自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2017年04月29日 (土) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのシマポン親子です。

   【 英雄との遭遇 】
 
「宇宙船カリエトは現在、減速してネオアースからわずか100億キロ付近を航行中。まもなく乗員はコールド・スリープを終え、ひと月後にはこちらに到着すると見られます」
 航宙局のマクナガン長官の言葉に会議室はどよめいた。
「ついに我々は600年前の英雄と対面できるのか」
 行政長官である私のみならず、誰もが感慨ひとしおだった。

 カリエトは2115年、人類がまだ火星や木星の衛星エウロパの海に都市を築いている頃、大いなる夢を抱く若者数十人と移住に必要な機材、植物の種、数々の動物の冷凍卵を乗せて11光年離れた地球型惑星Aq77cに向け、帰らぬ旅に飛び立った初めての恒星間宇宙船だ。
 ワープ航法も確立されていなかった時代、スイングバイ航法によって光速の約50分の1にまで加速し、600年をかけて到達するという壮大な計画を持って送り出された大冒険時代の船なのだ。

 だが、宇宙工学の進歩は彼らの勇敢な試みをさほど意味のないものに変えてしまった。
 タイタンの権益を巡る紛争によって飛躍的に発展した技術はついに人類にワープ航法をもたらせ、新たな植民船は先に旅立ったカリエトを安々と追い抜き、わずか数ヶ月で、今我々がネオアースと呼んでいる星(Aq77c)に降り立った。

 それから600年、Aq77cの開発は進み都市が出来、森が生まれ、生命の痕跡がなかった海には地球から運び込んだ幾多の海洋生物が爆発的に繁殖した。Aq77c改めネオアースは文字通り、第二の地球として歩み出し、新たな宇宙開発の拠点となって繁栄し続けている。

 勿論、人類は勇敢な冒険者達を乗せたカリエトを忘れたわけではなく、回収すべきかどうかの議論はされていた。しかしカリエト本体に起きた何らかのアクシデントで、その位置が数百年間も分からなくなっていたのだ。それが数ヶ月前、個人所有の宇宙クルーザーによって、我々の住むこのネオアースから900億キロの地点で発見されたのだ。

 船体は隕石による破損でかなり損傷を受けていたが、一見したところ、居住空間には問題がなさそうだったので、派遣されたパトロール船が寄り添う形で見守ってきた。
 そのカリエトがもうすぐネオアースに降り立つのだ。

 ここでふと我々はカリエトに乗る600年前の英雄をどう処遇したら良いのかという問題に直面した。

なにせ彼らが飛び立って数年後に開発されたワープ航法によって、彼らが人類で初めて降り立つはずであったAq77cは人口30億人の賑やかな惑星に変貌しているのだ。
つまり本来彼らが得るべきであった栄誉も0からの開発という生きがいもすでに無い。
我々が彼らの立場であれば全てを捨てて夢にかけた600年は何だったのかと落ち込むのではないだろうか。

「彼らをネオアースの砂漠地帯に誘導し、そこで初めての開発という夢を見てもらってはどうか」というバカげた意見も出たが、600年前の技術でもドローン等を使い星の隅々まで見渡すことも可能で、本当のことが分かった時点で彼らは激怒するだろう。そこで・・・、

 ここは正直に人類初の恒星間飛行を成し遂げた英雄として、その業績にふさわしい地位と生活基盤を与え、本を執筆してもらったり、銀河テレビに出演してもらったりして栄誉を称えるのが良いのではないかという結論に達した。

 一月後、万全の体制を整えて我々はカリエトを待った。600年前の資料からカリエトがAq77cのどの地点に降りるのかが分かっていたので、その付近にあった数軒の農家には移転してもらった。
(なおこの時、『立ち退きをしてもらうのが農家だから良かった。これが有力者の邸宅であれば』云々と言った行政官はクビになった)

 空の上から遠目に見ても傷だらけのカリエト本体がゆっくり垂直着陸をしてきた。すでに船体の大部分を占めるエンジン部分はネオアース突入前にすでに切り離している。
 我々は「ヒーロー歓迎!」と書いた横断幕を上げて数万人で待ち構えた。

 だが、ドアが開いても誰も降りてこなかった。
 無理もない。無人の荒野に降り立つはずが、宇宙人(!)数万人に取り囲まれているのだ。
勇敢な冒険者といえども面食らうことだろう。そこで・・・、

 私は志願した女性行政官ら数人と共にカリエトの中に乗り込んだ。

 が、中で見たものは・・・、想像されたよりも酷く損壊した移住区と、ケースまで破壊されたコールドスリープ装置。そしてそこに眠る56体のミイラだけだった。

「なんてことだ。英雄達はすでに全員が亡くなっていたのか」
 私は落胆し、船を降りようとした。とその時、一人の行政官が声を上げた。

「長官、このコールドスリープ装置はまだ機能しています」
 それは通常サイズのコールドスリープ・カプセルの約2分の1の大きさで、唯一壊れておらず、目標の地点に降りたというのに未だ凍りついたままだった。

「子供も乗っていたのか。たぶん大人達が基地を開設してから起こす予定だったのだろう。だが、大人達が全員死んだので起こされることもなく眠り続けているんだ。早く起こしてあげなさい」
 私は後から船内に入ってきた、当時の機器を扱える技術者にそう命じた。

 白い氷に閉ざされたカプセルを温風が包み、やがてそこに眠る者が姿を表した。

「子供じゃありません。猫です! 生きています」
 技術者がピクリと動いた猫を見て驚いたように叫んだ。
 成人用のコールドスリープ装置に寄り添うように置かれていたその小さなカプセルは、おそらく、その人が可愛がっていた猫だったのだろう。首にはチャコと書かれたリボンが巻かれていた。

 もし我々が先にこの惑星を開発していなければ、このまま何千年も眠り続けるか、生命の全く存在しない星で唯一人死の時を待つしか無かったろう。

「あなたが連れてきたチャコちゃんは、我々が大事に育てます。この星には猫がすでに沢山いるので、チャコちゃんの友達もすぐにできますよ」
 私は猫のカプセルの隣で眠るミイラにそう言った後、恐る恐るチャコを抱き上げると、小さな英雄はミャウーと鳴いた。

 ようこそ、ネオアースへ。長旅ご苦労様でした。

      ( おしまい )

   
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コメント
この記事へのコメント
こんばんは~(^0^*)ノ
なかなかコメントに来られなくて、ごめんなさい~m(;Д;)m
やっぱり、娘と孫が居る間は忙しかったみたいで・・・
家に居なくなったとたんに時間が取れるようになりました(^^;)\
さみしいですけどね~~~

今回は切ないお話でしたね・・・・・・
胸が痛くなるような(;m;)
でもネコのチャコちゃんだけでも生きていてくれて
本当に良かったです(^v^*)

シマポン親子、可愛いなあ~~o(^^*)ov-238
2017/05/18(木) 00:48:22 | URL | かじぺた #-[ 編集]
 >かじぺたさん、
 いえいえ、いつも本当にありがとうございます。
 賑やかなのはとても良いことだと思います。

 宇宙開発の初期の頃もソビエトがライカ犬を乗せて人工衛星を飛ばしたことがありますが、これは地球に帰って来ることはありませんでした。
 来るべき惑星移住の時にもチャコのような運命を持った犬や猫がいるのではないかなと思って書きました。

 シマポン親子は毎日何かやらかしてくれるので飽きません。(^^;)
2017/05/21(日) 15:05:58 | URL | カツオシD #-[ 編集]
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