自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2017年06月28日 (水) | 編集 |
c004
 写真は記事とは関係のない、ウチのシマポンママです。(^^;)

今回は以前、後半だけをUPしました「生き神(イキガミ)」の前半部分もくっつけた完全版。
前・後半合わせてお読みいただければ幸いです。(所要時間は約4分です)


   【 生き神(完全版) 】
 
       ( パート1、 永瀬響子 編 )

「永瀬、いつまでかかっているんだ? コピー一つでそんなに時間がかかるのか!」
 部長が苛立ってコピー室までやって来た。

「すみません。でも何故か機械の調子がおかしいんです」
 私はあやまりながら、前衛アートの様な芸術性の高い書類を見せた。

「またか。もういい俺がやる」
 部長がため息をつきながらボタンを押すとコピー機は、それまでのラップ音楽のような異音に変わって滑らかな作動音をたて、正常にプリントを終えた。

「いったいどこを操作したらこんなサイケデリックな書類になるんだ? 機械オンチめ」
 部長は年代を感じさせる悪態を吐きながら、自分でコピーした書類を持って立ち去った。

 だが、私も部長と同じボタンを押しただけだ。なのに私がコピーを取ろうとすると、この機械は先程のようなパフォーマンスを見せる。どこがおかしいのだろうと思ってコピー機のセンタートレイを覗き込むと、途端にバフっと言う音と共にトナーを吹き出した。

「響子、あんた呪われてるわね。最近、彼氏をハデに振ったりしなかった? この前だって、サンプル商品に躓いて、社長の頭にお茶をぶち撒けたでしょ。あんな光景、めったに見られないわよ」
 化粧室の鏡の前で、顔についたトナーを洗い流していると、先輩の吉川さんが横に立ち、軽くメイクを直しながら、そう言って笑った。

 誰かに呪われてるんじゃないか? という言葉は毎回言われるが、私の場合、彼氏をハデに降ったことなんてない。それどころか私は生まれて26年間、恋人など出来たこともない。

 高校にいた時思い切ってバレンタインデーに大きなチョコを渡したこともあるのだが、渡した相手は義理チョコをくれた女子の方ばかりを見つめていた。

 だが仮に、気になった男子と良い関係になったとしても、すぐに振られていただろう。

 校庭でクラスメイト達と楽しくおしゃべりをしている最中に、たまたま飛んできた鳩が私の頭の上にポタリと糞を落として話題になったり、文化祭のドミノイベントでは完成間近に足を滑らせて倒し、みんなに居残りをさせるという古典的失態も演じた。

 家庭科の授業では火加減を間違えて鍋から引火。前髪を焦がしただけでなく、のけぞった拍子に後ろのテーブルで説明していた先生を倒し、料理の中に顔を突っ込ませたりもした。

 要するに私は昔から異常なくらいドジで運も悪いのだ。現在でもその状態は続いていて、数日前も映画を観た帰り、シネコンビルのエレベーターに閉じ込められた。

 混むのが嫌なのでエンドロール途中で席を立ち一人で乗り込んだ処、停止しないはずの階で止まり、ドアも開かなかった。

 そのままどのボタンを押しても動かなくなったので非常用のインターフォンを押すと、
「すみません、補修員があいにく別の現場に行っていますので、しばらくお待ち下さい」
と言われ、ようやく出してもらったのは三時間後。

 終電にギリで間に合いそうだったが、電車に乗る前にトイレを済ませたことで、結局間に合わず、金欠病なのにタクシーで帰宅。

 しかもその日に限って幹線道路は工事の為に大渋滞。睡眠不足と疲れが重なり翌日は遅刻。部長からは「もっと自分にあった会社を探した方がいいんじゃないか」などとイヤミを言われたのだ。

 そんな私を見て吉川さんのような人は『あなたは呪われている』とか『悪い霊が憑いている』とか言ってくる。冗談で言う人もいれば真剣に『お払いを受けなさい』と勧めてくれる人もいる。確かにサイフを落とす、バスを間違えるといった個人的ミスは仕方ないのだが、エレベーターの閉じ込め事故といった災難や、お茶を社長の頭にぶちまけるといった珍事が続くと、あまり不運を気にしない私でもちょっとヘコむ。

 エレベーター事故の翌日、私は思いきって近所に住む祖母に悩みを打ち明けた。

「お婆ちゃん、私って呪われてるのかな? いつも周りからそう言われるんだけど……」
 祖母は私の顔をじっと見た後で、「だいじょうぶ。響ちゃんは呪われてなんていないよ。それどころか、とても強い神様に守られているんだからね」と励ましてくれたのだ。

 祖母のその言葉は、私を安心させてくれた。本当は私も呪われてなど無く、むしろ守られているのではないかと感じていたのだ。というのも、どんな災難も大事には至らず、比較的短期間でウソのように収束するからだ。

 それでも災難は毎日飽きずにやって来る。

 今度は買ったばかりの定期券を落としてしまったのだ。どこかに落ちていないかと、探しながら道を戻っていると、商店街の空き店舗前にいた易者が声をかけてきた。

「そこのお嬢さん、あんたは貧乏神に取り憑かれておる。早うお寺に行って祈祷を受けよ」
「やれやれ……」
私はフッとため息をついた。



    (パート2、 イキガミ編)

「これがお前の守護する永瀬響子に降りかかる今年一年のリスクだ。生き神よ、本当にこれを回避するつもりか?」
 廃病院の地下。元霊安室の壁の中から滲み出るように現れた死神が、かすれた声で疑問を投げかけながら、俺に一冊のファイルを差し出した。

 そこには日本人の三大疾病だけでなく、発症例の数少ない病もいくつか挙げられており、さらに交通事故や落石による怪我まで記されていた。

「彼女はまだ26歳なのに循環器系のリスクまであるのか?」
 俺は死神に愚痴を言った。

「決めたのは俺じゃない。すべての人間に無作為に降りかかる疾病を彼女は回避できない。そこは分かっているだろう?」
 黒衣のフードを深く被り顔も見えない死神は、そう言い残して壁の中に消えていった。

「これは高く付きそうだ……」
 俺はため息を付きながらファイルを、束帯(そくたい)の袖に押し込んだ。

 命に関わる病魔や横変死を防ぐには、それなりの対価を支払わねばならない。
 俺が守護を請け負った永瀬響子を死に至らせないためには、これらに変わる不幸と等価交換をせねばならないのだ。

 俺は死神から渡されたファイルを手に、貧乏神が住む下町の祠(ほこら)を訪ねた。

 祠は路地裏の古びた鳥居の背後に、忘れ去られたように置かれていた。江戸の昔からずっとその場所にあって、いわくつきの富を手にした者が、それが原因で大きな厄災を被るのを防ぐために祀られているものだった。

「貧乏神、貧乏神はいるか」
「その声は守護役の生き神か。例の娘の病を昇華しに来たのだな」
貧乏神が首だけを祠から出してそう言った。

「この者から風邪以外の疾病懸念を引き取ってもらいたい」
 俺は貧乏神の面前に死神から受け取ったファイルを広げた。

「等価で、三千七百八十四不幸……」

 財布を落とす。仕事が認めてもらえない。

 好意を持った男性に無視される。お茶をこぼす。

 弁当を忘れる。通り過ぎる車に水たまりの泥をかけられる。

 宝くじ三角くじはみなハズレ。ガラガラ抽選は全部ティッシュ。

 電車やバスは直前で発車。夜中に間違い電話をかけられる。

 鳩に糞を落とされる。役場に行けば長蛇の列。買い物で並べば前の人でSOLD OUT。

 貧乏神は命に関わる疾病を、彼女であれば我慢できる不幸と取り替えてくれた。

 ただ、その数が多い……。

 今日も朝から通勤用の自転車がパンクし、電車に乗り遅れて遅刻。

 さらに同僚のミスで巻き添え叱責。

 先輩社員・吉川の寿退社送別会が長引いて終電を乗り遅れ、タクシーで帰宅。

 玄関前でゲロという予定だ。

 どうして永瀬響子という女が、不幸と等価交換しなくてはならないほど疾病のリスクが高いのかといえば、彼女の青年期における『健康係数』が異常に低いからだ。

人間は、胎児期、幼年期、青年期、壮年期、老年期と、それぞれランダムに『健康係数』を与えられて生まれて来る。ところが稀に(余命があるにも関わらず)一時期の『健康係数』がゼロに近い者が現れるのだ。

 我ら生き神は、そうした者達を、出来る限り生き存(ながら)えさせる仕事をしている。その目的で、次々と不幸を与え続ける事になるので、守っている人間から逆に恨まれるというのが辛いところだ。

 しかし響子は、『不幸の洪水』に見舞われながらも恨みがましいことを一切言わない。

 一昨日もこういうことがあった。買ったばかりの定期券を落としてトボトボと歩いている響子を、少しだけ霊能力のある易者が呼び止めたのだ。

 易者は響子の背後にいる俺を指差して「そこのお嬢さん、あんたは貧乏神に取り憑かれておる。早うお寺に行って祈祷を受けなさい」と告げた。

 俺は貧乏神ではなく生き神なわけだが、「まあ似たようなものか……」と、苦笑していると、

 驚いたことに彼女は易者に向かって、「大丈夫です。私には貧乏神さんなんて取り付いてはいません。守ってくださる方がいるだけ。そう感じるんです」と、笑顔で答えたのだ。響子に霊能力はなく俺が見えるはずもない。だが彼女はなんとなく守護者(俺)の波動を感じていたのだろう。

 健気なる者よ、我慢せよ。30歳を過ぎれば、お前の『健康係数』は高くなる。しかも、これまで不幸に見舞われた反動で耐久力も付き、幸運が怒涛の如く舞い込んで来るだろう。

 俺は出勤前の自転車のパンクに焦っている響子の髪をなでながら「がんばるんだぞ」と呟いた。  
 

                (おしまい)
 
  ツイッターのフォロアー募集してます!
 ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑
リンクフリー。大歓迎です!

どのような感想でも頂けると幸いです

スポンサーサイト

コメント
この記事へのコメント
こんばんは~~(^0^*)ノ
とっても面白かったです~~~!!
そうですね~~(^^*)
響子さんは30歳になったら運も上向いて来るんですね~
よく、体が弱くて二十歳まで生きられない・・・
って言われてたけど意外に長生きした、って話しがあるけど
案外そういうことかもしれませんね(^v^*)
それにしても、生き神さまも
そんな風に言ってもらえれば
生き神冥利につきますよね~v-238
2017/07/26(水) 00:27:36 | URL | かじぺた #-[ 編集]
 >かじぺたさん、いつもありがとうございます。

 世の中には、誠実なのにどうしてこの人ばかり貧乏くじを引くのだろうと思われるような人がいますからね。
 もしかしたら、こんな仕組みにでもなってるんじゃないだろうかと思って書きました。(^▽^)/
 この小説は視点を変えての二段構造になっているので、面白いと言って頂けてホッとしました。
2017/07/26(水) 12:50:45 | URL | カツオシD #-[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック