自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2017年04月05日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのシマポン親子です。

   【 最後の審判員 】
 
 「う~む、これは・・・」
 内閣情報調査官である俺が差し出したファイルを見て、河上総理は絶句した。

 そこには官民問わず数千人を動員し、わずか1週間で仕上げた『吉岡雅也』に関する、(生まれてから四七歳になる今日までの)詳細な記録が書き込まれていた。

「概略を述べてくれ」
 そう言ったのは佐竹官房長官だった。
 俺は内閣の主要閣僚と公安関係者、アメリカ他、数か国の大使の前で『吉岡雅也』の略歴及び現在の状況を読み上げた。

「吉岡は七歳の時に両親が離婚、その後は母親に育てられています。生活は貧しいながらも、仲の良い親子でした。しかし小学校・中学校を通じて壮絶なイジメにあっています」
 イジメという言葉を聞いて数人が顔をしかめた。

「それは担任の証言なのか?」官房長官が尋ねた。
「そうです。彼の小学校の担任は、当時採用されたばかりで、吉岡をよく覚えていました」
「ガッデム!」アメリカ大使が舌打ちをした。
「続けてくれ」

「きっかけは朝礼で放った校長の一言のようでした。吉岡は少し歯が出ていて、普段の顔が笑っている様にに見えるのです。まじめに聞いていないと思った校長は、そこのクラス! と、怒声を発しました。そのことでクラスの数人の子供達が、『お前のために怒られた』と因縁を付けたのです」

「アンビリーバブル」と言ったのはイギリス大使だった。
「日本ではそんなことで、全体が責任を問われるのですか?」
「いえ、クラスの子らは、安全にイジメることができる生贄を探していたのです」
 要するにその時、学級カーストというものが出来、吉岡はその最下層に置かれたのだ。

「ただし、彼はめげませんでした。場を和ませる為に笑顔を絶やさず、また当時テレビで流行っていた、『なんちゃって』等のギャグを連発し、クラスメイトと仲良くなりたいと努力したようです」
「で、結果は?」官房長官が促した。

「まさに火に油でした。それはクラスの中心人物の野島や三浦をさらにイラつかせました。彼らは教育熱心な両親の元、有名私立中に入るよう厳しいプレッシャーをかけられており、ストレスが貯まっていたのです。野島はあの頃を振り返って、まるで催眠術にでもかかったように吉岡に腹をたてていたと振り返っています」

「つまらんギャグの連発か・・・。確かにそれはイラつくかもな」
自身がエリートコースをたどってきた大山文部大臣がポツリと言った。

「吉岡にとって不運だったのは、野島や三浦達と中学時代も一緒に過ごさねばならなかった事です。野島達は受験に失敗して以降、生活も乱れていました。吉岡は学校では毎日のように暴行を受け、外では彼らの遊興費を調達させられました」
「小中学校で九年間も加害者と過ごすのはいじめられっ子にとっては悲劇だな。だが中学卒業後、吉岡は就職できたんだろ。すぐに辞めたようだが・・・」

「ハイ、どう言えば良いのか・・・、人間には誰からも怒りの対象にされるような者もいるようで、この吉岡がまさにそれです。彼は入社して早々、社訓を読む表情がニヤけていると社長から怒鳴られたようで、上司が社長の気持ちを忖度(そんたく)して、厳しいことで知られる社員研修会社に身柄を預けました。そこで教官から激しい仕打ちを受けたのですが、例によって吉岡は、この場を和ませようと、『なんちゃって』等の冗談を言ったのです」

「そりゃ大変だねえ・・・」飯島法務大臣が、思わず笑ってしまってから口を押さえた。
 
「元々、軍隊教練のような場でしたから、教官は激怒し、危うく吉岡は殺されかけました。その後、研修会社は吉岡の上司に『この人物は将来に於いても全く見込み無し』と書いて寄越したそうです。その結果、吉岡はクビになりました。しかもどうせ辞めていく人間だからと、当時捜査の対象になっていた使途不明金の責任を押し付けられたようです。後からそれは古参の事務員が株の損失の穴埋めに横領していたことが分かりました」

「はあ・・・」
 ここで小辻財務大臣がため息を付いた。
「で、その後は?」

「吉岡は懲戒処分を受けたことで、新しい職が見つからず自宅アパートに引きこもります。しかし八年後に母親が死去。家賃が払えず二七歳でホームレスになりました。以来二〇年間、大阪のあいりん地区で、時々は日雇いをやりながら、西成労働福祉センター脇で路上生活をしています」

「よりによってホームレスか・・・」
 河上総理が頭を抱えた。
 人類存続の唯一の希望が、『吉岡雅也』だったのだ。



 数ヶ月前のこと、地球上の全ての都市が七時間ばかり闇に閉ざされた。月ではない異様に大きな物体が太陽と地球の間に割り込んだのだ。驚くべきことにそれは人工物で、管理者を名乗る異星人の操る宇宙船だった。彼らは人類の全てのパソコンにハッキングをかけ、そのユーザーの言語で、我らは幾多の文明の『間引き』を担当する管理者であると名乗った。

 国連を始めとする国際機関、各国政府がそれぞれにコンタクトを取り、管理者の意図を探った処、古典的なSF小説まがいの難題を突きつけてきた。すなわち、一定の段階に達した文明を、新たな段階に導き、彼らのメンバーとして迎えるか、それとも今いる人類の全てを消去して新たな人類を創造するか、それを我々人類から無作為に選んだ三名を審判員として、自由意志で存続か消去かを決定させるということだった。

 人類自らが選ぶのであれば、この文明の消去などあり得ないはずが、彼らが補足した説明によると、人はこれまで七度挑戦してその全てが『間引き』に会ったという。ちなみにここ2万年の間ではクロマニヨン人のアトランティスと明石原人のムーが滅ぼされたそうだ。

 勿論そんな不条理な提案は受け入れられないと、どの機関も政府も主張したが、脳天気な映画じゃあるまいし、武力で抵抗できないことは誰の目で観ても明らかだった。

 彼らを怒らせては元も子もない。なのでおとなしく経緯を見守るしか無かった。
管理者が言う無作為の選考結果はなかなか発表されなかったが、10日ほど前になって、ようやくアラブ王族のイブン・フセイン、アメリカ人のキャサリン・ベッカード、日本人の吉岡雅也という名前が発表されたのだ。

 選ばれし三人の名前は、異星人によってハッキングされている世界中のパソコンに表示される為、国連や政府も隠蔽できず、世界の誰もが知っている。当初、地球上で最も裕福な国に属する人間が二人、さらには石油によって贅沢に暮らすアラブの王族というラッキーな組み合わせに地球上の誰もがホッと胸を撫で下ろした。が・・・、

『突然空に巻き上げられた人物』の目撃談と、発表された名前から、アメリカのマスコミが人物を特定し、調査したところ、イブン・フセインはともかく、アメリカ人のキャサリン・ベッカードは相当やっかいな人だという事が分かった。彼女はハルマゲドンを待ち望むカルト教団を率いる教祖だったのだ。残る一人、吉岡雅也については今のところ政府筋しか知らないが、世界中のマスコミがその名を追っていることから、すぐに素性がバレるだろう。

「Mr.吉岡はたぶん大丈夫だと思います。我々の分析ではMr.フセインは今の世界に不満が無く、Miss.ベッカードは今回の事が最後の審判と捉えるでしょう。残るMr.吉岡審判によって人類の存続が決まりますが、彼は今までに二度自殺未遂を犯しているものの、他人を巻き込まない配慮が見られました。今回のみ全世界を巻き込もうとは思わないはずです」
そう断言したのはアメリカ大使の後ろに控えていたFBI調査官のホッチキスという男だ。

「総理、私も同意見です」と発言したのは佐竹官房長官。
「吉岡は温厚な男です。これまで常に迫害を受けていますが、復讐を企てたことはありません。しかも、今回地球を救えば、それまでの彼の生活は一変します。おそらく日本だけでなく世界中でビップ扱いになるでしょう」
「しかし佐竹君、吉岡は宇宙船に空中転送されてからは我々と会っていない。つまりは地球上の誰とも交渉していないのだろう?」
「彼は地球に戻った後の歓待ぶりを想像する能力があるはずです」ホッチキスが断言した。

「ならば我々は吉岡審判員の裁きに期待するとしよう。管理者達は6月1日、グリニッジ標準時12:00に発表すると通告してきたようだ」
 河上総理は、居並ぶ閣僚や大使達に向かい、重々しく言った。


 そして運命の日・・・。

 地球の全ての都市が再び闇に閉ざされ、空に巨大なスクリーンが出現した。
 そこに映し出されたのはイブン・フセイン、キャサリン・ベッカード、吉岡雅也の顔。

 フセインが手を振り何かを指差して微笑んでいるところを見ると、彼らにも地上の人々の様子が見えるようだった。
 フセインのにこやかな表情は人々に安心を与え、アメリカ大統領はホワイトハウスの窓で見上げながら側近に、「この事が終わったら、あの大統領以来制限してきたイスラムからの移民をもっと増やしても良い」と呟いた。

 一方で、目を閉じ、一心に祈るキャサリンの様子は人々に不安を与えたが、右端の吉岡が微笑んでいた為、2対1で存続は間違いないようだった。

 吉岡は幸運な男だ。彼のその後の人生は一変するだろう。すでにこの時、日本だけでなく世界中から数千人の女性が彼に熱い視線を送っていた。彼は世界を救う英雄であり、近日中にはタイムズ誌の表紙を飾る男なのだから。

 予想通りアラブの王族、フセインは彼の臣民だけでなく世界の人々に向けて慈愛を込めた表情で「私はこの世界の存続に一票を投じる」と告げた。不思議な事に彼の話すアラビア語は、中国人にもブラジル人にも日本人にも母国語のように内容が理解できた。

 そしてまた予想通り、ベッカードは「この世界に今、審判が下される。神と共に有る者は天国への扉が開かれ、不信心者は地獄に落ちる。ソドムはたった今消滅する!」と告げた。
 これで1対1。これまた予定通りだった。

 残るは吉岡一人。

 だが、彼の顔が先程と違って険しい。
 吉岡は、まるでヒットラーの演説のように押し黙ったまま1分近く沈黙した。
 そして、おもむろに口を開く。
「地球は消滅!」
「な、なんだとー!」
 全世界の人々が驚愕した。

「なーんちゃって、ウソウソ。俺はこの世界の存続に1票を・・・」
 だが、管理者は最後まで聞いていなかった。
「あい分かった!」
 地球全体を揺らすような音声が響いた。
 吉岡の冗談は管理者も理解できなかったのだ。

 やがて火星の背後にあるアステロイドベルトの中から直径4キロ程の小惑星が地球に向かって移動し始めたという報告が天文台よりもたらされた。


        ( おしまい )

   
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コメント
この記事へのコメント
ああ
かつて
愛は地球を救うのキャッチフレーズのパロディで
受けは地球を救う。ってのがありましたが
今、
なんちゃっては地球を滅ぼす・・・
なんちゃって・・・バルスに匹敵する。
いや、はるかに凌駕する恐ろしい滅びの呪文ですね
((((゜Д゜;;)))))
2017/04/08(土) 04:00:57 | URL | かじぺた #-[ 編集]
 >かじぺたさん、こんにちは。
 
 いつもありがとうございます。
 地球上で人間がどんな戦争をしてようと、そんなものはいわばコップの中の戦争。
 人間の争いごとなどアリの戦いのようにしか思わない強力な何者かが現れた場合、あっけなく滅ぼされることでしょう。

 そういう存在が誰かを無作為に指名した時、通常であれば顧みられず一生を終えるはずの一般人も人類の運命を担うことになるかもしれません。
 悲観論者や終末思想の持ち主、あるいは吉岡さんのように冗談を外してしまう人も危ないですね。

 
2017/04/12(水) 10:49:48 | URL | カツオシD #-[ 編集]
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