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自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2019年03月11日 (月) | 編集 |
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 写真は記事とは関係のないウチのクロちゃんです。

     【 エイリアン達 】 

 この小説は以前に書きました「ガイダンス」など3本の小説をまとめて書き直したものです。


 2023年という年は人類の歴史上最も記憶すべき年となった。
 それまでエリア51に宇宙人の死体が隠されているとか、アメリカ国防総省は既に宇宙人とコンタクトを取って、密かにUFOの技術を軍事転用すべく研究しているとか、旧ソ連の時代からロシアでは、その存在に気づいて、月の裏側にある彼らの基地に軍人を送り込んでいる等、真しやかな噂話がテレビの特番を賑わせて来たが、この年の6月7日、まるでムクドリの大群の様に無数のUFOがニューヨークや東京といった大都市上空に同時出現した事で人類の誰もが宇宙人の存在を認めざるを得なくなったのだ。

 勿論、予告なく現れたこれらの招かざる客達をただ呆然と見ていた訳ではない。すぐに各国の空軍が追い払いにかかったが、UFOの速度は想像を絶しており、さらには予測できない角度で旋回し、最新鋭の戦闘機でさえ翻弄されるばかりだった。中には有無を言わせず地対空ミサイルで撃退しようと試みた乱暴な国もあったが、それらのミサイルは一発として当たらず、空中で炸裂もせず、後にネバネバしたシートで丁寧にラッピングされて、基地に送り返されるといった屈辱を得た。

 圧倒的な実力差を見せられた人類は宇宙人に対する抵抗を無意味と判断した。さらに、UFOの側からは、これまで一切攻撃を仕掛けて来なかった事から、彼らの目的が侵略ではないと希望的観測をした事により、この上はできるだけ穏やかにコンタクト(接触)が取れるようにと軍を引いた。

 果たして翌6月8日、ニューヨークの国連本部上空にマンハッタン島を覆い尽くす程の巨大な母船が出現し、そこから小型のシャトルが一機降りてきた。

 各国の国連大使達が固唾を飲んで見守る中で姿を表したのは・・・、

①  水の惑星からやって来たのか、半魚人の様にウロコで覆われた鮒顔の宇宙人だった。
②  身長3m、キノコの傘状の頭で全身が滑(ぬめ)った、異形の宇宙人だった。
③  まるでエジプトピラミッドの壁画にある人物の様に細身で獣頭の奇妙な宇宙人だった。


①と思われる方は《 空から降りてきた魚 》の章へ
②と思われる方は《オリエンテーション》の章へ
③だと思われる方は《最後の審判員》の章へにお進みください。


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   《空から降りてきた魚》

 それは昔の映画にあった『半魚人』に似た姿をしていた。

 鮒のような顔で、全身が鱗で覆われた二足歩行の宇宙人! 服らしきものは着用せず、背中に担いだボンベから伸びたチューブを鼻に差しているだけ。

 その冗談のような絵面に、誰もが我が目を疑ったが、そもそも国連本部・平和の鐘横の広場にUFOから発射されたシャトルが着陸している事自体が信じられない光景だった。

 とはいえ、遥か銀河の彼方から訪れた使節を放っておく訳にはいかない。
 国連における宇宙局はウィーンにあり、異星人との接触は宇宙空間事務所(UNOOSA)局長マ◯ラン・オスマン氏が担当する事になっていたのだが(本人は公式には否定)彼女はこの時、ニューヨークにおらず、また宇宙空間事務所自体が形式上の機関であった為、事務総長が駆り出されることになった。

 事務総長は、映画・マーズアタックのような悲惨な目に合わない事を願いつつボディランゲゲージで必死に親愛の情を表して、おずおずと宇宙人達の前に進み出た。すると彼らの一人が事務総長の差し出した手を握り、ハグしたのだった。
期せずして群衆の間から拍手が巻き起こったのは言うまでもない。
 人類は初めて異星の客と心を通い合わせたのだ。

 というわけで国連では緊急に宇宙から来た親善使節をもてなす準備が進められたのだが、高齢のオスマン博士に代わり、実際に宇宙人を接待する役目を担う人選を巡って紛糾した。なにせ相手の文化も分からず、言葉も通じない為、ボディランゲージから基本的な言語の収拾を図るという役目まで担わなければならないからだ。

「職員の中に一人、空石加奈子という天才的な語学力を持った女性がいるんですが・・・、彼女はさらに、学生時代にはメイド喫茶で働いていたというキャリアもあります」 
 安全保障理事国の日本代表がこう述べると、

「空石さんですか。確かに彼女は有能だが貴国の食文化を考えると、魚型の宇宙人の接待係というのはまずいのでは? もしスシでも食べさせて激怒されたらどうするんですか」
 と、常任理事国のフランスが懸念を表明した。

「こんなことなら、1977年にグレナダのゲイリー元首相が宇宙人対策を提唱した時にもっと真剣に討議しておけばよかったものを」
 同じく常任理事国のイギリス代表が愚痴ると、

「宇宙人とか超能力等を最も軽視していたのはイギリスとフランスではないのかね」
 と、これも常任理事国のロシアが皮肉るという始末だった。

「それよりも、本人がこの役目を担ってくれるのかどうかをまず聞くのが先決ではないですか? あのような恐ろしい相手を接待するのは若い女性には酷だと思いますが?」
 安全保障理事国・アフリカ選出のナイジェリア代表が冷静に言った

「では彼女が引き受けてくれるかどうか尋ねてみましょう」
 日本代表が言った。すぐに空石が呼ばれ、本人の意志を確認すると、
「やります! ぜひやらせて下さい。私はお魚が大好きなんです!」
 と、快諾した為に、臨時ではあるものの接待係はこの若い日本人女性に決まった。

 空石が国連本部内に急きょ設けられた特別室に入ると、宇宙人達は部屋の中に運び込まれた巨大なジャグジーの中で水浴びをしている最中だった。

「マイ ネーム イズ カナコ(国連の公用語には日本語が含まれない為)」
 と、空石がボディランゲージで伝えると、最初宇宙人達はポカンとしていたが、やがてその中の一人が、それが名を現すものと認識したようで、立ち上がり、
「ブゲゲ ベドベケ ボマブファ」と言った。

 別の一人は「ブゲゲ ベドベケ ギジョマ」と言い、最後の一人が「ブゲゲ ベドベケ デシャポ」と言ったので彼ら(もしくは彼女達)の名前がそれぞれ、ボマブファとギジョマとデシャポであることが分かり、同時に、ブゲゲもしくはベドベケのどちらかが『私』にあたることが分かった。

 こうしたボディランゲージのやり取りの中で、空石はわずか数時間で彼らと簡単な会話を交わすことができるようになった。

 その中で分かった事だが、彼らは(ボマブフイア達は全員男性らしい)星間連邦とでも訳される宇宙共同体から派遣された代表で、惑星の外にロケットを飛ばせるようになった人類が共同体の一員としてふさわしいのか、あるいは監視対象とすべきなのか、もしくは知的生命体に値しない存在なのかを見極める役割を負ってこの地に降り立ったらしい。

 その場所が奇しくも国連本部だった訳は、地域を表すシンボル(旗)が最も多く並べられているのを、事前情報として掴んでいた為のようだ。さらに空石は、彼らがどの星から来たのかを尋ねると、それは最近地球で存在が確認されたばかりの惑星・ケプラー186fで、(彼らの呼び名はトララ。従って彼らはトララ星人といえる)宇宙的規模でいうと、ついお隣の惑星である事が分かった。それと彼らトララ星人の食事は地球時間だと週一回程度であることから、滞在中の食事を用意する心配もないという事だった。

 わずかな時間で、これだけのコミュニケーションを取った空石に世界は驚愕し、彼女は正式な接待係に任命された。

 翌日、全世界のマスコミが注目する中、通訳の空石を交え常任理事国5カ国の国連大使とトララ星人が顔を合わせる事になった。
「ベベドラ バブシャ キラキド アメリカ、ロシア・・・」
誰にも分からないトララ語で大使達を紹介する空石に各国代表は一抹の不安を覚えつつ、運命を委ね、558光年離れた惑星から来たトララ星人と会談を行った。

 その結果、この半魚人のような外観のトララ星人は意外に紳士的で、ようやく惑星外に歩みだしたばかりの幼い文明しか持たない人類に対して好意的である事が分かった。

 話は星間連邦に属する宇宙人達の地球への観光や、人類に対する技術移転等にまで及び、「これほど短時間で文明の異なる者同士が意思疎通できるとは! 空石さんのおかげだ」
 と、アメリカの国連大使が大絶賛した。

 会談は和やかなムードで行われたが、一度だけ場が緊張する事があった。それは、
「ボコマ ベッテリ パムパウ メント(地球人はどんな物を食べているのですか?)」
とトララ星人が聞いた時、空石が「ブゲゲ メント スシ ラル(私はスシが好きで、よく食べます)」と答えた時だった。言葉自体はわからなくとも、そのやり取りの意味が不思議に大使達にも分かったのだ。

 しかしその心配は杞憂だった。地球人が同じ哺乳類を食べる事があるように魚類に近いトララ星人も同じ魚類を食べる事が分かったからだ。
 大使達はホッと胸をなでおろした。

 今回の使節は、あくまで星間連邦からの公式使節団に対する、先鞭をつけるのが目的である為、滞在は明日の予定という事だったので、今夜は国連本部内でささやかなパーティが開かれる事になった。

 通常であれば使節団の労をねぎらう為に、ハリウッドスターや美しいホステスでも呼び、お世話をさせるところだが、彼らは人間ではない。どんなおもてなしをするべきなのか、文化人類学者も交えて考えた挙げ句、一応聴覚があるようだからストリングスの演奏なら喜ばれるのではないか、魚類に近い人達なのでバニーガールよりも、水槽を置いて美しい観賞魚を置いてみてはどうかという話になった。その観賞魚についてもトララ星人の容貌が鮒に似ているので、金魚が良いのではないかという結論に達した。

 かくて近郊から、よりすぐりの金魚が集められパーティ会場の大きな水槽に放された。

 トララ星人は地球の音楽に心惹かれたようで、矢継ぎ早に楽器に対する質問をしてきた。これはおそらく彼らの惑星ではあまり音楽が発達していないのだろうと推測された。

 パーティが進むうち、やがてトララ星人は会場の隅に置かれた大きな水槽に気づいた。
 中にはいずれも20㎝を超える最高級で色とりどりの金魚達が泳いでいる。ランチュウ、オランダ獅子頭、頂点眼、水泡眼、いずれも惚れ惚れとするような美しい金魚だった。

「デポハ(これは?)」
 文化人類学者が「人から見ても美しい金魚達は鮒に近い彼らには天使に見えるでしょう」と語った通り、トララ星人は金魚に興味を示したようだった。

 空石は、それが金魚というもので、元は目立たない川魚だったが、人間が千年もの時を経て改良し、このような美しい姿にしたのだと説明し、地球人がいかに美しい金魚を愛しているかも補足説明した。

「ザッシュ デポパ テラルー メケネベク(つまりこれは人間が作ったものなのですね」
「アイヤー ザザック ベッテリ ユル テラルー クエ メケネベク シュラシュラ (そうです。人間が作り上げたもっとも美しい生物と言えます)」
空石は、美しいという言葉を強調した。

 トララ星人の表情は読めないものの、かなり金魚を気に入ったのか時の経つのも忘れて魅入っているように見えたので、金魚を勧めた文化人類学者と空石はハイタッチをした。

 翌日、シャトルから母船に戻る彼らを見ようとタートル・ベイ近くの沿道には観衆が押し寄せた。誰もがマスコミを通じて異星からの使節団との間に友好関係を築けた事を承知しており、これから訪れる新しい時代に思いを馳せているようだった。

 トララ星人達もそれに答え、手を振りながらシャトルに乗りこんだ。
 国連事務総長も、今回の接待がうまくいった事を確信したようで、地上を離れていく彼らのシャトルを見送りながら、空石の耳元でグッジョブと囁いた。

 全てがうまくいったように思えた今回の接待だったが、空石には一つだけ気になる事があった。

 それは、トララ星人の一人、ボマブファがシャトルに乗り込む直前、隣りにいた同じトララ星人のデシャポに向かって押し殺した声で耳打ちをした一言だった。

 彼は、大勢の見送り客を指差し「テラルー ベッテリ クエ ベツベク (やつらも美しくしてやるか)」と言ったのだ。

               ( 空から降りてきた魚 了 )

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    《オリエンテーション》

ザブト・バッキャは見た目がちょっと怖い。

 身長が3メートル少々、体重は約400キロ。表面が粘液で滑った灰色の肌、頭の周りに均等に散らばった8個の目は落ち窪んで白目がち。鼻の穴はやたら多く口は中央の肉柱を起点に360度どこからでも開く。

 そう、ザブトは地球人ではなく、星間連邦でも屈指の文明星、キハナブラ星人なのだ。

 だが、その見た目とは裏腹に五等級文明しか持たない地球人に対しても実に紳士的で、日本政府・交渉人(ネゴシエーター)の荻野昌に対しては英語ではなく、流暢な日本語で丁寧に星間連邦の取り決めを説明してくれた。そればかりか取材する記者達にも恐怖感を与えぬよう声量を抑えて穏やかに、また誠実に質問に答えていた。

「連邦では遺伝子操作が禁止されているので、こういった植物の栽培は違法になります。掛け合わせの品種改良はケースバイケースといったところでしょうか」

 ザブトは遺伝子組み換えで巨大化したナスビを、細くて長い手に取って言った。

「例えて言うならば人間がミルクを絞らなければ乳房が際限なく膨らむ牛とか、毛を刈らないと動きが取れなくなる羊等は自然界に存在してはいけないと規定されているのです」
 記者達はザブトの言葉を一言も漏らすまいと、マイクを彼の口らしきものに向けた。


 数ヶ月前ニューヨーク国連本部前に宇宙人が降り立った。

 どんな恐ろしげなエイリアンが現れるのだろうと見守る各国国連大使や大勢の見物人の前に姿を表したのは、ハリウッドのSF映画でさえお目にかかったことがないほど異形のエイリアンだった。

 しかし、当初はその姿に衝撃を受けた担当の国連職員も地球の言葉を話し、態度も紳士的なこの宇宙人にしだいになれていった。それどころか星間連邦における主要な構成星のうち、キハナブラ星が人類の指導担当に選ばれたのは幸運だったとさえ思うようになった。

 というのも理事惑星の中にはあからさまに低級文明をネグレクトする星もあるようで、無作為に選んだ非征服民の中に不満を抱く者がいれば、即刻惑星自体を破壊するという凶悪な事でも平気でやってのけるらしい。その点キハナブラ星人は親切で日本にザブト・バッキャを派遣したように他の国々にも満遍なく指導員を派遣し、人類がうまく連邦規定に適合できるように努力してくれている。

 それゆえ、人類もキハナブラ星人の期待に答え、地球時間で十年という猶予期間の間に連邦への加入条件を整える必要があった。もしそれができなければ人類には等外文明種に降格という暗い運命が待ち受けているのだ。

 ここでいう級外文明種とは監視対象種族もしくは知的生命外種を指す。一例を上げれば、恒星カンビウスの第二惑星人は夜郎自大で、連邦の要請に従わなかったばかりか、説得の為に派遣された理事惑星の要員を切り捨て路上に晒した事で、知的生命外種と見なされ、狩猟ゲームの対象にされてしまった。

 今では文明そのものも失われ、家畜級種族に格下げとなったカンビウス第二惑星人は、肉はアンタレス周辺にある宇宙レストランの各店で名物パイの材料に、皮は安価な敷物として連邦各地の家具屋で売られているという。
 要するに、『連邦規約』をクリアーする事は人類にとって至上命題なのだ。だからこそ、日本でもザブト・バッキャの指導を忠実に実践する必要があった。

 ザブト・バッキャはなおも語る。

「勿論、地球人にも生命倫理に関する基準はあるかと思います。しかし荻野さん、ここは異を唱えず私の言う事に従って下さい。遺伝子操作種や、全面的人間依存型の家畜等は、これ以降生産してはなりません。ですが、今いる個体が命を全うするのは待ちましょう」
「というと、ホルスタインのような牛、メリノ種のような羊等、今生きている個体を抹殺しなくて良いのですね」
 荻野は少しホッとした。

「当然です。彼らだって生きています。必要でなければ殺処分する事はありません!」
 ザブトのその言葉は、荻野や秘書官、そして周りの記者達にも大いなる希望を与えた。

 この恐ろしげな風貌の宇宙人が意外にやさしい心を持っている事が分かったからだ。

「もう一つ、外来種は本来の生息地に戻すこと。これはそうしないと元々その地域にいた、同種の生物の絶滅を招くからですが、地球ではどのように規定されていますか?」
「地球でもそれが理想と考えられています。ですが・・・」
 荻野は答えに詰まってしまった。というのも日本中のアライグマやアメリカザリガニやブラックバス、ミドリガメ等を全部捕まえる事すら困難なのに、それらを『生きたまま』本来の生息地に返す事など出来ようはずが無いからだ。種によっては捕らえ次第、殺処分にされている。だが、もしそれを言ってザブトを怒らせてしまったら・・・。

「おや、実行されていないのですか?」
 ザブトは不思議そうに尋ねた。
答えに窮した荻野に変わって答えたのは一人の某新聞・記者だった。
「我々もそうしたいと思ってはいるんですが、数が多くて技術的に困難なんです。例えばブラックバスでは釣り上げた個体を持ち帰って食べるか殺処分し畑の肥しにしています。それでも全てを捕獲できません」

 するとザブトは「なるほど。よく分かりました。確かに現在の人類の技術では困難かもしれませんね」と大きく頷き、
「ならば、我々がお手伝いしましょう。ヒハナブラ星のボランティアは染色体レーダーを持っており、潜んでいる外来種も上空から簡単に発見し捕獲できますし、捕らえた個体を一挙に原産地まで運ぶ技術もあります。うまくいけば数ヶ月で日本中のアライグマやウシガエルをアメリカに送り、向こうからは野生化して増えてしまったニホンザルや葛、桜等を日本に送り返すことができます」
 その言葉に荻野は少し引っかかりを感じた。

「桜? もしかして1912年に日米友好の為ワシントンDCに送った桜まで日本に戻すということですか?」
「あのサクラはSSR比較法で日本原産種のソメイヨシノと分かっていますので」
「いや、しかし。それは・・・」
「荻野さん、残念ですが星間連邦は例外を認めないのです。同じ様に日本中にあるサボテンはメキシコに、シクラメンはヨーロッパに送り返すことになります」

 さっきケースバイケースも有り得ると言ったんじゃないのか? いやそれよりも、元々日本の自生種ではなかったジャガイモ等の野菜類はどうなるんだ? 
 荻野は言いようの無い不安に包まれたが、それを言い出すと、さらに恐ろしい事態になりそうだと思って口をつぐんだ。

「それから、言いにくいのですが、人間、要するにあなた達ホモサピエンスが、アフリカ原産であるのはご存知ですね。およそ10万年前の話になりますが」
 ザブトはとんでもないことを言い出した。

「いや、だって渡り鳥や回遊魚等、人為的に運ばれて来たのではなく自主的にやって来た、あるいは自然に種が飛ばされて自生した生物は別ではないですか?」
「荻野さん、もしかしてホモサピエンスが自主的に海を渡ったとお考えなのですか?」
「え、ええ我々はそう認識しておりますが・・・」
「あなた達が知らないのも無理はありません」
 ザブトは大きなキノコ状の頭を前後に振って、いくつもの鼻からため息を吐き出した。

「ですが残念ながら、荻野さん達のご先祖のホモサピエンスを各大陸に運んで来たのは、あなた達が『グレイ』と呼んでいる不良宇宙人なんです。本来ヨーロッパにはネアンデルタール人が、インドネシアにはジャワ原人が、中国には北京原人が、この日本には明石原人が住んでいました。それらを根絶やしにする形でグレイ達が霊長類の移植実験を行っていたのです。この辺りがあまりにも辺境である事と、グレイ達が実験を巧妙に隠していた事から我々がその事を知ったのはつい最近でした」
 それは驚くべき話だった。

「そんなバカな。ネアンデルタール人はともかく、他の原人はホモサピエンスと時代が違う! ホモサピエンスが登場するはるか前に滅んだ原人もいるじゃないですか」
 そう口を挟んだのは某週刊誌記者だった。

「実は滅んだのではなく、グレイが他の惑星に移して進化実験をしていたのです。従ってネアンデルタール人も明石原人もグレイが連れて行った惑星で生息が確認されています。彼らとてこの星の原産ですから、地球の元の生息地に戻ってもらわなくてはなりません。要するに、ネアンデルタール人はヨーロッパに、明石原人は日本にという訳です」
「するとザブトさんは、ホモサピエンスである我々全員がアフリカに戻れというんですか」
 荻野は感情を押し殺して冷静に尋ねた。

「私が命令するのではなく、これは連邦規約なのです」
「バカな! 80億人もいる人類全部をアフリカに閉じ込めるというのか」
 一人の興奮したテレビクルーがザブトに詰め寄ろうとしてガードマンに制された。

「正確に言えば、今のサハラ辺りです。南部には同じ霊長類のゴリラがいますので」
「しかし今の人類ならばすぐにアフリカを自主的に出て、元の国に戻って来ますよ」
「星間連邦は千年間、それを禁じます」

「それでは我々は飢え死にしてしまう!」
 先程のテレビクルーがガードマンの静止を振り切ってザブトの前に出た。
「大丈夫ですよ。我々の手で少し間引いて差し上げますから」
 そう言ってザブトは巨大な口を開き、その記者を丸呑みにした。

                       ( オリエンテーション 了 )
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     《最後の審判員》

「う~む、これは・・・」
 河上総理が内閣情報調査官の田代が差し出したファイルを見て絶句した。

 そこには官民問わず数千人を動員し、わずか一週間で仕上げた『吉岡雅也』に関する、(生まれてから四七歳になる今日までの)詳細な記録が書き込まれていた。
「概略を述べてくれ」
 佐竹官房長官が言った。

 田代は内閣の主要閣僚と公安関係者、アメリカ他、数か国の大使の前で『吉岡雅也』の略歴及び現在の状況を読み上げた。
「吉岡は七歳の時に両親が離婚、その後は母親に育てられています。生活は貧しいながらも、仲の良い親子でした。しかし小学校・中学校を通じて壮絶なイジメにあっています」
 イジメという言葉を聞いて数人が顔をしかめた。

「それは担任の証言なのか?」官房長官が尋ねた。
「そうです。彼の小学校の担任は、当時採用されたばかりで、吉岡をよく覚えていました」
「ガッデム!」アメリカ大使が忌々しげに言った。

「続けてくれ」
「きっかけは朝礼で放った校長の一言のようでした。吉岡は少し歯が出ていて、普段の顔が笑っている様に見えるのです。自分の訓話をまじめに聞いていないと激怒した校長は、『そこのクラス、ふざけてるんじゃない!』と、怒声を発しました。その事で、クラスの数人の子供達が『お前のために怒られたじゃないか』と因縁を付けたのです」
「アンビリーバブル」と言ったのはイギリス大使だった。
「日本ではそんなことで、全体が責任を問われるのですか?」
「いえ、クラスの子らは、安全にイジメる事ができる生贄を探していただけのようです」
 つまりその瞬間に、吉岡は学級カーストの最下層に置かれたのだ。

「ただし、彼はめげませんでした。場を和ませる為に笑顔を絶やさず、また当時テレビで流行っていた、『なんちゃって』等のギャグを連発し、クラスメイトと仲良くなりたいと努力したようです」
「で、結果は?」官房長官が促した。

「まさに火に油でした。それはクラスの中心人物の野島や三浦をさらにイラつかせました。彼らは教育熱心な両親の元、有名私立中に入るよう厳しいプレッシャーをかけられており、ストレスが貯まっていたのです。野島はあの頃を振り返って、まるで催眠術にでもかかったように吉岡に腹をたてていたと言っています」
「つまらんギャグの連発か・・・。フン、確かにそれはイラつくかもな」
 自身はエリートコースを歩んできた大山文部大臣がポツリと言った。

「吉岡にとって不運だったのは、野島や三浦達と中学時代も一緒に過ごさねばならなかった事です。野島達は受験に失敗して以降、生活も乱れていました。吉岡は学内では毎日のように暴行を受け、外では野島達の遊興費を稼ぐ目的で、万引きをさせられていました。それにより吉岡は何度か補導され、引き取りに来た体育教師から今では考えられない程の暴行を受けています。それでも彼は万引きの訳を語らなかったようです」

「小中学校で九年間も加害者と過ごすのはいじめられっ子にとっては悲劇だな。だが中学卒業後、吉岡は就職できたんだろ。すぐに辞めたようだが・・・」
「ハイ、どう言えば良いのか・・・、人には誰からも攻撃の対象にされ易い者がいるようで、この吉岡が正にそれです。彼は入社して早々、社訓を読む表情がニヤけていると社長から怒鳴られた事で上司が社長の気持ちを忖度し、厳しい訓練で知られる社員研修会社に身柄を預けられました。そこで吉岡は教官から激しい仕打ちを受けたのですが、例によって彼は、その場を和ませようと『なんちゃって』等の冗談を言ったのです」

「そりゃ大変だねえ・・・」飯島法務大臣が思わず失笑し、口を押さえた。
「元々、軍隊教練のような場でしたから教官は激怒し、危うく吉岡は殺されかけました。その後、研修会社は吉岡の上司に『この人物は将来に於いても全く見込み無し』と書いて寄越したのだそうです。その結果、吉岡はクビになりました。しかも、どうせ辞めていく人間だからと、当時捜査の対象になっていた使途不明金の責任を押し付けられたようです。後から、それは古参の事務員が株の損失の穴埋めに横領していた事実が判明しています」
「はあ・・・」
 小辻財務大臣がため息を付いた。

「で、その後は?」
「吉岡は懲戒処分を受けた事で、新しい職が見つからず自宅アパートに引きこもります。その八年後に母親が死去。家賃が払えず二十七歳でホームレスになりました。以来二十年、大阪のあいりん地区で、時々は日雇いをやりながら、西成労働福祉センター脇で路上生活をしています」
田代調査官が残念そうに唇を噛んだ。


 数ヶ月前、ニューヨーク国連本部前に宇宙人が降り立った。

 どんな恐ろしげなエイリアンが現れるのだろうかと見守る各国国連大使や大勢の群衆の前に姿を表したのは意外にも小柄な女性の姿をした宇宙人だった。しかも獣の仮面を付けたその姿は人類の誰もが見知った古代エジプトの壁画に描かれたキャラクターと似ていた。大方の人々が少し安心した瞬間、ニューヨーク博物館に務める女性学芸員が悲痛な叫びを上げた。「大変、セクメトだわ!」
 それは古代エジプトの神話に現れる最凶の女神・セクメトそっくりだったのだ。

 セクメトは、どう対応してよいのか分からずに立ち尽くす国連事務総長の前に進むと、記録用のタブレットを持った職員を無言で指差した。彼女はそのタブレットを見るように指示すると、踵を返してシャトルに戻り、そのまま空に消えた。
 彼女が指し示したタブレットには、画面全体にヒエログリフ(象形文字)が表記され、それが宇宙人達のメッセージになっているようだった。

 国連を始めとする国際機関が全力で文字を解析した結果、そこには恐るべき内容が記されていた。要約すると彼女達は、間引きを担当する宇宙人で、対象の文明を存続させるか滅亡させるかは、その構成員(つまりは地球人)から無作為に三名を選び出し、その者を審判員として自由意志で存続か滅亡かを決定させるという事だった。

 人類自らが運命を選ぶのであれば、滅亡はあり得ないと思われるが、補足説明によるとこの試練は古代エジプトのプトレマイオス朝時代にも一度行われており、その時にはテーベの奴隷が滅亡を選択したものの、他の二人が存続を選んだ為に人類はまびきを免れたとあった。つまり、くじ運悪く、へそ曲がりか、生きていく事に絶望した人間が二人選ばれてしまえば、人類は滅ぼされてしまうという事になる。

 いったい誰が選ばれるのか?
 人類全体が不安を持って経緯を見守っていた処、十日前になってようやくアラブ王族のイブン・フセイン、アメリカ人のキャサリン・ベッカード、日本人の吉岡雅也という名前が、世界中のパソコンにヒエログリフ表記で発表されたのだ。

「一人は日本人なのか。ならばすぐにこの人物を探し出して晩餐会に呼べ!」
 河上総理がそう命じたのは、当然だった。
 しかし人物の身元が分かった時点で、既に身柄を確保する事は不可能だった。
 選ばれた三名は発表直前に『UFOにより空に巻き上げられた人』としてユーチューブに載せられていたのだ。
 かくなる上は発表された人物の素性を洗い、分析をするしか手立ては無かった。

 ただ、三人が三人共、アメリカ、日本といった裕福な国の国民+アラブの王族という、経済的に恵まれた人達である事は誰の目にも幸運に思えた。が・・・、
確かに石油によって贅沢に暮らすアラブの王族イブン・フセインが滅亡に一票を投じるのは無いだろうが、アメリカ人のキャサリン・ベッカードなる人物は相当厄介な人である事実が判明した。彼女は、ハルマゲドンを待ち望むカルト教団の教祖だったのだ。
要するに残る一人、吉岡雅也こそが人類の運命を決める、希望の星といえた。

 それなのに・・・、

「よりによってホームレスか・・・」
河上総理が頭を抱えた。

 しかし、吉岡についてポジティブな見方をする者がいた。アメリカ大使の後ろに控えていた男で、穏やかな表情とは裏腹に、鋭い眼光を持った男だった。
「我々の分析では王族のフセインは今の生活に満足している為、クリアーできるでしょう。キャサリン・ベッカードは、今回の事を最後の審判と捉えるでしょうから、滅亡に一票を投じるはずです。残るミスター吉岡によって人類の存続が決まりそうですが、彼は今まで二度の自殺未遂を犯しているものの、他人を巻き込まない配慮が見られました。今回のみ全世界を巻き込もうとは思わないはずです」
「君は?」
「失礼しました総理、私は今回の事件でアメリカより派遣されました、FBI行動分析課ホッチナスというものです。我々の分析ではミスター吉岡は存続に一票を投じるはずです」

「総理、私も同意見です」と発言したのは佐竹官房長官。
「吉岡はこれまで常に迫害を受けていますが、復讐を企てた事は無いようです。子曰く、貧して怨み無きは難し。富みて驕る無きは易し。いやはや、彼は大した人物ですよ」
「しかし佐竹君、吉岡は宇宙船に空中転送されて自分が審判員だと分かったはずだ。つまり絶大な力を持ったことが認識されたはずで、これまでのように復習に失敗すればどうなるかを考える必要が無いという事じゃないのか?」
「心配しなくていいと思います。今回地球を救えば、それまでの彼の生活は一変します。おそらく日本だけでなく、世界中でVIP扱いになるでしょう。彼だってバカではない。こんな千載一遇のチャンスは逃さないはずですよ」
「それもそうだな。ならば我々は吉岡審判員が帰って来た時の叙勲の準備をしよう」
「我々もレジオンドヌール勲章を与えますよ」
 そう言って笑ったのはフランス大使だった。

「セクメトはファースト・コンタクトからちょうど一年後の6月8日、グリニッジ標準時、正午に結果を発表すると通告して来た。国民には吉岡さんを信じ、安心して待つよう報道しておきたまえ」
 河上総理は、居並ぶ閣僚や大使達に向かい、重々しく言った。

  そして運命の日・・・。

  地球の全ての都市が闇に閉ざされ、空に巨大なスクリーンが出現した。
 そこに映し出されたのはイブン・フセイン、キャサリン・ベッカード、吉岡雅也の顔。
 フセインが手を振り何かを指差して微笑んでいるところを見ると、彼らにも地上の人々の様子が見えるようだった。
 フセインのにこやかな表情は人々に安心を与え、アメリカ大統領はホワイトハウスの窓から見上げながら側近に「この事が終わったら、あの大統領以来制限してきたイスラムからの移民をもっと増やしても良い」と呟いた。
 一方で、目を閉じ、一心に祈るキャサリンの様子は人々に不安を与えたが、右端の吉岡が微笑んでいた為、どうやら二対一で人類の存続は間違いないようだった。
 吉岡は幸運な男だ。彼のその後の人生は一変するだろう。既にこの時、日本だけでなく世界中から数千人の女性が彼に熱い視線を送っていた。彼は世界を救う英雄であり、そのキャラクター価値によってスポンサーも付き、映画化もされ、数千億の金が転がり込んで来るだろう。そしておそらく近日中にタイムズ誌の表紙を飾る男となるだろう。

 世界中の人々が見守る中で審判が下されようとしていた。

 予想通りアラブの王族、フセインは彼の臣民だけでなく世界の人々に向けて慈愛を込めた表情で「私はこの世界の存続に一票を投じる」と力強く告げた。不思議な事に彼の話すアラビア語は、中国人にもブラジル人にも日本人にも母国語のように内容が理解できた。

 そしてまた予想通り、ベッカードは「この世界に今、審判が下される。神と共に有る者は天国への扉が開かれ、不信心者は地獄に落ちる。ソドムはたった今消滅する! 私は神の名の下にこの世界に終わりを告げる。滅亡!」
 その瞬間世界中でかってないブーイングの嵐が起きた。
 これで一対一。予定通りの展開だった。

 残るは吉岡一人。
 地球の人々は、それぞれの国の報道機関を通じて、彼の悲惨な生い立ちにもかかわらず人を恨まない性格を伝えられており、明るい希望と共に彼の名を連呼した。
 だが、彼の顔が先程と違って険しい。
 吉岡は、まるでヒットラーの演説のように押し黙ったまま、1分近く沈黙した。
 そして、おもむろに口を開く。
「地球は滅亡!」

「な、なんだとー!」
 全世界の人々が驚愕した。

「なーんちゃって、ウソウソ。俺はこの世界の存続に一票を・・・」
 だが、セクメトは最後まで聞いていなかった。

「△◯☓%◇!(あい分かった)」
 地球全体を揺らすようなセクメトの声が響いた。その言葉はおそらく古代エジプト語で語られたのだろうが、不思議にも世界中のどの国の人々も母国語のように感じ、その意味も理解できた。
 すなわち吉岡の冗談は宇宙人に無視されたのだと。

 やがて火星の背後にあるアステロイドベルトの中から、直径4キロ程の小惑星が地球に向かって移動し始めたという報告が天文台よりもたらされた。

        ( 最後の審判員 了 )
                     
 

   
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