのですが、何かご存知ありませんか?」と言う。
「ご丁寧にもまだ読経されています」と多少皮肉を込めて伝えると、「すぐにそちらに向かいます」と電話を切った。

 よほど慌てていたのだろうか、住職はわずか10分足らずで、檀家回りには封印していたフェラーリに乗ってやって来た。

 すぐに仏間に上がり込んで来ると、まだ読経を続けている庵宝の僧衣をペロリとめくり、背中の辺りを何やら調べているようだった。
 参列者の叔母達が唖然として見ていると、住職が突然「アッ!」と、大声を上げた。

「オート・リピートのスイッチが入ってました!」
 住職は原因が分かって嬉しそうだが、叔母達はカンカンだった。

「そのポンコツ連れて、はよ帰りなはれ!」と住職に怒鳴ると、返す刀で俺に向かって「あんたも檀家寺、変えなはれ!」と言い放ったのだった。

         ( おしまい )
  

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コメント
この記事へのコメント
こんばんは~(^0^*)ノ
最近ではテープの読経とかドライブスルー葬儀など
それで良いんかい?!みたいなことになってますから
ロボット住職でもテープの読経だけより
高級なんじゃないでしょうか(笑)

つい数年前ですが
田舎の大きな家、所謂名士のお家の御葬式に出ましたが
その田舎の風習でご住職の読経のほかにも
地域の講?のようなものの歌や読経などで
それはそれは長い間正座が続きました。
正直・・・・・まだ終わらないのかと
故人を失った悲しみより膝の辛さの方が勝ってしまいました(;∀;)
膝痛などの理由で正座が出来ないご老人達は
小さな座椅子(そういう時用みたいでした)に座っていたので
そっちがいいなあ~と羨ましく思ってしまいましたよ(;m;)
2016/11/29(火) 17:35:56 | URL | かじぺた #-[ 編集]
 >かじぺたさん、こんばんは。

 お経はいかにありがたく感じられるかどうかですね。
 この小説のように一見すると人間のようだと、気づかない間は声の良いありがたい読経に思えるかもしれません。
 それにしても長いのは聴いてる方が苦行になってきますね。
 ずっと正座でしたか・・・。本当に大変でしたね。(^^;)
2016/11/29(火) 22:40:56 | URL | カツオシD #-[ 編集]
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