自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2017年01月11日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのシマポンママです。

   【 上々の客 】
 
 最近、本当に不景気だ。
 毎日店を開けていても、客が来ない日が多い。
 この店がある商店街は、郊外とはいえ駅前にあり、人通りがまったく無いわけではない。
 なのにどの店も閑古鳥が泣いていて、近頃ではシャッター通りと呼ばれているそうだ。

「ええっと、おたくは何時まで開いてますか?」
30分ばかりコートの試着を繰り返していた客がそう言った。
「夜は七時まで開いてます」
 俺はにこやかにそう答えたが、心の中ではため息をついていた。
 何時までと尋ねる客で、戻って来る客はまずいない。
「じゃあ用を片付けて、都合でまた来ます」
 二度と来ない客はそう言って店を出た。

 紳士用品の店・厚河商店は数年前に俺が経営を引き継いだ。
 店主が高齢で跡継ぎも無く、自宅件店舗を売り出していたので、昔から商売に興味があった俺が、妻の反対を押し切って買ったのだ。
 だがそれは失敗だった。
 商店の経営は外部の人間が想像するより厳しく、二人揃って会社を辞めた鈴木家の台所はたちどころに苦しくなっていった。
 再び都会で就職した妻は程なく俺に離縁を迫った。47歳になる俺と違って妻はまだ35歳。子供もいないので、人生やり直しがきく考えたのだろう。

店を大きくして、妻には早まった事をしたと後悔させてやろう。
そう意気込んで人気ブランドメーカーと契約したが、その選択はさらに経営を圧迫した。
現金問屋と違って、直接契約するブランドメーカーは、毎年ある程度のロットを買い付けねばならず、在庫ばかりがかさんで行ったのだ。
「これは契約を解除した方がいいです」
 と税理士にも言われ、今回で契約を打ち切ったが最後の支払いが今月末に迫っていた。

 つまり残り3週間ほどの間に30万円程用意しなければいけないのだが、銀行は融資をしぶり貯金も無く、生活費にも事欠く始末。近頃では食費も削り、朝取りした裏山に生える山菜やキノコをオカズにしているくらいで、このままでは怪しい金融機関に頼らざるを得ない状況に陥っていた。

 そんな時、現れたのがあの客だった。

 中肉中背の中年男。寡黙でこれといった特徴のない顔をしたその客はふらりと店に入って来ると、売れ残ったコートとセーター(7万円相当)を無造作に選び、カードを出した。
 
 高額商品をあまり迷いもせず、さっさと買う客は何か怪しい・・・。
 そう疑ったが、カードは別に女性名義でも外国人名義でもなかった。
なんと偶然にも名前の欄にはICHIRO SUZUKIとあり、これは俺と同じ名前だったが、鈴木一郎という名は、姓・名セットでは日本で一番多い名前だろうから、それはいい。
その上、客は慌てている様子もなかった。
 ただまあ最近では、そんな上客もいないだけに、俺は多少身構えたが、CAT(クレジットカード端末)はすんなり売っても良いとのシグナルを出してくれた。

「ありがとうございました」
 俺は深くお辞儀をして客を送り出した。
これで後、23万円ばかり都合出来ればメーカーへの支払いができることになる。残りは3週間あるので、少し早いバーゲンセールでも始めるか・・・。
と、考えていた処、翌日その客が再び現れた。

 今回もさっさとブランドのブルゾンやセーター、ジーンズ等を買い、代金は10万円余り。
 カードの方はこれまたすっきりOKが出た。
 もしかしたら単身赴任でもしておられる方で、出身地が暖かい県のため、冬のコート類の用意がなかっただけだろうか?
 それとなく聞いてみたが、口では答えず頷いたようでもあり、無視したようでもあった。
 まあ、いいか。2日連続して買う人もいないわけではない。そう思い返したが、その客は翌日もその翌日もやって来た。
 カードの売上金は15日までならその月の末日に5%の手数料が引かれた上で入金される。(客の方にカード会社から請求が来るのは翌月以降)
 おかげでおかしな金融機関で借りなくてもメーカーへの支払いができることなったが、あまりの都合良さに不安が募ってきた。

 あの客はいったい何者なのだろう? 本当にウチの店の商品が欲しかったのだろうか?
 もしかすると悪意のある客で、こちらの決算日を知っており、ギリギリのところでクレームでもつけて返金を迫り、破滅に追い込もうとしているのではないか?
 いやいや、俺は今までに人に恨まれるようなことはしていない。同姓同名ということからみて、あれは未来から助けにやってきた俺自身に違いない。
 などと、SFじみたことまで思い浮かんだが、実際そんなことはあり得ない。
 きっと頑張っているのにうまくいかない俺に、鈴木の神様が助け舟を出してくれたのだ。
 と、無理に納得してみたが、不安から変な汗まで吹き出てきた。

 翌日は定休日だったことから、俺は隣町にあるメンタルクリニックに出かけ、医師に得体の知れない不安に苛まれていることを告げた。
 と、しばらく質疑応答を繰り返していた医師は、おもむろに棚にあったファイルの中から一枚の写真を取り出し俺に見せた。

「最近では食費を節約するために裏山の山菜やキノコを採っていると言われましたが、そのキノコとはこれでしたか?」
 それは確かに最近よく食べるキノコだった。

「なるほど。これで分かりました。あなたは他からこの地方にやって来られた方だからご存知ではなかったのでしょうが、これはシメジではなく『思い込み茸』という毒キノコなんですよ」
「はあ・・・」
「つまりこういうことです。あなたは客を望むあまり、幻影の客を相手にしていたのです。おそらくカードの書類にサインしたのはあなた自身。だから客が同じ名前であったというのも当然です」
 医師はきっぱりとそう言った。

「いやそれにしても、ここに来られてよかった。自分のカードを使って自分の店で買い物をしたということになれば、カード会社から契約違反を通告されたり、粉飾決算にも問われかねません。しかし、こうしてメンタルクリニックに来られていたということであれば、罪には問われないでしょう」

 医師の話は驚くべきもので、とても納得がいくものではなかった。が・・・、
 翌日からはその客は現れず、後日、俺のパソコンにカード会社から、『鈴木一郎様・今月の請求額』として、客が買い物をしたのと同額が記されていた。
さらには離れて暮らす親父から、「一郎、コートやセーターを送ってくれてありがとう。あまり貰ってばかりでは悪いので、少しでも受け取ってくれ。商売がんばりなさい」という電話と共に20万円ばかり送金されてきた。

         ( おしまい )

   
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