自作のショートショート小説やライトノベルを載せていきます。
2017年01月11日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのシマポンママです。

   【 上々の客 】
 
 最近、本当に不景気だ。
 毎日店を開けていても、客が来ない日が多い。
 この店がある商店街は、郊外とはいえ駅前にあり、人通りがまったく無いわけではない。
 なのにどの店も閑古鳥が泣いていて、近頃ではシャッター通りと呼ばれているそうだ。

「ええっと、おたくは何時まで開いてますか?」
30分ばかりコートの試着を繰り返していた客がそう言った。
「夜は七時まで開いてます」
 俺はにこやかにそう答えたが、心の中ではため息をついていた。
 何時までと尋ねる客で、戻って来る客はまずいない。
「じゃあ用を片付けて、都合でまた来ます」
 二度と来ない客はそう言って店を出た。

 紳士用品の店・厚河商店は数年前に俺が経営を引き継いだ。
 店主が高齢で跡継ぎも無く、自宅件店舗を売り出していたので、昔から商売に興味があった俺が、妻の反対を押し切って買ったのだ。
 だがそれは失敗だった。
 商店の経営は外部の人間が想像するより厳しく、二人揃って会社を辞めた鈴木家の台所はたちどころに苦しくなっていった。
 再び都会で就職した妻は程なく俺に離縁を迫った。47歳になる俺と違って妻はまだ35歳。子供もいないので、人生やり直しがきく考えたのだろう。

店を大きくして、妻には早まった事をしたと後悔させてやろう。
そう意気込んで人気ブランドメーカーと契約したが、その選択はさらに経営を圧迫した。
現金問屋と違って、直接契約するブランドメーカーは、毎年ある程度のロットを買い付けねばならず、在庫ばかりがかさんで行ったのだ。
「これは契約を解除した方がいいです」
 と税理士にも言われ、今回で契約を打ち切ったが最後の支払いが今月末に迫っていた。

 つまり残り3週間ほどの間に30万円程用意しなければいけないのだが、銀行は融資をしぶり貯金も無く、生活費にも事欠く始末。近頃では食費も削り、朝取りした裏山に生える山菜やキノコをオカズにしているくらいで、このままでは怪しい金融機関に頼らざるを得ない状況に陥っていた。

 そんな時、現れたのがあの客だった。

 中肉中背の中年男。寡黙でこれといった特徴のない顔をしたその客はふらりと店に入って来ると、売れ残ったコートとセーター(7万円相当)を無造作に選び、カードを出した。
 
 高額商品をあまり迷いもせず、さっさと買う客は何か怪しい・・・。
 そう疑ったが、カードは別に女性名義でも外国人名義でもなかった。
なんと偶然にも名前の欄にはICHIRO SUZUKIとあり、これは俺と同じ名前だったが、鈴木一郎という名は、姓・名セットでは日本で一番多い名前だろうから、それはいい。
その上、客は慌てている様子もなかった。
 ただまあ最近では、そんな上客もいないだけに、俺は多少身構えたが、CAT(クレジットカード端末)はすんなり売っても良いとのシグナルを出してくれた。

「ありがとうございました」
 俺は深くお辞儀をして客を送り出した。
これで後、23万円ばかり都合出来ればメーカーへの支払いができることになる。残りは3週間あるので、少し早いバーゲンセールでも始めるか・・・。
と、考えていた処、翌日その客が再び現れた。

 今回もさっさとブランドのブルゾンやセーター、ジーンズ等を買い、代金は10万円余り。
 カードの方はこれまたすっきりOKが出た。
 もしかしたら単身赴任でもしておられる方で、出身地が暖かい県のため、冬のコート類の用意がなかっただけだろうか?
 それとなく聞いてみたが、口では答えず頷いたようでもあり、無視したようでもあった。
 まあ、いいか。2日連続して買う人もいないわけではない。そう思い返したが、その客は翌日もその翌日もやって来た。
 カードの売上金は15日までならその月の末日に5%の手数料が引かれた上で入金される。(客の方にカード会社から請求が来るのは翌月以降)
 おかげでおかしな金融機関で借りなくてもメーカーへの支払いができることなったが、あまりの都合良さに不安が募ってきた。

 あの客はいったい何者なのだろう? 本当にウチの店の商品が欲しかったのだろうか?
 もしかすると悪意のある客で、こちらの決算日を知っており、ギリギリのところでクレームでもつけて返金を迫り、破滅に追い込もうとしているのではないか?
 いやいや、俺は今までに人に恨まれるようなことはしていない。同姓同名ということからみて、あれは未来から助けにやってきた俺自身に違いない。
 などと、SFじみたことまで思い浮かんだが、実際そんなことはあり得ない。
 きっと頑張っているのにうまくいかない俺に、鈴木の神様が助け舟を出してくれたのだ。
 と、無理に納得してみたが、不安から変な汗まで吹き出てきた。

 翌日は定休日だったことから、俺は隣町にあるメンタルクリニックに出かけ、医師に得体の知れない不安に苛まれていることを告げた。
 と、しばらく質疑応答を繰り返していた医師は、おもむろに棚にあったファイルの中から一枚の写真を取り出し俺に見せた。

「最近では食費を節約するために裏山の山菜やキノコを採っていると言われましたが、そのキノコとはこれでしたか?」
 それは確かに最近よく食べるキノコだった。

「なるほど。これで分かりました。あなたは他からこの地方にやって来られた方だからご存知ではなかったのでしょうが、これはシメジではなく『思い込み茸』という毒キノコなんですよ」
「はあ・・・」
「つまりこういうことです。あなたは客を望むあまり、幻影の客を相手にしていたのです。おそらくカードの書類にサインしたのはあなた自身。だから客が同じ名前であったというのも当然です」
 医師はきっぱりとそう言った。

「いやそれにしても、ここに来られてよかった。自分のカードを使って自分の店で買い物をしたということになれば、カード会社から契約違反を通告されたり、粉飾決算にも問われかねません。しかし、こうしてメンタルクリニックに来られていたということであれば、罪には問われないでしょう」

 医師の話は驚くべきもので、とても納得がいくものではなかった。が・・・、
 翌日からはその客は現れず、後日、俺のパソコンにカード会社から、『鈴木一郎様・今月の請求額』として、客が買い物をしたのと同額が記されていた。
さらには離れて暮らす親父から、「一郎、コートやセーターを送ってくれてありがとう。あまり貰ってばかりでは悪いので、少しでも受け取ってくれ。商売がんばりなさい」という電話と共に20万円ばかり送金されてきた。

         ( おしまい )

   
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2016年12月14日 (水) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのチビポンです。

   【 鑑定しちゃうぞ 】
 

 インンターネットを見ていたらトッズの素敵なバッグを見つけた。
 欲しいなあ・・・。勿論エルメスなんかと比べると安いんだけど私にはちょっと高い。

 実は私はすでに一つ持ってるんだけど、これは真っ赤な偽物だ。お店をすでに辞めた子が3万円の借金のかたに押し付けた。その子は「失礼ねモチ本物よ」なんて言ってたけど・・・。

 私はスマホのアプリ『鑑定しちゃうぞ』を立ち上げて、パチリと写真を撮った。
 すると、撮られたバッグの写真に「ニセモノ~」という大きな文字が出た。
実は前に専門家にも鑑定してもらったことがあるけど、ニセモノと言われていたのだ。

 ところで『鑑定しちゃうぞ』というこのアプリ。これは最近すごく流行っているスマホ用アプリだ。絶対に正確というわけではなく、一応お遊びなんだけどよく当たる。
ブランドバッグなんかは本物が記憶されているようで、経年劣化以外の変異点があると「ニセモノ~」という表示が出る。

ただ、本物を委託されて製造している工場が影でコピー商品を作るとさすがに見分けがつきにくいと見えて「ワカンナイ~」と出る。
 その点は正直だ。面白いのは絵画の鑑定で、美術館で名画を鑑定すると「ホンモノ!」と出るが、展覧会のおみやげに買ってきた、印刷した名画をかざすと「ホンモノだけどニセモノ~」と出る。おそらく印刷したものはドットがあるとかで、見分けがつくのだろう。

 そればかりではない。面白いのはこのアプリ、おおよその値段まで教えてくれるのだ。
例えば有名な絵画では、直近の取引価格を参照して現在の推定価格を、そうでないものはアプリ独自の判断で、かってに値段を付けてくれる。つまり無名のイラストレーターの作品でもすぐれたものには「ホンモノ!」と出て作品に見合った価格が、有名であっても本当はデッサンの狂ったような作品には、容赦なく「ニセモノ~。1円の価値も無し~」と出る。人間が鑑定する場合と違うのは、その作家が人気あるとかないとかのプレミア価格は考慮されないことだ。

 つまり、このアプリがあれば、こんなニセモノのトッズを3万円の代わりに押しつけられることはなかったということで、あの時に知らなかったことが残念だ。
 と、そこで私の頭にひらめきが走った。

 確か私は値打ちの有りそうな大皿を三枚持っていたのだ。
実家とは縁遠くなった私だが、死んだじっちゃんから「あいつにもこれをやってくれと」骨董品の皿をもらっていたのだ。テレビで柿右衛門だとか古伊万里だとか言って鑑定してもらっている人は大抵がニセモノを掴まされている。じっちゃんの場合も悪どい店主からカモにされていた可能性が高いが、もしホンモノだったらトッズのバッグくらいは楽に買えるだろう。こんな便利なアプリがあるんだから、ちょっとやってみよう。

 そう思って押し入れに詰め込んであった『いらない物入れ』の中から昭和の古い新聞紙で包まれた大皿を取り出した。
 大皿はどれも直径40センチくらい。なにやら昔風の絵皿で、値打ちがあるんじゃないかな? という目でみれば、そう見えなくもない。
 もし1000万くらいするものだったらと思うと手が震える。とりあえず壁に立てかけて鑑定してみよう。

 私はアプリの表示が出ているのを確かめて、パチリと写真を撮った。すると・・・。
 まあ、そうだよね。「ニセモノ~。1円の価値も無し~」とでた。
 この皿だって料理に使えば1円の価値もないってことはないでしょうに。ずいぶん失礼な言い方ねと思いながらも二枚目を・・・。

 残念ながらこれも同じ結果になった。もしかすると皿の鑑定は得意ではないのかな? と思いつつ三枚目を撮ってみると、ジャジャジャーンという、今まで聞いたこともない音がして。「ホンモノで~す」とでた。ご丁寧に「古伊万里ではなく明治から大正に作られたもの伊万里皿で推定2万円」とある。『鑑定しちゃうぞ』は皿にも詳しかったのだ。

 2万円だとトッズは買えないけどサマンサタバサくらいは買えるだろう。
 私は皿がホンモノであったことがうれしくて、お店に出る時間が迫っているというのに、さっそくツイッターでみんなに知らせることにした。

 お皿を抱えての自撮りは難しい。私は顔写真は載せてないので、そこはギリギリ見えないようにしてカシャっと・・・。と、思ったら手がすべってズルットと皿が落ちそうになった。

「危ない!」
 すんでのところで皿を落とさずに済んだが、撮れた写真は私の顔のドアップだった。
 この時、まだ『鑑定しちゃうぞ』が残っていたのだろう。アプリはご丁寧に私の顔を鑑定してくれた。

「ニセモノだからホンモノ~」アプリは微妙な表現をしてくれた。
「そりゃそうでしょうよ。この業界、ホンモノだったらニセモノだもの」
 私はそうボヤキながら、新宿二丁目にあるお店に出かけた。

           ( おしまい )
   
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2016年11月14日 (月) | 編集 |
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  写真は記事とは関係のないウチのもんちゃんです。

   【 法事 】
 
 そいつは膝を抱え、座り込んだ姿勢のまま自転車並みの速度で、道路を滑る様にしてやって来た。
 よく見ると尻のあたりから小さな車輪が突き出しており、それが高速で回転することにより移動しているのだ。
 風に僧衣をなびかせながらから、その異様な風体で我が家に現れたのは檀家寺が寄越したロボット僧侶だった。

 この日は亡き祖父の27回忌ということで、庵本寺に連絡したのだが、折悪しく他家と法事が重なった為、申し込みの遅れた我家には予備の僧侶が派遣されてきたのだ。

「遅くなりました。わたくし、庵本寺より参りました庵宝と申します」
 ロボット僧侶は車輪を体内に仕舞い込むと乱れた僧衣を直し、首にかけてあった風呂敷包みを手に持ち替えて、深くお辞儀した。

「ご苦労様です」
 相手がロボットであることがわかっていても、姿形が人間そっくりな上、丁寧な挨拶をされると自然とそう答えてしまう。
 仏間に控える年寄りたちが、怒り出さないかと不安を覚えたが、背筋をピンと張り、風呂敷包みから取り出した袈裟を身に着けたその姿は風格がある。これなら昔京都から嫁いで来て法事には口うるさい叔母も容認してくれるかと思い、部屋に通した。

「遅くなりました。わたくし、庵本寺より参りました庵宝と申します」
 ロボットは先程と同じ言葉を繰り返した。

「あれ、若住職さん? 若い頃のお父さん、明珍さんにそっくりやないの」
 庵宝を見て叔母がそう言った。それはそうだろう、このロボットは現住職の20代の頃の姿そっくりに作られていると聞いたことがある。
「すると、家の前にフェラーリを?」
 母が小声で俺に言った。
 現住職は若い頃、フェラーリで檀家周りをして、大住職から大目玉を食らったことがあるそうだ。今はそういうことはないだろうが、その血を引く若住職なら同じことをするのではと思ったのだろう。
 要するに母も叔母もその他数名の参列者も、庵宝がロボットであることに気付いていないのだ。

「いや、歩いて来たみたい」
 俺は詳しくは説明しなかった。とにかく経を上げたら、さっさと帰ってもらおう。

 俺が仏壇の前に敷かれた座布団に案内すると、庵宝は落ち着いた所作で正座をし、少し間を置いてから朗々とした声で経を読み始めた。

 如是我聞 一時佛 在舍衞國 祇樹給孤獨園
 與大比丘衆 千二百五十人倶皆是大阿羅漢

 俺の背後に座った母と叔母が小声で「いい声ね」「シッ」と話しているのが聞こえた。
叔母の隣りにいた叔父も「ウンウン」と小さく答えているようだ。
 どうやらこのロボット僧侶は気に入られたようだ。

 復次舍利弗 彼國常有 種種奇妙 雜色之鳥 白鵠孔雀
 鸚鵡舍利 迦陵頻伽 共命之鳥 是諸衆鳥 晝夜六時 出和雅音
 其音演暢 五根五力 七菩提分 八聖道分

 そういえば『法事が重なりましたので、ロボット僧侶の庵宝を寄越します』と電話口で言った住職が、『彼には宗門の中でも非常に徳の高い僧侶の声が入ってますので』と語っていたことを思い出した。

 舍利弗 如我今者 稱讃諸佛
 不可思議功徳 彼諸佛等 亦稱説我 
 不可思議功徳 而作是言 釋迦牟尼佛 能爲甚難 希有之事 能於娑婆國土
 五濁惡世 劫濁 見濁 煩惱濁 衆生濁 命濁中
 得阿耨多羅三藐三菩提 爲諸衆生 説是一切世間 難信之法

 なるほど。時折躓くいつもの住職の読経とは違い、すべての経文が聞き取りやすく、ありがたい気がする。
 勿論、経文の意味も坊主の良し悪しも分からない俺だがこの経を吹き込んだ僧侶と、普段やってくる住職とでは格の違いが明白だという気がした。
 とはいえ、名のある高僧の音声データーだけならインターネットにも転がっている。
 宗門にはフリーの僧侶もいるだろうに、そちらを派遣せずロボットを寄越したのは、前回の法事の際のお布施が足りなかったせいだろうか?
 などと色々考えているうちに読経が終わった。

 きっかり15分。母がお茶を出さないうちにお布施を持たせて寺に返そうと立ち上がった時、また読経が始まった。
 終わったとばかり思い足を伸ばしていた参列者の縁者も、慌てて座布団に座りなおす。
「今回のお坊さんは丁寧やね」と叔母が母に囁いた。

 舍利弗 當知我於 五濁惡世 行之難事 得阿耨多羅三藐三菩提

 今回の読経もきっかり15分で終わった。

 やつが講話を始めてボロを出さないうちにと「ありがとうございました」と言って、庵宝の横にお布施の入った袋を差し出したのだが、ロボット僧侶はサービス精神旺盛なのか、またまた読経を始めるではないか。

 さすがに30分を超えての正座は苦しいので叔母達は奥の部屋で休みだしたが、母は俺だけでも坊さんの後ろで座っていろと言う。
 仕方がないのであぐらを組んで、もう15分付き合うことにした。
 で、今度こそ終わったと思ったのに、終わらない・・・。

 如是我聞 一時佛 在舍衞國 祇樹給孤獨園
 與大比丘衆 千二百五十人倶皆是大阿羅漢

  お経がどれも同じに聞こえるのは気のせいだろうか。

 参列した親戚縁者は入れ代わり立ち代わり座りに来るが俺はそうはいかない。
 ぐったりしながら、苦行を続ける事さらに1時間半。ふいに家の電話が鳴った。
 これ幸いにと立ち上がり、受話器を取ると、電話の相手は庵本寺の住職からだった。
「ウチの庵宝がまだ戻らないのですが、何かご存知ありませんか?」と言う。
「ご丁寧にもまだ読経されています」と多少皮肉を込めて伝えると、「すぐにそちらに向かいます」と電話を切った。

 よほど慌てていたのだろうか、住職はわずか10分足らずで、檀家回りには封印していたフェラーリに乗ってやって来た。

 すぐに仏間に上がり込んで来ると、まだ読経を続けている庵宝の僧衣をペロリとめくり、背中の辺りを何やら調べているようだった。
 参列者の叔母達が唖然として見ていると、住職が突然「アッ!」と、大声を上げた。

「オート・リピートのスイッチが入ってました!」
 住職は原因が分かって嬉しそうだが、叔母達はカンカンだった。

「そのポンコツ連れて、はよ帰りなはれ!」と住職に怒鳴ると、返す刀で俺に向かって「あんたも檀家寺、変えなはれ!」と言い放ったのだった。

         ( おしまい )
  

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2016年10月19日 (水) | 編集 |
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写真は箱取り合戦をするシマポン親子です。

   【 仮想家族 】
 
 朝の通勤時、都心に向かう京王線は珍しく混んでいて、座りきれず立っている人もいた。

 そういう人は仕方なくスマホの画面に見入っているが、椅子に腰掛けている人達は大抵、雑誌や新聞を手にしている。

 これは最近のトレンドだ。今世紀の初頭には落ち込んでいた某少年漫画誌も発行部数が初めて500万部の大台に乗ったとか。そういえば、廃刊していった雑誌の殆どが復刊したと聞く。

 あの政策「みなし法」によって、日本経済は順調に復活しているのだろう。

 8時20分。通勤快速は定刻通り京王新宿駅に到着。俺は仕事先や学校に向かう人の流れに沿って歩き出した。

 だが急ぐ必要もない。そこで少し寄り道をしてファストフード店に入り、コーヒーを一杯注文した。

 この店も新宿の一等地にあるが、ゆったりしている。店員が二人。客は数人だ。しかし見た目は閑散でとしていても売上はすごいらしい。

「ありがとうございます。ブレンド・コーヒーと、お子様・セットが二つでございますね」
店員は注文もしていないのに、家にいる子供達の為のお子様・セットを付け加えた。最近はマイ・ナンバー・カードがお財布代わりなので客の家族構成が分かるのだ。

「コーヒーの方は店内でお召し上がりになりますか?」
 俺は黙って頷いた。

「ではファミリー・セットは、ご家庭に届けたことにしておきますね。お会計は1400円になります」
 店員はブレンド・コーヒーのみをトレーに乗せて渡した。昔はこういうファストフード店で1400円も使うことは無かったが・・・と嘆息しつつも助成金が出るので、まあいいかと思いなおして時間を潰すことにした。

 10時過ぎに出社すると、20台程並べられた営業一課のパソコンは小気味よく作業中で、ただ一人部屋にいた新入社員の加藤が、俺を見つけて「吉岡さん、今日は出勤日ですか」と、嬉しそうに声をかけた。

「何か問題は?」

「いえ、すこぶる順調です。ただ、退屈で・・・」
 加藤はそこでハッとして、就業時間中に読んでいたと思われる漫画雑誌を隠した。

「かまわんさ。退屈な時は本でも読んでいればいい。そのうち、この仕事にも慣れるさ」

「恐れ入ります」
 
 この春入社した新人は、すでに大半が辞めている。

 我が社は政府系の物流会社で、仕事は簡単、給料は高く、休日出勤もない(というか、本人が望めば毎日が日曜日だ)。
 だが、人間贅沢なもので、そういう仕事は逆に辛いのだ。

 辞めた人間はどこへ行くのか? 人事部のデーターによると、故郷に帰って農業とか漁業に従事する者が多いようだ。

 彼らの気持ちはよく分かる。あの政策でがんじがらめの東京では生きている実感がわかないのだろう。

 そのせいか新聞によると、本年度・新卒者が入りたいとする会社の上位には、一昔前だとブラック企業と呼ばれた、忙しくてなかなか自由な時間もない、ハードな所がズラリと並ぶ。

 ウチの会社のように、事業の大半をコンピューター任せで、ただ見守っているだけ。顧客からクレームが出る恐れもなく政府の指令によって発送業務を(それもほぼ自動的に)行うだけの仕事は、やりがいがないのだろう。

「釣りに行きたいので帰ってもいいですか?」
 漫画本を読み終わった加藤が俺に許可を求めた。

「この時期、何が釣れるの?」

「東京湾だとイワシか小アジですね。秘書課の山名さんを誘うことにします」

 いいぞ。そのタフさがこの職場では必要だ。もしかしたら彼は来年も我が社に残っているかもしれない。

 加藤が出ていった後、一人で今月の売り上げを見ていると、部屋の中に数人の運送業者がそれぞれ大きな荷物を抱えて入ってきた。

「営業部長の吉岡さんですね。事務机とパソコン、こちらに置いてもよろしいでしょうか?」

 そういえば我が社は事業拡大の為、10人の新たな従業員を雇い入れたのだった。

 レッド・ナンバーと呼ばれる新しい従業員は出社せず、コンピューターを通じて仕事をする、幻の従業員だ。

 要するに空のデスクがまた増えるだけで、スペース的にも無駄だと思うのだが、心理的にも国の経済的上でも必要なことなのだという。

 もうお気づきかもしれないが、レッド・ナンバーは人間ではない。

 人間のマイ・ナンバーが黒なのに対し、赤い数字で表された幻の人間だ。そしてこれこそ、「仮想人類・みなし法」の骨子なのだ。


 日本の人口は2016年2月26日、減少に転じた。このままでは年金制度を維持できず、かといって移民政策には反対が強く、「産めよ増やせよ」は時代錯誤と言われる中、政府が考えだした迷策が人工知能に仮想の人格を持たせ、二級市民として最低賃金が支給されるという、「働き手・倍増計画」だったのだ。

 これを有識者会議にかけたところ、「ならばいっそうのこと、仮想の人口(仮想通貨の人間版)を増やせば良いではないかと」いう意見が出、最終的に「仮想人類・みなし法」が出来たというわけだ。

 例えば俺は現在35歳の独身だが、そういう人には強制的に仮想家族が与えられる。
 先にファストフード店で、頼んでもいない「お子様セット」を押し付けられたのはそのせいだ。ただし損はしない。仮想家族には働き手として吉岡2号(もう一人の俺)がいて、こいつがどこかの会社で働いて、入金してくれるからだ。

 人口が増える、(つまり一人の人間が生まれ、生産者や消費者となる)とはどういうことなのか? これを分析し、1歳から100歳までの平均的な物品・消費量を算出。次に20歳から70歳までの働き手としての生産量を計算し、ビッグ・データーによる、経済的な波及効果まで付け加えた上で、『ニッポニア』という政府所有のスパコンの中に数多くの仮想人格を作り上げたのだ。

 これらの仮想人格は名目上食事もするし、漫画雑誌も買う。ただしそれらは金銭が動くだけで実際には存在しない。空発注、空決算が国家単位で合法的に行われる制度といえよう。


 新しく営業部に納入されたコンピューターが順調に機能することを確認した俺は、観たい映画もあった為、少し早めに退社した。

「夫婦50割が適用されますので、二枚で2200円です」
 入り口に立つロボット従業員にマイ・ナンバー・カードをタッチすると突然、驚くべきことを言われた。

 そういえば俺は前の妻との間にできた二人の子を引取り、別の女性と結婚したというのが、家族省から送られてきた設定だった。
 
 いずれにしても仮想家族なので、相手のプロフィールもろくに見ていなかったが、俺が35歳なのに、新しい奥さんが50歳を超えていたとは・・・。

 夫婦50割はどちらかが50歳以上だと適用される。つまり奥さんの年齢は50歳以上ということしか分からない。

 だとするといったい何歳なんだろう? どうせなら女子大生くらいにしといてくれればいいのに・・・などと考えているうちに映画が終わってしまった。

 帰宅途中、スマホで調べてみると妻の名前は吉岡パナハ。岐阜県緒玉村出身の78歳趣味はカバディーを見ることとあった。

 俺はそのいい加減さにあきれ、思わず電車の中だというのに吹き出してしまった。

 しかし、聖蹟桜ヶ丘の自宅に帰ると、さらに驚くべき通知が舞い込んでいた。

「おめでとうございます! 新しい奥さんとの間に3人目のお子さんが誕生しました」と書いてある。

 確か彼女は78歳という設定だったはずでは? ずいぶんと高齢出産だなと苦笑しながらも、子供の名前を付けて登録するようにとあったので、適当に『ラオシー』と名付けておいた。

 テレビのニュースでは、「今年ついに日本の人口が15億人を突破してインドを抜きました」と報じていたが、このうちブラック・ナンバー(人間)は8000万人にすぎない。

 どこかの国が、政府のスパコン『ニッポニア』にハッキングをかけ、幻の人間をすべて消してしまったら、20世紀末のバブル崩壊より悲惨なことにならないだろうか?

 俺はふと思った。


         ( おしまい )
  

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2016年09月21日 (水) | 編集 |
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写真は記事とは関係のない、チビポンを見守っているクロちゃんです。

   【 鬼次郎金融10 リベンジポルノ 】
 
 ある日、真由美との連絡に使っているスマホのメモに驚くような内容の記載があった。

『私はこれまで保母さんになろうと努力してきました。けれどこんなことをされたら、夢は全部諦めないといけないでしょ。ステテコ登校の次はこれ? 安倍先生はあなたのことを悪霊じゃないと言われましたが、だとしたら悪魔です。お願いだから私から出ていって!』

 恨みがましい文面とともに「フェイスブックから」という画像が添えてあった。

 それは正面を見据えて不自然なポーズを取った真由美の全裸写真だった。

 もちろん俺はこんな卑劣なことはしない。だとすると第三者が介在していることになる。

 フォロワーである友人数人だけの限定公開だからといっても、パスワードに生年月日を使うという無防備さがもたらした結果だが、冗談で済まされるものではない。

 だがその前に一つだけ、払拭しておかねばならない懸念材料があった。

「もしもし、先生かい?」
 俺は真由美と俺の秘密を誰よりもよく知っている安倍に電話した。

「ひとつ聞いておきたいことがあるんだが、真由美の中にもう一人いるという可能性はないか? つまり二重人格ではなく、多重人格ということだが」
 安倍はしばらく押し黙って考えた末、「それはないと思う」と答えた。

「100%断言はできないが、今まで診察してきた私の経験則からいって可能性は低いはずだ。それに最近は君たちが協力してスマホメモを取ってくれているので、少なくとも数週間は君たち以外の人格が乗っ取りを図ったと思えない」

 俺はそれだけ聞くと「何があったんだ? 言え」という安倍からの質問を「後で話す」と言って電話を切り、開店前の栄子のガールズ・バーに向かった。仲間の力を借りて、早急に悪意ある合成画像(!)を作った犯人を見つけ出す必要があったからだ。


「これはいわゆるリベンジポルノというやつっすねえ。真由美さんにふられた元彼氏とかが嫌がらせにやってんすよ」
 栄子が常識的な判断をした。

「だが俺の知る限り、真由美に彼氏がいたことはない」
「そらまあ、何かっちゅうと姉(あね)さんが出てきはるんやもん。彼氏ができるわけ・・・」
 従業員(その1)の鈴木がよけいな突っ込みを入れたので、ポカッと叩いておいた。

「もしかすると真由美さんというより、姉(あね)さんの方に恨みを抱いている者ということかも・・・。となると、犯人の特定が難しいっすね」
 それはそうだろう。俺に恨みを抱いているやつは数十人を下らない。

「その中で可能性の高いのは、真由美を監禁しようとして失敗し慰謝料をふんだくられた宗教団体。フィッシング詐欺に仕返しをしてやったヘンテコ商会。栄子のガールズ・バーを乗っ取ろうとして、直接対決で潰したライバル店・店長。内容のない講義を指摘してやった某国立大教授。直接焼きをいれてやったスピリチュアル詐欺の祥剣采(しょうけんさい)。同じように制裁を下したストーカー野郎で元アルバイト先の上司・山田・・・」

「山田!」

 俺と栄子は顔を見合わせた。

 FBIのプロファイラーでも、この種の犯罪行為を行う可能性が一番高いのはこの男と推測するだろう。

 しかも放っておくとフェイスブックに留まらず他のサイトにも写真をばらまきかねない。だが、確固たる証拠がなければどうにもできないのが辛いところだ。

 そう思いながら唯一の手がかりと思える画像を見ると、奇妙な事に気付いた。

「この正面を見据えている写真は免許証か履歴書に貼る写真っすねえ」
 栄子がそう言った。しかし俺が違和感を感じたのは、首から下の方だった。

「それもそうだが、この体の部分はよく見ると人間じゃないぞ」
 それは某等身大ドールメーカーが製造する、ひと目では人間と見分けがつかない精巧な高級フィギュアの体だったのだ。

「こういう高額なフィギュアを持っているマニアはすぐに分かるんじゃないっすか?」
 栄子の指摘は当然だが、そう簡単ではない。この種の高級フィギュアは未だに偏見が強く、誰が購入したかは、本人が語らない限り分からないようになっているものだ。

 殺人事件絡みで裁判所からの強制捜査でも入らない限りメーカーも個人情報を渡さない。ましてこの犯人が単にインターネットから引き出した画像を合成しただけという可能性もあるのだ。

「写真画像からは特定できないか・・・」 
 俺がそう呟いた時、鈴木がヘラヘラ笑った。

「簡単に分かりますよ。ただアカウントに変な工作をしてへんかったらですけどね」
 そういえば鈴木はハッキングの天才で、以前俺にその技術を少し伝授してくれたことがあった。

 鈴木によれば、誰かが成りすましでログインしても、その記録は残る。つまりはサーバーから犯人のアカウントを記録し、そのアカウントでアクセスした全てのサイトを調べれば山田かどうかを特定できるというのだ。

「その前に、この顔写真の類似画像が他の場所に使われていないか探らんとあかんか・・・」
 鈴木はグーグルの画像認識プログラムを使って、エロサイト等にも同じ、もしくは類似の写真が流されていないか検索をした。

「どうやら、まだそこまではやっとらんようですわ。ほなアカウント検索っと」

 鈴木はたちどころに同じアカウントによるアクセス先を調べ、犯人が立ち上げている幾つかのブログやミクシー、フェイスブック、ツイッターを見つけ出した。

「やっぱ、このアカウントは山田はんのもんに間違いなさそうや」

 鈴木がパソコン画面に出したのは山田のフェイスブックで、会社での活躍ぶりや、奥さんと台湾旅行に行った時の楽しそうな顔の写真が並んでいた。

「それだけやないで。山田はんは別にアパートを借りとったみたいで、こっちのブログのタイトルは『ボクの秘密部屋♡』や」

 そこには山田の顔は一切写っておらず、代わりに裸エプロンやバニーガールの格好をさせた等身大フィギュアが毎回UPされていた。

 さらに鈴木が山田のパソコンに侵入すると、そこにはデーター化された今回の真由美の写真が制作過程も含めて記録されており、さらに製作中の新・真由美エロ写真まであった。

「はあー、これは決定的っすね」栄子がため息をついた。

「この卑劣やろうが! 奥さんがいる上、等身大ドールまで購入しても飽き足らず、未だに真由美に執着しやがって。どうしてくれよう」

 俺はまず、山田のPCから真弓に関するデーターをすべて抜き出し記録すると、やつのPC上にある同じデーターは消去。

 それからフェイスブックには『ボクの秘密部屋♡』の記事を全てリンク。さらに、『ボクの秘密部屋♡』に集まるブロ友に向けて、やつの本性をさらすべく、最新記事で「楽しいリベンジポルノ」を付け足し、顔はわからなくした真由美の写真を、ブロ友達が愛すべきドールと合体させて悪事を働く様子をUP.。

 ついでに「NEVERのまとめ」には山田の笑顔写真付きでで『Hな合成写真・作り方まとめ』を載せておいた。

「これでよし。やつは社会的偏見をなくそうと努力しているドール愛好家達からも強烈な非難を受けるはずだ。それと真由美の方には安倍先生から誤解を解いてもらうとしよう」

「姉(あね)さんを怒らせたら大変っすねえ・・・」

 栄子が苦笑した。

      (第10話・リベンジポルノ おしまい)

 

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